未来を見据える写輪の瞳
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九話
衝撃的なオビトとの再会。カカシはしばしの間絶望に打ちひしがれていたが、後ろで横たわっているサスケをいつまでも放っておくわけにもいかず、サスケを肩に担ぎあげると医療班の元へ向かった。しかし、その足取りはさながら幽鬼のようであり医療班にベットで休めと言われる様であった。
医療班の言葉を袖にカカシは三次試験の会場へと戻ったが、試合の内容はまったく頭に入っておらず、後にガイを通じてナルトは勝利しサクラは引き分けたことを知るのだった。
こうして、忍たちは一ヶ月間という長くて短い準備期間を迎えた。
「おいカカシ。渡されたメニューは全部終わったぞ」
「………………」
「おい! 聞いてんのか!」
「っ! ああ、終わったか。それじゃあ、少し休憩しよう」
「………………」
ここ最近カカシの様子がおかしい。中忍試験本選へ向けてカカシにマンツーマンで教えを受けているサスケは常々そう思っていた。元からいまいち捕え所のない男だったここ最近は目に見えておかしい。
サスケに修行をつけるだけでなく、まるで自分の肉体をいじめる様な厳しい修行を自身にかしていることもその一つだ。
「おい、カカシ……何かあったのか?」
こんな様子で自分の修行に不備でも出たらたまらない、とサスケは自分に説得をしてカカシに声をかける。あいにくと、今この場にはサスケとカカシしかいないため自分がやるしかないのだ。
「いや、何もな……そうだな、一つ昔話でもしようか」
「はぁ?」
一体どうしたら突然昔話が始まるというのか。文句の一つでも言ってやろうかと口を開きかけたサスケだったが、カカシの顔から懐かしむようでいて、とても深い悲しみを感じ取り黙って耳を傾けた。
「あれはもう十年以上前のことだ。当時上忍だった俺は、小隊の隊長を務め任務を遂行していた」
「こっちで間違いないな?」
「おう!」
カカシとカカシの使役する忍犬を先頭に、四人一組が木々の上を飛ぶ。今、彼等はとある任務を遂行している。その任務とはとある大名が秘密裏に行っている大量の食糧の輸送を阻止し、可能ならば裏を引くものとの繋がりの証拠を見つけることだった。
現時点では警備は一般の兵士のみ。何事もなければそうかからずに終えることができるだろう。
「後二時間もすれば輸送隊に追いつく。全員、気を抜くな!」
「「「はい!」」」
返事を返すのはカカシに追従する三人の忍。中忍でも将来有望とされる男の忍が二人と、数が少ないが故に貴重な医療忍者。今回の四人一組の紅一点。カカシの同期でもあるリンが、今回の小隊のメンバーだ。
「カカシ。今回の任務……どう思う?」
後ろで追従していたのから一歩抜け出し、リンはカカシに並ぶ。その口から出たのは今回の任務についてだ。今回の任務、木の葉は大名の裏で糸を引いているのは忍だと予想している。それが何処の里かは断定できていないが、忍の関与は確定的とカカシはこの任務を命ぜられる際に伝えられている。
「さて、ね。今回の輸送は食料だけとはいえ、護衛は一般兵だけだ。忍が関わってるともなれば、何らかの罠がかけられてる可能性もある。充分な注意が必要だ」
リンの問いかけにカカシは淡々と答えを返した。任務中とはいえ何だか何時もより素気ない態度にリンは首を傾げるが、特に何も言わず走り続けた。
当人であるカカシはと言うと、リンの視線が自分の顔から離れたのをいいことに盛大に眉をしかめていた。
(何だ、この感じ……?)
先ほど忍犬であるパックンに方角が合っているかを確認したあたりから、何だか気分がすぐれない。体調を崩しただとかそういった風ではなく、もっと感覚的なものだ。
(何も起こらなければいいんだがな)
カカシの不安を余所に、輸送部隊との接触は刻一刻と迫っていた。
「見えたぞ」
木々の中に身を潜ませ標的である輸送部隊を視界にとらえる。今の所、忍の気配は感じない。
「なるべく迅速に事を済ます。上空から火遁で奇襲し、一気に肩をつける」
「「「了解」」」
「それでは、散!」
皆が一斉にその場を離れ、輸送部隊の進路へと先回りする。そして、四人は綺麗な正方形を描くようにして部隊を展開。正方形の丁度中心へ輸送部隊が辿り着いた時、
(かかれ!)
首にとりつけられた無線越しにカカシの号令がかかる。初手を打つべくまずはカカシと中忍の一人が印を組みながら木を飛びおりる。
――――火遁、豪火球の術!
