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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第九十七話 私が守りたかったもの

              第九十七話 私が守りたかったもの
ロンド=ベルがオルファンに向かっている頃ネオ=ジオンではハマーンを中心に情報収集が集中的に行われていた。とりわけプラントに関するものが集められていた。
「ではプラントの者は強化人間と同じなのだな」
「はい」
イリアがハマーンに説明する。
「身体を強化していることは全く同じです」
「そうか。では精神状態はどうなのだ」
「それは我々と変わりありません」
「つまり心はいじくられてはいないということか」
「彼等は精神も進化したと主張していますが」
「フン、それは誰でも言っていることだ」
ハマーンはその主張は一笑に伏した。
「誰でもな。だが実際にそうであったことはない」
「はい」
「所詮コーディネイターも我々も同じだ。人間に過ぎない」
「左様ですか」
「そうした主張は意に介することはないな。問題は戦力だが」
「徴兵制によりそれなりの兵力があるようですが」
「備えていたか」
「そこに志願兵も加わり。かなりの戦力を構成しております」
「それを使ってどうするかだな」
「今のところはこれといって動くつもりはないようですが。ただ」
「ただ。何だ?」
「プラント内の強硬派は地球からの独立を考えているようです」
「地球からのか」
「はい。最高評議会議員の一人にして国防委員長であるパトリック=ザラを中心に。それが認められないならば戦争も辞さずとか」
「愚かな話だな」
ハマーンはまたしても言い捨てた。
「今ここで自分達を戦乱に引き入れるつもりか」
「それでも独立を目指したいようです」
「何の為にだ。自分達が選ばれた存在だとでも言うのか?」
「その様です。コーディネイターは優れている。劣った地球人、ナチュラル達とは縁を切ると。そう考えている模様です」
「地球の者達が愚かなのは同意だがな」
そこはハマーンも同じ考えであった。だが彼女とプラントの者達では大きな資質の違いがあった。
「ここで目立った動きをしては。ティターンズを刺激するだけというのもわからないのか」
「ブルー=コスモスですか」
「あの者達がジャミトフやバスクにプラントへの攻撃を執拗に勧めているのは聞いている」
「はい」
「それを。知らないわけではあるまいに」
「彼等はコーディネイターの優秀さと科学力で勝てると思っているかと」
「戦力差があろうともか」
「どうやら。今全土の要塞化を勧めているとも言われています」
「わかった。ではプラントも警戒の対象に入れよう」
「はい」
「どのみち地球圏をミネバ様のものにする為には邪魔な存在だ。機を見て叩くぞ」
「はっ」
ハマーンはプラントと敵対することを密かに決定した。彼女はただアクシズに閉じ篭っているわけではなかった。次の手を打とうとしていたのであった。
バルマー軍はオービットの戦いの後一時太陽系から退いていた。そしてそこで軍の再編成にあたっていた。
「ポセイダル軍は完全に母星に帰りました」
「うん」
マーグは部下の報告に頷いた。
「そしてロゼ様の御回復は順調です。暫くすれば復帰できるものと思われます」
「くれぐれも無理はしないように伝えてくれよ」
「はい」
「ロゼは頑張ってくれている。彼女がいないと私も非常に困るからね」
「わかりました。それではその様に」
「そして司令」
「何だい?」
「ハザル様の件ですが」
「うん、こちらへの要請だったよ」
「要請?」
「彼の軍から脱走兵が出たらしくてね。地球圏に向かって来ているらしい」
「地球にですか」
「青い新型のマシンらしい。彼を見つけ次第すぐに撃墜してくれとのことだ」
「それならばハザル様がされればいいと思いますが」
「御言葉ですが私もそう思います」
部下達は口々に言った。どうやら彼等はハザルという男に対してあまりいい印象を抱いてはいないようである。
「まあそういうことは言わないことだ。何処に目があるのかわからない」
「おっと」
「これは失礼」
マーグは部下には優しい男である。だからあえて罰することはなくこうやんわりと忠告するだけに留めたのだ。
「とりあえず今は戦力回復に専念したい」
「はい」
「といっても今の我が軍の状況ではそれも困難かな」
「第四、第七艦隊に続き第三艦隊も消息を絶ちました」
「本国への兵の補充と再編成の要請も返事がありません」
「厄介なことだ。今我々の手にあるのは第一、第二、第五、第六、そして私の第八艦隊だ」
「はい」
「この五個艦隊で。銀河辺境全てを統括しなければならない。やはり地球に回せる艦隊は第八艦隊しかないか」
「本星も今宇宙怪獣との戦いに追われておりますし」
「ゼントラーディやメルトランディの存在もあります。ここは我等だけで凌ぐ他はないかと」
「それも今の戦力でか。とりあえずポセイダル軍が抜けた穴を何とかしていこう」
「了解です」
「ロゼの復帰までまだ時間がある。動くのはそれからだ」
マーグは暫くは戦力の回復に専念することにした。ヘルモーズは動くことなくその巨体を銀河の中に漂わせるのであった。
ロンド=ベルはオルファンに接近していた。それにあたってマクロスのブリーフィングルームにパイロット達が集められていた。
「ではヒメちゃん」
獅子王博士が最初に口を開く。
「皆にオルファンのことを話してやってくれ」
「はい」
ヒメはそれに頷く。それから口を開いた。
「オルファンは敵っていうものではないんです」
「じゃあ何だってんだ?」
「それはヒメちゃんと勇と感じ方でしょ?」
サンシローとユリカがそれを聞いて言う。
「ヒメの言う通りです。俺とカナンが教えられていたのはリクレイマーの一方的な理屈だったんです」
勇がそれに答える。
「つまり、脱走したい人・・・・・・逃げ回りたい人の考え方だった」
「そうね」
当のカナンがそれに頷く。
「オルファンの抗体になれば悲しいことはなくなると信じてた」
「現実逃避の思想だな」
「そうだな」
ナンガとラッセがそれを聞いて言う。
「考えてもみて下さい。オルファンは自分独りだって宇宙に出られるのにどうしてアンチボディなんかが必要だったのか。何故リクレイマーの侵入を許したのか」
勇は言う。
「オルファンにとって人間が必要だってことか?」
カミーユがそれを聞いて問う。
「姉さんも言ってました。グランチャーだってブレンと同じように感情があるって。ですからオルファンだって」
「気持ちを通わせて話が出来るってこと?」
「おそらくは」
カントがヒギンズに答える。
「オルファンは決して悪ではないのですから」
「そういうことだな」
友の言葉にナッキィが頷いた。しかしそれを聞いたキリーが言った。
「おいおい、本気で言ってるのかよ。あれと一体どうやって話をするんだ?」
「私オルファンの女の子の声を聞いたわ」
そんな彼にヒメが答える。
「寂しいって泣いている姿も見ました。だから、私話し合いは」
「ヒメちゃん・・・・・・」
「オルファンは誰かに側にいて欲しいって思っているわ」
「だが本来その役目はオルファンの対になる存在、ビー=プレートと呼ばれているものの筈なんだが」
獅子王博士は腕を組み、考えながら述べた。
「ビー=プレート?」
アムロがそれに問うた。
「それは理論上の存在でそれが何であるかは見当のついておらんが」
「そうなんですか」
「彼女は宇宙の迷子なのよね」
「同時にブレンやグランチャーの母でもあるんだ」
ヒメと勇はそれぞれ言った。そして勇はまた言う。
「それに賭けてみません?」
「しかし」
だがブライトはその言葉に難色を示していた。
「具体的に我々は何をすればいいのだ!?」
「おそらく我々がオルファンを停止させようとすればリクレイマーもグランチャーを動かすだろう」
シナプスも言った。
「そしてグランチャーを退けたとしてもオルファンが停止するとは限らないか」
「そいや、んなことないよ!オルファンはきっと僕達の話を聞いてくれるよ!」
ケン太は深刻な顔になったシーブックに言った。
「とケン太は言うが何を考えているかわからん奴が相手だからなあ」
「まあ出たと勝負って感じ?他に方法もないし」
「分の悪い賭けだね、こりゃ」
グッドサンダーの面々は相変わらずの調子であった。
「なら降りる?」
「生憎分の悪い賭けは嫌いじゃないんでね。それだけ言えばわかるだろ?」
「じゃあ決まりだな」
「ああ」
皆真吾の言葉に頷いた。頷いたその時だった。
突如として艦内に警報が鳴り響いた。それは第一種警報であった。
「まさか」
「艦長、オルファンが」
ヴァネッサがやって来た。そしてグローバルに声をかける。
「来たのか!?」
「はい、目視出来る位置にまで」6
「わかった。ではすぐに作戦開始だ」
「はい」
一同それに応える。
「勇君とヒメ君がオルファンに応える。そして他の皆はそれの援護だ。いいな」
「了解」
「わかりました!」
すぐにそれに返事が返る。こうしてオルファンの最後の謎が解き明かされる時が来たのであった。
ロンド=ベルの七隻の戦艦はオルファンの前にやって来た。それはあまりにも巨大な姿であった。
「オルファンだ」
「凄い、間近で見るとやっぱり大きいや」
「大きいも!」
ユキオもアカリもクマゾーも驚きを隠せなかった。
「ねえあれ」
その中でアカネは気付いた。
「あれって何なの?」
「あれ!?」
アカネはオルファンのある場所を指差した。それは中央であった。
