【完結】剣製の魔法少女戦記
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第一章 無印編
第一話 『異世界。溶かされる心』
前書き
とりあえず二話目を投稿します。
Side シホ・E・シュバインオーグ
目を覚ますと私の目に最初に映ったのは知らない天井だった。
まるであの大火災にあった後、目を覚ましたときの光景に少し似ていた。
だが一つ違うとすれば私にはしっかりとつい先ほどの記憶があるしなによりここは病室というより懐かしい我が家を思い浮かべられる天井だった。
それで私はしばらくボーッとしていたらガラッと襖が開く音がしたのでそちらに向いた。
そしたらそこには大人、子供合わせて5人ほどの人が(おそらく家族だろうか?)私が起きているのにびっくりしているのか目を大きく見開いていた。
「あ、あの…」
とりあえずなにか話そうと思って口を聞こうとした途端、いきなり喜びの声が一斉に上がった。
うん、一ついえることは…私はこちらの世界でいきなりなにかをしたのだろうという漠然な感想だった。
それであちらはどうやら私の事が気になっているらしいが何故か話しかけてこない。
それを不思議に思い、少しして私は今はもう“衛宮士郎”の外見ではなくイリヤの体を持った“シホ・E・シュバインオーグ”という少女になっていたのだ。
しかもどうみても私の容姿は外国人。もしかして英語で通じないと思っているかもしれない。
だから、まずこちらから接触してみることにした。
「あの、私日本語は分かるから大丈夫ですよ?」
すると案の定といった感じで全員からほっと息が出ていた。
「それでなぜ私が寝かされていたのかわからないんですけど、とりあえず助けてくださってありがとうございます」
「えっと、君はなにがあったのか覚えていないのかい?」
この中でおそらく父親だろう人が最初に話しかけてきたので、
「…はい。あ、紹介が遅れました。私の名前はエミッ………シホ・E・シュバインオーグっていいます。長いのでシホだけで構いません」
「シホちゃんか。私は高町士郎。この家では父親をしているんだよ」
一瞬、名前が以前の私の名と同じということに驚いたが偶然だと思い顔には出さずに「士郎さんですか、よろしくお願いします」と応えておいた。
そして続けざまに次は栗色の髪の女性の人が話しかけてきた。
「私の名前は高町桃子よ。よろしくね、シホちゃん。ちなみに私の横にいる男の子と女の子が私の息子の恭也、娘の美由希。最後にシホちゃんと同い年くらいの子がなのはっていうのよ」
「え…桃子さんが母親だったんですか? てっきり一番上のお姉さんかと思っていたんですけど…」
「あら、嬉しいわ。お世辞でもありがとね」
「いえ、そんな事はないんですけど…」
「そうだぞ。桃子はいつまで立っても昔と変わらないからな」
「うんうん、お母さんは若いよね恭ちゃん?」
「そうだな。なのはもそう思うだろう?」
「うん!」
あ、なんか家族団欒な雰囲気になってしまった。
どうにも話しかけづらい…。
しかしそのことをすぐに察したのか桃子さんが改めて私に話しかけてきた。
「それで、シホちゃん。ちょっと質問してもいいかな?」
「はい。私がわかる範囲でなら…」
「それじゃシホちゃんはどうして森の中で泥だらけで転がっていたのかな?」
「えっ…?」
…森の中?
…泥だらけ?
一体どういうことだろうか?
ここは無難に記憶がないということにしておこう。
◆◇―――――――――◇◆
Side 高町なのは
名前はシホちゃんっていうんだ。
可愛い名前だなぁ。
姿もなんかアリサちゃんに似ているけど髪色は煌めくような緋色で目が琥珀色でとにかく綺麗で…それに名前からして高貴で清楚なお嬢様って雰囲気がある。
でもどうしてだろう?
この子の目を見ているととても孤独そうな雰囲気まで感じちゃう。
そしてお母さんが、
「それじゃシホちゃんはどうして森の中で泥だらけで転がっていたのかな?」
「えっ…?」
疑問顔を浮かべたシホちゃんを見た途端、さっきの不安感が増した。
…なにかあったのかな?
