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久遠の神話

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第十五話 選択その十一


 そしてその中でだ。彼はこうも言うのだった。
「明日にまた」
「じゃあ今日はもうこれで」
「うん、休むよ」
 こう話してだ。二人は別れてからだ。休息に入った。しかし家に帰ってからもだ。
 上城は戦いのことを考えていた。具体的には戦うべきかどうか。そのことを考えだ。
 深く悩んでいた。それは食事の時も同じでだ。彼の両親がこう声をかけてきたのだった。
「おい、どうしたんだ?」
「何かあったの?」
「一体急に」
「静かになったけれど」
「あっ、別に」
 戦いのことなぞ言えなかった。それでだ。
 彼はそれを隠してだ。こう言うのだった。
「何でもないよ」
「だったらいいがな」
 父がだ。我が子の言葉に応えて言う。
「それでな」
「まあ大樹みたいな年頃はね」
 母は我が子の年齢から話した。
「色々と悩んだりするけれどね」
「そうだな。思春期というやつだからな」
 父は今度は妻の言葉に応えた。
「そうしたことがあるものだな」
「そうなのよね。ちょっとしたことでも大事なことでも」
「ああ。だからな」
 妻と話してからだ。彼は。
 あらためて我が子にだ。こう言った。
「大事なことなら何時でもお父さんとお母さんに言ってくれ」
「そうしてね」
 我が子を気遣っての言葉だった。
「勉強でも部活でも友達のことでもな」
「何でもね」
「うん、わかったよ」
 そうしたことでは悩んでいない彼だった。幸いにしてその三つでは恵まれている。
 しかし戦いのことだった。それが問題だった。
「それじゃあ」
「誰かに話せる状況はいいことだ」
「お母さん達にもそうした人がいるの?」
「うん、いるよ」
 樹里や聡美の存在がだ。今は有り難かった。
 話せる相手、とりわけ樹里のことを考えてだ。彼は内心落ち着いた。
 そのうえでだ。こう親に話すのだった。
「そうだね。誰かに話すとね」
「ただな。何でも話せる相手と話せない相手がいるぞ」
 上城によく似た、もっと言えば上城が父に似ている。その彼が我が子に言う。
「同じ用件でもな」
「そういうものなんだ」
「そうだ。だからお父さんやお母さんに話せないこともあるだろう」
「けれどそれをお話できる相手はね」
 長い髪を後ろで束ねた小柄なだ。少し皺があるがそれでもまだまだ奇麗な母だ。その母もまた我が子に対して言うのであった。
「いたらそれは凄く幸せよ」
「僕は幸せなんだね」
 彼がこう言うとだ。親達はこう我が子に言った。
「自分を幸せだと思えれば幸せなんだ」
「人生はそういうものよ」
 これが両親の言葉だった。
「だから今大樹は幸せなんだろうな」
「考えることはあってもね」
「そうなんだね。僕は幸せなんだね」
 戦いの中にあってもだ。そうだと認識するのだった。
 そしてその認識の中でだ。今はだった。
 御飯を一杯食べ終えてだ。こう言うのだった。
「もう一杯いいかな」
「ええ、いいわよ」
 母が微笑んで我が子に応えた。
「何杯でもね」
「食べられる時は食べるんだ」
 父は笑顔で我が子に話す。
「そして飲める時もな」
「あなた。お酒はいいけれど」
 母は妻として夫に言う。 
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