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久遠の神話

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第零話 炎の覚醒その十七


 しかしだ。これではとだ。そのこともわかって医者に答えた。
「ですが。手術費は」
「何となればいいのですが」
 医者もだ。心から願う口調だった。
「ですがそれは」
「そうですよね。とても」
「奇跡を願いましょう」
 最早だ。それしかないというのだ。
「そうしましょう」
「そうですか」
 中田は項垂れるままに話を聞くだけだった。そのうえでだ。
 絶望しきって病院を後にする。そのままバイクに乗りだ。彼はあてもなく走った。
 目的地も決めずだ。ただただ走った。彼は何かあるとそうして気分転換を図るのだ。しかし今はそうしてもだ。とてもだった。
 心が晴れない。全くだ。それであてもなく走り続ける。
 その中でだ。彼は呟くのだった。
「どうすればいいんだよ」
 家族のことをだ。呟くのだった。
「本当によ。三億なんてよ」
 そのことをまた言うのだった。
「稼ぐか?どうして稼ぐんだ?」
 何もかもがわからなくなっていた。考えが堂々巡りになっていく。
 その堂々巡りの中バイクを進ませだ。夕刻から夜、そして真夜中になった。
 真夜中にバイクを進ませ続ける。周りの車は殆んど見えない。灯りだけが闇の中に見える。その灯り達も今は目に入りはしなかった。
 その闇の中を絶望の中に進んでいく。その彼の耳にだ。
 不意にだ。何かが聞こえてきた。
『欲しいですか?』
「何だ?」
『欲しいですか?』
 耳ではなく。頭の、いや心にだ。直接彼に言ってきていた。
『それが』
「金がかよ」
 中田はその心に直接尋ねてくる声に問い返した。
「金が欲しいかっていうんだな」
『どうなのですか?』
 また問うてきた声だった。
『貴方は』
「欲しいさ」
 まさにそうだとだ。彼は即答した。
「三億な」
『そうですか。欲しいのですね』
「けれどそんな金何処にあるんだ?」
 そのことをだ。彼は声に言い返した。
「ないだろ。どうしようもないだろ」
『あります』
 そうだとだ。声は言ってきた。ここでだ。中田はその声の質に気付いたのだった。
「あんた、女か」
『そうなります』
「そうか、女なんだな」
 そのことにだ。今ようやく気付いたのだ。絶望しきっている心がだ。気付くことを遅らせてしまっていた。
「それなら直接話したいんだがな」
『残念ですがそれはできません』
「訳ありかい?そもそも何で姿を見せないんだい?しかも」
『しかも?』
「バイクで走ってる俺にこうして声をかけられる」
 その有り得ないことからだ。中田は声に対して言った。
「あんた、何者だよ。若しかして」
 何かというのだ。その声の主は。
「人間じゃねえだろ」
「それは」
「何だ?地縛霊とかそんなのか?」
 半分冗談混じりにだ。声に言った。
「生憎そういうのはお断りだぜ」
「違います」
 しかしだ。声はそうした存在ではないというのだ。
「私はそうした存在ではありません」
「悪霊じゃないのかよ」
「はい、そうではありません」
 こう言うのだ。 
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