中央に巨大なものが横たわっていたのだ。それは美しい女性の身体であった。
「女性!?」
「ああ、間違いないな」
ダバがヒギンズに答えた。
「あれは女性だ」
「面妖な。オルファンのことは聞いていたが」
ギャブレーもそれを見てぽつりと呟いた。
「リクレイマーはフィギュアと呼んでいるわ」
カナンはそんな彼等に説明をはじめた。
「フィギュア!?」
「ええ。オルファンの機能の中心を司る部分よ」
「そうなのか」
「綺麗・・・・・・」
ヒメはそのフィギュアを見て感嘆の言葉を口にした。
「まるで女神みたい」
「女神か」
クワトロはその言葉に反応した。サングラスの奥の目が動いた。
「我々はどうやら女神というものに縁がある存在のようだな。そして私も」
「ブライト艦長!」
ラー=カイラムのレーダーを見ていたサエグサが報告する。
「オルファンから出撃する機体があります!」
「リクレイマーか!?」
「はい、間違いないです」
シゲルもそれに応える。
「この反応、リクレイマーです」
「パターン緑、リクレイマー」
マヤも言う。
「数七百、今出ます」
リクレイマー達はロンド=ベルの前に姿を現わした。その先頭には赤いリクレイマーがいた。
「姉さん・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
クインシィは一言も発しない。ただ勇を見据えているだけであった。
「ガバナー=ゲイブリッジ!」
グローバルが呼び掛ける。
「我々はオルファンの旅立ちを邪魔する気はない!」
「だがオーガニック・エナジーの吸収現象が起きるのなら我々はオルファンを止めねばならん!」
獅子王博士も言う。だがゲイブリッジからの返答はなかった。
「無駄だ、諸君」
「その声は!?」
かわりに別の声が聞こえてきた。勇はその声の主が誰なのかすぐにわかった。
「既にガバナー・ゲイブリッジに指揮権はない」
「バロン=マクシミリアン!奴もここに!」
「そうだ。私は今ここに宣言しよう」
「宣言!?」
「一体何なんだ!?こんな時に」
ロンド=ベルの面々はバロンのその言葉に首を傾げさせていた。バロンはさらに言った。
「今このオルファンはジョナサンのものである」
「何っ!?」
「どういうことなんだ!?」
「あのジョナサンがか」
今度は驚かざるにいられなかった。オルファンがジョナサンのものとなった。これはまことかと思った。
「まさか、クーデター!?」
カナンもいぶかしむ。皆今のバロンの言葉が信じられなかったのだ。
オルファンの中でもそれはあった。研作はバロンズゥに問うていた。
「バロン=マクシミリアン」
「何だ?」
バロンは仮面の下にある目を研作に向けた。
「彼はリクレイマー達は統率できるでしょうが」
「うむ」
ジョナサンにはそれ位の力量はあった。それは彼もわかっていた。
「オルファンの機能はオルファンにしかコントロール出来ないのは貴方だってご存知のはずだ」
この場合の『貴方』は果たして『貴方』だったのか。それはバロンにしかわからない。
バロンズゥはそんな研作に答えた。
「構うことはない」
果たして『彼』なのか。とりあえず『彼』は言った。
「ジョナサンに正義を行わせてオルファンの意志に連動させるだけだ。バロンがそれを選択した」
「左様ですか。ガバナー」
「私は何もありません」
「そうですか、わかりました」
研作はそれを聞いてこれ以上何も言うことはしなかった。
「それではいいです」
「はい」
「ゲイブ・・・・・・」
彼の真意は直子にしかわからなかった。だが彼女は彼を気の毒そうに見上げるだけであった。
「奴はビムラーの覚醒を待たずオルファンを銀河に旅立させる気なのか」
勇はそんなバロンズゥを見て言った。
「そんなことをさせたら」
「こうなっては仕方がない」
ブライトは決断を下した。
「総員出撃だ!リクレイマーを突破してオルファンに接触するぞ!」
「了解!」
総員出撃する。そしてすぐに戦闘態勢に入った。
「おう、新入りさんよお」
「何だ?」
カムジンがギャブレーに声をかける。
「俺のことは聞いてるな」
「カムジン殿か」
「そうさ、まあ宜しくと言いたいところだが」
「うむ」
「あのリクレイマーって連中は小さいがかなり素早しっこいぜ。注意しな」
「素早いのか」
「それにいきなり消えたりするしチャクラシールドっているバリアーもある」
「何!?手強いではないか」
「そうさ。だから用心しろよ」
「わかった。では警戒させてもらおう」
「お手並み拝見させてもらうぜ」
「わかった」
ギャブレーも出撃した。彼等の先頭には勇とヒメがいる。
「やれるな勇、ヒメ」
シーブックが二人に声をかける。
「ああ!」
「はい!」
二人がそれに応える。シーブックはそれを見て満足そうに頷く。
だがその前にはリクレイマー達がいる。クインシィは全てのリクレイマーに指示を出していた。
「攻撃開始だ、グランチャー部隊はロンド=ベルを排除しろ」
「了解」
「頼むぜ、クインシィ」
ジョナサンはそんな彼女にオルファンから声をかける。
「俺もバロンズゥの調整が終了次第出るからな」
「わかった、それまで待っている」
「ああ」
「期待しているぞジョナサン」
バロンはジョナサンに声をかけた。
「今こそ御前の力を全て発揮させる時だからな」
「はい」
ジョナサンはバロンに恭しく頷いた。
「お任せ下さい」
「頼むぞ、御前がキングになるかナイトになるか」
『彼』は言う。
「それを楽しませてもらう」
「わかりました」
ロンド=ベルとリクレイマーの最後の戦いがはじまった。クインシィは一直線に勇に向かう。
「勇!」
「姉さん!」
まずはミサイルを放つ。それがかわされると接近しソードで斬り掛かる。だが勇はそれを受け止めた。
「チィッ!」
「やめてくれ、姉さん!」
勇は姉に対して言う。
「俺達はオルファンに自由に飛ばせてやりたいと思っているんだ!」
「知ったような口を利くな!オルファンはリクレイマーのものだ!」
だがクインシィはそれに耳を貸そうとしない。あくまで勇の言葉を拒絶する。
「それが間違っているんです!」
ヒメも話に入る。
「オルファンは生きているんですよ!誰の物でもないんです!」
「そんな筈が!」
「わからないのか姉さん!」
勇はさらに声をかける。
「オルファンの言葉が!聞こえている筈だ!」
「そんなもの・・・・・・私には!」
「クッ!」
激昂してソードを振り下ろす。だがそれは勇により弾き返される。そして返す刀でその腕を断ち切られた。
「勇!やってくれたね!」
「姉さん、話を!」
「黙れ!」
それでも彼女は聞こうとはしない。さらに言う。
「オルファンは私が守るんだ!あんた達はいらないんだよ!」
「違う!」
勇は姉のその言葉を否定する。
「オルファンは一人で飛べる勇気を身に着けつつあるんだ・・・・・・。だから」
「オルファンには私が必要なんだ!」
「だからそれは違うんだ!」
「違わない!オルファンは私がいないとどうしようもないんだ!」
「その通りだクインシィ!」
それを認める声がした。ジョナサンのものだった。
「御前こそオルファンのパートナー、リクレイマーの女王だ!」
「黙れジョナサン!これは家族の問題だ!」
勇は彼を排除しようとする。だが彼はそれに従わない。
「出鱈目を言うな!」
彼にとって家族とは唾棄すべきものであった。頭から否定する。
「家族なんて何の役に立つ?あんなもの俺達の思考をにぶらすただのノイズだ!だから俺もマコーミックの名を捨てたんだ!」
「それは御前の被害妄想だ!」
「違う!」
ジョナサンの顔が怒りと憎悪、そして悲しみで歪んだ。
「ママは俺を捨てた!愛することはなかった!だから俺は・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
バロンはそれを黙って聞いている。何も語らない。
「ジョナサン!字分の憎悪から姉さんに余計な事を吹き込むな!」
「五月蝿い!クインシィ!」
その言葉がさらに彼を怒らせる。ジョナサンはさらに言った。
「御前は伊佐未依衣子じゃない!クインシィ=イッサーだ!」
「クインシィ=イッサー」
「そうだ!オルファンを守る女王だ!」
「違う!」
勇は勇でそれを否定する。
「姉さんは俺の姉さんだ!」
「う、うう・・・・・・」
クインシィは頭を抱えていた。そして呻いていた。
「うわあああっ!」
何かが弾けた。そして絶叫しつつ後ろに下がる。
そのグランチャーの足元に何かが現われた。それは銀と七色に輝いていた。
「あれはオルファン内にあったプレート!」
「リバイバル・・・・・・!?」
ヒメはそれを見て言う。
「依衣子さんのグランチャーが再びリバイバルするの!?」
「クインシィ・イッサー!」
ジョナサンはまたクインシィに呼び掛ける。
「御前の強い意志ならより強いグランチャーにリバイバル出来るぞ!」
「ブレンだ!」
勇もまた呼び掛ける。
「姉さんだったらブレンにリバイバルできる!そうするんだ!!」
「あたしは家族を守りたかっただけなのにぃっ!!」
「姉さん!?」
勇はその姉の言葉に戸惑った。そしてその時だった。
「姉さん!!」
「家族なんかぁああっ!!」
クインシィは叫んだ。そしてグランチャーが別のものに変化した。
「あれは・・・・・・」
勇はその別のものを見て言った。
「バロンズゥ!」
「なんて趣味の悪い赤でしょ!」
ヒメも思わず叫んだ。
「ハハハハハハハ!バロンズゥを呼び出したのか!」
ジョナサンはクインシィのバロンズゥを見て高らかに叫ぶ。
