Re:ひねくれヒーロー
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第一部
死と共にはじまるものは、生である
芽吹いた孔雀草
広い野原、そよぐ風
自来也が真剣に見守る中、チャクラを練り上げ印を結ぶ
ゴクリ、自来也の喉から大きく聞こえるほど、辺りは静かだ
大丈夫、俺なら出来る、そう何度も繰り返して臨む
「分身の術!」
薄い煙が立ちあがり、もう一人の俺が出現する————成功だ!
「やった、成功だーーーっ!
半年、半年かけて成功した分身の術!」
何故だか分身は吐血していたがそんなの気にしない、俺も今吐血している
ようやくまともに出来た忍術、たかが初級忍術と侮ることなかれ
分身の術は意外と難しかった
そして、俺の努力が実った
分身体を消して自来也のほうへ振り返ると、泣いていた
・・・いやだこわい
「・・・チャクラを練り上げるたびに、穴という穴から血を噴出しとったお前さんが・・・
ようやく・・・ようやくっ・・・」
自来也は目元を手で蔽い隠し、男泣き
目元の隈取りが落ちかかっている
・・・そう、俺は彼をそこまでさせるほど・・・チャクラコントロールがダメだったのだ
しかしそんなに泣かなくても良いと思うんだが
「そんなこともあったね」
思わず遠い目で空を仰ぐ
自分自身のチャクラだけでは血を噴出してしまい、印すら組めなかったがパルコのチャクラと合わせることにより忍術の使用が実現した
リハビリも大体終わり、狐火のコントロールを覚え、次の段階へと移行した修行の初日
1週間意識不明の重体に陥ったのがもはや懐かしい思い出だ
「本当に良くやった!
・・・それでは、約束通り・・・褒美を渡そうかのぉ」
涙を乱暴に拭き取り、懐から何かの書類を取り出す
その中から1枚、それとペンを俺に渡す
えーと、何々?
木の葉アカデミー編入者の氏名を記入・・・あぁ名前を書くのねって
「アカデミー!?しかも木の葉!?」
「分身の術はアカデミーレベルでは上級忍術に位置する
半分だけだが自分のチャクラも練れるようになった今のお前なら、入学いや編入させて大丈夫だと思ってな」
「俺が・・・アカデミーに・・・でも、俺勉強あんまりしてない・・・」
不安で胸が締め付けられる
そんな心配性な俺に自来也は笑い飛ばして見せる
「今までの修行で基礎は教え込んであるし、ワシの小説の誤字訂正まで出来るんだしの
アカデミー位なら大丈夫!」
頭を撫でられる
久しぶりの感覚に微かに顔が赤くなるのを感じた
懐かしい、前世の親にはあまりこんな風にされたことなかった
思わず涙があふれ出す
「・・・自来也、その、いつもエロジジイだの変態だのどうしようもない覗き魔だのと思ってたけど・・・」
涙声になっているのが自分でもよくわかって、段々と声が小さくなってしまう
「・・・お前のぉ・・・」
少し傷ついたように肩を落とし屈んだジジイ
これだけは言わなくてはと、耳元で呟く
「あのさ・・・先生、ありがと」
本当に、ありがとう
素直に感謝したのは何年振りだろうか
神殿時代は感謝なんて形式だけだし、パルコなんか論外だった
もしかしたら転生して初めての『ありがとう』かもしれない
「わはははっ!お前から感謝されるなんて久しぶりだの!