とっても深刻そうな顔をしているけど。
しばらくしてシホちゃんは口を開いて、
「…わかりません。どうして私は森の中にいたんですか? どういった感じだったか教えてくれませんか?」
「うーん…そうだね。それじゃ質問を変えるけどシホちゃんは…、その、親家族とかはいるかな?」
お父さんがなにか言いにくそうにしてそういったけど、私はどうしてかその先が聞きたいって気持ちは浮かばなかった。
でも時間は止まってくれるわけなくてシホちゃんは現実をそのまま口にしてしまった。
「私の家族は…今はもう誰もいません」
「…ッ!」
やっとわかった。さっきの孤独そうな雰囲気の意味が…
そう思ったときには私はいつの間にか客間を飛び出していた。
みんなの…特にシホちゃんの声が耳に響いてきたけど今はもう耐えられなかった。
◆◇―――――――――◇◆
Side シホ・E・シュバインオーグ
返答を間違えちゃったわね。
なのはちゃんには少し重い話だったかもしれない。
それでなのはちゃんを追おうと思って立ち上がったのはいいんだけれど、どうにも足に力が入らなかったらしくそのまま前に倒れるところを恭也さんがとっさに助けてくれた。
「あ、ありがとうございます。あれ、でもどうして…」
「その様子だと本当になにも覚えていないみたいだね」
「はい…面目ありません」
「気にしなくっていいのよ。それでなのはの事なんだけど後で声を掛けてあげて。あの子昔ちょっとあって感受性が豊かなのよ」
桃子さんがそう言ったのでしかたなく私は頷いた。
でも、なのはちゃんがいなくなってくれたおかげで少し話しやすくなった。
「それで、本当の事を教えてくれませんか? 私は、本当はただ山で転がっていたわけではないんですよね? 今の会話でわかったんですがこれはただの疲労だけじゃないと思うんです」
「…それはどうしてだい?」
士郎さんが用心深い感じに聞いてくるので一か八か言ってみることにする。
外れていればごまかせば言いし、もし当たっていればそれこそ私も覚悟を決めなくてはいけない。
こんなことに使いたくないけれど、
「私が目覚めた時に桃子さんとなのはちゃんからはなにも感じなかったんですけど…士郎さん、恭也さん、美由希さんからはなにかをしようとする予備動作が常に感じられたからです。
まるでいつでも私に仕掛ける事ができるような微妙な雰囲気が…」
「「「!!」」」
「えっ…?」
桃子さんは本当に分かっていないみたいね。だとすれば黒は三人…。
「美由希…桃子を」
「うん…」
士郎さんの指示で美由希さんがとっさに桃子さんを部屋から逃がそうとしたけど、
今この部屋は私の―――イリヤの知識だけれど―――結界が張られているためそう簡単に抜け出せないだろう。
思ったとおり美由希さんがドアを開けようとしたが開かなくて焦っていた。
「…無駄ですよ。今この部屋には結界を張らせていただきました」
「「「「!?」」」」
これで私に対する警戒がより一層深まったけど、そろそろこの雰囲気も変えないと三人が持っている隠し刀に牙を向けられるかもしれない。
「…ふぅ、安心してください。別にどうこうしようとかは一切考えていません。ただ、なのはちゃんにはあまり聞かせたくない話でしたからちょうどよかったんです」
私は笑みを浮かべながらさっきまで放っていた睨みの圧力を解いた。
途端、四人とも深いため息をついて息を荒くしていた。
「すみません。手荒な真似をしてしまいまして…できれば話を聞いてくれませんか? そしたら私も話せる限りの事は話しますので」
「それじゃ、君は何者なのかな…?」
「答えてもいいですけど、先に先ほど本当は私がどういう状況だったか教えてくれませんか?」
さて、ここが正念場ね。
◆◇―――――――――◇◆
Side 高町士郎
さて、シホちゃんはなんらかの組織のものではないみたいだけどさっきの威圧感を出せるのだから相当修羅場を潜ってきたのだろう。
結界といったものも私達の理解の範疇外のものだったし…実質今も張られているようだけどね。
「答えてもいいですけど、先に本当は私がどういう状況だったか教えてくれませんか?」
やっぱりそう簡単に吐いてはくれないようだ。
これは正直に話した方がよさそうだな。
「本当は覚えていないなら覚えていないでそのまま忘れておいてほしかったんだけどね…実は君は空から降ってきたんだよ」
「降ってきた…?」
「うん。私達はある流派を持っている家でね。