「クインシィは真の抗体となったわけだ!バロンズゥよかったなあ!兄弟が出来たぞ!」
「そうだジョナサン!」
クインシィもそれに応える。
「オルファンを助ける女王として私は脱皮出来たんだ。あらゆる過去の束縛から!」
「そうだ御前は脱皮したんだ!オルファンの女王として!」
「ああ!」
「勇!」
ヒメはそんなクインシィを見て思わず勇にと射掛けた。
「依衣子さんが悪い方に進化したなんてことないよね!?」
「・・・・・・・・・」
だが勇は答えられない。完全に沈黙してしまっていた。
「ねえ」
それでもヒメは問う。
「悪い方には」
「誰が悪い方に進化なんかさせるもんか!」
勇はやっと口を開いた。そして叫ぶ。
「そんなこと俺がさせやしない!!」
「そうだね、勇!」
ヒメはそれを聞いて会心の笑みで頷いた。
「無駄なことだ!これでクインシィは真の女王となった!」
だがジョナサンは勝利を確信していた。勝ち誇った笑みを浮かべて言う。
「俺も出撃するぞバロン」
「ジョナサン」
バロンはそんな彼に問う。
「女に従ってみせる・・・・・・ということでいいのか?」
「地球に審判を下し銀河旅行をする時に必要なのは女王です」
ジョナサンはバロンの問いにこう答えた。
「キングではリクレイマーや軍人という大衆はついてきませんよ」
「そうか」
バロンはそれを聞いて静かに頷いた。
「流石は私の見込んだ騎士・・・・・・ナイトである」
「バロン」
ジョナサンはここで今度は彼が『彼』に問うた。
「いつも何故そこまで私にして下さるのか?」
「簡単なことだ」
バロンもそれに答えた。
「地球での思い出、貴公と同じようにつらいものばかりだったからだ」
「左様ですか。それでは」
ジョナサンは畏まって述べた。
「このバロンズゥの力でオルファンは何もかも無にして我々を新しい世界へ連れていってくれます」
「そうだよ」
バロンはその言葉を聞きまた頷いた。
「二人でそうしよう」
「はい・・・・・・」
今ジョナサンはこのうえない満足感に浸っていた。バロンの下にいるということに。そして彼も出撃した。
「ジョナサンか!」
「ハーハハハハ!」2
戦場に姿を現わしたジョナサンは高らかに笑っていた。
「ブレンパワードなんか!」
「いかんな」
ゲイブリッジはそんな彼を見て呟いた。
「ジョナサン君はまだ戦いにこだわっている。あのままでは」
「そしてグランチャー達も」
直子もそれに続いて言った。
「厄介なことだ。彼等こそ御し難い」
「そうでしょうか」
だがバロンはそれには異なる意見だった。
「ガバナーが戦乱に乗じたのはアンチボディやオルファンの体力をつけさせるためでありましたろう?」
「しかし、こちらから先端を開くことはしなかった」
「それはそうでしょう」
一旦はゲイブリッジの言葉を認める。そのうえで述べた。
「ですが軍というものは厄介な輩も多い」
これは軍だけではない。人間そのものがだ。
「そういう者を整理するためには・・・・・・戦争というものは便利なものです」
「便利なものか」
「はい」
バロンは頷いてみせた。
「何はともあれここはジョナサンを見守りましょう」
「バロン」
「何でしょうか」
『彼』はゲイブリッジの言葉に顔を向けた。
「君は。どうしてそこまでジョナサンにこだわるのだ?」
「・・・・・・・・・」
「君のそれは最早普通の思い入れではない。そう、まるで」
「まるで?」
「親が子を見るような。そうしたふうに私には見えるのだが」
「そう思われるならそう思われて下さい」
『彼』は仮面の中に顔を隠したままそう述べた。
「私はそれでも構いませんし」
「そうか、そうなのか」
「はい」
『彼』の顔は決して見えはしない。だがその向こうにジョナサンがいることだけは確かであった。『彼』は明らかにジョナサンに対して何かしらの特別な感情を抱いていた。
勇は姉と再び対峙していた。クインシィは執拗に激しい攻撃を浴びせる。
「勇うううぅっ!」
光が放たれる。だが勇のブレンはバイタルジャンプでそれをかわす。それからまた呼び掛ける。
「姉さん!もう一度話をしよう!」
「もう遅い!」
だがクインシィはそれを拒む。
「御前達を排除してオルファンは私が守ってみせる!」
「駄目だ」
勇はそんな姉を見て呟く。
「このままじゃ姉さんは完全に抗体となってしまう」
「勇!敵はクインシィだけじゃないんだぜ!」
そこにジョナサンもやって来た。
「俺もいるんだ!それを忘れるな!」
「ジョナサン!」
ジョナサンのバロンズゥもやって来た。勇は二体のバロンズゥと対峙することになった。
ヒメはそこに助太刀に行けなかった。彼女も今シラーと戦っていたからだ。
「勇・・・・・・!」
「何やっても遅いんだよ勇!!」
ジョナサンは勇に対して言う。
「御前はオルファンから逃げた!それで終わりだったんだよ!」
「それを言うなら御前だって逃げ回っていた!」
「何だと!?」
それを聞いたジョナサンの表情が止まる。
「俺が何から逃げてるってんだよ!?」
「一人で戦い、一人で生きることをだ!!」
勇は彼にそう言った。
「御前はそれから逃げていた!甘えていたんだ!」
「ふざけたことを言うな!」
それを聞いて激昂する。
「俺はそんなことはない!俺は、俺は・・・・・・」
「いや、違わない!」
勇は否定しようとするジョナサンに対してまた言った。
「俺と御前は同じなんだ!結局欲しいものは同じだ!」
「馬鹿を言え!俺は・・・・・・」
「違わない!だから戦う理由もないんだ!」
「ふざけたことを」
ジョナサンの顔が怒りで歪んでいた。
「誰が似ていんだ!俺と御前の何処が!」
「俺が両親を憎んだように御前はアノーア艦長を憎んだ!!」
勇は遂にそれを言った。
「それは何故かわかるか!」
長い間彼もそれはわからなかった。だがそれが長い戦いと葛藤を経てようやくわかったのだ。
「それは・・・・・・」
「それは」
「愛していたからだ!!」
彼は言った。
「俺も御前も愛していたからだ!だから憎んだんだ!」
「ふざけるな!」
ジョナサンはまた激昂して叫んだ。
「俺は誰も愛していない!!」
「ジョナサン・・・・・・」
「ママが俺に何をしてくれたんだよ!何もしてくれなかった!ずっと、ずっと・・・・・・」
彼は今泣きそうな顔になっていた。
「誕生日はいつも一人だった。ずっと待っていたんだ!けれど何もしてくれなかった!俺には誰もいなかったんだ!それでどうして愛していたなんて言えるんだ!」
彼は叫ぶ。
「俺には誰もいないんだ!これ以上言うと本当に殺してやるぞ!」
「まだ認められないのか、ジョナサン」
「認めるも認めないもあるか!」
ここでクインシィが来た。
「御前の言葉なぞ・・・・・・聞けるものかあっ!」
「くっ!」
クインシィのバロンズゥをかわしブレンパーの射撃を放つ。それはバロンズゥの動きを止めてしまった。
「グウッ!」
「もう止めるんだ姉さん!」
「誰が!」
それでもクインシィは戦いを諦めない。
「止めるのはブレンパワードがいなくなってからだ!」
「それは違います依衣子さん!」
「戯言を!」
ヒメの言葉にキッとなる。だがヒメはそれでも言う。
「オルファンさんは一人でやっていけるんです!」
「嘘だ!」
「いえ、本当です!守ることなんか考えなくたっていいんです!」
「まさか・・・・・・」
ヒメの強い言葉にさしものクインシィも動きを止めた。ヒメはさらに言った。
「でも放っておくと可哀想なんです!」
「放っておくと可哀想・・・・・・」
勇もそれを聞いて動きを止める。
「乙女チックなことを!」
だが結局彼女はそれを否定しようとする。その時だった。
「!?」
今全てのオルファンが共鳴しだした。何かに。
「これは!?」
「オルファンが同意しているんだ!」
ケン太がそれをみて叫ぶ。
「ヒメさんの言ったことにオルファンが応えているんだ!間違いないよ!」
そして護も。彼等にはわかったのだ。
「オルファンはヒメの言うことに応えたのか!?」
「どういうことなんだ、これは!」
シラーとジョナサンもそれを感じて言う。
「私ではなく!」
クインシィも。彼女はそれを知ると急に狼狽しはじめた。
「姉さん!」
クインシィはフィギュアの上へ向かった。そして懸命に問う。
「オルファン!」
そのオルファンに対して問う。
「あんたにはあたしがいるじゃないか!他の誰も要らない筈だ!あたしがずっといてあげるから!!」
「勇、依衣子さんが」
今ヒメはそのクインシィに何かを見ていた。
「ああ」
そして勇も。二人は同じものを見ていた。
「オルファンに還る・・・・・・」
クインシィのバロンズゥがまた共振した。そして異変が起こった。
「姉さんのバロンズゥが!」
「オルファンさんに・・・・・・」
「はあっ!」
クインシィはゆっくりと消えていった。まるでオルファンの中に包まれていく様に。
「見たな」
「ああ」
ナンガはラッセの言葉に頷いた。
「バロンズゥとかいう奴オルファンに」
「間違いない、同じになった」
「オルファンの抗体になるということはこういうことだったのですね」
カントも今やっとそれがわかった。
「まさかあんなことになるなんて・・・・・・」
「けどよ」
ここでナッキィが彼に問う。
「ああやって抗体になったら中の人間はどうなっちまうんだよ?」
「姉さーんっ!」
「あははは!」
勇の呼び掛けに返事はなかった。
「はははは!あはははは!!」
ただ笑い声が。それだけが聞こえていた。
「クッ!このままだと姉さんが!」
「行かせないぞ勇!」
勇はフィギュアに向かおうとする。だがそこにシラーが来た。そしてジョナサンも。
「ここは私が!
