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FAIRYTAIL-ダークブリングの力を操りし者-

作者:joker@k
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番外編 ヒロイン達の想い【前編】




side エルザ・スカーレット



 初めてルシアと出会ったのは楽園の塔と呼ばれる地獄のような監獄の中だった。私達から見れば悪魔のような黒魔導士達が金髪の悪魔と呼び、恐れられている人が存在してると当時の奴隷達の中でも有名だった。私はそんな怪物級の人の食事係に任命されたときは死を覚悟した程恐怖し、仲間からも心配されたものだ。今となってはあれが運命的な出会いだったのだが。

 第一印象は鋭い眼つきに圧倒され、怯えていたと思う。ただ話してみると意外と優しく接してくれて、時には弱さを見せられ守ってあげたくなる感情すら芽生えた。ルシアが自分の名前を思い出せなかった時は初対面にも関わらず思わず抱きしめてしまったものだ。今思えば珍しく弱っていたルシアは可愛かった。

 それからも食事を運びに行く度に長い時間話込んだ。あの地獄のような場所の中で数少ない楽しみの内の一つだったし、今では考えられないが食事を食べさせてあげていたこともあり楽しかった。……明日にでも久しぶりに食べさせてあげようか。当然嫌がられるだろうし、邪魔が入るだろうが。


 そして楽園の塔での反乱で、事態は一変した。ジェラールを救出するため決起した反乱だったが私にはもう一つ目的があった。それはもちろんルシアの救出。当時周囲の仲間達にはルシアが温厚な人だと言っても完全には信じてはくれなかった。だからこれを機に私だけでもルシアの救出に向かおうと思っていた。

 ジェラールが捕まっていた場所よりさらに向こう側だったため都合もよかった。だが、それはジェラールの狂乱によって阻止されたわけだが、そこで私を救ってくれたのもルシアだった。最後、私の意識が朦朧としていた中ルシアの背中が格好良く見えたものだ。……あれは文句なしに格好良かった。



 意識が戻ったときは、すでに楽園の塔を脱出した後だった。その時もルシアが慰めてくれたな。あそこで初めてルシアのことを異性として意識し始めた気がする。私が精神的に弱っていたとき、ぐっすり眠れたのもルシアの腕枕のお陰だ。……今でもたまにしてもらっている。その後フェアリーテイルを目指して出発したんだったな。

 運良く商人の馬車でマグノリアまで連れていてもらえたが、道中は最悪だった記憶がある。馬車が少しでも進むたびに魔物やら盗賊が馬鹿みたいに襲ってきていた。さすがにあれはイライラしたが、ルシアは楽しそうだったな。だが、悪いことばかりではない。

 ルシアの戦闘する姿を初めて見ることができたのだから。身の丈を越す程の大剣で迫り来る敵達を薙ぎ倒すルシアに私は憧れを抱いた。様々な剣に変わり、時には素早く、時には爆発した剣は羨ましく思った。私の今の戦闘スタイルの原点はもちろんこの時のルシアに影響されてのことだ。換装という魔法は私の憧れを忠実に再現してくれた魔法だった。

 それから無事ギルドに到着し、めでたく私達はフェアリーテイルの一員になることができた。マスターは優しくとても尊敬できる人物だったし、ギルドメンバーも皆優しい人達ばかりだった。最初は周囲に溶け込むことができなかったが、グレイのお陰で皆と馴染むことができた。……ルシアは私が思っていた以上に社交的で少し意外に思ったものだ。

 装備も私とお揃いのハートクロイツ製にしてもらった。ちょっとだけ優越感に浸り、顔がにやけていたと思う。ただそれからは大変なことが続いた。それはルシア争奪戦。一番初めはカナとの取り合いだった。ルシアの初依頼を取られ、敵意剥き出しでカナに迫った記憶がある。ただそれが切っ掛けでカナとよくルシアのことで話をして仲良くなれた。勿論ルシアがクエストに行くときは争ったが。

 それから少ししてミラやリサーナ、エルフマンたちがギルドに加入してきた。そして数日と経たないうちにミラと激闘を繰り広げた。それから仲良くなるまで時間は掛からなかった。もちろん度々喧嘩はしていたが。殴り合えばお互いのことが少しは分かり合えるもので、戦闘後少し話もするようになった。勿論、両者遺恨を残さない竹を割ったような性格だったからこその話だ。

 だがそこで私は痛恨のミスを犯してしまった。ミラと話をする際何を話せば良いか分からずついついルシアのことを話してしまった。カナ以外にあまりルシアの話をすることがなかったため、私の口はとどまることを知らずルシアの魅力をどんどんと語ってしまった。今思えばこの時の話でミラがルシアに興味をもち出したのだろう。自分から進んでライバルを作ってしまったわけだ……はぁ。その結果、ルシア争奪戦参加者を増やしてしまった。そして気がつけば、いつのまにかエバーグリーンが参加していた。あの時は一時期、参加者が増えすぎて暴走した気がする。



