髑髏天使
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第十九話 人狼その十
「漫画を買いに行っていたのか」
「うむ、後は文庫本も買ったがな」
「文庫もか」
「何、ライトノベルじゃよ」
これまた笑顔で牧村に話してきた。
「今から読もうと思っておったのじゃがな。まあ後にすればよいな」
「別に俺は読みながらでもいいがな」
自分に気を使ってくれているとわかったので彼も博士に対して気遣いを見せてみせた。
「それでも話はできるしな」
「いやいや、そうはいかんのじゃ」
しかし彼は牧村のその申し出を断るのだった。
「わしはあれじゃよ。漫画に専念したくてのう」
「だから後にするのか」
「続きが楽しみじゃ」
やはりその言葉は実に明るいものだった。
「じゃからじっくりと読ませてもらうとする」
「そうか。それならいい」
牧村も博士のここまでの言葉を聞いて頷いたのだった。
「俺はな」
「それではじゃ」
まずはその雑誌を全て自分の机の上に置いた。そうしてそのうえで席に座り。それから牧村に顔を向けて話に入るのだった。
「どうしてここに来たのかはおおよそわかっておるがな」
「そうか。わかるか」
「また階級をあげたのじゃな」
牧村の顔を見て出した言葉だった。
「そうじゃな。力天使になったのじゃな」
「そうだ。なった」
彼も博士のその問いに答えて頷くのだった。
「今度はな。それになった」
「ふうむ。やはり早いのう」
博士は左手で自分の顎鬚をしごきつつそのうえでまた述べたのだった。
「昇進がのう。早いものじゃ」
「やはりそう思うか」
「うむ、早い」
博士はまた彼に告げた。
「少なくとも文献でここまで早かった髑髏天使はいないのう」
「そうか。そこまで早いか」
「その通りじゃ。そしてその力天使じゃが」
話はそこに移った。その今度なった力天使についてである。
「どうじゃ?その力は」
「水と氷の力だった」
その力のことも述べた牧村だった。
「それだった」
「水と氷か」
「それは文献にあったか?」
「これにあったぞ」
言いながら出してきたのは机の右側にあったこれまた非常に古い書物であった。紙ですらない。それは骨であった。見ればその骨にはかなり独特な文字が書かれていた。
「その字は何だ?」
「甲骨文字じゃ」
博士はそれだと告げてきた。
「それは知っていると思うが」
「教科書によく出て来るあれだな」
牧村にとって甲骨文字とはそうした存在だった。
「そうだな。確か」
「そうじゃ。あの甲骨文字じゃ」
博士もそれだと言うのだった。
「中国の殷代、本当の国名は商だったな」
「確かな」
殷というのは王族の姓である。そして国名が商なのだ。殷という国家にはこうした混乱があるがこれは若しかすると史記でこのように表現されていたからかも知れない。
「それだったな」
「左様、その甲骨文字じゃ」
それだというのだった。
「それに書かれておるのじゃがな」
「力天使のことがか」
「やはり氷と水を使うと書かれておる」
牧村が身に着けた力そのものであった。
ページ上へ戻る