「やらせないよ!」
そのシラーの前にヒメがやって来た。
「これで!」
そして斬撃を繰り出す。シラーのグランチャーはこれで動きを止めた。
「ガハッ!」
だが急所は外されていた。彼女は健在だった。
「こんなことじゃ・・・・・・」
シラーは呻きながら呟いていた。
「星になった弟達に会えなくなる・・・・・・」
「だからそれは違うと言っている!」
「勇・・・・・・」
「シラー!オルファンに頼らなくても俺達は俺達で出来ることをするんだ!」
「あたし達に!?」
「ああそうだ」
勇は彼女に対して頷いた。
「弟達に会いたい気持ちを忘れなければ」
「気持ちを忘れなければ」
「シラーなら、きっと出来るさ」
「そう、なのか・・・・・・」
「ああ、きっとそうさ」
「わかった」
彼女は今何時にない素直な気持ちで頷いた。
「やってみるよ、それじゃあ」
「ああ」
彼女はそのまま戦場から離脱した。これで残るは一人となった。
ジョナサンだけであった。彼には勇が向かう。
「ジョナサン、まだわからないのか!」
「何をだ!」
彼はその顔をさらに憎悪に歪ませていた。
「何がわかるっていうんだ!御前の言葉に!」
「それがわからない限り御前はこのままなんだ!」
「ふざけたことばかり言うな!俺はずっと一人だったんだ!それで何を!」
チャクラを放ってきた。
「いい加減にしろ!このままここで始末してやる!」
「無駄だ!」
勇はその攻撃をバイタルジャンプでかわす。そのままジョナサンの懐に姿を現わす。
「そして・・・・・・」
ソードを繰り出す。
「目を覚ませ!」
一撃を浴びせた。それでジョナサンのバロンズゥの動きを止めた。
「馬鹿な!」
ジョナサンは己のバロンズゥが動きを止めたのを見て叫ぶ。
「バロン=マクシミリアンから授かったバロンズゥが負けるのか!」
「負けを認めろジョナサン!」
勇はここでそんな彼に対して言い放つ。
「そして自分の弱さと向き合え!」
「勇!」
ジョナサンのその目が憎悪に燃える。破損したバロンズゥを動かそうとする。しかしそれをバロンが制止した。
「戻れ、ジョナサン!」
「バロン」
「御前はまだ終わってはならない!」
「しかし!」
「私の言うことが聞けないのか?」
「・・・・・・わかった」
ジョナサンは『彼』の言葉には逆らわなかった。そして彼も戦場から離れた。
彼とクインシィの離脱はリクレイマー達にとって大きかった。そしてその数も大きく減らしていた。
ブライトはそれを見て動いた。今が機だと見ていたのだ。2
「リクレイマーに告ぐ!」
彼はラー=カイラムの通信から放送を入れた。
「指揮官を失った以上、戦闘を続けても犠牲者を出すだけだ」
彼は言う。
「よって諸君等には武装解除を勧告する!」
「終わりだな」
ゲイブリッジはその言葉を聞いて事態の終焉を悟っていた。
「これ以上の飛翔はビムラーの覚醒を待たねばならんか」
「いや」
しかしそれに異議を呈する者がいた。
「人々の信奉が集まる前にオルファンが地球を離れたのはガバナーの思惑に反する」
バロンであった。『彼』は言う。
「人間のエゴが強過ぎたからオルファンが反発しているということもあるぞ」
「え・・・・・・」
直子はその声に顔を向けた。見ればゲイブリッジも『彼』の言葉に耳を傾けていた。
「そうだな」
彼はバロンの言葉に頷く。
「オルファンの力でより多くの人々を救おうとするにはロンド=ベルの様な強い意志は邪魔になる」
「そうだ」
「彼等は例え地球が滅びるとわかっていても抵抗を続ける」
ゲイブリッジの言葉はまるで自分自身に言い聞かせているかの様であった。
「そんな人間のエゴにオルファンはイライラしているのだろうな」
「そうでしょうか」
そして直子はそれに疑問の言葉を述べた。
「私にはこのオルファンの神経のツボのような所にとらわれていてもそういった苛立ちは感じませんけど」
「何を言われるか、伊佐未直子」
バロンはそれに反論する。
「貴女がそう感じられるのは貴女がオルファンに選ばれた人だからです」
「そうでしょうか」
「はい」
バロンは言う。
「オルファンに乗せられる人類は限られている」
「限られている・・・・・・」
「そうです。人間のエゴというオーガニック・パワーも吸い上げてオルファンは旅立つのだ」
「待て、バロン」
ゲイブリッジはここでようやく『彼』の言葉に気付いた。
「君は何を・・・・・・何を求めているのだ!?」
「貴方達にはわかりはしないだろう」
バロンは仮面の下の表情を消して言う。
「この私の今の幸福感は」
「幸福感・・・・・・何のことなんだ」
研作にも翠にもそれはわかりかねた。
「君は一体何を言っているんだ、幸福感などと」
「バロン、貴方は一体」
「わかりはしないだろう、今の私のことは誰にも」
「・・・・・・わかるわけがありません」
直子は何と言っていいかわからなかったがかろうじてこう言った。
「ゲイブだって間違ったやり方をしたかも知れませんけどこの人の理想は」
ゲイブリッジを庇うようにして言う。
「人類を救いたいという想いは・・・・・・貴方にはわかりはしないのでしょうね」
「そんなこと今の私には関係はない」
バロンは直子のその言葉に応えた。遠くを見ていた。
「私にとって今大事なのは・・・・・・」
そして『彼』は動いた。『彼』もまた動いたのであった。
「博士」
ミドリが大文字に対して言う。
「オルファンのリクレイマーから応答ありません」
「ブライト艦長、グランチャー部隊もどうすればいいか迷っているようだ」
「はい」
ブライトもそれに頷く。
「では一体どうすれば」
「待って下さい!」
チェーンが報告する。彼女はラー=カイラムのレーダーを見ていた。
「オルファンから何か出てきます!」
「何だと!?」
「一体誰だ!?」
「ヘッ、今更たった一機で出てくるとはいい度胸だぜ!」
「あのジョナサンという青年、まだ戦うつもりなのか」
甲児と大介が出撃してきたバロンズゥを見て言う。
「だとしたらやるだけだ。いいな皆」
「ああ」
皆鉄也の言葉に頷く。
「そしてこの戦いを終わらせるんだ」
「いや、待ってくれ」
だがそんな彼等を勇が制止した。
「どうしたんだよ、勇」
「この感じ・・・・・・ジョナサンじゃない」
「確かに」
カントもそれに頷く。
「この感じは彼とは違いますね」
「ああ、そしてもっと強くて・・・・・・」
「邪悪な。これは何だ!?」
ナッキィとヒギンズもそれを感じていた。
「誰の感じなの、これ」
カナンも。アンチボディのパイロットは皆そこに違和感を感じていた。
「我が力を使え!」
そのバロンズゥに乗る者が叫ぶ。
「御前は一体誰なんだ!」
「ハハハハハハハ!」
答えはない。そのかわりに不気味な笑い声が響く。勇はその声に聞き覚えがあった。
「バロン=マクシミリアン!」
「そうだ!伊佐未勇」
勇を見据えて言う。
「死ねよや!」
これまでにない悪意が撒き散らされていた。それを見てショウが言う。
「この気は・・・・・・」
「まるであの時みたい!」
チャムも気付いていた。彼等が今まで見てきた気に似ているからだ。
「ジェリル=クチビ・・・・・・いや違う」
「憎悪は感じるけど他のものがあるわね」
「ああ、これは一体何だ」
ショウはマーベルの言葉に頷くながら考える。
「まるでそこに向かうかの様な・・・・・・ひたむきなものが・・・・・・」
「バ、バロン」
ジョナサンはこの時オルファンの中に帰ってきた。そしてバロンを見ていた。
「どうして今・・・・・・」
「全ては御前の為だ」
「私の為と言うか」
「そうだ、今の御前は突かれきっている」
『彼』はジョナサンに対して言った。そこには憎悪はなかった。
「やっぱり妙だな」
「御前も感じるのか?」
「ああ。オーラ力に似た感じだからな」
トッドはそうナンガとラッセに応えた。
「勇への憎しみだけじゃない。あのジョナサンってのに対してやけに思い入れがあるな」
「ああ」
「それも強烈にな。ありゃ何だ?」
「今はゆっくり休むがいい」
「それで宜しいのか?」
「全ては御前の為なのだよ。よいな」
