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その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

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第18話 猫神様と黒い魔法使い(2)

「ねぇ、純吾」

「アリサ、何?」

 呆れたと言わんばかりのアリサの様子に、純吾が不思議そうな眼を向ける。
 そんな純吾の視線を受けても元の表情を崩さないまま、彼女は続けた。

「確かに、あんたが用意してくれたお菓子おいしいわよ? 桃子さんの所に弟子入りして少ししか経ってないのに、これだけ作れたら大したものだわ。でも、でもね……」


 やおらと立ち上がる。
 そしてビッ、と机の上に置かれたお菓子の数々を指差し、大きな声でこう言った。

「どうして、なんか滑らかでプルプルしたものしか作れないのよ! おかしいでしょ「お菓子だけに?」 ちょっと! 茶々いれないでよ」

突然やんのやんのと言いあうアリサと純吾。彼女達の体面に座っていたすずかは、改めて机に広がる色とりどりのお菓子を見つめる。

「プリンにババロアにあとえっと……ういろう? 確かにプルプルしてるものばっかりだね」

「そうよ! いや、別に不満はないけど、あんた翠屋に料理習いに行ってるんじゃなかったの!? クッキーなりシュークリームなりもっと初めに作れるようになるものあるでしょう」

 すずかの援護も得て鼻息荒気に問い詰めるアリサ。それに対してちょっとばつが悪そうに、純吾は視線をそらしながら答えた。

「ん…。クッキー、焼いてたらいきなり弾けた」

「じゃ、じゃあシュークリームは? だって翠屋よ? 一番にそういうのを仕込まれたりするんじゃないの?」

 なおもアリサが食らいつく。それに対して、ニット帽をギュッと目深にかぶり更に視線を遠ざける純吾。
 少しの沈黙の後、ぽつりと彼は言った。

「……クリーム入れてたら、詰め込み過ぎて爆発した」

「爆発ネタか!」

 スッパァァァン! 
 いつかの昼休みの様な小気味よい音が、純吾の頭から部屋全体に響き渡った。





「……理不尽」

 そう頭を抑え涙目で自分を見上げてくる純吾に対し、アリサは顔を赤くしながら言い訳をする。

「うっ、だ、だって仕方ないじゃない。あんたの作る料理のレパートリーがあんまりにも変なんだもん」

「う〜ん。純吾君、どうしてかデザートなら茶碗蒸しみたいな食感のものしか作れないんだよねぇ。お料理はお味噌を使った物中心になっちゃうし。
……あっ、でも食材の飾り切りがすっごい上手なんだよ? この前夕食の時に、果物でお花作ってくれたし!」

 わたわたとすずかが必死のフォローに入るが、それは純吾の普段からの技術の偏りっぷりを証明するだけだった。
 再び呆れたという顔をして、アリサは隣に座る純吾にジトっとした目線を送る。

「名古屋ぽかったり、飾り切りが上手だったり……、あんたホント色々間違ってるわね」

「……どうも」

「褒めてないわよっ!」



 高町なのはとユーノ・スクライアは目の前で2人の少女と1人の少年がわいわい談笑をしているのを、それは嬉しそうに眺めていた。

(…ねぇ、ユーノ君)

(何、なのは?)

 目の前の会話の邪魔をしないためか、なのはは念話でユーノに話しかける。ユーノも念話で返答をすると、彼女はその嬉しそうに緩めた顔を彼に向けた。

(やっぱり、こういうのっていいよね。ジュエルシードの事を考えなくて、ゆっくりできるって)

(うん、そうだね。僕もこの世界に始めてきた時は、こんな事ができるとは思っていなかったよ。魔法を知るのは僕一人だから、僕がどうにかしないと、ってがっちがっちだったよ)

