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久遠の神話

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第十五話 選択その九


「それも必要さ。生きる為に、それに」
「それに?」
「それが理由さ。俺の戦うな」
 一見すると軽い、だがよく見るとそこには深いもののある笑みだった。
 その笑みを上城に向けてだ。彼は言ったのだった。
「まあ色々あるんだよ」
「色々ですか」
「別に世界征服とか世界を破滅させたいとかそういうのじゃないさ」
 そうした剣呑な望みではないとも話す。
「まあ。俺自身の話さ」
「中田さん自身のですか」
「そうさ。話すべき時に話すかもな」
「それは今ではないんですね」
「また今度だよ。それじゃあな」
「はい、ではまた」
 こうしてだ。二人も別れた。そうしてだ。
 上城のところに樹里が来てだ。こう言うのだった。
「帰りましょう」
「そうだね。それじゃあね」
「ええ。もう遅いし」
「遅くなったね」
 日常に戻ってきていた。そのうえでのやり取りだった。
「本当にね」
「あの、それでだけれど」
 気遣う顔になってだ。樹里は彼に尋ねてきた。
「最後の最後まで本当に」
「うん、僕は戦わないよ」
 剣士とはだ。そうするというのだ。
「絶対にね」
「そうするのね」
「決めたから。それにね」
「それに?」
「それが一番じゃないかって思うんだ」
「戦いを終わらせる為には」
「何か。戦い抜いて最後の一人までって」 
 それは何なのか。上城はそのことも話した。
「あれじゃない。修羅みたいじゃない」
「修羅っていうと」
 その言葉を聞いてだった。樹里は脳裏にあるものを思い出した。それは何かというと。
「あれよね。顔が三つあって腕が六本の」
「阿修羅だね」
「ずっと戦うっていうあれよね」
「そう、何かそれみたいだから」
 仏教で言う修羅界だった。上城が今頭の中に浮かべているのはそれだったのだ。
「違うんじゃないかって思って」
「戦って戦ってそれなら」
「最後の一人になっても。同じじゃないかな」
 こう言うのだった。
「だからなんだ」
「それでなの」
「うん、今そんな風に考えてるよ」
 だから余計にだ。彼は戦わないというのだ。
「それでいいかな」
「さっきあの怪物も言ってたけれどね」
 樹里はスフィンクスの話から彼に話す。
「それってやっぱりね」
「難しいよね」
「ええ。かなりね」
 彼女もだ。こう言うのだった。
「やっぱりそう思うわ」
「そうだよね。戦わないっていうだけで」
 選択肢が限られる、だからだった。
「逃げるか避けるしかないけれど」
「けれど上城君は」
「うん、逃げたくないんだ」
 性格的にだ。それはどうしてもだった。 
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