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久遠の神話

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第十六話 上城の迷いその七


 樹里が来てだ。そして彼に言ってきたのだ。
「まさか」
「うん、屋上にね」
「怪物が出たのね」
「それに剣士の人も来ているみたいなんだ」
「それじゃあ今度こそ」
「わからない。けれどね」
「それでも行くのね」
 心配する顔になってだ。樹里は上城に対して言った。
「剣士の人と向かい合うことになっても」
「そうするよ。けれどね」
「剣士の人とは」
「わからない」
 その問いには答えられなかった。とてもだ。
 だがそれでもだった。戦い自体はだった。
 逃げるつもりはなかった。毅然として上を向いてなのだった。
「行くよ」
「私も行くわ」
 樹里はすぐにだ。こう彼に告げた。
「一緒に。そうしてね」
「見守ってくれるんだ」
「私にできることはそれ位しかないけれど」
 目を伏せての言葉だ。だがそれでもだった。彼女は言うのだった。
「一緒にいさせて」
「有り難う。それじゃあ」
 こうしてだった。二人になってだ。彼等は屋上に向かった。そして屋上に出るとだ。
 巨大な猪、普通の倍はあった。その猪を見て上城は言った。
「普通の猪じゃないのはわかるけれど」
「具体的にはどういった猪なのかしら」
「ヘラクレスが倒した猪です」
 声が二人に言って来た。二人の前にいて狂暴な目を見せているその猪がいる中でだ。
「ですからこれもまたです」
「怪物なんですね」
「そうです。父はテューポーン」
 またこの名前が出る。そしてこの名前も。
「母はエキドナです」
「またその両親なんですね」
「そうです。多くの怪物の父と母なのです」
 そのテューポーンとエキドナこそはだというのだ。
「その二人からです。この猪もまたです」
「生まれたんですね」
「ですから。普通の猪とは思われないで下さい」
「上城君、気をつけて」
 ここでも心配する顔になってだ。樹里は彼に告げた。
「猪は只でさえ猛獣だから」
「雑食でもだね」
「そう。その体当たりで本当に人が死ぬから」
「聞いているよ。牙だけじゃなくて体当たりのダメージでもね」
「その普通の猪の倍はあるから」
 大きさがそれだけあればだ。余計にだというのだ。
「本当に気をつけてね。死なないでね」
「死にはしないよ」
 その真っ赤に燃える目の猪を見ながらだ。上城も応える。
「そう、僕はこの戦いを終わらせたいから」
「だからなのね」
「うん、絶対にね」
 また言う彼だった。
「何があってもね。僕は死なないから」
「戦いを終わらせるのですか」
「はい、終わらせます」
 不意に言ってきた声にもだ。上城は毅然として答える。
「例え何があっても」
「それは無理です」
 声は完全に否定する色でだ。上城にまた言ってきた。
「この戦いは。いえこれからの戦いも」
「終わらないっていうんですか」
「はい」
 その通りだというのだ。そしてだった。
 声はだ。上城にこうも言ったのである。
「若し終わればその時は」
「その時は?」
「あの人が。望みが」
 声の色が変わった。急に悲しい色になった。
 そしてその色に染まりつつだ。上城に言うのである。
「消えてしまうのですから」
「あの人?」
 上城はその言葉に心を向けた。 
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