髑髏天使
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第十八話 力天その十四
「そして人間も自然の一部じゃよ」
「では人間が作り出す文明や社会も自然か」
「左様」
また牧村の言葉に応えるがその言葉には曇りも濁りもなかった。
「その通りじゃよ。自然は特別なものではないのじゃよ」
「特別なものではない」
「要するに森羅万象じゃ」
次に出された言葉はこれであった。
「ありとあらゆるものがな。そうなのじゃよ」
「そういうものか」
「うむ。だから全てが世の中じゃ」
博士の言葉は続く。
「人間も妖怪もな。世の中なのじゃよ」
「世の中、すなわちそれが自然か」
「うむ。ではな」
博士の言葉が続く。
「わかってくれたようじゃな」
「多少だがな。完璧にではない」
この言い方がやはり牧村だった。淡々としていて感情はない。しかし決して取り乱すことはなく冷静な調子で言葉を続けていた。
「だが少しだがわかった」
「その少しが大きなものになるな。ではそれでじゃ」
「この連中の生活も人間と変わらない部分が多いか」
「わしはあれじゃよ」
一反木綿がひらひらと飛びながら牧村のすぐ側に来て言ってきた。
「風呂は入らんぞ。身体が布じゃからな」
「では洗濯機か」
「今の回転式は目が回るから嫌じゃ」
しかし洗濯機は嫌だと言うのである。
「ちゃんと昔ののう。洗濯板で洗っておるのじゃよ」
「自分で自分をか」
「そうじゃ。自分のことは自分でじゃ」
ひらひらと飛びながらの言葉だった。
「わしはそうしておるぞ」
「わしは風呂に入っておるぞ」
今度言ったのはひょうすべだった。
「もっとも毛ばかりじゃからシャンプーで洗っておるがな」
「頭もか?」
「いや、頭は洗顔フォームをそのまま使ってるぞ」
笑いながら自分の禿頭を撫でてみせる。
「これは額と考えておるからな」
「額か」
「少しだけ広い額じゃ」
自分でわかっての言葉である。
「そう考えてくれ」
「わかった。ではそうする」
「そうしてくれたら有り難い。まあそういうことじゃ」
「昔は米を研いだ水で洗っていたんだな」
「左様じゃ」
昔は石鹸がなかったのでそれで頭を洗っていた。身体もだ。牧村はこのことを知っているからこそこう問うたのだった。そしてひょうすべも答えた。
「あれはあれでよいがシャンプーのお洒落さもな」
「お洒落か」
「何言ってんだよ、妖怪だってお洒落するよ」
傘も出て来た。
「僕だってほら」
「何処がだ?」
牧村は傘のその言葉を聞いて目を微かに顰めさせた。見たところその外見はいつもと変わらない。一つめで昔のあの油紙の傘に一本足と小さな両手が生えている。それに大きな舌が見える口があるだけだ。よく漫画等に出て来る格好そのままである。
「いつもと変わらないが」
「だからさ。違うじゃない」
しかし傘自身はこう主張するのだった。
「わからない?それって」
「だから何処がだ」
「この紙昨日貼り替えたんだよ」
最初に言うのはこのことだった。
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