 ユーノはなのはへ向けていた顔を、目の前でお菓子談義をしている3人へと、その中で唯一の男子へ向ける。なのはも、ユーノにつられて彼の方を見た。

 また何か失言をしたのだろうか、アリサに叩かれ涙目で頭を押さえる純吾。
 それを顔を真っ赤にしているが、当然だと言わんばかりに睨みやるアリサに、少しおろおろしながらも、どこか楽しそうに仲介に入るすずか。

(平和だねぇ……)

(平和だよねぇ……)

 封印の際は頼もしい事この上ない彼が、こんな時はどうも頼りなく見えてしまう。
 けどそんな事はどうでもよくて、むしろそんな彼の一面が見れた事が嬉しい、となのはは思う。

 初めて魔法に遭った日、自分の命を助けてくれた彼。そこからなし崩し的に始まるジュエルシードの封印の手伝いも買って出てくれた彼。
 そして先週。街の惨状を見て自分の意思がはっきりと分かった時、それを無条件で後押ししてくれると約束してくれた彼。

 彼がいなかったら間違いなく自分のジュエルシード封印は困難になっていただろう。
いや、その前に自分の命は最初の日にすでに無かったのかもしれない。

 それが、こうして友人達にも理解を得て、また激務の今ではあるがこうして穏やかに過ごせる時間を楽しむ事が出来ている。

 だからこそ高町なのはは、どういう流れかすずかに向かって「あーん」している純吾の様子にくすりと笑いながら、心の中で「ありがとう、純吾君」と呟くのだった。


 と、その時唐突になのはとユーノに電流が走ったかのような感覚が襲った。
 この感覚に慣れていないなのはは慌てて辺りを見渡し、ユーノはその様子をなにか悟ったような、諦めたかのような顔をして見つめ、そして告げる。

(……どうやら、休暇は終わったみたいだよ、なのは)

(ユーノ君…、じゃあ、やっぱり)

(うん、ジュエルシードだ。しかもここからかなり近い所で封印が解けたみたい)

(せっかく皆が楽しんでるのに……)

渋く顔をしかめてなのはは正面を見る。それを心配そうに見上げるユーノだが

(そうだっ! なのは、僕がここから出て行くからそれについて来て。動物がいきなりな行動するのって当たり前の事だし)

(えっ、でも皆ユーノ君が賢いって事知ってるよ?)

((…………))

(グスっ…。い、いいから行くよ!)

 ちょっと涙声になって、たっと机から飛び降りて走り始めるユーノ。

「あぁっ! み、みんなユーノ君がどこかいっちゃいそうだから、ついていくね!」

 それを見て慌てた様子で、けどどこか棒読み気味に告げてなのはは走りだし、ユーノに次いで部屋を出て行ってしまった。



「ねぇ、純吾」

「アリサ、何?」

 パタンと閉じられた扉を見ながら、前と同じような問答をするアリサと純吾。
 前回の違いと言えば、どちらも呆れた、というような顔をしているという事と、今だ純吾が片手にプリンを乗せたスプーンを、もう片手を受け皿のようにしてすずかにつきだす、「あーん」のポーズのまま止まっていることか。

「何でなのはってああも隠し事が下手なんでしょうね?」

「ん…正直は、いい事」

「それはちょっと違うと思うけどなぁ」

 同じように扉を見ていたすずかも会話に混ざってきた。純吾の行為か返答か、どちらに対してか分からない苦笑をしていたが、すぐにそれを収めて2人を見る。

「けど、あの2人が出ていったって事は」

「そうね、せっかく純吾が用意してくれたお菓子が無駄になっちゃうわ」

 肩をすくめながら、アリサは純吾に視線を送る。
 これからどうすれば良いか、当然分かっているだろう? そんな期待を込めて。

 それに対して、その瞳に理解の色を示しつつコクリと頷く純吾。アリサの方をしっかりと見つつ、どうすればよいか、それを答えるためにその口を開ける。


「急いで、全部食べないと」

「急いで手助けに行きなさい!」

 スッパァァァァン!!