「・・・・・・わかった。それでは」
ジョナサンはそれに従うことにした。やはり彼はバロンに対しては従順であった。それが何故なのか、彼にもわかりかねるところはあった。
「オルファンの前でかくもネリー・ブレンを潰そうとする」
勇はそんなバロンを見て言う。
「そして俺も殺そうとする!」
「御前がそれをさせるのだよ!」
バロンはそれに反論する。
「御前の存在そのものが!」
「何故そんなことをするんだ!」
勇はそんなバロンを見据えて問い詰める。
「何故罪を重ねるんだ!」
「ジョナサンの為だ!」
「何だと!」
「ジョナサンに累を及ぼさないために罪も罰も一身に受ける!」
「あの人、何故あんなに」
ケン太はそんなバロンを見て不思議に思うしかなかった。
「ジョナサンって人のために戦う事が出来るの!?何かおかしいよ」
「若しかしたら」
OVAはそんな『彼』を見てあることに気付いた。
「どうしたのOVA!?」
「いえ」
だが彼女はすぐにそれを自分でも否定した。
「きっと私の思考プログラムのバグです」
「そうなの」
「とにかく奴はこっちに来るぞ!」
京四郎がバロンの乗るバロンズゥを見て叫ぶ。
「奴を近付けるな!」
「ああ!」
「各機攻撃をバロンズゥに集中させろ!」
指示が下る。
「あの機体は独自の意志でこちらに戦いを挑んでくるぞ!」
「あの力・・・・・・一体何処から来るんだ」
「死ねよや!」
バロンは一直線に勇に向かって来る。そのまま攻撃を仕掛ける。
「クッ、この力!」
勇は何とかその攻撃をかわした。だが紙一重であった。
衝撃がブレンを襲う。そこに彼は恐るべき力を感じていた。
「圧倒的だ!これは一体・・・・・・!」
「ジョナサンの邪魔をする者!」
バロンは勇に対して言う。
「それはこの私、バロン=マクシミリアンが排除する!」
「またジョナサンを・・・・・・!」
「勇!」
ヒメが勇の側に来た。
「気を着けて!あの人普通じゃないよ!」
「ああ。やはり何かおかしい」
勇もそれは感じていた。
「この力、一体何処から・・・・・・」
「似ている・・・・・・」
マサトはそんなバロンを見ながら呟く。
「どういうこと、マサト君」
「ああ、覚えているだろ、前にグランチャーが暴走した時」
「ええ」
美久は枯野言葉に頷く。
「その時に似ているんだ。これは一体」
「伊佐木勇」
バロンは勇の名を呼んだ。
「御前の力は無限だ」
「俺の力が!?」
「そうだ。さもなければバロンズゥは私の想いに応えてリバイバルはしなかった!」
「バロンズゥは貴方のエナジーを吸っている!このままだと貴方の身体が持たないぞ!」
「それでもよい!」
だが『彼』は勇の制止を受け入れようとはしない。
「伊佐未勇とロンド=ベルを倒す!それがジョナサンの望みだからだ!」
そして言う。
「それが出来ればそれで結構だ!」
「またジョナサンなのか」
「喜べジョナサン!」
『彼』はジョナサンに対しても言った。
「御前の望みは私が叶えてやる!」
「バロン・・・・・・」
「私の想いを受けて生まれたバロンズゥは無敵である!」
『彼』はそう宣言した。そしてまた言った。
「見ていなさい、ジョナサン」
「!?」
その言葉を聞いた勇とジョナサンは何かを悟った。
「貴方の敵は・・・・・・私が排除してあげる」
「バロン、まさか貴方は・・・・・・」
「伊佐木勇!」
バロンは叫ぶ。
「息子の為に死ねぇっ!!」
「間違いないわよ、あれ!」
「あ、ああ!」
ケーンがアスカの言葉に頷いた。
「まさかとは思ってたけどよ!」
「どういうことなんやこれ!」
「間違いありません!あそこにいるのはノヴィス=ノアのアノーア艦長です!」
「そ、そんな・・・・・・」
それに最も驚いていたのはジョナサンであった。顔色も声も失っていた。
「ママが、どうして・・・・・・」
「勇、集中しろ!」
アムロが彼に言う。
「今のアノーア艦長は半ばバロンズゥに取り込まれている!彼女を救いたいのならバロンズゥを倒すしかない!」
「は、はい!」
勇はそれに頷く。
「生きていても死んでいても」
「生きていても死んでいても」
「彼女を救うにはそれしかない!このままだと彼女は!」
「わかりました!」
「勇!」
そこにヒメもやって来た。
「私もいるから!」
「ああ、あれで決めるぞ!」
「うん!」
「死ねよや!」
そこにバロンズゥが襲い掛かって来た。
「これで終わらせよう!」
光が勇のブレンに襲い掛かる。勇とヒメは光が迫る中でそれぞれの息を合わせていた。
「ヒメ!合わせてくれよ!」
「わかった!」
ヒメは勇に頷く。二人は今完全に息を合わせていた。
「チャクラ=エクステンション!」
「シューーーーーーートォーーーーーーーッ!」
二人は同時にチャクラ=エクステンションを放った。それはバロンズゥの光を退けた。
「なっ!?」
そしてそれだけではなかった。チャクラはそのままバロンに向かう。そして彼女を直撃したのであった。
「グオオオオオッ!」
「やったか!?」
「アノーア艦長!」
バロンズゥは動きを止めた。ゆっくりと墜ちていく。誰の目にも勝敗は明らかであった。
「おい!」
バロンズゥは何とかオルファンに辿り着いた。それをジョナサンが出迎える。
「何なんだよ、この話!」
ジョナサンはコクピットを開けた。そして母に対して言う。
「ははっ・・・・・・ははは!」
笑っていた。同時に泣いていた。
「はは!何であんたがバロンなんだ!?」
「貴方の傍に・・・・・・いたかった」
バロンの仮面はもう壊れていた。そこからアノーア艦長としての顔が見えていた。
「今度こそ貴方の為に・・・・・・」
「俺の為にかよ・・・・・・」
「何かをしてあげ・・・・・・」
「遅いんだよ!」
ジョナサンは叫んだ。
「あんたは俺を騙して裏切ったんだぞ!」
「ジョン・・・・・・」
「それなのに何だよ今更!俺の前に出て来てよお!」
「御免なさい・・・・・・」
「御免なさいじゃないんだよ!何で、何で今更!」
「元気な・・・・・・ジョン・・・・・・」
艦長はゆっくりと目を閉じる。まるで全ての力を使いきったかのように。
「起きろよ!」
ジョナサンはそんな彼女に対して叫ぶ。
「あんたにはまだ言いたいことがいっぱいあるんだ!」
「・・・・・・ジョナサン」
勇がそんな彼に声をかける。
「お袋さんはやることをやったんだ。許してやれ」
「親子の間に入るな!」
ジョナサンはそんな勇にも叫んだ。
「何でなんだよ!今更母親面するんじゃねえ!こんなこと・・・・・・認められるか!」
だが艦長は目を開かない。そのまま動かない。ジョナサンはそんな母を見て泣くだけであった。
リクレイマー達はそんな彼を見てオルファンに戻っていく。彼等もまた戦意をなくしたのだ。もうこれ以上の戦いは無意味であると悟ったのだ。
「これでリクレイマーとの戦いは終わったのね」
「ええ」
エマがファの言葉に応える。
「やりきれない結末だけどね」
「そうね。アノーア艦長・・・・・・」
「いや、まだだ」
だがここで勇は気付いた。
「姉さん!姉さんをオルファンから救い出さないと!」
「いや、待て勇!」
「カミーユ!」
「レーダーに反応だ!これは・・・・・・」
「また敵だというのか!?」
「今度は一体誰だ!」
洸と神宮寺が叫ぶ。その時であった。
四隻の魚の形をした戦艦を中心に敵軍が姿を現わした。彼等は既に戦闘態勢を整えていた。
「あの戦艦は!?」
「間違いない、バームとの戦いの時にいた奴等だ!」
サコンとピートがその姿を認めて言う。
「暗黒ホラー軍団か!」
「左様」
ダンケルがそれに答えた。
「我等はこの時を待っていたのだ」
「待っていただと!?どういうことだ」
リーがそれを聞いて問う。
「御前達とリクレイマーの戦いが終わるのをな。そして」
「何をするつもりなんだ?」
ヤマガタケは首を傾げさせる。
「そこまではわからないがどうせ碌なことじゃねえだろうな」
「そうですね。ではここは彼等を退けましょう」
「うむ。では諸君、戦いが終わった直後で悪いが」
大文字はブンタの言葉に応えて全員に指示を下した。