さぁさ、早く書類に記入せい」
「わかってるよ!」
鞄から厚めの本を取り出して(イチャパラに非ず)下敷き代わりに使う
生年月日は10月10日で血液型はB、性別は男
ん?好きなものとかも書くのか、何に使うんだろうか
好きなものは・・・うーん雑炊かな、嫌いなのは油っこいもの
前世は中華そばが好きだったんだけどな、今はラーメンとか食べると胃が死ねる
好きな言葉は・・・「考えるな、感じろ」・・・燃えよドラゴンだったっけな
鼻歌交じりにさらさらと書きあげて行き、やがて筆が止まる
・・・どう、しよっか
「・・・何故、名前を記入せんのだ?」
訝しげに首を傾ける
そういえば、今まで名乗りすらしなかったな
「うーん、なんていうか名前、ないからねー」
後日、名前がない発言に心底胸が痛んだと語られた
神殿 チカとかどうだろうか
いや女っぽいな、うーん月野 ミコ、駄目だ女性名だ
そういや里長の名前、最初笑ったわーなんだよ月影《つきかげ》 乃斗《ないと》って名前
某美少女戦士のアニメ版にそんなのいたよな月影のナイト様ーって言われてるやつ
静かに腹筋崩壊しながら崩れ落ちた俺は悪くぬぇ!
でも、前世の名前は使いたくないしな、踏ん切りつかないし・・・
この世界で俺を表現できるのは・・・神殿?地下?巫子?九尾?
九尾、パルコか
俺がこんな体になった原因、恨んでも、妬んでも足りない奴
・・・うらみ、ねたみ・・・
それに、
狐
「自来也、俺のこと今日からコンって呼べ」
さらさらと書きあげ、書類を突き付ける
「・・・コン?」
目をまん丸にして問いかけられた
自信満々に笑って答えてやる
「そ、俺は今日から、ねたみ コンだ!」
胸を張り、宣言する
そうだ、俺はねたみ コンになるんだ
人柱力でも、地下神殿の巫子でもない、ただの忍者見習いのコンになるんだ!
名前があるということは胸が温かくなる
何処となく腹部も熱を持ち、思わず腹を撫でおろす
「どっから出てきた?」
「嫉妬に怨恨」
笑ったつもりだったけれど、うまく笑えていただろうか
「・・・(狐だからかと・・・)」
「・・・(安直すぎるな俺)」
急に静まり返った2人の間に暖かい風が吹き抜けた
何処からか——風に乗って声が聞こえた
——おめでとう、コン——
甲高い狐の一鳴きが、あたかも人間の言葉のように聞こえたのは気のせいだったのかな
◆
木の葉アカデミー編入書類が受理されたことを伝書蝦蟇から伝えられた
自来也は一足先に木の葉へ赴き、移住の手続きをしているらしい
・・・湯隠れに俺を一人置き去りにして、だ
湯隠れからどんなルートを使っても良いから木の葉へ行くこと
それが自来也の修行、最終試験
寝起き吐血で朝の目覚めが血生臭いうえ、貧血気味のこの頭に、突如降りかかったこの問題
伝書蝦蟇も酷く同情してくれたうえ、面白いことを聞かせてくれた
18歳だし、一人旅ぐらい大丈夫、そう自分に言い聞かせるものの凄く不安げな自来也がいた、と
・・・18に見えなくてごめんな、自来也・・・
吐血痕を片づけ、身支度を整え、顔なじみになった宿の主人に声をかける
湯隠れから木の葉まで、”子供”が一人旅で無事にたどり着けるルートを聞き出す
なけなしのプライドが木っ端微塵になったのは内緒だ
かなり主人を悩ませてしまったがなんとかルートを決めることが出来た
火の国の北東に湯隠れはあるが、忍びでない子供が真っ直ぐ木の葉へ向かうのは厳しいそうだ
なので、一旦雷の国へ行き、そこから船で火の国へ向かうことを勧められる
ずいぶんと遠回りになりそうだなと地図を確認しながらぼやいていると・・・
「坊主、大国レベルの医療技術じゃないとぶっ倒れた時がヤバイ」
両肩をつかまれえらく真剣に説得される
・・・そうだよな、俺、綱手が置いて行った薬で無事なんだもんな
薬が足りなくなったら蝦蟇経由で薬を貰いに行ってたしな・・・
最後に路銀の確認をし、チェックアウトを済ます(宿代は自来也が別にとっておいてくれた)
「じゃ、またいつか泊まりにくるよ!飛階のおっちゃん!」
長らく泊まった思い出深い宿
飯も美味かったし絶対また来よう
「吐血したままうろつくなよー」
新聞を見ながら声だけ返してくれる
ロマンスグレーの崩したオールバックが途轍もなく渋い
いつか俺もあんなオッサンになりたい、と脳裏に淡い希望を描く
歩みも軽やかに雷の国へ行く商隊を目指す
声をかけて一緒に連れて行ってもらおう
・・・そういや、飛階のおっちゃんって何処かで見たことあるような気がするんだが・・・
何処で見たんだろう?神殿時代の信者かな?
