久遠の神話
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第三十一話 広瀬の秘密その十二
「だからその目的の為に手段を選んでいられない筈だけれどな」
「それでもか」
「汚いことにはな。どうしてもな」
拒否反応があるというのだ。それに対しては。
「だからな。しないさ」
「そうか。ならいいがな」
「というかあんたの戦う目的がわかったよ」
「そうだ。俺はだ」
「あの娘と一緒になる為になんだな」
「俺は戦う」
まさにだ。その為にだ。彼は戦うというのだ。
「一緒になれる可能性は確実じゃない」
「確実に。一緒になりたいんだな」
「ずっとだ。俺か彼女がその死によって別れない限りは」
「強いね。強い愛だね」
「笑うか、俺のこの願いは」
「いや、だから俺はそうした趣味はないんだよ」
人の恋路に何かをする趣味はないというのだ。そして哂う趣味もだ。
「下衆に思えてな。だからな」
「そうか。それでか」
「ああ、そういうことはしないさ」
「君は案外いい奴の様だな」
「おいおい、じゃあ今まではいい奴とは思ってなかったんだな」
「敵だと思っていた。ただのな」
これがだ。広瀬が今まで見ていた中田だというのだ。
「しかし違うか。少なくともだ」
「悪い奴じゃないっていうんだな」
「その様だな」
「まあ。下衆なことはしないつもりさ」
「最後の最後までそれでいくつもりか」
「いきたいね。で、な」
それでだとだ。今度は中田からだ。広瀬に言ってきたのだった。
「あんたどうするんだ?」
「戦いか」
「ああ。今ここで戦うのかい?」
飄々としたいつもの笑みでだ。中田は広瀬に問うた。
「さっきまではそのつもりだったよな」
「そうだな。さっきまではな」
「じゃあ今はどうなんだ?」
「気が変わった」
見れば広瀬は気を発してはいない。全く。
その戦わない静かな姿でだ。彼は中田に告げたのである。
「君が望むなら乗るがな」
「いや、俺もな」
「戦う気はないか」
「今はな。少なくとはあんたとはな」
「そうか。では今回はだ」
「このままさよならだな」
その飄々とした雰囲気での言葉だ。
「じゃあまたな」
「帰るか」
「ああ、戦うことはしないんだな」
「そうだ。今はな」
「なら帰るだけだろ」
戦いがなければだ。最早だというのだ。
「これでな」
「そうか。少しだ」
「少し?」
「君のことを知りたいとも思ったがな」
「親睦を深めたいってのかよ」
「その考えはない」
親睦という考えはないというのだ。
「だがそれでもだ」
「話はか」
「しようかとも思うのだがな」
「そういえば前に何か話したことがあったか」
「どうだったか。喫茶店でだったか」
「学校のな。じゃあそこで話すか?」
「君の時間はあるか」
広瀬は中田の都合を尋ねた。
「それはどうだ」
「あるぜ」
笑ってだ。中田は広瀬に答えた。
「多少ってところだけれどな」
「そうか。それならだ」
「学校の喫茶店でいいよな」
「いや、今は放課後だ」
だからだとだ。広瀬はここで言うのだった。
「学校もそろそろ閉まる」
「だから店もか」
「閉まる。だから学校の中では少しな」
話をするにはだ。都合がよくないというのだ。
このことを言ってだ。そのうえでだった。広瀬はこう提案してきた。
「別の場所にしよう」
「じゃあ何処にするんだい?」
「マジックは知っているか」
「ああ、駅前のあの喫茶店か」
「そこで話をしようか」
これば広瀬の提案だった。
「あの店ならコーヒーも紅茶も美味い」
「それにケーキもいいよな」
「店の雰囲気も落ち着いている」
話をするにはだ。実に好都合な店だというのだ。
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