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八条学園騒動記

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第百五十四話 真っ赤なお店その一


                     真っ赤なお店
 皆洪童に協力することになった。しかしそれでも釈然としないものはそのままであった。
「そんな。食べ方なんて」
「大体だよ」
 皆は洪童が来ていない学校の図書館の一つで話をしている。この学園には図書館も幾つもあるのだ。やはり大きな学園だからだ。
「冷麺の食べ方なんて」
「そうよね。人それぞれよね」
「鋏使うのは確かに変わってるけれど」
「いや、これがだよ」
 ここでセドリックは手に一冊の本を持っていた。見ればそれは韓国料理の本であった。表紙に焼肉とキムチ、その冷麺の写真がある。
「その鋏を使う食べ方だけれどさ」
「うん」
「それはどうなの?」
「ちゃんと昔からあるよ」
 こう皆に述べるのだった。
「もうね。これあの時に話に出ていたけれど」
「そうなの。昔からあるの」
「じゃあはっきりした食べ方なんだ」
「だから凄いコシがあるから」
 冷麺といえばコシである。これはもう言うまでもないことだ。
「だから途中で切って食べるんだよ」
「そうよね。だったら別に」
「あんなに大袈裟に行くことないじゃない」
「全くよ」
「これは韓国風の食べ方なんだよね」
 ここでまた言うセドリックだった。
「本を読んでるとね」
「韓国風!?」
「だから韓国じゃない」
 皆今のセドリックの言葉に怪訝な顔になった。
「それで何で韓国風?」
「韓国の食べ物なのに」
「ほら、二十世紀後半から二十一世紀前半」
 この時代から見て千年以上昔の話である。
「その時北朝鮮もあったじゃない」
「ああ、あの独裁国家ね」
「市民を百万単位で餓死させてたっていう」
 連合では市民という表現が使われるのでここではこう呼ばれるのだった。連合では国民といった表現は殆ど使われないのである。
「それで独裁者の個人崇拝をしていたっていう」
「漫画の馬鹿な国家そっくりだったあそこよね」
「うん、あそこだよ」
 また皆に答えるセドリックだった。
「あそこのことだけれどね」
「あの国って食べ物なかったらしいけれど」
「何かあったの?」
「洪童はそこの食べ方なんだ」
 北朝鮮風だというのである。
「その国の冷麺の食べ方なんだ」
「そうだったんだ」
「北朝鮮風だったんだ」
「もう北朝鮮なんて国はないけれど」
 その政権が無様に崩壊し韓国に併合されたのである。これを半島統一という。その後も経済格差や様々な社会問題を引き起こしてしまったことは歴史に残っている。
「その食べ方は残ってるんだって」
「それが鋏を使わない食べ方なのね」
「成程」
「北朝鮮は確かに馬鹿な国家だったけれど」
 その馬鹿な国家を手放しで賛美していたのが当時の日本の知識人達である。およそ人間として考えられないまでに愚劣かつ破廉恥な連中であったことも歴史に残っている。
「その食べ方だけは残ってたんだ」
「何か化石っていうか」
「全くよ」
 皆今回の騒動の原因なのでぶつくさと不平を述べている。
「別に残らなくてもいいのに」
「鋏使ってもいいじゃない」
「洪童がこの北朝鮮風ってことは知っているかどうかわからないけれど」
 セドリックはここでまた言う。
「それでも。箸とスプーンだけのやり方にこだわってるんだ」
「全く。それで妹さんは?」
「どうなんだろうね」
「別にこだわってないでしょ」
「お兄さんがどう食べようかね」
「あいつだけか」
 ここで一つの結論が出た。
「あいつだけがこだわってるのか」
「何かさ」
 セドリックがここでまた皆に言ってきた。
「僕思うんだけれどね」
「どうしたの?」
「思うって」
「春香ちゃんを何とかするより洪童を説得した方がよくない?」
 こう言うのである。 
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