「暗黒ホラー軍団を退ける。いいな」
「はい」
「フン、やはり来たか」
デスモントは迎撃態勢を整えたロンド=ベルを見て言った。
「やはり一筋縄ではいかぬようだな」
「だが我々はここは作戦さえ成功させればいい」
キラーがそれに応える。
「作戦をな。皆それはわかっていよう」
「うむ。それではやるか」
アシモフが頷く。彼等もまたそれぞれの戦艦を前にやった。両軍の戦いはオルファンを前にしてはじまった。
ロンド=ベルは彼等に向かい次々とそれを破っていく。とりあえずは戦局は彼等に有利であった。
「おかしい」
だがここでクワトロはあることに気付いた。
「あまりにも脆い」
「どういうことですか、大尉」
「おかしいと思わないか、これが」
彼はアキトにそう述べた。
「おかしい」
「そうだ。数は多いが兵器の質はそれ程でもない。正直我々の相手ではない」
「ええ、まあ」
「まるで我々を引き付けようとしているかの様にだ」
「まさか・・・・・・!」
気付いた時にはもう遅かった。ロンド=ベルと逆の方角にミサイルが現われた。
「あれは!」
「フハハハハハハハ!かかったな!」
デスモントがそのミサイルを見て高笑いを浮かべた。
「我々は最初からこのつもりだったのだ!貴様等を引き付けるつもりだったのだ!」
「何だと!」
「オルファンに核ミサイルを当てて沈ませる!」
「そして地球に落下させてそこにいる人間共を破滅させる!どうだ!」
「クッ!」
「何てことを!」
勇と輝はアシモフとキラーの言葉に歯噛みする。だがどうにもならない。
「全ては我等が生きる為だ!」
ダンケルは言った。
「その為には手段を選ばぬ!」
「地球人共よ、これで滅ぶがいい!」
「やらせるかあっ!」
そこにギュネイが急行する。
「核ミサイル相手なら何てことはねえ!喰らえ!」
ヤクト=ドーガのファンネルを一斉に放つ。
それで核ミサイルをまとめて撃墜する。だが一発漏らしてしまった。
「クッ、しまった!」
「フハハハハハハ!我等の勝ちだ!」
「これで地球は終わりよ!」
そのミサイルがフィギュアに命中した。オルファンが大きく揺れる。
「ああっ!」
「直子!」
ゲイブリッジは倒れようとする直子を慌てて抱き寄せた。
「いかん、オルファンが落下をはじめた」
「持ち直すことは不可能なのですか?」
翠は夫に対して問う。
「無理だろう、ここまで来るのにオルファン内のエネルギーは空っぽに近い」
「そんな、それでは」
「勝ったな、地球人達よ!」
「馬鹿が!ここで諦めてたまるかよ!」
「皆、わかってるな!」
甲児が言うとサンシローも声をかけた。
「了解!」
凱が頷く。そしてロンド=ベルの全ての者が。
全てのマシンと戦艦がオルファンに向かう。戦いを放ってまで。
「奴等は何をするつもりなのだ!?」
「オルファンを支えるつもりか!?」
「そのまさかだ!」
サンシローが四天王に対して言う。
「俺達に出来るのは、それぐらいしかないからな!」
「言っただろ!手前等の思い通りにはならないってよ!」
「オルファンを完全に支えることが出来なくてもその落下速度を落とすぐらいは出来る!」
甲児と鉄也が言う。
「僕達は最後の最後まで地球を愛する者として出来ることをするだけだ!」
大介も言った。
「人類の力を見せてやる!」
凱もいた。彼も心は人間なのだから。
だが限界があった。オルファンはあまりにも巨大だ。その落下は抑えられそうもない。
「勇、このままじゃ」
「ああ」
勇はヒメの言葉に頷く。
「今オルファンが求めているものは・・・・・・そうか!」
彼はここで気付いた。
「オーガニック的な何かだ!」
「オーガニック的な何か?オルファンが欲しがっているものとは」
「それをやりゃあ」
「オルファンを潰せるのか?」
「潰すんじゃないわ」
ヒメはヒギンズ、ナンガ、ラッセに対して答えた。
「応えるのよ。オルファンさんに」
「応える」
「うん」
それがヒメの答えであった。
「しかしこの地球で俺達人間がオルファンに拮抗させられるものと言えば」
「見せ付けるのよ!」
ヒメは悩む勇に対しても答えた。
「見せ付ける!?」
「そうだよ!」
「そうか・・・・・・そうだな!」
彼にもわかった。すると勇を中心にチャネリングの光が輝きはじめた。
「何だ、この光は!?」
「これは一体・・・・・・」
敵も味方もその光に呆気にとられる。獅子王博士が言う。
「オーガニック=エナジーだ!皆のオーガニック=エナジーがオルファンに力を与えているんだ!」
「オーガニック=エナジーが・・・・・・」
「皆!」
ケン太がここで皆に呼び掛けた。
「うん!」
「私達もやろうよ!」
「オルファンに力が届くように祈ろう!」
「祈るも!」
それに護もアカリもユキオもクマゾーも。皆頷いた。
「手の空いている者は互いに手を繋げ!」
ブライトも指示を出す。
「オルファンに人の力を送り込むんだ!」
「何時かはヒメが話し掛けることを試したんだから。今度は俺が試してみるさ」
「出来るよね?依衣子さんを助けることだって」
「オルファンもね」
勇はヒメの言葉に応えた。
「トマト畑、直さなくちゃならないから」
「怒るなよ。恨みは忘れろ、ネリー・ブレン!」
二人は頷き合う。
「行くか」
「うん!」
二人はフィギュアの前に来た。そしてヒメが呼び掛ける。
「オルファンさん!あたしの一番大切な人をあげるのよ!あたしの愛してる人なんだから!さみしくないでしょ!?」
「・・・・・・・・・」
勇もネリー=ブレンも沈黙して様子を見守っている。
「勇か・・・・・・」
オルファンからクインシィの声がした。
「私を傷つけに来たのか?」
「今さら傷つけるなんて・・・・・・そんなんじゃない」
「ここまで来たのに。そうじゃないって言うなら」
「帰って来ちゃいけないか!?」
勇は姉に問い掛けた。
「帰って来た!?私の傍にいる連中は、私の想いなんかわからない」
クインシィは寂しい声で延べた。
「誰も私の傍にいてくれないのに。帰って来るなんて・・・・・・」
「やり直すためだ。姉さんとオルファンを解放するためだ」
彼は姉に対してそう語る。
「出来るなんて思っちゃいないけど。姉さんを受け入れてくれるなら」
今度はオルファンに対して。
「地球をこのままにしておいてくれないかい?」
「・・・・・・・・・」
クインシィはその言葉を聞いて沈黙した。彼女も考えていた。
「オルファン!ビー=プレートの代わりに俺達を差し出す!だから!」
勇はさらにオルファンに対して言った。
「地球はこのままにしてやってくれないか!?」
その言葉に応えたのか。オルファンを光が包んだ。
しかしそこにホラー軍団が襲い掛かる。四天王がそれぞれの戦艦を向けて来たのだ。
「そうはさせん!」2
「このままでは我等の計画が!」
ロンド=ベル、とりわけ勇達の妨害をしようとする。だがそこに一機のマシンが姿を現わした。
「そうはさせん!」
「何っ!?」
「貴様は!」
「ククルか」
そのマシンはマガルガであった。ゼンガーはその姿を認めて言った。
「そうだ、私だ」
ククルはそれに応える。
「ゼンガー=ゾンボルト、あれから私も考えた」
「・・・・・・・・・」
「その結果わかった。私は人間だ、そして」
「そして!?」
「貴様が私に見せたもの、見極めさせてもらいたい。その為にロンド=ベルに助太刀する!」
彼女がホラー軍団の前に立ちはだかる。これで彼等は足止めされた。
「くっ、一機でだと!」
「小癪な!」
「おっと、彼女だけではありませんよ」
そしてまた声がした。
「その声・・・・・・シュウか!」
「久し振りですね、マサキ」
ネオ=グランゾンも姿を現わした。シュウもまた姿を現わしたのだ。
「お元気そうで何よりです」
「ヘッ、おめえもオルファンが気になったってか?」
「そうです。ここで人間の可能性の一つを見ておきたくて」
「人間の可能性か」
クワトロはその言葉を聞いて呟く。
「確かにな。今私が見ているのは」
「それを邪魔することは許しません。後ろは私に任せて下さい」
「いいのかよ、それで」
「ええ」
マサキに応える。
