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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~

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#16 "to be the man,to beat the man"

 
前書き
坊やだからさ。



ー キャスバル・レム・ダイクン ー







 

 
Side ロック

固く固く瞳を閉じる。
頭には何も思い浮かばない。こういうものなんだな。
やっぱり映画やドラマなんかとは違う。走馬灯なんて見えやしない。ただただ瞼の裏の真っ黒なそれが拡がるだけ。家族の顔も思い出さない俺は……

「ぐがっ!」

いっ痛てえええ……
な?なんだぁぁ………
頭のてっぺんに強烈な痛みを感じて、両手で頭を抱え込んで思わずしゃがみこむ。 う、う、う……な、何が起こったんだ?お、俺、殴られたの?

「おら、目え覚めたか?あんま好き放題言ってると、次は本当に撃っちまうぞ」

涙目になりながら声の主を見上げる。
レヴィは何だかニヤニヤ笑いながら手の中で、銃をくるくると回してる。
もしかして銃のグリップで殴ったの?
矢鱈固いもので殴られた気がしたんだけど。

「ロックぅ、お前勘違いしてねえか?」

頭の上からレヴィの声が降りかかる。俺はしゃがみこんだまま言われた言葉の意味を考えた。勘違い?何が……

「アタシに喧嘩売りゃあ一人前になれる、とでも思ったのか。
そうすりゃあ自分が変われるとでも。
この馬鹿が。安易にキレてんじゃねえよ。命ってやつは一つしかねえんだぜ」

まだ痛む頭を(さす)りながら何とか立ち上がる。
レヴィはいつの間にか銃をホルスターにしまっていた。腕組みしながら俺を見てるレヴィの顔には笑いが張り付いている。

「え、えっと、なんで、その」

舌が上手く回らない。言いたい事が出てこない。
いや、それ以前に言いたい事が頭の中で整理出来てない。ああ、何言えばいいんだ?

「これに懲りたら自分の身の程ってやつをちったあ弁えな。結局残る事にすんだろ、この街に。
アタシみてえな優しい奴ばっかじゃねえんだぞ、ここは。
啖呵切るのも相手見てやんねえとな。馬鹿な真似も程々にしねえと、簡単におっ死ぬぜ」

死ぬ。

その単語を聞いて今更ながらに身体が震え出してくる。
俺、死んでたかもしれないんだよな。
目は自然とレヴィの腋にぶら下がっているホルスターに包まれたままの銃へ向かう。
なんで撃たれなかったんだ、俺………

「ほれ、もう行くぜ。
いつまでもこんなシケたとこにいてもしょうがねえだろう。腹も減っちまったし、昼飯食いに行くぞ。
ゼロのやつも戻ってきてたら、アイツに奢らせるか。あの野郎には貸しが出来たからな」

レヴィはそう言って俺の横を通りすぎていく。
足取りは軽く何だかやけに楽しそうだ。
呆然とそれを見送っていた俺が、彼女の背中に声を掛ける事が出来たのは彼女との距離が数mは離れてからだった。

「あ、あの、レヴィ!
何で俺の事を撃たなかったの?
俺、君にあれだけ言ってしまって……
君のせいなんかじゃないのに。俺、自分の弱さを君にぶつけただけなのに。それなのに、なんで、なんで?」

俺の言葉を受け彼女は立ち止まってくれはした。が、此方を振り返りはしなかった。
左手を腰に当て右手で頭を掻いてる様子から察するに返答を考えてくれてはいるようだ。 俺は彼女の後姿を見ながら答えを待った。
風が俺達二人の間を吹き抜けていく。すっかり冷えきった身体にはその風がやけに冷たく感じられた。

「あのな、ロック。
あんたが言ったのも少しは当たってるんだ。アタシだっていつもいつも自分が正しいって 自信満々に振る舞ってるわけじゃねえ。やっぱり迷う時だってあるんだよ」