いくら唸ってみても記憶から導き出すことは出来なかった
◇
悩みながら呆けて歩いていると躓いた
ちょうどデコのあたりに小石があったせいで無駄にダメージがでかい
しばらく蹲っていると人影が近づいてきた
「オメエ大丈夫か?うん?」
黒いポニーテールの青年が手を差し出してくる
出された手に大人しく掴まり立ちあがる
「デコに小石めり込んで痛かったけどもう大丈夫、心配掛けてすいません」
一礼して距離をとる
純粋に心配してくれただけかもしれんが用心にこしたことはない
「うん・・・お前、凄い血流れてるぞ、口から」
「通常運転であります」
敬礼して答える
面喰ったように瞬いて呆れたように見つめてくる
「・・・お前、本当に大丈夫か?」
何処が?と聞きたいがまぁ、大丈夫なものは大丈夫だ
乱暴に口を拭って商隊を追いかけると何故か青年もついて来た
「兄さんも商隊に用があるのか?」
振り返って声をかける
「ん、雷の国までちょっとな
あの商隊を追いかけるってことはお前も雷の国までか?うん?」
後ろにいたはずの青年はいつの間にか真横で歩いていた
・・・コンパスの差ですね妬ましい
頷いて返すと、青年は頷き返したあと大声で商隊に呼びかけた
聞きつけた商隊の人間が現れると、俺から離れ交渉が始まり、あれやこれやの内に馬車へ誘導される
されるがままに馬車に乗り込み腰かけると青年が笑った
「病気の弟を雷の国の病院まで連れて行くんだって言ったらコレだ、うん
得した気分だ」
何やら利用されたが、こういうのも旅の醍醐味かもしれない
「髪の色違うから疑われるんじゃないの?」
「大人は複雑な関係を妄想したがるもんさ・・・うん」
青年の髪は黒、俺の髪は白髪・・・いや、乳白色だこれだけは譲れない
たとえドヤ顔で決められても、この青年と兄弟というのは嫌だ
「そもそも弟っていうのも気に入らない」
なにやら粘土を取り出してこね始めた青年
あまりにも自然に出してくるから吃驚した
粘土くせぇ
「うん?だって年下だろ?」
デフォルメされた鳥を作りながら問われる
・・・こいつが何歳であろうとこの発言を許してなるものか・・・
「18歳だ」
「・・・嘘は、駄目だぞ、うん」
額に汗を流し眼をそむけた青年
本当だよ馬鹿
「俺、コン
あんたは?」
いい加減青年青年言うのも飽きたので自己紹介してみる
「うん?オイラは、ダラーってんだ
道中よろしくな、弟」
金にうるさいのだろうかと考え込んだ
弟という言葉に何やら含みを感じた
・・・なんかこいつ、見ためよりまだ若いよな・・・
「・・・なぁ、お前何歳?」
問い詰めると粘土を弄る手を止める
冷や汗が出てきている
「・・・・・・・」
無言で顔をそむけた
・・・年下だったか・・・
◇
ガタゴトと音を立てて馬車が走る
雷の国、国境近くの街道を進む商隊
いくつかの馬車を囲む護衛の忍びたち
揺れる馬車の出入り口から外を伺うと、何人かの忍びと目があった
何気なしに会釈してみると、彼らも同様に返してくれる
年のころ12,3歳ぐらいだろうか、下忍になりたてらしく、何処か様子が危うげだ
長く続く街道の景色に飽きが来て、なかへ引っ込む
中は商隊の荷物以外にダラーが作り出した粘土細工で埋め尽くされている
丸い蜘蛛を手に取り眺め、徐に潰し捏ね直す
もにもにもにもに・・・
「まかろーん」
前世でよく女子が好んでいた円形の菓子をモチーフにしてみる
