久遠の神話
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第十六話 上城の迷いその五
「広瀬さんみたいに絶対に戦おうって人もいるわよね」
「そうだね。そうした人もいるから」
「その人達に対してはどうするの?」
「僕は逃げたくないから」
それはどうしてもだというのだ。
「それをどうするかだけれど」
「逃げたくないわよね」
「背中を向けたくないし」
それにだった。上城はさらに言う。
「背中を向けても。戦うって人はいるよね」
「そうした人も絶対にいるわね」
「広瀬さんもいざとなればそのつもりみたいだし」
「ええ、じゃあ」
それならばだというのだ。樹里は彼に話す。
「逃げずに戦わない様にするのは」
「できないかな、やっぱり」
「前に言ったけれど」
「相手を倒さないことだね」
「戦いたくないのは人の命を奪いたくないからよね」
「うん」
その通りだとだ。上城はこくりと頷いて答えた。
そしてだ。こう言うのだった。
「命を奪うのはね」
「どうしてもよね」
「うん、だから」
「どうしたものかしら」
難しい顔になってだ。樹里も考える顔になり話す。
そしてだ。またこう話すのだった。
「私の考えはやっぱりね」
「倒さずに戦うことね」
「うん、そうするしかないと思うから」
「逃げられないし。それでも戦いたくはないけれど」
「どっちも選ぶことは無理じゃないかしら」
「そうだとしたら」
上城は決断が迫られていることを実感した。そうしてだ。
深刻な顔になりだ。樹里に話したのだった。
「僕もやっぱり」
「戦わないといけないってこと?」
「そうなのかな。けれど」
「この戦いは、なのね」
「終わらせたいんだ」
この気持ちは変わらなかった。今もだ。
「どうしてもね。けれどそれでも」
「何かを守る為に戦う人もいるけれど」
「僕は。そうしたものもないし」
普通の高校生としてだ。そうしたこともなかった。
「お父さんもお母さんもいるし」
「そうよね。上城君の家族って」
「普通の家族だよ」
「家族関係も悪くないし借金もないし」
「うん、全然ね」
真面目な両親だ。だからそうした話には無縁だった。
「それに欲しいものもね」
「ないの?」
「特に。そんな喉から手が出る位にっていうのは」
無欲だった。それでそうしたものもだった。
「欲いものはあってもそれでもね」
「お金を出せば買えるものばかりよね」
「うん。だから戦ってまでしたいっていうと」
考えていく。そしてだった。
上城はだ。こう樹里に話したのだった。
「その戦い自体を止めたいとは思うけれどね」
「その他にはよね」
「うん、ないよ」
「戦いを止める為に戦う」
「それって矛盾してない?」
思い詰めた顔で、だった。上城は話すのだった。
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