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久遠の神話

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第三十一話 広瀬の秘密その五


「それでもよ」
「いや、確かに牛泥棒になると」
 そうした人間は実際にいるかというとだ。広瀬もだ。
 その首を少し捻ってだ。こう言うのだった。
「俺もいないと思うさ」
「豚もよね」
「重過ぎるだろう。目立つし」
「そう。けれど鶏とか卵になるとね」
「いるかも知れないから」
「そうしたこそ泥相手なのよ」
 鶏を盗むのならだ。それはそうだというのだ。
「番犬は必要なのよ、牧場にはね」
「そういうことだね。それでだけれど」
「それでって?」
「俺はここに来たけれどね」
 牧場の話からだ。その話になった。
「この赤兎で」
「ええ、実はね」
「実は?」
「その子の写真撮りたかったのよ」
 赤兎を見てだ。そのうえで言う由乃だった。
「実はね」
「写真を?」
「そう。お父さんとお母さんが広瀬君と一緒にね」
 他ならぬだ。彼と共にだというのだ。
「観たいっていうのよ。だから」
「俺の写真も」
「だって。広瀬君私の彼氏じゃない」
「彼氏だからっていうんだ」
「そう。お父さんとお母さんがまず写真観たいって言ったのよ」
「それはわかったけれど」
 少し怪訝な顔になってだ。広瀬は由乃に問うた。
「俺のことは。けれど赤兎もっていうのは」
「乗馬部ってことも教えたいからよ。それでね赤兎にしたのはね」
 広瀬が一緒に写真に移る相手をだ。その馬にした理由はだというのだ。
「やっぱり一番目立つからね」
「確かに。この馬は」
「目立つでしょ」
「うん、かなりね」
 大きいうえに赤く燃える様な姿だ。それならばだった。
「目立つよ。とてもね」
「だから。赤兎を連れて来てもらったの。それにね」
「それに?まだあるのかな」
「赤兎に乗せてくれるかしら」
 広瀬を見上げてだ。由乃は言ってきた。小柄なのでそうした形になった。
「よかったら」
「いや、君の背だと」
「あっ、私一人で乗るんじゃなくて」
「俺が乗ってか」
「その後ろに乗せてくれるかしら」
「それなら乗れるね」
 広瀬が手綱を握り由乃がその後ろに乗るというのだ。
「そのやり方だと」
「それでも駄目かしら」
「いいよ」
 微笑んでだ。広瀬は由乃のその言葉を受けた。
「それじゃあね」
「うん、それじゃあ」
 こう話してだ。そしてだった。 
 広瀬はまず自分が馬に乗りだ。それからだった。
 由乃は台を持って来てそれを使って赤兎、広瀬の後ろに跨った。それからだ。
 広瀬は駆けだした。その馬上からだ。由乃は言った。
「やっぱり馬っていいよね」
「君も馬に乗れるよね」
「乗れるけれど。それでもね」
 こがらだからだとだ。由乃は広瀬の後ろから述べた。二人一緒に同じ馬に乗るとそれだけで由乃の小柄さ、そして広瀬の背の高さがわかる。そうなっていた。
 そしてその由乃がだ。言うのだった。
「私が乗れる馬は限られてるから」
「それなら」
「道産子とかがあるっていうのね」
「それに乗ればどうかな」
 広瀬はあらためて由乃に提案する。 
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