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万華鏡

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第五話 豚骨ラーメンその十五


 だからだ。母も言うのだった。
「それでもなの?」
「あっ、それは」
「お料理の外見はいいとして」
 自分の娘のことだからこのことも当然知っていた。
「朝、弱いわよね」
「それはそうだけれど」
「朝御飯作るんだったらしゃきっと起きて」
 母は言う。
「それから作らないと駄目なのよ」
「ううん。じゃあ朝早く起きてすぐとかは」
「寝起きがよかったらね」
 それならばだというのだ。
「目玉焼きでもサラダでもいいけれど」
「簡単なメニューでもなの」
「そう。はっきりと起きてね」
 そうしてだというのだ。
「お料理できる?」
「ううん、朝は」
 そう言われるとだった。琴乃は急に弱い感じになった。
 それで母にこう言った。
「ちょっとね」
「難しいわよね」
「御免なさい」
「謝らなくいいわ」
 それはいいと言う母だった。
「別にね」
「いいの?」
「ええ、謝ることじゃないから」
 だからだというのだ。
「それに朝御飯を作るのはお母さんの仕事だから」
「お母さんの仕事だったの」
「そうよ。朝御飯はね」
 こう琴乃に話すのだった。
「だからいいのよ」
「お母さんの仕事って」
「朝御飯から一日がはじまるでしょ」
「ええ」
 これはその通りだった。特に琴乃は朝御飯を食べないと動けない方だ。だからこそ余計に母の今の言葉には頷くものがあった。
「それはね」
「だからよ。朝御飯を食べて皆に元気を出してもらうのが」
「お母さんの仕事なの」
「琴乃ちゃんを起こすのもね」
 それもだというのだ。にこりと笑って。
「それもお母さんのお仕事よ」
「だから朝はいいの」
「琴乃ちゃんがまだお母さんにならないうちはね」
「じゃあ私がお母さんになったら」
「その時はね」
「朝御飯作るのね」
「ええ、そうしてね」
 こう娘に笑顔で話す。
「是非ね」
「じゃあ今はしなくていいのね」
「寝ていていいのよ」
 その寝坊屋の琴乃への言葉あ。
「まだね」
「じゃあそうしていていいのね」
「ゆっくり寝ていてね」
「私がお母さんになってから」 
 琴乃は母の今の言葉を心の中で反芻した。それと共に独り言の様に言葉としても出す。
「それからなのね」
「今から練習するのはいいことだけれどね」
「練習ね」
「そう、練習」
 それをすればいいというのだ。
「それはいいことよ」
「じゃあお昼とかは」
「やってね。お母さんも助かるし」
「そうするね。時間がある限り」
「お料理は作れば作るだけよくなるし」
「お料理もなの」
 里香が言ったことを母も言った。料理もまた作れば作るだけ上手になるものだと。
「作れば作るだけなの」
「上手になるのよ」
「見栄えもよくなっていくのね」
「そうよ」
 まさにその通りだというのだ。
「作るだけいいのよ」
「練習ってことなの」
「簡単に言えばそうよ。何でもね」
 料理だけではないとだ。母もこう言うのだった。
「やり込めばやり込むだけいいから」
「じゃあ私もお料理をしていけば」
「味はもう充分だから」
 外見は悪いが肝心のそれはもうできているというのだ。
「後はね」8
「見栄えだけなのね」
「そこを頑張ってね。これからはね」
「うん、それじゃあね」
 琴乃は微笑んで母の言葉に頷いた。琴乃は経験、そして練習というものの大事さも学んでいた。高校生活において。


第五話   完


                   2012・8・13 
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