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万華鏡

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第十二話 来てくれた人その十五


「元にあったものを忘れてしまっています」
「元のっていいますと」
「私達です」
 こう琴乃に話す。
「忘れられています」
「そうなのですか」
「悲しいことです」
「私達がですか」
「しかしこの国は違います。嬉しいことに」
 聡美の話が変わった。悲しいものから微笑みになり。
 そのうえでこうも言ったのだった。
「私達も充分にいていられるので」
「有り難いんですね」
「だからそこやって頂けるんですね」
「そうさせてもらいます」
 こうした話をしてだった。五人は流鏑馬のもう一人の候補者が決まったことを素直に喜ぶのだった。景子は自分の部屋で琴乃達と共に柿ピーナツと一緒に焼酎を飲みながら笑顔でこうしたことを言ったのだった。
「ハッピーエンドね」
「決まったからよね」
「うん、だからよ」
 まさにその通りだと琴乃にも答える。
「いや、よかったわ」
 焼酎を飲みながら車座で五人いる。その中での言葉だった。
「本当にね」
「そうよね。まさかギリシア人とは思わなかったけれど」
「ええ。けれどあの人って」
 だが景子はここでこうも言った。
「日本語上手よね」
「そういえばね」
「そうでしょ。上手でしょ」
「日本人と同じ位ね」
 こう言う琴乃だった。
「漢字だって書けるわよね」
「普通にね」
「それって確かに」
 琴乃は外国人が苦手としやすいそれもできていると聞いてそのうえで確かな声でこう景子に対して言った。
「凄いわ」
「何か日本文化にも凄く詳しいし」
「確か大学国文科よね」
「八条大学文学部のね」
 そこだというのだ。
「そこに留学されてるのよ」
「それじゃあ当然なんじゃ」
「そう思うけれど幾ら何でも」 
 景子は首を捻ってこうも言った。
「過ぎるっていうかね」
「日本語も上手で」
「日本文化も詳しくて」
「ギリシア人とは思えない位なのね」
「そうなの。何かそこが気になるのよね」
「それは特におかしくないんじゃないかしら」
 いぶかしむ二人に里香が言ってきた。
「別に」
「そうかしら」
「だって。お父さんかお母さんが日本人らしいから」
 だからだというのだ。
「特にね」
「不思議じゃないのね」
「これで日本文化以外だと不思議だけれど」 
 里香はその場合だと話す。
「日本だと銀月さんの場合はね」
「ううん、そうなのね」
「そう。普通よ」
「確かに。ハーフなら」
「確かに日本語かなり上手だけれど」
 このことは里香も否定でいない。
「それでもね」
「お父さんかお母さんが日本人なら」
「そう。子供の頃から教えてもらってるでしょうし」
 それなら特にだというのだ。
「だからね。じゃあね」
「そういうことなのね」
「そう。じゃあね」
「それじゃあ?」
「飲もう」
 里香はにこりとして自分が持っているコップの中の焼酎を一口飲んだ。氷割りの黒蜜の焼酎である。これは五人共同じである。
「今はね」
「飲むのに専念?」
「そうしようっていうの?」
「何かこの焼酎ってね」
 里香はにこにことして飲みながら言う。
「凄く美味しいしね」
「そういえばそうね」
 景子も一口飲んでから答える。
「この焼酎ってかなり」
「そう。銀月さんのことをあれこれ詮索しても仕方ないし」 
 プライベートのそうしたことはだというのだ。
「だからね」
「ここは飲むべきなのね」
「美味しいし。ただ」
「ただって?」
「景子ちゃんって飲む時いつも何をおつまみにしてるの?」
「何って。こういうのだけれど」
 目の前に置かれている柿ピーを見ての言葉だ。
「だからね」
「これなのね」
「普通でしょ」
「ええ。ただね」
「ただって?」
「身体にいいのはね」
 里香はここでも健康を念頭に置いて語る。
「ドライフルーツとかね」
「柿ピーよりもなの」
「そうなの。ピーナッツも確かに悪くないけれど」
「ドライフルーツなの」
「バナナとかね。あとナッツね」
「あっ、胡桃はよく食べるから」
 酒のつまみにしているというのだ。
「そっちはね」
「だといいけれど」
「けれどバナナとかは」
 つまみにしたことがないというのだ。
「いいのね」
「美味しいし身体にもいいから」
「わかったわ。じゃあ今度ね」
「うん、おつまみしてみて」
「そうするわね。それにしても本当に」
 景子はその黒蜜の焼酎を飲みながら笑顔で言う。
「この焼酎本当に美味しいわね」
「幾らでも飲めるって感じよね」
「そうよね」
 他の三人も笑顔でその焼酎を飲んでいく。女五人で飲む酒は非常に美味いものだった。一人で飲むとはまた別の美味しさがそこにはあった。


第十二話   完


                 2012・10・17 
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