 それからいろいろな事があったが、今は充実した生活を送れていると思う。



 そう、充実して幸せに満ち足りたこの生活。
 私はそんな幸せを感じていて良いのだろうか。楽園の塔の仲間は今でも苦しんでいる。なのに、私だけこんな幸せを感じた生活をしていていいのだろうか。いかに、ジェラールに脅されて救出できないとはいえ私は……笑顔でいていいのだろうか。それが私の心に突き刺さっている。

 ミラやエバーグリーンやカナ。私の大事な仲間でもあり家族でもあり……ライバルでもある。何のライバルかなんて野暮なことは聞かないでくれ。そんなライバル達がルシアと接していると不安になるし、私も何かしなくてはと思う。だけど、やはり楽園の塔の事が心に突き刺さる。

 皆が捕らわれているのに私だけ恋愛を勤しめるわけがない。ルシアと話をしているのは楽しく、それが何より心地よい。だけどその心地よさが罪悪感へと変わっていく。楽園の塔の情報もジェラールに隠蔽されているせいか思った以上に調査が進まない。ルシアも動いてくれているが、あまり芳しくないようだ。



 そんな時だ。ミラとエバーグリーンとカナと一緒に会合が開かれた。それはルシアを共有財産にしようという内容だった。これを聞いたとき様々な感情が駆け巡った。それはルシアを独占できない嫉妬心。これは女の身であれば普通だろう。しかしこの感情と同時に安堵した自分もいた。先を越されずに済むという安心感。私は楽園の塔の事件を解決するまでは恐らく自分の気持ちをルシアに伝えることができそうにもなかった。それ故に、その間に誰かに取られてしまうのではないかという不安もあった。

 ルシアの周りにいる女性は女の私から見ても魅力的な人達ばかりだ。だから、この内容にも割りとすんなり合意できたのかもしれない。勿論反対した者もいた。エバーグリーンは猛烈に反対していたがカナと今や大人しいミラの巧みな言葉によってしぶしぶ納得していた。だけどその内容を聞いていた私も確かにと納得できるようなことばかりだった。

「今はルシアを好きな人は私達だけかもしれない。でもこれから先もそうとは限らないでしょ?」

 このセリフは思わず唸ってしまう言葉だ。確かにルシアは見た目によらず優しいのだ。それが、えと、ギャップだったか。そのギャップにやられてしまう女性も多く出てくるはずだ。いや、もうその毒牙に掛かっている女性も私達が知らないだけでいるかもしれない。そのために私達だけでルシアを独占しようという話だ。恐らくだいたいの女性はルシアの見た目だけで怖くて近寄らないと思う。しかし、稀にごく稀に私達のようにその見た目を気にしなかったり、その見た目の怖さを乗り越えて話をしてしまった場合、これは危険だ。かく言う私も最初は怖かったが話をしていく内にルシアに惹かれていった内の一人だ。特に女性で戦闘するような人物や村娘は要注意だとカナは言っていた。

 戦闘をしていて窮地のときに颯爽と格好良く助けてくれるというのは物語でも有り触れたものだが、いざ自分がその時に助けられたらやはり嬉しいものだし、その人に何かしらの情は抱いてしまうと思う。そして話をしてみれば言葉遣いは荒いが意外と優しい。そんな人に興味を持たないわけがない。こうして考えてみると、もうすでに毒牙に掛かった人はいるだろう。……腹が立ってきた。

 とにかく、そんな人を一人で何とか制御できるわけがない。私が思うにルシアは鈍感ではないと思う。人の悪意に敏感な人間は人の好意にも何かしら感じ入るはずだ。ただ、それが好意だった場合ルシアは自分の勘違いという風に思ってしまう。自分が好かれるはずがない、と……ん?これも鈍感の内に入るのだろうか。私もあまりこの手の話は得意ではないので良く分からない。まぁとにかくそんなこんなで今回の会合は皆合意するという内容で終了した。これからも会合が定期的にあるらしい。うむ、きちんと参加しなければな。唯でさえ私は遅れていると思う。そのためにはまず楽園の塔を一刻も早く解決することが先決で、さらにこのためには英気を養うことが大事だ。


