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八条学園怪異譚

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プレリュードその十


「けれど神様じゃないから」
「私も愛実ちゃんも」
「完璧じゃないことはわかっておいてね」
「お互いに悪いところがあるのね」
「そう。例えば聖花ちゃんは人を最後まで信じられる?」
「最後までって?」
「例えばだけれど」
 こう前置きしてだ。お母さんは愛実に言うのだった。
「悪いことをした人を許して。何かをしたって噂があって」
「その人のことを?」
「信じられるかしら。最後まで」
「神様は最後まで信じられるの?」
「そう。神様ならね」
 神と言っても唯一ではない。その宗教ごとに存在している。唯一神を信じる宗教もあれば数多くの神が存在している宗教、そして神話もある。
 だが神ならばだとだ。お母さんはまだ小さい聖花にあえて教えるのだった。
「信じられるのよ」
「人は無理なの」
「悪いことをした人が心から謝ったのを受け入れたらね」
 少し遠い目になっていた。そのうえで娘に話していた。
「その時は最後まで信じないと駄目なのよ」
「そうなの」
「そうよ。何があってもね」
 お母さんの言葉は自分にも言っていた。だが聖花はまだそのことに気付かない。
 そのうえでお母さんの話を聞いていく。お母さんもさらに話す。
「信じないと。その人は完全に駄目になってしまうのよ」
「完全に」
「心から謝った人は信じないと駄目なのよ」
「そうなの」
「それがわかるのは。その人を何処まで知っているか」
 そしてだった。
「その人のその時の態度を見てね」
「それでわかるの?」
「わからないと駄目なのよ」 
 お母さんの目は遠いものを見ているままだった。それに加えて悲しいものもあった。かつ寂しい。その目で聖花にお茶を飲む手を止めて話すのだった。
「そのことはね」
「ううん。何か難しいお話で」
「聖花ちゃんにはまだわからないかしら」
「ちょっと。っていうか全然」
 聖花は首を捻ってお母さんに答えた。
「わからないよ」
「そうよね。けれど話しておくから」
「そうしてくれるの?」
「何時かわかるから」
「私にもなの」
「そうよ。わかる時が来るから」
「人は完璧じゃなくて」
 聖花は自分の言われたことを言っていく。自分の口で。
「私も愛実ちゃんも悪いところがあって」
「人は謝っているのを一度受け入れたら最後まで信じないといけないの」
「そうなの」
「そうよ。よく覚えておいてね」
「うん」
 お母さんの言っている言葉の意味は今は全くわからなかった。だが、だった。
 聖花はお母さんの言葉を確かに聞いた。幼いがその言葉は彼女の心、その片隅に何時までも残った。忘れはしてもその中に残ったのである。
 そして愛実もだった。店が休みの時にだ。
 彼女はお父さんと一緒に外を歩いていた。川辺の土手の上、道になっているそこを歩いていた。土手のところからは右手に川と橋、左手には町が見える。愛実達のいる町だ。
 白い道から緑の土手、青い川と様々な色の町を見ながらだ。そのうえでだった。
 お父さんは愛実にだ。こんなことを言った。
「人間ってのはそれぞれだからな」
「それぞれって?」
「そうだぞ。背が高かったり低かったりしてな」
「私は低いから」
 この前それでいじめられたことは今も覚えている。聖花に助けられたことも。 
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