「私も。人間というものを見てみたいのには変わりませんから」
「変わったな、おい」
「そうでしょうか」
「いえ、シュウ様は本来ああされた方なのでしてよ」
「モニカ、何て言ったの?」
「本来ああした方だと仰ったのだ」
リューネにヤンロンが説明する。
「そうなの」
「とにかくおめえはあのヴォルクルスってのと切れて本来の自分に戻ったんだな」
「はい」
「だったら頼むぜ。こっちは今大変だからな」
「わかりました。では行きますよ、チカ」
「最初はどうするんですか?」
「まずはこれです。ビッグバン=ウェーブ発射!」
ネオ=グランゾンを中心に重力波が放たれる。それで群がるホラー軍団のマシンを薙ぎ倒していく。
「うおおおっ!」
「地球にこれ程までのマシンがあるとは!」
「驚くことはありませにょ。この銀河でネオ=グランゾンに適うマシンはありません」
シュウは自信に満ちた声で語る。
「それを今貴方達にも見せて差し上げましょう。ネオ=グランゾンの力を」
ホラー軍団はシュウとククルにより足止めされた。その間にも勇達はオルファンに語り掛ける。
その中にはジョナサンもいる。彼もまたその中に加わっていたのだ。
「見ろよママ」
彼は母に語り掛けていた。だがその目は開かれていない。
「オルファンの輝きは温かい。俺達の力を・・・・・・俺達のやったことを認めてくれている温かさだぜ」
「ジョン・・・・・・」
アノーアはその言葉に目を開けた。
「生きていたのか?」
「ええ」
だがもう助かりそうにもない。それが最後の力であるのは明らかだった。
「私の坊や・・・・・・」
「ああ、俺はあんたの息子だ」
今彼はそれを素直に受け入れた。
「そしてあんたは・・・・・・俺の母親だ」
「ええ」
「これからも、ずっとな。俺達は親子なんだ」
ようやく彼もわかった。今ジョナサンの凍っていた心はオルファンの温かい光によって溶かされていた。彼もまたオルファンに救われていた。
「これが人の生命の・・・・・・人の心の光なのか」
クワトロもまたそれを感じていた。
「恐怖は感じない。むしろ温かくて・・・・・・安心を感じるとは」
「これが人の温かさなんだ」
アムロがそれに応える。
「そうかこの力か」
「ああ」
「この温かさが全てを救うのだな」
「そうだ」
「・・・・・・どうやら私は諦めなくていいようだな」
彼はそれを悟った。
「人間に対して」
「その通りだ。そして俺も」
「この光・・・・・・ララァも見ているのかな」
「多分な。俺達と同じように」
「ララァ・・・・・・」
光が全てを包み込んだ。今オルファンの温かい光が戦士達を包んだ。
「うっ・・・・・・」
勇は暗闇の中で気付いた。
「ここは」
「勇、無事だったみたいね」
ヒメが側にいた。だが他の皆の姿は見えない。
「ヒメこそ怪我はないのか?」
「私は平気よ」
「そうか、よかった」
「それよりロンド=ベルの皆が心配だわ」
「皆が」
「うん。だって随分エナジーをオルファンに分けてあげたみたいだから」
「そうか。ところでヒメ」
「何?」
「あれだけど」
勇は遠くに見える巨大なものを指差した。
「あれ、地球だよな」
「うん、きっとオルファンが私達に地球の美しさをもう一度教えてくれようとしているんだと思う」
「じゃあ俺達が感じているのは幻覚なのか!?」
「これが!?」
だがヒメにはとてもそうは感じられなかった。
「こんな風に感じ合えるのに?」
「ヒメ・・・・・・」
「それに勇」
「何だい?」
勇はヒメの言葉に応えた。
「直子おばあちゃんや依衣子さん達を助けないままでいいと言うの?」
「それは・・・・・・」
「助けたいよね、やっぱり」
「ああ。けれどな」
それでも彼は言った。
「ブレン達だって立ち上がれもしない。これじゃあ」
「諦めるの?」
「えっ!?」
ヒメのその言葉に顔を上げる。
「私は最後まで生きるわ」
「ヒメ・・・・・・」
「勇と、そして皆と一緒に」
「そうだな」
勇はその言葉に頷いた。
「そして、この実感は俺達がまだ生きているってことなんだろうな」
「そうよ」
ヒメもそれに応えた。
「まだ、私達にもブレンにもやることがあるんだから」
「そうだな、絶対に」
「だから。行こう」
「うん。けれど何処へ」
「それは・・・・・・あれ!?」
「どうしたヒメ?」
ヒメはここである存在に気付いた。
「勇には見えないの!?」
「何がだい?」
「ネリー=キムさんを」
「ネリーさんだって!?そんな」
「いえ、私はここにいるわ」
「そんな・・・・・・」
ネリーは二人の前に姿を現わした。優しく微笑んでいた。
「ごきげんようヒメちゃん」
「ごきげんようネリーさん」
ヒメもそれに挨拶を返す。
「よろしく」
「よろしくって!?」
「ブレン達をよろしくね、勇さん」
「あ、ああ」
勇はその言葉に頷く。
「そしてヒメちゃんも。あの子達をお願いね」
「わかったわ。任せて」
ヒメもその言葉に頷く。
「それじゃあ」
ネリーは最後にまた微笑んだ。そして姿を消した。
「勇・・・・・・」
「ああ」
残ったヒメと勇は顔を向け合った。そして言う。
「オルファンさんもネリーさんも」
「皆、温かいんだ」
彼等は本来の世界へ帰った。そこではその温かい光が全てを実らせていた。
「オルファンは太平洋上へ落下していきます」
カントが説明する。
「そうか」
「落下の際の影響はなし。中に残っている人達にも危害はないということです」
「まさに奇跡だな」
「はい」
彼は大文字にそう答える。
「そして彼等も」
後ろを振り返る。そこにはジョナサンとシラーがいた。
「無事です」
「何だかんだで色々あったがな」
ジョナサンがそれに応える。
「俺達は・・・・・・オルファンに救われたんだ」
「ああ」
シラーがそれに頷く。
「あの温かい光に」
「ママにな」
「アノーア艦長は・・・・・・残念だったな」
「いや、いいさ」
彼は大文字の言葉を手で制した。
「ママは、俺の為に全てを賭けてくれた。そして逝ったんだ」
「そうか」
「俺は馬鹿だった。今までそれに気付こうとしなかったんだ」
「ジョナサン・・・・・・」
「それを見たのは最後だったんだ。そして」
「それでこれからどうするの?」
カナンが彼に尋ねる。
「地球に帰るの?やっぱり」
「いや、色々考えたけどそれはしない」
「どういうことかしら」
「俺も・・・・・・ここにいていいか?」
「ここに!?」
「まさかロンド=ベルに!?」
「ああ。ここで人間の温かい光ってのをまた見たくなったんだ」
彼はうっすらと笑ってこう述べた。
「それでな。ここにいさせてもらおうかなって考えてるんだ」
「そうなの」
「私もな」
シラーも言った。
「貴女も!?」
「ああ。私も私なりに考えたんだ」
俯いて言う。
「何が正しいのか。何をすればいいのか」
「それでロンド=ベルに」
「そうだ。それでいいか?」
「俺達も。ここにいていいか?」
「君達は。それでいいのかね?」
「えっ!?」
「それは一体」
シラーもジョナサンも大文字の言葉にかえって戸惑いを覚えた。
「君達はもうオルファンとは関係がないのだろう?」
「ああ」
ジョナサンがそれに応える。
「もうな。オルファンは俺達の手から完全に離れた」
「最初からそうだったんだ。けれど私達はそれをわかろうとしなかったんだ」
「では。答えは出ている」
大文字はまた二人に言った。
「後は君達次第だ」
「そうか」
「有り難う・・・・・・」
こうして二人はロンド=ベルに加わることになった。そしてもう一人も。
「勇、勇・・・・・・」
誰かが勇に呼び掛けていた。
「起きてよ、勇」
「その声は」
彼はそれに応えて目を覚ました。
勇はベッドの上にいた。そして目の前にはヒメがいる。
「ヒメ、やっぱり君か」
「起きたんだね、やっと」
「ああ、オルファンはどうなったんだ?」
「地球に降りてるよ。沢山の人達と一緒に」
「そうか」
「オルファンさんは地球にね。中にいる人達を帰しに」
「優しいんだな、オルファンは」
「そういう子だったんだ。けれど私達はそれに気付かなかった」
「ああ」
「今気付いたから。自由にしてあげようよ」