吐血した血を練りこみ赤く染め上げるとまるで苺のマカロンのようだ
食いたくない
「・・・何だそれ」
ダラーの問いかけを無視し、旅のおやつにと思い作ってきたマカロンの袋に粘土を混ぜる
思わず、といった風に手を伸ばしたダラーを制止、出入り口にかけてある布をあげ、近場にいた下忍の少年と少女に声をかける
「あげる、はずれ付きだけどね」
背後から性格悪ぃぞ、うん等と聞こえてきたがスルーである
2人は顔を見合わせ、少し離れた場所にいる担当上忍らしき男を伺う
男は少々渋ったが、問題ないとでもいうように頷いた
いただきます、と丁寧にマカロンをとる2人
様子が気になったのかダラーも顔を出したので、彼にも袋を渡す
「ほれ、兄ちゃんも食え」
渋々袋に手を入れマカロンをつかみ取った
「変わったお菓子だけど美味しいわ」
何処の世も女子はこういうものが好きらしい
マカロンアイスのほうが好きなんだけどな
「アーモンド使ったお菓子だよ」
赤は苺で緑は抹茶、茶色はチョコだよと説明する
少年は抹茶をとったが少々苦かったらしく、チョコをあげた
「アーモンド?」
きょとんとした顔で呟かれた
あれ、アーモンドプードルは売ってたのに、知らないのか?
「・・・落花生?」
どう説明すればいいのか分からなくなったので、誤魔化す
下忍との和気あいあいとした会話に上忍は微笑ましく眺めている
会話に交じれなかったスリーマンセルの残り1人の少年が少し寂しげだ
甘いものがあると会話が弾んでいいな、と久しぶりの賑やかな会話に和む
・・・そういえばダラーは何マカロンとったっけな・・・
ふと後ろを振り返ると、口元を押さえて蹲るダラーの姿
えづく音が聞こえてくる
「お、兄ちゃんがはずれだ」
「うわー・・・カワイソー・・・」
「なぁなぁ、はずれって何味?」
半笑いで訪ねてくる少年少女
そんなに笑ってやるなよ
「粘土With俺の血」
とびきりの良い笑顔で親指を立ててやる
「「・・・・・・」」
途端に顔色を青くした2人が後方を指さす
うん、何か威圧感があるね
「なぁ、コン
兄ちゃんとちょっとお話しようか・・・うん」
力強く肩を掴まれる
2人に助けを求めようと視線を向けるが逸らされる
「仮にも兄ちゃんの粘土なんだから臭いで気づいてもらいたい」
なんで食べたの?とでも言うようにふんぞり返って告げる
我ながらムカつくな
「お前の血の匂いで分らなくなったんだ、うんッ!!」
食べたことない菓子だからそういうもんだと思ったんだよ!とヒステリックに叫ばれ拳骨を落とされる
袋に入れた時点で血の匂いが充満してしまったのか
いつも自分自身が血生臭いから気にも留めなかった
ひらひらと下忍たちに手を振って馬車のなかへ戻ることにした
「兄弟アピールは出来たんじゃない?」
ダラーに向き直り、マカロンを渡す
「うん?!お前そんなこと考えての行動だったのか?」
素直に受け取って口直しに食べ始めた
吃驚したような関心したような、目が輝いている
「いや、ただの暇つぶしなんだけどな」
「お前嫌いだ!うん!」
残りのマカロンを奪い取られ、やけ食いされる
味は気に入ったらしい
俺のおやつが・・・
落ち込んだが、これでなにかあったときの看護要員を確保できたと思えば安いものだ
周囲に兄弟と触れ込んで馬車に乗ったんだから、弟の面倒ぐらい見てくれよオニイサン?
