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髑髏天使

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第十四話 能天その三


 彼がこうして己を鍛えているその頃。魔神達は今度は朽ち果てた教会の礼拝堂の中に集まっていた。十字架も崩れ落ちステンドガラスの窓もあちこちが割れ主の頭も何処かに行ってしまっている。机も椅子も腐ってしまい床も汚れきっている。その中に集まっていたのだった。
「そう。来るのね」
「間も無くです」
 老人が女の問いに答えていた。三人はその朽ち果てた礼拝堂の前でそれぞれ三角を作る形で立会いそのうえで話をしていた。
「こちらに来ます」
「これで四人目だな」
 男は老人の言葉を聞いて静かに述べた。
「あと八人か」
「四人で終わらないかも知れません」
 だが老人は男の言葉にこう返したのだった。
「四人では」
「ではもう一人来るのか」
「気配を感じます」
 語る老人の顔は穏やかな笑みだったがその目の光は鋭いものであった。漆黒の、それでいてぎらつくものがある、そうした光であった。
「中東から」
「中東?それじゃあ」
「あいつか」
 女にも男にもそれでわかったようであった。
「彼が来るのね」
「あいつは。扱い辛いぞ」
「何、わかり易い方ではないですか」
 怪訝な顔になった二人とは対称的に相変わらず穏やかな笑みを浮かべて述べる老人であった。何もわかっているような顔であった。
「ですから。御安心を」
「そちらがそう言うのならいいけれどね」
「こちらはな」
 二人は今の老人の言葉を聞いてまずは彼に任せることにしたのだった。
「とにかく。五人になりそうなのね」
「これで残るは七人か」
「はい。我々は一人ずつ確かにこの国に集まっています」
 老人はこのことは事実だとはっきりと二人に述べるのだった。穏やかだが確かな声で。
「髑髏天使の力を手に入れる為に」
「そうね。若しくは」
「はい。髑髏天使が髑髏天使でなくなる」
 老人の目のその黒い光がさらに不気味なものになる。黒い光、まさにそれを思わせるそうした光を発しているのであった。奇怪な光であった。
「そうなるかも知れません」
「この時代の髑髏天使は強い」
 男は髑髏天使そのものに対して言及した。
「その成長もかなりのものだ」
「もう権天使だったわね」
「そうです。今は権天使です」
 老人もまたこのことは把握していた。
「下級天使のうちで最上位にあたります」
「あとは中級の天使だけれど」
「それも間も無くだな」
「もう次の階級にあがることはできるでしょう」
 老人は己の見方を二人に告げたのだった。
「今すぐにも」
「能天使ね」
「次はそれか」
「そうなればその力はさらに強いものになります」
 老人は言った。
「今よりさらに」
「そうね。そして」
「その心もまた」
「最初とかなり変わってきています」
 老人の目の奥の闇の光はさらに深く強いものになっていた。そのうえでの言葉であった。
「超然としているようになってきていますがそれ以上に」
「闘いに馴れてきている」
「そうだな」
「はい。我々と同じです」
 今度はその口元に笑みが宿っていた。ピエロの仮面を思わせる、それでいて何か邪なものを感じさせる、そうした得体の知れない笑みであった。
「闘いに馴れてきています」
「次第にこちらに近付いてきているわね」
「魔物にな」
「髑髏天使の力。それは手に入れる方法は一つではありませんから」
 老人の笑みはそのままでさらに邪なものを増していっていた。 
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