髑髏天使
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第十四話 能天その五
「あれっ、久し振りね」
「何が久し振りだ?」
「お兄ちゃんがゲームをしてることよ」
こう言いながら兄の側に来るのだった。今の彼女の格好は白とグレーの横縞のシャツに黒いスパッツだ。素足から動物の柄のスリッパをはいている。
「それもシュミレーションなんて」
「久し振りにやってみたくなった」
テレビ画面を見たまま妹に言葉を返す。
「だからだ」
「そうなの。やってみたくなったの」
「最近何かと身体ばかり動かしている」
「それはそうね。何かスポーツ選手みたいにね」
このことは未久もよくわかっていた。今見ても兄の身体はさながらスポーツ選手か戦士の様に引き締まったものになっている。服の上からでもそれがわかるのだった。
「そればっかりだからね」
「たまにはこんなこともする」
淡々とした調子で述べる牧村だった。
「それがかえっていい」
「そうよね。ゲームってね」
未久もそれには同意であった。同意しながらリビングの隣にある台所に向かいそこからあるものを取り出した。それは豆乳であった。
もう一つ野菜ジュースも取り出し両方をコップの中に注ぐ。そうしてそれをかき混ぜて独特の色のものにしてから飲むのであった。飲み終えて口を洗面所で洗ってタオルで拭いてからまた兄に顔を向けて言ってきた。
「気分転換に最高なのよね。実際にね」
「だから今している」
手はコントローラーを握ったままである。
「こうしてな」
「それでそのゲームなの」
未久は今度はゲームそのものについて言ってきた。
「戦争ものよね」
「ああ、そうだ」
見れば画面には戦車や航空機のユニットが多数存在している。草原や森林の地形もある。どうやら現代か近代を舞台にした作品らしい。
「ちょっとやってみている」
「お兄ちゃんってそうしたゲームもするのね」
「意外か?」
「意外って言われると」
未久も少し困った顔になるのだった。
「別に。そこまでは」
「何となく面白そうだからやってみている」
彼にしてみればただそれだけだったのだ。このゲームにしても。
「中古で。よさそうだから買って来た」
「ああ、中古なんだ」
「新作を買ってもよかったが」
一応という感じの言葉であった。
「だが。それでもな」
「よさそうだから買ったのね」
「そういうことだ。しかし」
「しかし?どうしたの?」
「敵の数が多いな」
それが少し厄介に感じていることがわかる今の言葉であった。
「どうしたものかな。この数の多さは」
「敵の数がそんなに多いの」
「三倍はいる」
こう未久に述べた。
「優にな。それだけはいる」
「三倍ねえ」
妹はその数字を聞いて考える顔になった。視線が上に向かう。
「一言で言っても多いわよね」
「質はそれ程でもないがとにかく数が多い」
見れば画面には牧村が動かしている青いユニットの向こう側にその青の三倍はあるであろう膨大な数の赤いユニットがある。画面ではやけに赤が目立つ形となってしまっている。
「数がな」
「それで攻めあぐねてるの」
「それどころか押されている」
こう答えた。
「さて。どうしたものかな」
「こうしたゲームってあまり詳しくないけれど」
未久は兄の言葉を聞いてまたテレビの画面を見ながら述べてきた。
「地形あるじゃない」
「地形か」
「それを上手く使ってね」
まずこのことを話す。
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