「よしっ! そうと決まればさっそくルシアに添い寝をしてもらおう!」

 私は軽快な足取りでルシアの家に向かっていった。
 この手に握られた最愛の人の合鍵を手にして。









side カナ・アルベローナ


 ルシアがギルドに加入したその日に模擬戦があった。グレイVSルシア。久しぶりの祭り事にギルド内で賭け事が始まった。年齢的にも体格的にもルシアのほうが有利であることは明白だったが、グレイには実績があった。将来有望、将来ギルドを背負う者の一人になるであろうグレイに人気が集まることは自明の理。だが、私はどちらかというと分の悪い賭けの方が好きだった。

 さて、どうするかと考えていたとき今回の祭りの主役の一人であるルシアが自分に賭けていた。その時の表情は今だ記憶しているほど、ふてぶてしく自信に満ち溢れた顔だった。それを見たとき、もしかしたらグレイに勝てるかもしれないと幼いながらも感じた。その時すでにルシアに賭けることを決めていたが、良い機会だと思い金髪の少年に話しかけると、自己紹介されそのままワカバに掛け金を渡した。ルシアに一声掛けそのまま特等席まで走って場所を確保した。


 結果はギルドメンバー全員の度肝を抜いた。グレイを圧倒的な力で捻じ伏せ、そのままラクサスと戦い勝ってしまったのだから。まるでグレイとの戦いが前哨戦かのようにラクサスとの戦いは凄まじかった。才能と才能のぶつかり合いとワカバがぼやいていた記憶がある。その後儲けさせてもらったお礼にお酒を奢ってあげた。まだ飲める年齢ではなかったが当時の私はルシアは大人に見えたから迷いなくプレゼントした。

 それからルシアが装備を整えるまで暇をしていたため一緒に買い物をした。その時、ルシアの初依頼を共に行くことを約束した。ルシアの強さは模擬戦で十二分に理解していたからこそ報酬が良い依頼を受けた。報酬が良いということは厄介な依頼である、なんてことはギルドに所属している者なら誰でも知っていることだ。普段なら受けないであろう依頼だけどルシアと一緒なら大丈夫だとふんだ。

 結果は予想通り、いや予想以上に厄介極まりない依頼だった。まさか闇ギルドが関与していたなんて思っていなかった。まだ十歳程度の私は予定調和だと言わんばかりに重症を負いルシアのお荷物になった。……自分がラクサスやルシアのように戦いの才能がないことは分かっている。だけどやっぱり悔しかった。重症を負い見放されないか怖かった。年齢は年下だがギルドに所属してる年数は私の方が先輩なのにあの様だったことにルシアは失望しないだろうかと。

 でも、ルシアは優しかった。ルシアからしてみれば何気ない言葉だったかもしれないけど、私にとってはとても嬉しかった。心に重く圧し掛かった何かがスルリと綺麗に消えた気がした。それからだと思う。ルシアとよく一緒にクエスト行きだしたのは。……エルザとルシアを奪い合いになったのは言うまでもない。

 ちなみに私がお酒に興味を持ち出したのはこの頃からだった。当時十三歳のルシアがワインを美味しそうに飲んでいるのを見て私も十三歳になったら絶対に飲もうと密かに決意していた。ただ、それによってルシアは変に責任を感じていたみたいだったけど。

 それから一年後のある日、ギルドにギルダーツが帰って来た。ギルダーツはたまにしか帰ってこれない程の高難易度クエストばかりを受けていた。たまに帰ってきてもルシアはちょうどクエストに行っているため、すれ違いだったことが幾度もあり両者共に名前や噂は知っているが初対面という状況だった。

 けれど、私とは違いすんなりとギルダーツと会話しながらお酒を飲んでいた。その二人の後姿は一仕事終えたおっさんのようにも見えてしまった。ギルダーツはともかくルシアまでそう見えてしまったのは、元々大人びた性格をしていたためだと思う。ギルダーツも周りの子供達と話しているときは表情や雰囲気がまるで違った。どちらかというとワカバ達と話しているときのようなリラックスさを感じた。そのことに当時の私は少し嫉妬をしていた覚えがある。


 それからギルダーツは珍しく一月近く休みを取っていた。私は何とかその間に話かけようとするものの中々話すタイミングを掴めず遠巻きで羨ましそうに見つめているばかりだった。そのことにいち早く気がついたルシアが私の手をとり、さり気なく会話の中に入って話題を振ってくれた。そのおかげでいつも羨ましく思っていたギルダーツの肩車も初めてしてもらった。そんなルシアの行動に私とギルダーツとの間に何かあるとルシアに気がつかれたなとも思った。それでもその関係に踏み込みすぎない気遣いは嬉しかったし、だからこそ私が以前から思っていた「S級魔導士になったらギルダーツにあることを告げる」という意思表示をルシアにしたのかもしれない。


