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髑髏天使

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第三十四話 祖父その三


「それはそうだな」
「大阪久し振りだし」
 未久の顔が笑ってきていた。
「楽しみよ。お爺ちゃん元気かしら」
「元気だ」
 一言で返した牧村だった。
「昨日電話したがな。元気だった」
「そう。だったらいいけれど」
「しかし御前も一緒だとは行っていない」
「それはなの」
「夏休みの初日から行くとはな」
「悪い?」
「悪いとは言っていない」
 それはないという。ここでもこうした言葉になっている。
「悪くはないがだ」
「それでも?」
「話していないで来るから向こうは驚くだろうな」
「いいのよ、それが面白いんだから」
 兄の言葉に顔を崩して笑っての言葉だった。
「サプライズがね。面白いのよ」
「悪趣味だな」
「そうかしら」
「人を驚かせて喜ぶのは悪趣味だ」
 まさにそうだというのである。
「そう言う他ない」
「そういうものかしら」
「そうだ。それにしてもだ」
「今度はどうしたの?」
「父さんも母さんもよく許したものだ」
 今度はこうした言葉になっていた。
「全くな。今朝言い出してそれをあっさりと許すとはな」
「いいじゃない。孫がお爺ちゃんの家に行くのよ。いいことじゃない」
「いいことか」
「そうよ、いいことよ」
 こうしれっとして言うのである。
「顔を見せるだけでもね」
「部活はいいのか」
「部活お休みなのよ」
 それについての心配はないという。そして他のこともである。
「塾もね。お休みなのよ」
「夏休みなのにか」
「どっちも夏休みに入ってすぐは休みなのよ。都合のいいことにね」
「全くだな。都合のいい話だ」
「お兄ちゃんの方はどうなの?」
 今度は未久の方から問うてきた。
「お兄ちゃんはどうなの?」
「俺か」
「そうよ。ただそこにいるだけじゃないわよね」 
 それを言うのである。
「大阪にずっといないわよね。夏の間」
「そうだな。どうなるかだな」
「どうなるかって?」
「俺がどうなるかだ」
 顔は正面に向けたままだ。サイドカーを運転しているからこれは当然だ。だが未久は運転せずその横にいるだけなので顔を動かすことは自由だった。バイクの風を前から爽やかに受けている。
「俺がだ」
「お兄ちゃんが?」
「そうだ。俺がだ」
 こう言うのである。
「俺がどうなるかだ」
「何かわからない言葉ね」
 少なくとも未久にはわからない言葉だ。それで首を横に振った。
「それって」
「そうか」
「そうよ。お兄ちゃんがどうなるか?」
「わからないならいい」
 このことについてはこれ以上言わないのだった。
「別に構わない」
「本当に沸けわからないわね。けれどいいわ」
 このことに関しては未久はこれ以上言わないことにした。そうしてそのうえでまた兄に対して言ってきた。ただし話題は変えている。
「それでね」
「それで?」
「大阪に入ったらどうするの?」
「すぐにお爺ちゃんの家に向かう」
 これが妹への返答だった。
「そうする」
「そう、すぐなの」
「それから好きにするといい」
 そしてこうも言うのだった。
「御前の好きにだ」
「じゃあ難波とか新世界にも行っていいのね」
「いや、一人では駄目だ」
 それはすぐに止めた。 
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