ちょうど恭也、美由希と三人とで裏山で修行していたところに、空が急に七色に光りだしてね。
それが収まったと思ったら君が50メートルくらいかな? …それくらいの場所に浮いていて、そのまま一気に落ちてきたんだ。
それでなんとか受け止めようと走ったが間に合わずに君は地面に思いっきり叩きつけられちゃって正直あの時は間に合わなかった…という後悔が頭を過ぎったよ」
「そうだね。私もシホちゃんの惨状を見たときは思わず目を逸らしちゃったから…」
「美由希は俺の胸で思いっきり泣いていたもんな」
「恭ちゃんも凄い顔で硬直していたでしょ!?」
「こら、二人ともやめなさい! シホちゃんの話が聞けないでしょ!」
桃子が二人を叱ってすぐに二人は静かになった。
もういいかと思ったらしきシホちゃんまた話を再会してきた。
「それで傷はどんな感じだったんですか…?」
「うん、そうだね。頭部は奇跡的に無事だったんだけど、まず両手足が複雑骨折で私達のツテの病院で見てもらったところ胸の骨にもかなりひびが入っていて非常に危険な状態だったんだよ」
「自分のことながらよく私無事でしたね…」
「まったくだ…それでかなり危険な状態だったのは確かだった。
だけど、病室で突然窓の外から謎の光が降り注いできて何事かと思ったけどすぐにその光は止んで、再度体を調べてみてもらったところ外傷どころか中身の骨折すべて治っていたんだよ」
「きっと大師父の仕業かな…?」
「大師父…?」
ここでシホちゃんから興味深い台詞が聞こえてきた。
そしてシホちゃんも「あっ!」という顔になって頬を赤くしていた。
うむ、先ほどまでの冷静さが嘘のようにうろたえだしたね。まるでなのはみたいだ。
◆◇―――――――――◇◆
Side シホ・E・シュバインオーグ
…失敗したな。大師父のことがつい言葉に出てしまった。
まぁ、これくらいならカバーストーリーでどうにかなるかしらね?
私は顔の赤みがまだ抜けていないが、一度咳き込みをしてその場を無かったことにして、
「そうだったんですか。助けてくださってありがとうございます」
「いや、いいんだよ。それに結局は間に合わなかったしね。それでさっきの件もなかったことにしてあげるよ」
「助かります。それじゃ次は私が話しますね。結論から言えば私はこことはまったく違う世界の人間です」
「別世界…?」
「はい。正確には平行世界ともいいますけど…私は元の世界では魔術師というものでした」
「オカルトとかそういったものの類の…?」
「そうですね美由希さん。まぁ近からず遠からず、です…。
私の世界の魔術については余計な手間ですので省きますけど、理由は話せませんがとある事情で魔術師達を統括している魔術協会という場所から追われるはめになってしまって…。
先ほど大師父といった他にも師匠すじにあたる人物達の助けもあって世界を飛ばされて今現在に至ります」
部屋の中は少しばかり静まり返ったが呟くように士郎さんは話をしだした。
「…どういった事情で追われるようになったんだい? それを話してもらえないと信用できない」
「父さん!?」
「なんでわざわざ話したくないことを…」
「そうよあなた!」
抗議の声が上がるが私もそれは納得できる節がある。
だから桃子さん達に「大丈夫です、理由も話さないんじゃ不安ですからね」と言い、
「わかりました。私はこの世界に来る前は魔術を人助けのために使用していました。
ですが協会は私の必要以上の行動が目に余ったらしく追われるはめになってしまったんです。それともう一つは私の魔術が異能だからです。今からそれをお見せしますね」
私は一呼吸置いた後、
「投影開始」
と、もう言いなれた呪文を唱えて士郎さんが脇に差していた小太刀を投影した。
当然士郎さんは自身が差していたものだと勘違いしたらしく懐を探ったがある事に安堵したと同時に戦慄の表情をしていた。
他の三人も理解したらしく同じような表情をしていた。
「そう、皆さんのお思いの通り私の主に使う魔術はモノの複製を作り出す能力です。
それもほぼ真に迫るほどのものを…そしてそれが協会の興味をそそり私はもし捕まったら実験材料にされていたでしょうね。
もしこんな能力が解明されれば世界に喧嘩できるほどの脅威ともなるでしょうし…だから私は師匠達の進めもあり世界から姿を消しました。これでいいですか?」
できるだけ無表情でそう言ったが私は内心複雑の極みだった。
イリヤの想いにも気づいてやれずに目先に捕らわれてしまった為にどれだけ悲しませただろうか?