レヴィは漸く語り出した。背中を向けたまま。俺に顔を見せないまま。

「今回も迷ったよ。
あんたに銃を向けるかどうか。撃つか撃たないかじゃあねえ。"向けるか、向けないか"だ。
向ける必要なんてないと思ってた。
第一あの野郎だって言ったんだ。撃つつもりもないくせに銃を向ける奴は最低だって。
それなのになんでこんな事させるのか、本当にアイツの考える事はわかんねえよ」

レヴィの話は俺には意味の分からないものだった。
ただ話の中に出てくる"アイツ"というのがゼロの事を指しているのは分かった。

ゼロ。

また、お前が何かやったのか?

「けどまあ、悪くはなかったんじゃねえかって思うよ。
あんたの本音ってやつも聞けたしな。序でにあんたがどんだけ馬鹿かってのも分かったし、それなりに楽しめたしね。
ロック、忘れんなよ。
銃を向けられるってのがどういう事か。
人間なんて指がちょいと動くだけで、簡単に黙らされちまうんだぜ。
覚えときな。
あんたがこの街に残ると決めたなら、アタシらの仲間でいると決めたなら。
守ってやるさ。例え誰が相手でもな。
けどな、あんたが今回みたいな無茶したらさすがに守りきれねえ。結局テメエのケツはテメエで拭けって事さ」

じゃあ、後でな。
最後にそう言ってレヴィは去っていった。右手を軽く振りながら。俺の方を一度も見る事なく。

「………」

俺は何も言えなかった。彼女の背中が小さくなっていくのをただ突っ立って見ている事しか出来なかった。
当たり前だ。
彼女には俺の言葉なんて届いてない。
届かない言葉なんていくらぶつけても、虚しいだけだ。俺は………

「………ょう」

身体が冷たさとは違う理由で震え出す。両の拳に力がこもる。口の中に苦い味が広がる。 瞼を閉じると視界が真っ赤に染まる。

「………くしょう……ちくしょう…ちくしょう!!」

地面に向かって思い切り言葉を吐き出す。
悔しかった。悔しかった。ひたすらに悔しかった。

「ちくしょう!ゼロォォォォォォ!!」

アイツかよ。結局アイツかよ。
俺が必死になって話したのに。すげえ怖い思いまでしたのに。レヴィが見てんのはアイツかよ。俺の"本気"はレヴィに届いてないのかよ。

俺は……

俺は………




















Side ゼロ

「よう」

車のドアにもたれて待っていたら、レヴィが一人で戻ってきた。
彼女の後ろにはロックはついて来ていない。アイツ何か余計な事でも言ったかな。

「ほれ、返すぜ」

レヴィの背後の空間から彼女の顔に視線を戻すと、ベレッタを投げて寄越してきた。
黙ったまま左手で受け取りながら、心の中で呟く。
『全く、危ないな。いくら"弾が入ってない"とはいえ、銃は慎重に扱ってもらいたいものだ』

レヴィは一度俺を見てニヤリと笑うと、後部座席のドアを開けて乗り込んだ。
今回のは貸しだ、ってところか。事前に相談しておいても良かったかな……

ベレッタをズボンのポケットに押し込んで街の雑踏を眺める。

アイツはこの街に残る事を選んだ。自分の意志で。
だったら俺がどうこう言うべきじゃあない。この先に何を見る事になったとしても、 アイツならそれを受け止められるだろう。
………レヴィもいるしな。余計なお節介もここまでにした方がいいかもしれん。

アイツは"ロック"なんだ。

俺とは違う。誰かに守られなきゃいけない程、弱くはないはずだ。今まではどこか不安定だったが、もう大丈夫だろう。そろそろ俺も自分の事を考えていかないとな。

レヴィが歩いて来た方向に目を遣るが、ロックの姿はまだ見えない。

なら、待つだけだ。アイツが来るまでな。

俺は待ち続けた。ロックが来るまで。俺にはそれしか出来なかったから……… 
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