両者の口から吐き出された巨大な火の玉は護衛の兵士数人と荷物である食料を巻き込んで激しく燃え上がる! 突然の奇襲に輸送を担っていた者達は慌てふためき、避難誘導を行おうとする兵士の声が耳に入らない。
「やれ!」
「了解!」
次いで木から飛び降りた中忍が落下しながら数多の手裏剣、クナイを投じていく。それらは寸分たがわず敵の眉間やのど元に突き刺さり、その命を奪っていく。
「お前はそのまま食料を焼き払うんだ」
「了解」
「私も手伝うわ」
まだ燃えずに残っている食料の処理をリンと中忍の一人に任せ、カカシは一人兵士たちと対峙する。敵は各々槍や剣といった武器を装備してはいるものの、カカシからすれば身のこなしは素人同然であり、また隙だらけだ。
「それじゃあ、行くぞ!」
ホルスターからクナイを抜き放ち、カカシは一人兵士たちへとかけた。
「これで最後か」
剣を持った兵士の喉元をクナイで切り裂き絶命させた後、カカシは辺りを見渡し一息ついた。周囲には一つも影は無く、いるのは仲間である三人の忍びのみ。後は未だ処理しきっていない食料を処分してしまえば、任務完了だ。
(あの嫌な感じは、杞憂だったか……)
任務に向かう最中カカシが感じていた予感。それは見事に外れ任務は順調に進んでいる。まだ気を抜くわけにはいかないが、安心の一つや二つしても罰は当たらないだろう。
「カカシ」
「リン、どうした?」
「これを……」
リンがカカシへとさし出したのは一本の巻物。カカシはそれを受け取り、罠が仕掛けられていないことを確認したうえで巻物を勢いよく広げた。
「なるほど、ね」
広げられた巻物。しかし、そこには記されているべき文字が欠片も見つからなかった。だが、カカシには分かっていた。この巻物に仕掛けられた秘密を。
「ッ!」
印を組み、巻物にチャクラを送り込む。すると、白紙だった巻物に次々と文字が浮かび上がっていく。この巻物の文字には、チャクラに反応して黒く変色する液体が使用されていたのだ。忍の世では割と頻繁に用いられるこの液体。今回は、おそらく割符のような役割で使われていたのだろう。その証拠に、巻物には雲隠れの里のシンボルマーク……その半分が映し出されていた。
「これって、つまり……」
「ああ。今回の件、裏で操っていたのは雲隠れの里だ」
この巻物があれば証拠には充分だ。一刻も早くこれを里に届けるべく、カカシも食料の処分に加わろうとしたその時だった。
「敵襲!」
大きな声が、響き渡った。その声の主が小隊メンバーのものであると理解すると同時に、カカシとリンの二人はその場から動いた。
「忍か!」
声を辿り駆けつけると、メンバーの二人が四人の忍びと交戦していた。その額に付けられたマークは勿論雲隠れの里のもの。どうやってこの事を嗅ぎつけたのか、はたまた最初から護衛に加わる予定だったのかは分からないが、戦闘はもはや避けられない。
「俺が前に出る! 援護を!」
上忍として小隊の中で最も強者であるカカシは敵の実力を最も正確に見抜いていた。向こうは前衛二人に後衛二人のオーソドックスな組み合わせ。すくなくとも前衛の二人は上忍クラスの実力者であり、カカシ以外が相手をするには荷が重い。
「くっ」
おそらく一対一ならカカシに負けは無かっただろう。しかし、今は二対一。相手は連携が巧みで、カカシが圧倒的に不利だ。そうとなれば、仲間の援軍を期待したいところなのだが……
――――雷遁・地走り!
――――火遁・豪火球の術!
「くっ!」
「前に出過ぎると術の餌食になるぞ!」
敵の後衛二人組は術の規模こそ中忍レベルだが、その使いどころが非常に上手い。相手の出先を塞ぐようにして術を放つ。そうすることで、こちらの前衛の一人を上手く殺している。こちらのもう一人も後衛タイプなのだが、下手に迎撃すればその衝撃に前衛を巻き込みかねない。
そして最後の一人であるリンは医療忍者ということもあり戦闘能力は低く、クナイや手裏剣で援護しようにも敵との距離は開き過ぎている。これでは、援護した所で大した効果は望めない。
(俺が頑張るしかない、か)
向こうがこう着状態なのを見てとったカカシはこの状況で己で打破するしかないと悟る。そして、一瞬の隙をついて敵と距離をとり、一気に片方の目を覆い隠していた額当てを押し上げた。
そしてあらわになる紅き車輪の瞳。消耗は激しいが、ここはけちってなどいられない。
「あれは……」
「まさか!?」
幸いにも、相手は写輪眼を見て動揺している。この機会を逃さず、一気に
「いくぞ!」
勢い良く敵へと駆けだそうとした。……が、
「ぐ、あああああああああ!!」
突如響き渡る絶叫! それはカカシの仲間のもので……。カカシは動き出そうとしていた足をとめ、顔を横へと向ける。
そこには、火遁の豪火にその身を焼かれる部下の姿があった。
「まだ息はある! 早く!」
この場において誰よりも死に詳しいだろうリンがいち早く生存に気付き声を出す。だが、悲しいかな。忍は無茶な攻めを行ったが故に焼かれた。そして無茶な攻めを行ったが故に、仲間より敵の傍にいたのだ。
「回収しろ!」
カカシと矛を交えていた恐らく敵方の隊長と思われる男の指示を聞き、雲隠れの忍びはすぐさまそれを行う。
「撤収だ!」
そして、カカシ達が奪還のために攻撃を繰り出す暇もなくその場から姿を消した。
――――コイツを返して欲しけりゃかかってこい。任務は失敗だが、写輪眼を手に入れればおつりがくるぜ
どこからともなく聞こえる声。カカシ達は仲間を人質にとられ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
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