そしてリン、桜、藤ねぇ、バゼット、カレン、一成、美綴…他にもたくさんの人たちが何度も私に声を掛けてくれたのに私はそれを振り払ってしまったのか。
………どうして、それらすべてに気づけなかったのだろう。
◆◇―――――――――◇◆
Side 高町桃子
シホちゃんは無表情で淡々とまるで機械のように最後まで話しきった。
その瞳には感情は見られなかった。
それが私にはとても悲しいものに見えた。
でも………気づいてしまった。
いや、早く気づくべきだったというのかしら。
シホちゃんの拳からはすでにかなりの血が隙間から零れ落ちていると言うことに…。
そして無表情の仮面なのにその瞳からは何度も、そう何度も涙の雫が零れ落ちていた。
気づいた時には私はシホちゃんを両腕で抱きしめていた。
「シホちゃん…もう無理に心を閉じなくていいのよ? 私達はあなたの事をすべて分かるって言うほど偉くないけど、でも無理しているってことだけは分かるのよ!」
「え……私は無理なんかして「それじゃその涙と手の血はなんなの…?」…え? あれ、私…どうして…」
シホちゃん…やっぱり気づいていなかったのね。
そうやっていつも心を殺していかないとやっていけなかったのね。
「泣いていいのよ…? シホちゃんはもう十分頑張ったからいっぱい泣いてもいいのよ?」
「いえ、私は泣くことなんて出来ないんです…今までも私の全てを救いたいって言う我侭な理由で置いてきてしまった人達の為にも…もう、今更気づいても償いすら出来ない」
「それじゃまたやり直せばいいじゃない…? あなたにはその資格があるのよ?」
「あるんでしょうか…? こんな、人でなしな私に…」
「あるからあなたの師匠さん達にこの世界に飛ばされてきたんでしょ?」
「あっ………はい、私…大事な親友に…大師父に………義姉に……幸せに、って……幸せに…う、ぐぅ……っう…!」
シホちゃんはそれから声を殺しながらも静かに泣き出していた。
それでも、その涙は綺麗なモノだって私は思えたわ。
「…決めたわ。あなた、それに恭也に美由希。私、この子の…シホちゃんの親になるわ」
「…母さんが決めたんなら俺はなにもいわないよ」
「うん、私も…シホちゃんのお姉ちゃんになってあげたい…」
「桃子…ありがとう。あんなことを聞いてしまった私は桃子のような言葉はきっと言えなかった」
恭也はとても優しい声で、美由希はもうシホちゃん以上に涙を流して、士郎さんは顔を俯かせながらも目じりに涙を浮かべてそう言ってくれた。
「さぁ、シホちゃん! 今日からあなたは私達の家族よ。だからいつでも頼っていいのよ?」
「は、い…ありがとうございます…桃子さん…」
「ダーメ。私のことはお母さんって呼んで!」
「お母さん…?」
「そう、お母さん」
「で、でも…私今まで…その、母って言うものを知らなくて、どう接したらいいか、わからないです…だからまだ覚悟が決まってからでいいですか?」
「うん…いつでもいいわよ。私はそれまで待っているから…」
「はい…」
―――…やれやれ、一時はどうなるかと思ったぞ、シホ。だがこれからはお主も幸せというもの知るべきだ。じゃからこれはいい機会といってもいいやもしれん。
それにしても、この世界には魔法や魔術を使うものは少ないようじゃの?
あの子も今のシホと比べて下位か同等の魔力を秘めておるのに…もったいないの…
しかし、そうなるとシホはこの世界では神秘をほとんど一人独占できるということかの?
いや、しかし…世界の修正でリミッターがかかっておるかもしれんし、他の力に使われているかもしれん。
まぁ、しばらくは放っておいても大丈夫じゃろ。なにかあればアレが反応することだしな。
…ワシ、少し過保護になったかの?
久しぶりにあの娘に会いに行ってみるか。あっちもあっちで中々苦労しているようじゃしな。
そうして宝石爺はこの世界から“一時だが”姿を消した。
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