「そうだな、そうしよう」
「それでね、勇」
そこにはカナンもいた。彼女も勇に声をかける。
「お姉さんのことだけれど」
「姉さんか」
「ええ。今、ここにいるわ」
「ロンド=ベルに。じゃあ無事だったんだ」
「そうよ。オルファンの中から出て。今は寝ているわ」
「姉さん・・・・・・」
「行くの?」
「ああ」
ヒメとカナンの言葉に頷く。
「姉さんと話がしたいから」
起き上がろうとする。見れば服はそのままだった。
「行って来る。それでいいよな」
「ええ」
「行って来るといいよ。私も一緒に行くから」
「すまないな、ヒメ」
「いいよ、だって私勇の側にいるから」
ヒメは笑顔でこう言った。
「だからね。行くんだよ」
「ああ」
勇はクインシィのいる部屋に向かった。そこいはもうジョナサンとシラーがいた。
「ジョナサン」
「俺も、色々と考えたさ」
彼は俯いてそう言う。
「それで・・・・・・ここにいさせてもらうことにした」
「そうか」
「御前も・・・・・・それでいいんだよな」
「何で断る必要があるんだよ。御前は自分でそれを決めたんだろう?」
「そうだ」
ジョナサンはこくりと頷いた。
「ママのことも。もっと知りたいしな」
「だったらこっちにいればいい。宜しくな」
「ああ、長い付き合いになるだろうがな」
彼等もクインシィの部屋に入った。入るともう彼女は目が覚めていた。
「ジョナサン、それに勇」
「起きていたみたいだな」
「ああ、今な」
クインシィはそう答える。その目にも顔にも今迄の様な激しいものはなかった。
「なあ勇」
クインシィの方から勇に声をかけてきた。
「何だい、姉さん」
「オルファンの声を聞いた」
「オルファンの」
「ああ。守って欲しいって」
「守って欲しい・・・・・・」
「地球を。そして皆を。私に言ったんだ」
「姉さんに」
「御前もな。皆守って欲しいって」
「オルファンさん、依衣子さんに言ったんだよね」
「ああ」
クインシィはヒメの言葉に頷く。
「私に。そして」
「姉さんはこれからどうするんだい?」
「また・・・・・・一緒にいていいか?」
「俺と?」
「勇と。昔みたいに」
「ああ、いいよ」
勇は笑顔でそれに応えた。
「また。一緒にいようよ」
「そうだな。そして皆を」
「うん。守ろう」
クインシィ、いや依衣子もロンド=ベルに入った。長い戦いを経て姉と弟、親と子はわかりあい、そしてそこに葛藤の収束を見たのであった。
「とりあえずは万々歳だよな」
アラドが話の全てを聞いてナデシコの食堂で笑顔になっていた。向かいの席にはゼオラがいる。
「ジョナサン達もこっちに来てくれて。また賑やかになるわね」
「そうだな。これから宜しくな」
「シラー・・・・・・さん」
二人のところにシラーがやって来た。そしてゼオラの隣の席に座る。
「色々あったが。これからは味方だな」
「そうですね。宜しくお願いします」
「何か不思議ですね。ずっと前から仲間だったみたいですよ」
「そうだな、私も」
シラーは優しい笑顔になっていた。
「御前達といるとな。そう思える」
「何でですか?それは」
「私が子供が好きだからかな」
シラーはふとこう言った。
「子供が!?」
「子供と一緒にいると落ち着く。御前達と一緒にいると」
「けど、私十七ですよ」
「俺十五です」
アラドは御飯を食べていた。ゼオラがそれにしゃもじでついでいる。
「何かな、子供に似た感じがするんだ」
「へっ!?」
「特にゼオラからな」
「ちょ、ちょっと何言ってるんですか」
ゼオラはその言葉を聞き真っ赤な顔で抗議する。
「私、十七ですから。もう子供じゃないですよ」
「それはそうだけどな」
「それで何でなんですか。子供に似た感じって」
「私がそう感じるだけだ。気にするな」
「うう・・・・・・」
「まあ、別にいいんじゃないの?シラーさんがそう思うんなら」
「こら、アラド」
「それにさ。本当にまだ子供だしさ。特に気にすることないじゃん」
「気楽ね、ホントに」
「まあそれよりさ」
「何!?」
「おかわり。欲しいんだけど」
「ああ、はいはい」
それに頷いてアラドの御椀を受け取る。そしてそこに御飯を入れて渡す。
「どうぞ。これで何杯目だったっけ」
「三杯目だったと思うけど?」
「よく食べるな」
「育ち盛りですから」
シラーに笑顔で返す。
「こんなもんですよ」
「ううむ」
「シラーさんも一杯どうですか?」
「私はいい。もう食べたからな」
「そうなんですか」
「私も結構食べるが。ここのメンバーもかなりだな」
「甲児達ですか?」
「ああ、あのもみあげが直角になった少年か」
「はい」
「彼はな、相当だったな」
「やっぱり」
「甲児さんってうちでもかなりの大飯喰らいですよ」
アラドも認める程である。だからかなりのものだ。
「そうみたいだな」
「他にもケーン達がよく食べますね」
「あのドラグナーに乗っている少年達か」
「ライトなんか味にも五月蝿いし」
「イギリス人なのにね」
「イギリス人でも美食に目覚めているのはいるのさ」
「どうだかって・・・・・・話をすれば」
「よお」
「何か俺達の話してたっぽいな」
そこにドラグナーチームの面々がやって来た。三人共満足そうな顔をしている。どうやら食事を済ませた後らしい。
「で、何の話なんだい?」
「俺達がどれだけもてるのか説明してくれていたのか?」
「これがそのケーン達です」
ゼオラはそうシラーに説明する。
「どうですか?」
「身体は大きいが」
「はい」
「頭の中は子供みたいだな。いや、何も入っていないと言うべきか」
「ありゃりゃきついお言葉」
「何か俺達ってそんなことばかり言われてるよな」
「だって本当に軽いんだもの、調子が」
「黙ってりゃ違うと思いますよ」
「そこはゼオラと同じだな」
「そうだな。黙ってりゃ可愛い」
「なっ」
ゼオラはそれを聞いてまた顔を真っ赤にさせる。
「ちょっと!あんた達!」
「だからそうしてすぐにムキになるところがな」
「ああ。怪しいんだよ」
「何よ、皆して」
いい加減頬を膨らませてきた。
「あたしが子供とか黙っていればとか。何なのよ」
「そういう態度が悪いんじゃないのか?」
シラーはそう突っ込みを入れる。
「少なくともあのプレシアという娘はしっかりしているぞ」
「プレシアちゃんは保護者だからねえ」
「そうそう、あの方向音痴のな」
「まっ、俺達も軍曹に保護受けてるわけだけど」
「ここにはいないのが幸いっと」
「そういえば何か月が騒がしくなってるそうですよ」
「月が!?」
「ええ。ギガノスが移動要塞を完成させたとかで」
アラドが三人に言う。御飯を食べながら。
「今度はギガノスですかね」
「そうかもな。そういえばあの旦那どうしてるかな」
「生きてると思うけれどな」
「何か生きていたら生きていたで。思いきり目立ちそうだな」
「まあ俺達は主役だから大丈夫だけれどな」
「いや、わからねえぞ」
「向こうの方が顔もよくて腕も立つ。やばいだろ」
「おいおい、エースが三人でもかよ」
「向こうはギガノスの誇るエースだったんだぜ、やばいだろ」
「それにケーンの義理のお兄さんになるかも知れないしな」
「うう、あんなしっかりしたのがお兄さんになると思うと」
「うかうかできないな」
「ああ」
「それでね」
今度はゼオラが声をかけてきた。
「今度はギガノスとの戦いになるかもだって」
「ギガノスとか」
「ええ、多分これが最後よ」
「連中ももう後がないからな。それじゃあいきますか」
「やるかい?ケーン」
「ああ、鬼が出ようが蛇が出ようかな」
彼はいつもの軽い調子で言う。
「やってやるぜ!」
「ってそりゃ忍さんの台詞だろ」
「おっといけねえ」
「何か面白い連中だな」
「気に入ってもらえました?」
「ああ。何か上手くやれそうな気がするな」
シラーはこれまで殆ど見せたことのない優しい笑みを浮かべた。この時に彼女もロンド=ベルの戦士となっていたのであった。
第九十七話完

2006・6・5  
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