久遠の神話
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第二十八話 使い捨ての駒その三
その見苦しい光の目でだ。彼は言うのである。
「僕のやり方を。否定して違うことを言えば」
「言えば?何なんだよ」
「罵って。君もだね」
「罵られる、な。そう捉えるから駄目なんだよ」
「まだ言うんだね」
「言ってやるさ。言って聞かない奴だけれどな」
だがそれでもだと言いた。そして。
再び構えを取り。それからだった。
中田は右の剣を下から上に振るった。するとその一振りにより。
炎が起こり血を走る。それが壬本を襲う。だが。
壬本はその異様な構えで持っている闇の剣を振るう。そしてだ。
その剣の振りで中田の地を走る紅蓮の炎を消そうとした。だが。
闇は彼の前で霧の様に起こるだけだった。それでだ。彼は驚愕の顔を浮かべて声をあげた。
「えっ、そんな」
「だから御前には無理なんだよ」
炎を放ってすぐに構えを取りなおしてからだ。また言う中田だった。
「力を使うのはな」
「そんな、これじゃあ」
「御前には無理なんだよ」
またこう告げる中田だった。
「その炎受けろ。そして焼かれろ」
「うう・・・・・・」
「水をぶっかけるところだが俺は水は使えないからな」
彼の力は水ではない。だからだ。
「火で焼いてやるよ。御前の馬鹿さ加減をな」
「くっ・・・・・・」
壬本は必死に剣を振るう。しかしだ。
それでは炎は消せなかった。黒い霧が起こるだけだ。そうして。
その足に炎を受けて焼かれる。炎は忽ちのうちに彼の全身を焼いた。
その壬本を見てだ。中田は言った。
「御仕置きって言うのか?これが力なんだよ」
己の炎で焼かれる壬本への言葉だ。彼は炎に焼かれながらもがき苦しんでいる。苦しんでいるが死にはしていなかった。中田もそれはわかっていた。
そのうえでだ。こう彼に言ったのである。
「剣士の力なんだよ」
「君の力・・・・・・」
「そうなんだよ」
怒った目でだ。告げる中田だった。
「わかったよな。わかったらな」
「戦いから降りろと」
「御前は剣士じゃないんだ」
だからこそだというのだ。
「降りろ。それで何処かで真面目に生きろ」
「嫌だ、僕は」
「さもないと本当に死ぬぞ」
これまで以上に強い警告だった。
「それでもいいのかよ」
「僕は死なない」
本当にだ。壬本は理解しない。
「絶対に。だから君も」
「その火は死なない様にしたんだよ」
あえてそうしたというのだ。
「何度も言うが容赦はしなくてもな」
「そうしなくても」
「殺すことはできるだけしたくないんだよ」
これが中田の考えだった。
「人を倒すとか殺すってのはな。重いんだよ」
「重い?他の人を殺すことが」
「そいつの人生とかな。考えとか全部殺すんだよ」
人を殺す、それは即ちそういうことだというのだ。
「だからな。そうしたことはな」
「しない。君は」
「するさ。剣士だからな」
それはするというのだ。殺すことはだ。
「けれどな。それでもな」
「何故僕を殺さないんだ。それで」
炎は消えた。壬本は焼かれることから解放されあちこちから黒い煙を出し焦げながらも何とか立っている。そのうえで中田に対して問うたのである。
「こんな酷いことをするんだ」
「だからな。人はできるだけ殺したくないんだよ」
「それは何故なんだい?」
「今言っただろ。人の話を聞けよな」
壬本の人の話の聞かなさに呆れながらも言うのだった。
「人を殺すってのは重いんだよ」
「自分を馬鹿にする人間を殺しても」
壬本は自分のことから中田に返した。
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