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八条学園騒動記

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第二十三話 想い人はその二


 翌日の朝。彰子と明香は二人並んで学校に向かっていた。
「お早う」
 そこに黒い髪で奇麗な目をした女の子がやって来た。奇麗というよりは清楚で可愛らしい感じの女の子であった。見たところ明香と同じ歳のようである。
「お早う」
 明香が彼女に挨拶を返した。
「今日もお姉さんと一緒なのね」
「ええ」
 明香は彼女に答えた。挨拶をしながら明香の隣にやって来た。
「いいわね、何か似合ってて」
「似合ってるのかしら」
 明香はそれを聞いて少し目を動かした。
「絵にはなってるわよ」
「そうなの」
「何かそう言ってもらえると嬉しいな」
 彰子はそれを聞いて目を細くさせていた。
「仲がいいんですね、お二人は」
 少女は今度は彰子に声をかけてきた。
「先輩も明香さんも」
「そうね」
 彰子はにこりと笑ってそれに答えてきた。
「仲はいいわ。だって二人きりの姉妹なんだし」
「姉さん・・・・・・」
「いいなあ、それって」 
 少女はそんな二人を見て少し羨ましそうであった。
「うちなんか。兄さんがあれだから」
「兄さんって」
「洪童君よね、確か」
「はい、そうです」
 ここで後ろからその洪童の声がしてきた。
「ちょっと待て春香!」
「あっ、来た」
 後ろからその洪童が恐ろしいスピードで駆けてきた。
「いつも一人で行くなって言ってるだろう!危ないだろうが!」
「危ないって兄さん」
 春香は自分に向かって突進してきた兄に対して言う。
「学校の通学路よ。別に危なくなんか」
「その油断が間違いの元なんだよ!」
 兄はハリセンを振り回して叫ぶ。朝から異様にテンションが高い。
「いいか!」
「ええ」
 諦めて兄の話を聞くことにした。
「街の中は危険で一杯なんだ。何時何処に悪い奴がいるかわからない」
「その言葉毎日聞いてるわよ」
「毎日でも何でも言ってやる!」
 口ごたえは全く聞かない。
「ましてや御前のその可愛さだ!絶対に悪い奴に狙われている!」
「絶対なの?」
「そうだ!」
 根拠も何も判ったものではない言葉だ。実に短絡的である。
「そんな中でウロウロと!無用心過ぎる!」
「別にそんな人なんか」
 それでも春香は言う。困った顔になっていた。
 丁度そこに厄介な奴が来た。ジョルジュであった。
「おっ、美人三人の登校風景」
 それを見てすぐにカメラを出してきた。
「これはシャッターチャンス!」
「待て!」
 だがここに洪童が尋常ではないスピードで反応してきた。
「ジョルジュ!御前何のつもりだ!」
「何だよ、御前もいたのか」
 ジョルジュは彼の姿を見て嫌な顔を露骨なまでに見せていた。
「いいじゃないか、減るもんでもなし」
「そう言って俺の妹に何をするつもりだ!」
「別に変な写真撮るわけじゃないだろ」
 彼はそう反論する。
「だから別にいいじゃないか」
「そういう問題じゃない!そもそも春香に何かあったら」
「別に写真位は」
「ねえ」
 春香の言葉に彰子が頷く。
「洪童君、気にし過ぎじゃ」
「春香につく悪い虫は俺が許さん!」
「俺って悪い虫だったのか」
「痴漢だ!盗撮魔だ!」
「そりゃ何でも言い過ぎだろ」
 流石にジョルジュも反論してきた。
「俺だってよ。可愛い女の子が並んでいるからここで」
「だからといって春香に近付くことは駄目に決まってるだろ!」
「いつもこんな調子なの」
「困ったお兄さんなのね」
 彰子は春香に少し同情した。
「小さい頃から。私が虐められたりしてたらすぐに飛んで来て犬でも何でも向かって行って」
「凄いね、何か」
「こんな感じなの。それで今も」
「ふうん」
 彰子はそれを聞いて考える顔をしてきた。
「そうなんだ」
「そうなんですよ。それで困ってます」
 本当に弱った顔を見せてきた。
「私のこと心配なのはわかるんですが」
「とにかくだ!」
 洪童はまだ言っていた。
 
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