「……まだ痛い」

「にゃはは…、アリサちゃんツッコミ容赦ないもんね」

 まだ鈍く痛む頭をニット帽越しに片手で押える純吾と、それを慰めるなのはとユーノは、森へと抜ける事のできる家の裏口へと走っている。

 アリサにきついツッコミを受けた客間を出た後、純吾は【ハーモナイザー】を機動。
 すぐに彼女たちの後を追い始めた事が幸いしてか、調度階段を下りる彼女たちを発見し、強化された身体能力で追いつく事に成功していた。

 初め純吾がついていく事に渋面を作っていたなのは達だったが、純吾の「ついてく」の一点張りにしぶしぶ納得し、今に至る。


「ユーノ君。反応は森の方で間違いないよね」

「うん、あれだけの反応をしたんだから間違いないよ」

 先導して走るユーノに、なのはは走りながらもう一度確認をする。

「ただ、もうジュエルシードは何らかの現地生物をとり込んでいると思う。そう言う意味では、純吾が来てくれた事は良かったんだけど……」

 そう続けるユーノの顔は少し暗い。やっぱり純吾から一緒について来てくれたとはいえ、せっかく皆集まっての休みにまで頼ってしまうのはどうしても気が引ける。

「大丈夫。……ジュンゴ、負けない」

 しかし暗い顔の原因を取り違えた純吾は、片手で頭を押さえつつも、いつも通りの表情のまま、走りながらぐっと拳をつくる。
 その様子になのはもユーノも、笑いだしたいような、ちょっと安心したような気持ちになった。

 そうしているうちに一同は裏口を抜け、森の中へとはいって行った。

「近いよ、注意して!」

 ジュエルシードの反応を感じたユーノがそう促し、全員で辺りを見回し始める。


「うん、一体、どこにいるんだ…ろぅ……」

 と、急になのはが前方を見上げたまま、唖然としたような様子で固まった。

「なのは? 何か見つけ…あぁ……」

 なのはの視線の先を追ったユーノも、呆然と固まる。
 純吾だけが、目線の先にあるそれに、きらきらとした目を向けたのであった。

「シャムス…………おっきくなった」

「なぁん?」


見上げた先にいたのは、以前神社で見つけたモンスターよりも大きくなっていたシャムスだった。
先のモンスターが小型トラック並なら、今のシャムスは大型バス以上の大きさはある。

「えっとぉ、あれは?」

「さぁ……大きく、なりたかったんじゃなかったのかな? ちゃんと願いがかなって良かった、ていうのかな?」

 呆けたような様子のままなのはが聞き、それに同じようにユーノが返した。
う〜ん、と綺麗な髪を掻きつつ、なのはは考える。

「ま、まぁ。ぱぱっと封印だけしちゃおっか。あの様子なら襲ってくるって事もないだろうし」

 そういいながらなのはは、ちらっと横を見る。

「……シャムスいじめるの、ダメ」

 じーっ。なのはが攻撃をするのではないかと不安がっている純吾の目が、ニット帽の中からなのはを見つめている。
 そんな様子に微笑ましさを感じながらも、首元から紅い宝石を取り出した。

「それじゃあ行くよ! レイジングハー……」


 閃光が、なのは達の上空を走って行った。
 それは一閃だけだったが、恐ろしい勢いを持って、彼女たちの目の前をのっそりと歩いていた橙の横腹に、爆音と共に直撃した。

「にゃぁぁぁっ!」

「シャムスっ!」

 衝撃に悲鳴を上げよろめくシャムスを見て、動転した純吾が叫ぶ。

「あれは魔法の光。どうして……」

 自分以外に魔法を使える存在は今この世界にはいないと思っていたユーノは、目の前を通り過ぎて行った光に呆然と呟いた。

 そんな中なのはだけが、光が飛んできた方向、自分たちの後ろ上方を振り返りつつ仰ぎ見ていた。



 なのはの視線の先、裏庭より少し離れた山奥に立つ電信柱の上。そこには、紅い瞳に、夜の様な暗闇を湛えた少女が立っていた。
 
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