髑髏天使
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第二十五話 魔竜その五
「まあわからんのなら仕方がない」
「そうか」
「ただしじゃ」
ここまで話して話題を変えてきた。
「一つ言っておくがじゃ」
「何だ」
「これは身に着けておいて損はないことじゃ」
「考えを読むことか」
「そうじゃ。戦いにおいては特にそうじゃな」
博士は牧村の目を見て語った。だが今は考えを読もうとはしていなかった。ただそれだけを話しているだけなのだった。
「相手の考えを読んでじゃ」
「それも大事だな」
「どうじゃ?牧村さんはその辺りは」
「あまり意識したことがなかったな」
どちらかというと無意識に行っていたのである。これまでの闘いでは。
「それはな」
「意識してみればどうじゃろう」
さとりはこう勧めるのだった。
「闘いも少しは変わると思うがのう」
「戦いならばただ剣を振ればいい」
戦いは、というのである。
「しかし闘いはだ」
「違うのじゃな。わしは戦わんし闘いもせんからわからんが」
「違う。一対一の勝負ならばだ」
それが闘いというのだった。彼は。
「駆け引きと。相手を見抜くことがだ」
「じゃから。さとるのじゃよ」
己の名前にもなっているそれであった。まさに『さとる』からこその『さとり』であった。
「それでよいかのう」
「やらせてもらう。それでな」
「今度の闘いはじゃな」
「闘いならばな」
戦いとは違う、それを強く意識していた。
「それをしてみせよう」
「期待しておくぞ。さて、それではじゃ」
「口直しじゃな」
「いや、味は申し訳なかった」
今度は博士に対して謝罪の言葉を出すさとりだった。
「それでじゃ」
「おお、これはいい」
博士はさとりが自分の前に出してきたものを見て顔を綻ばせた。彼は柿を出してきたのである。皮も薄そうな如何にも美味そうな柿をである。
「幾らでもあるぞ」
「善き哉善き哉」
博士はもう茶のことを完全に忘れていた。
「ではもらうぞ」
「何個でもな。それじゃ」
その柿を牧村の前にも出すのであった。そうしてそのうえで彼に対して言う。
「好きじゃろ」
「わかるか」
「今度は顔にはっきりと書いてあったからのう」
だからわかるというのだった。
「充分にのう。こういう時は少しはわかるのじゃが」
「そうか」
「まあそれでも博士や仲間の妖怪達より遥かにわかりにくいぞ」
「牧村さんって無愛想だしね」
「表情ないから」
ここで妖怪達が言う。
「声も一つ一つが短くて感情篭らないからね」
「わかりにくいんだよね、とても」
「けれどそれがいいんじゃない?」
ここでこう言ったのは一つ目小僧だった。
「闘いにはさ」
「感情を読みにくいからのう」
「そうそう、それでね」
一つ目小僧はさとりの言葉にも返した。
「いいんだと思うよ。闘いにはね」
「所謂あれじゃな」
博士は柿を美味そうに食べている。固めでありそれもまた博士にとってはいいことだったらしい。実に美味そうに食べ続けている。
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