◇ダラー◇
酷い目にあった
傍らで粘土をこね続ける自称・18歳から目をそむけ、不平を飲み込んだ
確かに、この子供にしてはやけに大人しく、かといって大人だと断言できないアンバランスさは青年と言っていいだろう
任務でなければ声など掛けなかっただろうに
路傍の石と同じ存在を何故気にかけてしまったのか
いまさら悔やまれる
そもそもS級犯罪者として名をはせた自分が気にかけるなど有り得なかった
任務の遂行に必要だと感じたが故の、行動だったのだと自分に言い聞かせる
(・・・七面倒臭い任務押しつけやがって・・・)
変化でなく染め粉で黒くした髪を弄る
脳裏に任務を言い渡したリーダーの顔が浮かび、無性に腹立たしい
—雷の国に本拠地をおくテロ組織の補給商隊の割り出し及びその壊滅—
組織の末端であるこの商隊を尾行するのではなく、商隊所有の馬車にこうも安々と潜入出来るなど思ってもみなかった
2,3日もしない間に幹部クラスの商隊と合流するとの情報もある
気づかれないように尾行する手間を思えば随分と楽だ
組織の末端も末端、普通の商隊と変わらない
忍びや護衛を雇う金の無い人間は皆、商隊を頼り旅をする
この商隊にもそんな人間たちが大勢着いてきている
馬車に同乗しているのは余程の老人か病人ぐらい
1人だけでは確実に護衛の上忍に怪しまれただろうが、今回は大丈夫らしい
馬車に乗せるよう交渉したときの商人
口から血を流していたコンを見て、随分と気の毒そうにこちらを見ていたあの顔
どこからどう見ても病人といった子供に歩いてついてこいなどとは言えぬ小心者
良い拾いモノをしたと思った
あちらから進んで兄弟として行動するため、幻術をかける手間がいらない
だからといって粘土菓子の件は許さないが
正直に言って、このままコン諸共すぐに爆破させたい気持ちでいっぱいだ
しかし下準備もなしに無計画の爆破というものは美しくない
己の美意識を優先させ機が熟すのを待っているのだが・・・どうにも調子が狂う
文字通り現在も血反吐を流し続ける少年が原因だと・・・
・・・現在も?
「コン!?お前大丈夫か、うん!?」
粘土が血に染まり、抑えた手の間から血が流れ出している
顔色も悪く、医者を呼ぶべきかと考え粘土を片づけておく
「・・・げぇ・・・酔った・・・」
青白い(鬼鮫には負けるけど、うん)顔が血に染まった
しかしコンは意外と平気そうに持っていたタオルで血を拭いだす
「乗り物酔いで吐血すんのかお前は」
上着が血みどろになっているので剥ぎ取ろうと手にかけると振り払われた
(・・・なんかムカついたぞ、うん・・・)
「自分で着替えれるから後ろ向け」
見て気持ち良いものじゃないぞと追い払われる
素直に後ろを向き、衣擦れの音が聞こえ始めた時振り向いた
ただの、仕返しのつもりだった
見られたくないと言った意味を考えもせず、生意気な子供をからかってやろうと思った、ただそれだけだったのだ
青白く細い体に浮かぶ刀傷、縫い痕だらけの背中
腕や首筋に浮かぶ注射痕、拷問でも受けたのか
小さな体に不釣り合いな夥しい傷跡
そのなかでも鮮明に映ったのは、まるで、爆発でも受けたかのような火傷のあと
芸術家としてのオイラが、ただひたすら美しいと感じた
脳裏に浮かんだコンへの忍び疑惑など、捨て去るほどの美しさだった
◇
野盗や獣に襲われることなく、無事に雷の国へとたどり着いた
長い間馬車に揺られていたせいで体のあちこちが軋みだす
粘土マカロン事件より口数が減ったダラーとともに商隊に別れを告げ、広場まで歩きだす
片手で広げた地図を確認すると、この町から一日ほど歩いたところに港町があるようだ
ダラーの目的地は知らないが、ここらで兄弟ごっこは辞めてお別れとしよう
「にい・・・ダラー、ここまで面倒見させて悪かったな
俺はここから港町に行くからここでお別れだ」
立ち止まって声をかけるとダラーは身を正し、真っ直ぐこちらを目で射抜いた
「・・・コン、聞きたいことがある・・・うん」
おまえは、忍か?