 ギルダーツがまたクエストに旅立つ前日にルシアに遠慮せずに戦ってきなさいと告げた。戦うことが大好きなルシアが今だナツのようにギルダーツと模擬戦をしていないのは、変に私に気をつかっていたことはまる分かりだった。私がそのことを告げた時は驚いた顔をしたあといつものようにニヤリと笑い、お門違いなお礼を告げて自宅に帰って行った。

 私がルシアの表情の中で一番好きなときの顔だ。あのときだけは年相応の無邪気な少年の顔をする。うん、ニヤリと笑う少年など年相応ではないかもしれないけど、私には無邪気な顔に見えてしまう。そしてその時に気がついた……ルシアのことが好きかもしれないと。

 次の日ルシアが見たことない程ボロボロになってギルドに帰って来た。それも物凄い不機嫌そうな顔で。瞬く間にカウンターに座りお酒を飲み始めたのを見て、模擬戦の結果を悟った。それはその時共に話していたエルザも察したようで、二人で顔を見合わせ苦笑いした後、ルシアの両サイドにエルザと座った。その時のルシアはブツブツとあの時の判断が甘かったなど私たちに話していたが、そんなことは耳に入らないくらい涙目のルシアは可愛かった。そしてこの珍しい顔を見れたことに信じてもいない神様に感謝し、ルシアを二人で慰めた。


 それから数年間、いろいろとルシアと依頼を共にして分かったことがある。それはこいつが天然の女たらしだということ。落ちた女の子の人数はそこまで多くはないが、それでもたまにいるのだ。ルシアの雄姿を見て惚れてしまう子が。地図にも載らないほどの小さな村では防衛設備が整っていないため、たまに魔物に襲われることがある。そんなときルシアが行くと要注意だ。あまり村から出たことがない女の子はその時の戦うルシアを見て物語の主人公とルシアをダブらせる傾向がある。……見た目だけなら悪役なのに。そして魔物を撃退したあと大体は村をあげての宴会が始まる。その時だ、その時に我先にとルシアの両隣の取り合いになる。この時ルシアも満更ではない顔をしていて、やたらムカついた覚えがある……今思い返しても腹が立つ。


 もし、私がルシアと結ばれたとしよう。だとしたら、私はルシアを繋ぎ止める自信がない。浮気なんてものはいくら一途な男でも酒の勢いや魔がさしたり落ち込んでいる隙を突かれると過ちを犯してしまう場合がある。そんな場面は幾度となくあることはギルドのおっさん達で、もう遠い昔から実証されている。何より討伐系というのは終わったあとも興奮状態が続くことが多々ある。昔戦争で興奮冷めやらぬ兵士達に商人が女を宛がっていた理由もその興奮を冷ますためだった。血を浴びるというのはそういうことだ。そして村娘は言うのだ「私の村に来てる間だけでも……」と。俗に言う現地妻とかいう奴だ。傭兵が村娘とでき易いのはこれが原因だと女性週刊誌に書いてあった。だとしたら何としてでも阻止しなければならない。ならばどうするか。そして私は一大決心をしたのである。


 一人で駄目なら徒党を組めばいいじゃない、と。


 知らない女に取られるぐらいならば仲の良いライバル達と共有したほうがマシだ。それにエルザ、ミラ、エバーグリーンと私がいればローテーションでルシアのクエストに着いて行くことができて抑止力になる。……ミラはちょっと厳しいかもしれないが、今更仲間はずれにするのもどうかと思うし。とにかく、この四人で独占してしまえばいい。そう考え早速会合を開いた。

 私が思いのほか驚いたのはミラとエルザがすんなりと同意してくれたことだ。先程の村娘の話を話すまで皆が反対するものとばかり思っていたので少し拍子抜けだった。特にエルザは純な子だから猛反対すると思っていたのだが。猛反対していたエバーグリーンも先程の話を聞かせたら思い当たる節があるのか苦々しい顔つきで唸っていた。それから数時間かけて主に私とミラで説得した結果、共有財産になることに決定した。もちろんルシアの気持ちも汲まなければいけないが、そこはさして問題はないと思っている。ルシアはちょっとムッツリな所があるから。


 ルシアが約半年ぶりにギルドに帰ってきた日の翌日、ギルド内で働いているミラの異変に気がついた。常人には気づかない程度に軸のブレた歩き方、ルシアとの接し方が今までとはまるで違うこと。この二点だけで私は、いや私たちはすぐに気づいた。こいつ、やりやがったな、と。私とエバーグリーンで競うようにルシアの取り合いが始まり、何とか今夜を勝ち取ることができた。最後に


 勝気で男勝りな性格の私だけど、やっぱり初めては恥ずかしかったとだけ言っておく。


 
 

 
後書き
恋愛要素入ってるのは好きなんです。けど好きだからと言ってもそれを書くのは上手くないんですよね。好きこそものの上手なれ。頑張ります。 
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