『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』
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第十話
二月二十日、聯合艦隊司令長官の山本五十六大将は海軍省にいた。
「嶋田、何かと苦労をかけるな」
「そう思うなら少しは自重してくれ。一一〇号艦の建造中止と解体で大砲屋からは文句言われているんだ」
山本の言葉に海軍大臣である嶋田大将はそう言った。その言葉に山本は苦笑した。
「大砲屋もまだ就役していないのに戦力と考えているのか?」
「あいつらは陸軍が活躍するのが憎いのだよ。特地での戦闘の殆どは陸軍がしているからな」
「そのために海軍も陸戦隊と工兵隊、航空隊を送っているからな。それにしてもアメリカが此処まで日本に近づくとは思わなかった」
「アメリカの目的はやはり……」
「特地だろうな」
山本はそう断言した。嶋田大臣も頷いている。
「幸いにも北部仏印と大陸からは撤退を始めている。日米関係は取りあえず円満と行くかもしれんが……」
「崩れるのは直ぐかもしれんな」
「……そのために艦艇計画に補助艦艇の増産を主張したのか?」
「その通りだ」
門出現後、山本は艦隊の編成を改めて軽巡や駆逐艦の建造を訴えた。
「戦になれば一番に消耗するのは航空パイロットと駆逐艦だ」
「パイロットは今、全国で育成体制を整えているが、配備するには時間が掛かる」
「軽巡は五千五百トン型が優秀過ぎた。新型を作らねば水雷屋は黙ってない」
「それに空母もだろう?」
「まぁな。だが今はまだアメリカとは戦をしていない。小さいのから生産していくのが妥当だろう。それにブルドーザーの件もある」
「あれは小松が手を上げて試作している。アメリカから百台くれた。特地には二十台送って残りは陸海で半分ずつにした」
「航空基地の増設や防御陣地の構築には役に立つ」
「後はだ……」
「「特地こそが日本の生命線なり」」
二人はハマりあって言って思わず笑いあうのであった。
第三偵察隊は戦力を補充していた。兵士には九九式短小銃であり(樹ら海軍はベ式機関短銃)、九九式軽機関銃は六丁、九八式二十ミリ高射機関砲一丁、九二式歩兵砲二門、四一式山砲一門に増えていた。
これは第三偵察隊だけではなく何処の偵察隊も共通していた。今村司令官は先日のドラゴン対策としていたのだ。
そのため、移動はほぼ九四式六輪自動貨車であり派遣司令部は内地に対して九四式六輪自動貨車の大量生産を具申していた。
また、滑走路や格納庫が漸く完成して航空機による偵察も始まろうとしていた。これも全てアメリカから提供された重機で早めに作り終えたからだ。
航空部隊も九七式司令部偵察機を十六機を特地に送り込んで滑走路が完成する以前から草原をある程度整備して臨時の滑走路を作って偵察飛行に従事していた。
そしてアルヌスから二百キロ圏内でイタリカの街を発見したのである。今村はアルヌスの周辺は元よりイタリカの街までの道の地図を精巧に作らせて侵攻計画の第一作戦を策定するのであった。
「門を出たら戦闘地域って事になってるから各員それなりに気を張ってくれ」
伊丹はそう言って兵士達は九四式六輪自動貨車に乗り込む。
「さて行くか」
そして準備を整えた第三偵察隊は仮設住宅の場所に向かう。
「御願いします」
仮設住宅の場所に到着すると、避難民が採取した翼竜の鱗が入った袋を九四式六輪自動貨車に載せる。
そして第三偵察隊の同乗者としてテュカ、レレイ、ロゥリィの三人が乗り込む。しかしテュカとレレイが伊丹の乗る自動貨車に乗るのに対してロゥリィは樹が乗り込む自動貨車に乗ったのである。
「よかったな摂津」
伊丹がニヤニヤしながらそう言ってきたので樹はそれを無視して自動貨車に乗り込む。
「中尉、イタリカって何処ですかね?」
「そういや知らんな。ま、後ろからついていけば分かるだろ」
片瀬の質問に樹はそう答えるのであり、第三偵察隊は同乗者達を乗せて出発するのだった。
「……む?」
その時、自動貨車の荷台から前方に顔を出して双眼鏡でイタリカの方向を見ていたヒルダが声をあげた。
「どうしたヒルダ?」
「イタリカの方向に黒い煙が出ている。あれは……火事かもしれないな」
ヒルダは樹にそう報告する。
『全車に告ぐ、周辺と対空警戒だ。慎重に接近する』
その時、無線から伊丹の指令が届いた。
「片瀬、前と速度を合わせろ」
「了解です」
樹が乗る自動貨車は減速してゆっくりと走行する。後ろの席にいたロゥリィがにょきっと片瀬と樹の間から顔を出す。
「どうしたロゥリィ?」
「血の匂い♪」
ロゥリィは嬉しそうに言う。ロゥリィの喜び顔に樹は若干の溜め息を吐いた。
「……嫌な予感がするな。ヒルダ、イタリカがどんな街か知ってるか?」
樹はそう思いつつヒルダに聞いた。
「あぁ、イタリカはフォルマル伯爵領でテッサリア街道とアッピア街道の交点に発展した交易都市だ。確か今の当主はミュイとかいう少女だ。前当主が急死して十一歳にして当主になっている」
ヒルダはそう説明する。水野はふぇ~と驚いている。
「十一歳で当主か……俺ら言えば小学生なのにな……」
「仕方ない、此処は日本じゃなくて特地だからな」
樹はそう言った。第三偵察隊は慎重にゆっくりとイタリカへ走行していた。
後書き
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