そう問いかけられ、少しばかり悩む
自来也に修行をつけてもらったとはいえ、忍者登録も、アカデミーにも入学していないこの身
忍かと聞かれれば否と答えるしかないだろう
首を横に振ることで答えた
「なら!
お前のあの、爆発痕、誰にやられた!?」
血気迫る表情とはこのことか
肩を掴まれ問い詰められる
着替えのときに視線が感じると思っていたけど・・・
ここで素直に暁のデイダラです、と答えると何故暁を知っているのかと大変ややこしい状況を引き起こしそうだ
悩みに悩んだ俺の答え
「爆発に美を見出した芸術家にやられました」
誤魔化したようで誤魔化し切れていない、分かる人なら分かる特徴を告げてしまった
・・・まちがってねーもん
「・・・やっぱり、芸術は爆発なんだな、うん!」
しばらく震えていたダラーは顔を上気させて喜んでいた
なんだろう、この同士発見とでも言いたそうな目は
・・・そういやダラーってどっかで見たことがあるような・・・
「その芸術家はどこの誰だ?!オイラぜひ会いたいんだ、うん!」
悩んでいる最中に邪魔される
「あー・・・もう(この世界には)いないんだ、ごめんな」
嘘はついてない
「そんな・・・っ
・・・そいつの最期の作品はコンってことになるのか・・・」
意気消沈してぶつぶつと呟きはじめた
こいつ怖いな
「・・・なぁコン、芸術といえば?「爆発です」・・・その通りだ、うん!」
お前は芸術を分かってる!そう肩を叩かれながら叫ばれた
叩かれた拍子に吐血したがごく自然に拭われた
自来也といい、ダラーといい、俺の看護要員はレベルが高いな、うん
おっと、口癖がうつった
・・・うん?口癖?
引っかかる、何かが引っかかる、だが、まさか・・・
「よし、オイラもこうしちゃいられない、誰にも負けないアートを作り出してやるぜ
勿論、コンに負けないぐらいのだ、うん!」
笑いながらポニーテールを結い直し、丁髷にしたダラー
・・・段々と記憶の中にある人物を彷彿とさせるような・・・
「コンだから教えてやるよ、オイラの本名はデイダラだ
覚えておきな、いつか爆発の芸術家として名を上げてやるからな、うん!」
・・・それからの会話は、良く覚えていない
混乱した頭で旅の無事を祈って別れた
デイダラと商隊が去って行った方角から、爆発音が聞こえてきた気もするが無視だ
港町へ至る街道を歩きながら頭を抱える
「・・・だって金髪じゃなくて黒髪だったから・・・」
誰に聞かせるわけでもない言い訳を繰り返す
デイダラといえば金髪丁髷だろ?と心の中で呟いた
狐火が頬を撫でてくる
何の慰めにもならなかった
「・・・あっ
一発殴るの忘れてた・・・」
◇
港町へと至る長い街道
足取り軽く等と言えぬ状況に陥っている
俺の後方を歩く覆面の男性、もうじきすぐ傍まで近づくだろう
歩幅の差が恨めしい
足音に気づいたときに振り返ったあの瞬間
肝が冷えるどころではなかった
思わず首に手を当てて、今は消えさった絞め跡をなぞる
後ろを歩く男は暁の角都だった
(何なんだよお前S級犯罪者だろうせめてデイダラみたいに少しは変装しろよふざけんな怖い!)
肩に担いだアタッシュケースがより恐怖を際立たせる
あれか賞金首を換金されたんですね?
走り去りたいが一本道の街道で、まだまだ道が続くこの街道で逃げ切れるわけがないだろう
せめて飛段がいないのが救いだろうか・・・
・・・そういえば湯隠れの里の飛階のおっちゃん、飛段に似てたな・・・
・・・まさか親族か!?
