髑髏天使

「何だそれは」
「酒じゃよ、酒」
　楽しげな笑みになって牧村に述べる。
「どうじゃ？肴はお好み焼きにたこ焼きにな」
「大阪風か」
「嫌いか？そういうものは」
「いや、好きだ」
　しかし答えるその顔は無表情である。
「どちらもな」
「では来るか？」
「しかし今日は止めておく」
　だが彼はこう言って断るのだった。
「今日はな」
「それよりも鍛錬か」
「これから暫くは酒を控えた方がよさそうだ」
　自分自身でこう判断するのだった。
「どうやらな」
「ふむ。節制か」
「魔物を倒せるのは俺だけだな」
　博士に顔を向けて問う。
「そうだな。倒せるのは」
「まあ今わかってる限りではそうじゃ」
　白く濃いその顎鬚をしごきながら牧村に答える。
「文献ではな」
「そして倒されればそれで終わりだ」
　そのうえでこうも言う牧村であった。
「それでな。倒されれば。そうだな」
「その通りじゃ。死ねば終わりじゃ」
　このことに関しては博士の言葉は実に素っ気無いものであった。
「後は生まれ変わるかあの世に行くかじゃな」
「どちらにしろ。今の俺は死ぬか」
「その通り。死にたいか？」
「今はそのつもりはない」
　その無表情で答える。
「全くな。まだこの世を楽しむつもりだ」
「だからこその節制か」
「そうだ。今はな」
「仕方ないのう。まあ髑髏天使になったからにはそれはな」
　博士もまたそれで納得するのだった。首を少しだけ捻るがそれもすぐに終えてまた言ってきた。
「まあいい。ではな」
「また今度だな。それにその時も」
「その時も？」
「酒はいい」
　ここでも酒は拒むのであった。
「他のものを飲む」
「サイダーとかジュースをか」
「あれなら酔うことはないからな」
「酒は万薬の長なんじゃがのう」
「だが。身体の動きに影響する」　
　このことも博士に告げる。
「だから。今はいい」
「そうか。そこまで言うのならいいが」
「それでも。お好み焼きやたこ焼きはいいな」
「好きみたいだのう」
「ああ」
　今度はそのままで答えた。
「今度一緒にな。食べたいものだ」
「僕達も一緒だけれどいい？」
「食べるのなら」
「構わないが」
　妖怪達にも答える。
「それはな。一向にな」
「あれっ、断らないんだ」
「かなり意外」
「偏見はないつもりだ」
　牧村はその彼等に対して告げる。
「こちらもな」
「じゃあまあ今度ね」
「楽しくやろうね」
「ああ。今は強くなる」
　最後にこう言って部屋から姿を消した。それからは朝から晩まで時間があればトレーニングに励みとりわけ剣を手にする彼を見たのだった。