八条学園騒動記
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第二百四話 モンゴルのヨーグルトその三
「海はねえ。弱いのよ」
「けれど泳げるわよね」
「それはちゃんと」
「モンゴル人は泳ぐのも必須だから」
こう一同に話すのだった。ルシエン以外のメンバーも来ていたのだ。
「だからなのよ」
「モンゴルでは泳ぎもするんだな」
「そうよ。馬に乗るだけじゃないのよ」
こう皆に話す。
「昔はそれに弓もあったのよ」
「それってモンゴル帝国?」
「だよね」
「もう完全に」
「モンゴル人は生活そのものが戦闘訓練って聞いてたけれど」
遊牧民族としてである。生まれながら馬に乗っていてそのうえで弓も操る。これはそのまま戦闘訓練になる。これはモンゴル帝国の時代である。
「そういう生活をしていたんだ」
「成程」
「今は弓は使わないわよ」
それはないというのだった。
「ただ、銃はね」
「使うんだな」
「獣とかいるからね。狼以外は撃つわよ」
こうルシエンに答える。
「狼以外はね。あと鹿もね」
「何で狼と鹿は駄目なんだ?」
「御先祖様だから」
だからだというのである。
「だからなの」
「御先祖様!?」
「狼と鹿が!?」
「そうよ。蒼き狼と白き牝鹿」
ナンがここで言うのはこのことだった。
「モンゴル人の祖先はそれなのよ」
「ああ、トーテニズムね」
イロコイ人のジュリアが応えた。
「それね」
「そうなの、それなの」
「やっぱりね。それはわかるわ」
「ジュリアの国って元々ネイティブだったわよね」
「だからわかるのよ」
所謂アメリカの原住民、ネイティブアメリカンの国だというのだ。イロコイ族はその部族の一つなのだ。彼等はトーテニズムが信仰の中にあるのだ。
「それでなのよ」
「そうなの。それじゃあどうしてモンゴル人が狼と鹿を撃たないのかわかるわよね」
「ええ」
にこりと笑ってナンに答えるジュリアだった。
「よくね」
「狼は父で鹿は母なの」
「ああ、そういえばあれか」
ここでルシエンも気付いたのだった。
「何かのゲームであったな。モンゴル人は蒼き狼とその妻である白き牝鹿の間に生まれたのがそのはじまりだってな」
「そうよ、誇り高きね」
言いながらにこりと笑ってさえいる。
「それがモンゴル人なのよ」
「そうか、それでなのか」
「それで撃たないのよ。羊を食べられても悪さをされてもね」
「そういうことか」
「モンゴル人はそうなのよ」
また話すのだった。
「それは絶対にしないの」
「成程な」
「それでね」
さらに笑顔で話すナンだった。
「モンゴルの草原の生活はかなり色々あったりするのよ」
「遊牧民ねえ」
「そんなに」
「豚とか牛は食べなくて」
このことも皆に話す。
「この学校に入ってはじめて食べたのよ」
「はじめてね」
「そうなの」
「そうよ、はじめてよ」
このことをまた言うのだった。
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