八条学園騒動記
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第百八十四話 二重唱その四
「それでね」
「うん、それで」
「その歌も歌う?」
「カラスの歌も?」
「どうかしら」
このことを提案してきたのである。
「それで」
「それはいいわ」
いいというのであった。
「だってカラスの声は低いのよね」
「そうよ」
「けれど明香の声は高いし」
まずは妹のことを話した。そのソプラノでも最も高い声の彼女をである。
「喉に負担かかるわよね」
「そういう曲ばかりじゃないけれど」
「けれどいいわ」
「やっぱりいいの」
「だって明香は本当に歌手じゃない」
歌劇部という意味である。このことを言ってきたのである。
「歌手でしょ。だから喉に変な負担をかけたらいけないわ」
「だからなの」
「そう、だから」
また話すのだった。
「止めておきましょう」
「それじゃあまた」
「さっきの曲練習しよう」
にこりと笑って妹に話した。
「またね」
「わかったわ。それじゃあ」
「この曲いい曲よね」
「モーツァルトよ」
「モーツァルト?ってことは」
彰子は今の明香の言葉を聞き逃さなかった。そのうえで言うのだった。
「次の舞台はモーツァルトなのね」
「後宮からの逃走っていうのだけれど」
「後宮からの逃走って!?」
「モーツァルトのドイツ語のオペラなの」
それであると姉に説明した。
「喜劇で」
「喜劇なのね」
「私はそれのヒロイン役なの」
「凄いじゃない、それって」
「物凄く難しい歌もあって」
ここでふと顔を曇らせた。
「今から成功するかどうか心配で」
「そんなに難しい役なの?」
「コンスタンツェという名前なの」
その名前も話すのだった。
「モーツァルトの奥さんの名前で」
「そうだったわね」
彰子もモーツァルトの妻の名前は知っていた。
「その役だけれど」
「それが難しいの?」
「かなり。技術的に難しくて」
「そのコロトゥーラが」
「コロトゥーラね」
その話を聞いて考える顔になる彰子だった。
「そうなの。それで」
「ええ、それはわかったかしら」
「わかったわ。ただ」
「ただ?」
「だから練習してるのよね」
そのことをまた言ってきたのである。
「明香も」
「ええ、そうだけれど」
「じゃあ練習しよう」
微笑んで妹に告げた言葉だった。
「一緒にね」
「そうよね。わかったわ」
姉の言葉に頷いてであった。明香はまた言うのだった。
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