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髑髏天使

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第十八話 力天その十一


「今ケーキを食べているな」
「そうそう、ザッハトルテ」
「山月堂のね」
「ザッハトルテか」
「わしの大好物の一つなのじゃよ」
 博士が満面の笑顔でまた言ってきた。見ればここでろく子から青と白の欧風の当期の皿に入れられたそのザッハトルテが彼の側に置かれた。黒くチョコレートそのものさえ思わせるそのトルテが置かれるのだった。当然銀の小さなフォークも添えられていた。
「このザッハトルテはな」
「それも好きだったのか」
「オーストリアに行った時に覚えたんじゃよ」
 またにこにことしながら牧村に話すのだった。
「この味をのう」
「本場でだな」
「うむ。やはりザッハトルテはオーストリアじゃ」
 確かな声での言葉だった。
「じゃが実際のところ日本のものもじゃ」
「美味いか」
「日本人は凄いぞ」
 自国民のことだから必然的にそれは自分をも褒めていると言えた。逆に言えば自国を貶める者は自分自身も貶めていることになる。それに気付いていない愚か者が知識人と呼ばれる人種に実に多いというのはこれは日本特有の異常現象なのであろうか。
「ちゃんとオーストリアの味を再現してくれて」
「そしてか」
「その味さえ超えておるのかもな、もう」
「まさかとは思うが」
 牧村はこの評価には流石に懐疑的に返した。
「そこまではな」
「いやいや、しかし舌には合っておるぞ」
 だが博士はここでは舌を話に出すのだった。
「舌にはのう」
「舌にはか」
「日本人には日本人の舌がある」
 まずはこう言いそのうえで。
「オーストリア人にはオーストリア人の舌があるじゃろう」
「では日本人の舌に合うザッハトルテか」
「そういうことじゃ。オーストリア人が作るのはオーストリア人の舌に合うザッハトルテじゃ」
 これは必然的にそうなることであった。オーストリア人が作るのならばその嗜好は必然的にオーストリア人好みのザッハトルテになる。そういうことだ。
「そうじゃろ?それは」
「確かにな」
 牧村もそれはわかるので静かに頷いた。
「それはその通りだ」
「それでじゃよ。このザッハトルテはじゃ」
 ザッハトルテの話が続く。その山月堂のだ。
「日本人による日本人の日本人の為のザッハトルテなのじゃよ」
「リンカーンだな」
 今の博士の言葉の元が何かはすぐにわかることだった。
「それは」
「そうじゃよ。まさに日本人の為のザッハトルテじゃよ」
 しかし博士はそれでも言うのだった。
「じゃから美味いのじゃよ」
「だから僕達もね」
「美味しく食べられるんだよ」
 妖怪達もそのザッハトルテを食べながら笑顔で牧村に告げてきた。
「このザッハトルテ、最高だよ」
「コーヒーにも最高に合うね」
「そのコーヒーもやはり」
「そうじゃ、日本人の為のコーヒーじゃよ」
 博士の返答はもう完全に決まっていた。
「これものう」
「全てが日本人の為か」
「そして日本の妖怪の為」
「いいことだよね」
「全くだよ」
「では俺の口にも合うのか」
 牧村がふとこう考えたその時間だった。そっとろく子の首が彼のところに出て来た。そうしてそのうえで身体を彼のところにやって来てそのうえで博士のものと全く同じ皿を出すのであった。
「どうぞ」
「俺にもか」
「勿論です」
 にこりと笑って彼に告げてきたのだった。 
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