久遠の神話
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第三十二話 相互理解その三
「だから言ってるだろ。百聞はな」
「一見にしかずだな」
「実際に会わないと何もわからないんだよ」
「しかしだ。それは」
「できないのかよ」
「若しその通りで。しかも断られたなら」
どうなるかとだ。広瀬は言うのだった。
「俺は終わりだ」
「彼女と一緒になれないってか」
「それでどうして生きている意味がある」
広瀬はここまで言った。
「何にもならない。違うか」
「おいおい、またえらく凄いことを言うな」
「凄いことか」
「そうだよ。あんた感情がない様でな」
それでもだ。どうかというのだ。実際は。
「凄い熱いもの持ってるんだな。それにな」
「それに。何だ」
「結構臆病なところがあるな」
「俺が臆病か」
「だってそうだろ?彼女の親御さん達に会うのが怖いんだろ」
「それは」
「俺にはそう聞こえるな」
軽い感じだが確かな。中田の今の言葉だった。
「あんたはどういうつもりか知らないけれどな」
「そうか」
「ちょっとな。勇気を出せばな」
「それで解決するか」
「少なくとも剣士になって生き残ってまではな」
「いや、俺はだ」
「絶対にかよ」
「大きな牧場だ。それ以前にだ」
今度はこのことも言う広瀬だった。
「老舗のな。それに対して俺の家は」
「家、ねえ」
「ほんのサラリーマンだ。小さな家だ」
「普通の家だってんだな、あんたの家は」
「ごくありきたりのな。そうした家だ」
「それに対してあの娘は老舗の大牧場の娘さんか」
「しかも一人娘だ」
それがだ、由乃だというのだ。
「一緒になるのなら」
「絶対に牧場継がないといけないっていうんだな」
「そうだ」
「まあ。色々あるよな」
中田はカップを置いて。そうしてだ。
そのうえで腕を組みだ。こう言ったのだった。
「人間の世界ってのはな」
「仕方ないというんだな」
「俺だって色々あるからな」
「君もか」
「世の中にしがらみだのそういうのって絶対にあるからな」
「俺達のこともか」
「ああ、そうだよ」
まさにそうだというのだ。その辺りはだ。
「で、あんたにはそういう事情があるんだな」
「そうだ。だからだ」
「絶対にあの娘と一緒になりたいんだな」
「その為に戦う。そして生き残る」
最後の一人までだ。そうするというのだ。
このことを言ってだ。そのうえでこうも言う広瀬だった。
「牧場もだ」
「ああ、それどうするんだよ」
「俺は馬が好きだ」
広瀬は中田にこのことから答える。
「動物は好きだ」
「世話もできるよな」
「勿論だ。馬の世話もしている」
「じゃあ牧場にも入られるな」
「俺は大丈夫だ」
「じゃあいけるんじゃないのか?」
ここまで話を聞いてだ。中田はこう言った。
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