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髑髏天使

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第二話 天使その十三


「変えることはできるがな」
「逃げられないけれど変えられるんだ」
「左様」
 また答える。
「そうじゃよ。運命は変えられる」
「じゃあさ。これから変えられる彼の運命は?」
「どうなの?」
「残念じゃがそれはまだわしにもよくわからん」
 首を捻ってこう述べるのだった。今は。
「何せ髑髏天使についてわかっておるのはまず五十年に一度現われること」
「まずはそれだよね」
「そして悪い魔物を倒すことじゃ」
「これだけ?」
「残念じゃがこれだけじゃ」
 言葉は少し素っ気無いものだった。
「今のところわかっておるのはな」
「それだけなんだ」
「今のところは」
「全てはこれからじゃな」
 考える目で述べた言葉だった。
「調べていくのは。さしあたってはじゃ」
「どうするの?」
「ルドルフ一世の所蔵の書をあたるか」
 ハプスブルク家、神聖ローマ帝国の皇帝であった。奇妙な秘宝や不可思議な書を集めることに情熱を傾けていた。集めたものの中にはその素性がすこぶる怪しいものも多かったという。
「それかアレクサンドリア図書館やローマ帝国にあった書でも」
「そんなのまだあるの?」
「探せばある」
 妖怪達に述べる。
「探せばな。そのかわり色々と苦労が必要じゃが」
「やっぱりね。アレクサンドリア図書館なんて」
 既にカエサルがエジプトを占領した際に焼失している。歴史の中で消え去るものも実に多いのだ。中には消え去ったと思われたものが残っていたりするが。
「時間を超えでもしない限り」
「簡単には手に入らないよね」
「そうじゃ。じゃが苦労する価値はある」
 博士はそう定義付けしたのであった。
「髑髏天使の為にはな。さてさて」
「とりあえずはその本を読むんだね」
「うむ、これがまたのう」
 左手でとんとんと右肩を叩きながらの言葉だった。
「難解なのじゃよ。実に」
「難しいんだ」
「手書きじゃぞ」
 昔の書はどれもそうだ。とりわけ西洋においてはグーテンベルクの金属による活字印刷が発明されるまでまず手書きであった。そのうえ書はどれもラテン語であり今それを読み解くとなると古文書の解読能力だけでなくラテン語の教養も必要になる。だからかなり難解なのだ。
「どれだけ難しいか。しかもあちこち破れたり虫食いがあるしのう」
「じゃあ本当にゆっくりになるね」
「うむ。まず魔物共が髑髏天使をも襲うことはわかった」
「天敵を襲うんだ」
「やられる前にやれじゃよ」
 実に簡単な理屈であった。
「それでな。襲うのじゃよ」
「悪い奴の考えることは野蛮だね」
「全く」
 妖怪達はそれを聞いて口々に相手を悪く言う。どうやら彼等にとってはそうした行動そのものが非常に忌まわしい行動であるらしい。
「まあそんな連中だからやっつけられるんだろうけれど」
「さて。彼は生きられるかな」
「髑髏天使は強い」
 博士はこれについてはきっぱりと言い切った。 
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