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万華鏡

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第十話 五月その七


 それで母もこう彼女に言うのだ。
「そこがね」
「問題なのね」
「どうせなら音楽の先生目指さない?」
 その微笑みで娘に言う。
「リズム感もあるから」
「音楽の先生に」
「ピアノとか弾けるかしら」
「キーボードよね」
「あれはピアノが元になってるから」
「ううん、里香ちゃんはピアノ出来るけれど」 
 しかし琴乃はそれはしたことがない。バンドにおいてキーボードはあくまで里香のものである。
「私は」
「したことないわよね」
「というか私がピアノって」
 首をしきりに捻りさえして言う琴乃だった。
「ぴんとこないわね」
「けれど音楽の先生になるなわピアノは必須よ」
「絶対?」
「そう、絶対」
 そこまで至るものだというのだ。
「できないといけないのよ」
「そう言われると」 
 琴乃は難しい顔になって母に話した。
「ちょっとね」
「なりたくない?音楽の先生には」
「やっぱり体育の先生の方が」
 合っているというのだ。
「どうしてもそう思うけれど」
「じゃあ体育会系の部活じゃないと」
「掛け持ちするとか?」
「それ出来る?」
「ちょっと無理かも」 
 琴乃は部活に入ったからには熱心にやるタイプだ。それも掛け持ちよりも一つのことに熱中する傾向がある、それを考えるとだった。
「私的にはね」
「じゃあちょっとね」
「他の教科とかは」
「国語とか英語とか?」
「そういうの?」
「琴乃ちゃんの普通の科目の成績はそこまで悪くないけれど」
 それでもだと言う母だった。
「それでもね」
「体育程にはね」
「あまり得意じゃないでしょ」
「あそこまではいかないわ」
 自分でもこう言う。
「どの教科もね」
「そうでしょ。だからお母さんも勧めないから」
 母もこう言う。
「やっぱり琴乃ちゃんはね」
「先生になるなら、よね」
「体育の先生が一番いいと思うわ」
「ううん、難しいわね」
「あっ、けれど」
 ここでまた言う母だった。
「琴乃ちゃん運動神経とリズム感もあるから」
「だから?」
「そう。ダンスとかはどうかしら」
 母が今言うのはこれだった。
「あれもスポーツだからね」
「ダンスね」
「バンドでもするでしょ」
「ホップダンス程じゃないけれど」
 琴乃達のグループでは琴乃はメインヴォーカルということもありそれなりに動く。結構カロリーも消耗している。
「毎日カロリー消耗してるわ」
「だったらね」
「ダンスからなの」
「そう、なってみたらどうかしら」
 その体育教師にだというのだ。
「面白いんじゃないかしら」
「ううん、そうね」
 琴乃は母の話を聞いて考える顔になって述べた。
「まあとにかくね」
「とにかくって?」
「何でもまずはね」
 どうするかというのだ。 
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