思わず肩が震え、抑えるように両手で抱き締めた
「そう怯えることはない」
声をかけられた
何故話しかけてきてるんだお前は
沈黙は金なりという偉大な言葉を知らないのか!?
汗をかきながら黙っていると悩みだされた
俺のほうが悩みたい
「ふむ・・・そう怖がられると困るな・・・」
困られてもこっちが困りますぅ!
距離を取ろうと早歩きで行くが・・・全く距離は変わらない
何だと言うんだ
「・・・何か御用でしょうか・・・」
「あぁ、少し協力して貰いたくてな
駄賃はやろう」
協力?と聞き返す間もなく、俺は首根っこを引っ掴まれ後方に投げ飛ばされた
衝撃に備えて可能な限り受け身の態勢をとるが、地面ではなく、誰かにぶつかった
あれ?
「うわっ!・・・くそ、ばれたかっ」
茂みに隠れていたゴロツキらしき男たちは刀を抜き、臨戦態勢にはいった
ちなみに多分リーダーであっただろう男はぶつかった拍子に気絶しており、子分たちが必死に揺り起そうとしている
角都は囲まれても悠然と立っており、ゴロツキなど眼中にないようだ
(・・・俺、投げる必要あったか?)
意味のわからない行動に目を白黒させているうちに、角都対ゴロツキ集団は勝敗を決し、あたりは血の海になった
噎せ返るような血の匂いに眉を顰める
いくら自分の血に慣れていると言っても、これだけの血は耐えきれない
気絶から回復したリーダーも復帰してすぐに心臓を貫かれて死亡していた
「・・・ふむ、一文にもならん雑魚め」
返り血を浴びて手帳を確認している
恐らく賞金首について書かれた手帳だろう
「あぁ、悪かったな
ほら、約束の駄賃だ」
立ちあがって近づいた俺にようやく気付いて何かを渡される
・・・飴玉だった
ひとつふたつどころじゃなく、五パックぐらいあった
何故こんな大量にと思い、飴の袋を確認すると賞味期限が今日だった
歩き出しながら話しかける
「・・・食べきれないから?」
肩をすくめ、呆れたように答えられた
「仕事の相方が預けていって、そのまま忘れているみたいなんでな」
飛段のおやつを手に入れてしまった
ジャシン様に呪われないだろうか、心配だ
でも投げ飛ばされただけでこんなに貰うのも悪いな・・・
一度も血を拭ったことのない、新しいタオルを角都に差しだす
「返り血、拭ってください」
「・・・あぁ、頂こう」
飴袋を取り出してからも外套のなかを漁っていたのを見て感づいた
こいつタオル忘れてやがる
予想は正しく、素直にタオルを受け取って返り血を処理し始めた
横目で眺めていると、潮の匂いが辺りを漂い始める
目を凝らせば海から反射する光が見えた
ここからなら、走って町にすぐ入れる
角都に向き姿勢を正して一礼した
「タオルは捨てていただいて構いません、飴ありがとうございました!
失礼します!」
言うが早いが海に向けて走りだす
俺は海が見たいんだ、海は初めてでテンションあがってる子供なんだ
青春少年なんだと自分に言い聞かせて限界まで走る
海だーと叫びつつ走り去る、そう俺はうみんちゅだ!
背中から生温かい眼差しを感じたが決して振り返ることはなかった
町に入り、茶屋でトイレを借りた瞬間、今までにない量を吐血して死にかけた
◇後日◇
「飛段、お前の飴は処分したからな」
「飴?んなもん渡してたっけ?」
「・・・やっぱり忘れていたか」
「んー?まぁいいけどよォ・・・処分って捨てたのか?珍しいな」
「いや、海が好きな子供にやった」
「・・・?ところでそいつらは?」
「子供が近くにいたから、攻撃を仕掛けることのできなかったヘタレ共の死体だ」
「・・・子供?」
「あぁ子供だ」
「そっかー子供かー」
「海が大好きなんだ」
「お前が?」
「違う」
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