万華鏡
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第六話 ゴールデンウィークその五
「上杉謙信もね」
「三人共だったのね」
「そうよ。そうした趣味もあったのよ」
上杉謙信は特にだった。女色を断っていたから男色しかなかったのだ。
「平安時代にはそれを日記に書いたお公家さんもいたし」
「自分の同性愛のことを?」
「そうよ、日記につけてたのよ」
「それって自分がそうした人だって自白してるじゃない」
ホモやゲイ、そうした言葉に当てはまる人間だということをだというのだ。
「何ていうかそれって」
「勿論鎌倉時代も室町時代も江戸時代もね」
「そういうのが普通だったのね」
「新撰組でもあったから」
幕末に勇名を馳せた壬生狼達の間にもそれはあった。
「で、土方歳三も最期の方はお稚児さんを置いていたのよ」
「ううん、日本って何か」
「そういう習慣は普通なのよ」
「普通なのね」
「今じゃ多少少なくなったけれどね」
だがそれでもだというのだ。
「今も法律で禁じられていないし」
「いいっていうのね」
「本当に琴乃ちゃんもやってみる?」
母は楽しそうに娘に提案する。
「そうしてみる?」
「遠慮するわ」
琴乃はやや憮然とした顔で答えた。
「そういう趣味はないから」
「あくまで男の子なのね」
「そっちには興味があるけれどね」
「何だ。じゃあ普通にお泊り会をして」
「私の方も他の娘達のところに行くから」
そのお泊り会にだというのだ。
「そうしていいわよね」
「いいわよ。楽しんできなさい」
優しく笑って娘に告げた。
「思う存分ね」
「そうさせてもらうね。それにしてもね」
「それにしてもって?」
「琴乃ちゃん今の部活に入ってよかったわね」
この場でようやく出て来たまともな言葉だった。少なくとも今までのものは母親としてはどうかというものだったのは否定できない。
「いい部活みたいね」
「そうね。皆いい娘で」
「どんな素晴らしいことをする部活でも人が悪いとね」
「駄目なのね」
「そうよ。それでね」
駄目になるというのだ。
「大切なのは人だから」
「部員とか顧問の先生とか」
「そう。人が悪いとどんな素晴らしいことでも駄目になるのよ」
こう娘に言う母だった。
「人によってね」
「じゃあバンドも」
「性格が悪い人と一緒に組みたいかしら」
「そう言われると」
「駄目でしょ?やっぱり」
「うん。これまでそういう子とも会ってきたけれど」
琴乃は中学の時を思い出していた。一年の時の男子のクラスメイトだ。
非常に吝嗇で底意地が悪く弱いもの虐めが好きで強いいじめっ子や先輩にはへらへらとへつらっていた。自分はさぼっていても他人は怒る、そういう人間だった。
当然クラス、いや学年の嫌われ者だった。その彼を思い出して言うのだ。
「絶対にもう二度と会いたくないわ」
「組む以前の問題っていうのね」
「ええ、本当にね」
その彼のことを思い出して顰めさせた顔での言葉だった。
「会いたくもないわ」
「そうした人がいる部活もね」
「いたくないわ」
そのクラスメイトは当然ながら部活でも徹底低に嫌われていた。出席簿を勝手に書き換える様なこともしたからだ。
「蛇や蠍と一緒にいる様なものよ」
「蛇蝎ね」
「ええ、そのままよ」
とにかくその域まで嫌われていたのだ。
「本当に一年だけで済んで」
「ああ、その子ね」
彼のことは母も知っていた。琴乃が家でいつも嫌いだと言っていたからだ。
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