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髑髏天使

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第二十八話 監視その二十一


「確実にだ」
「そうするんだね」
「私は魔物を刈るのが今の仕事だ」
「だからなんだね」
「そうする。それではだ」
 こう言って彼は身構えていた。既に闘う姿ではなかったがである。
 そして牧村は未久の通っている塾の前に来ていた。すっかり夜になっていた。その夜の中で彼はサイドカーを止め彼女を待っていた。
 程なくして彼女が塾の前に来た。そうして彼女が声をかけてきた。
「ありがとう」
「今来たところだ」
 こう妹に返すのだった。
「だから気にするな」
「そうなんだ」
「それでだ」
 そしてあらためて彼女に告げてきた。
「ヘルメットを着けろ」
「ええ、じゃあ」
「寒いからそれには注意しろよ」
「わかってるわよ。だからこれね」
 ここで自分のジャケットを見せる。白いふかふかしたジャケットだ。その下にはやはり白いセーターがあり黄色いミニスカートの下の足も白いストッキングである。
「重武装してるのよ」
「重武装か」
「だって寒いから」
 やはりそれが理由であった。
「だからね」
「それでバイクの中でもか」
「ええ、平気よ」
 にこりと笑って兄に答えた。
「もうね」
「そこまで考えていたのか」
「そうよ」
 また答える妹だった。
「だって。女の子なのよ」
「お洒落でもしているのか」
「違うわよ」
 そうではないというのだった。ここでは。
「そうじゃなくてね」
「冷えるのか?」
「そうよ。女の子は冷え性なのよ」
 今はそれを言うのだった。
「だからね」
「それでか」
「そうよ、わかってくれたかしら」
「そうだな。これでな」
 兄もわかったと答えた。
「それでだったのか」
「女の子は複雑なのよ」
 そしてこんなことも言うのだった。
「すぐ冷えるから大変なのよ」
「それはよくわからないがな」
「わかったら怖いわよ」
 未久はここで少しむっとした顔になった。
「男にはわからない話よ」
「そうした話は他にもあるか」
「あるわよ。恥ずかしくて言えないけれどね」
 そこから先は言おうとはしない。
「一杯あるから」
「冷え性だけではなくか」
「それはよくわかっておいてね」
「よくか」
「女の子はデリケートなの」
 こんなことも言った。
「何につけてもね」
「御前もか」
「勿論よ」
 当然といった口調であった。
「私はその女の子なんだしね」
「冷え性なのもはじめて知ったがな」
「前からだけれど」
「前からだったか」
「そうよ。だから一杯食べないといけないし」
「それは関係ない筈だ」
 今の言葉にはすぐに突っ込みを入れた。
「食べることと冷え性はだ」
「それがあるのよ」
 しかし未久の口は減らない。全くである。
「食べたら身体があったまるじゃない」
「それでもあるとは思えないのだがな」
「あると思っていて。それじゃあね」
「やっと帰るんだな」
「そうして。それじゃあ」
 ここでやっとそのサイドカーに乗るのだった。横のその車に入る。
 牧村もエンジンを再び入れる。しかしヘルメットはまだだった。
 未久は今丁度被るところだった。それで兄に対して言った。
「お兄ちゃん、ヘルメット」
「わかっている」
「さもないといざという時怖いわよ」
「ヘルメットを着けないでバイクには乗れない」
 彼もそれはよくわかっているのだった。
「それは愚か者のすることだ」
「愚かなのね」
「命はできる限り大事にする」
 こんなことも言った。
「だからこそだ」
「そうよね。やっぱり命はね」
「何時なくなるかわからない」
 不意にこんなことも言う牧村だった。
「まさにだ。何時だ」
「何時って」
 だが未久には今のその言葉は。妙に場違いなものに聞こえた。
 それで少し引いて。兄に告げた。
「別にそこまでは」
「俺はそうだ」
 半分髑髏天使になってしまっていた。その心が。
「何時なくなるかわからないからな」
「だからそれオーバーよ」
 ここでまた言う彼女だった。
「別にそこまではいかないじゃない」
「むっ?」
「何言ってるのよ一体」
 また兄に告げるのだった。
「命がどうとかって」
「忘れてくれ」
 我に返ってこう述べる兄だった。
「今の言葉はな」
「まあ訳がわからないしね」
 妹もそれでいいとした。そうしてあらためてであった。
「帰ろう」
「ああ、それじゃあな」
「ちょっとコンビニ寄ってね」
 こんなことも言った。
「それでね」
「コンビニか」
「チョコレート買いたいのよ」
 だからだというのだ。
「それで。いいわよね」
「わかった」
 妹の言葉にそのまま頷く。
「それじゃあコンビニにもな」
「御願いね、お兄ちゃん」
 ここまで言ってヘルメットを被る。そうして今は妹を乗せてその場所に向かうのであった。


第二十八話   完


              2009・12・22 
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