髑髏天使
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第十三話 衝突その三
「その通りだ。先に闘うのなら違ったがな」
「貴様とも仕切りなおしか」
「そちらにとっても悪い話ではない筈だ」
うわんはこうも彼に告げた。
「これはな。どうだ?」
「俺は何時でも闘えるが」
「貴様は既に妖犬と闘っている」
そして倒している。彼は当然ながらそれを知っていた。
「そのうえ死神と闘った。体力をかなり消耗している」
「傷はこれといって受けてはいないが」
「目に見えていないだけだ」
うわんはまた告げた。
「それは蓄積されている。その様な貴様と闘って俺が勝つのは自然なことだ」
「では相手をすればいいと思うが」
「魔物は強い相手を倒してこその魔物だ」
魔物の摂理を彼も語った。
「そうでなければその力を手に入れることはできはしない」
「だからだ」
「そうだ。勝負は預けておく」
うわんは言いながらその姿を人間の仮のものにしてきた。
「その時はこちらから出向こう。またな」
「貴様の方から来るというのか」
「貴様が万全の時にだ」
その時にというのだった。
「また会おう。それではな」
「その時は。覚悟しておくことだな」
髑髏天使は黒い煙となってその中に消えていく彼を見送って言った。こうしてまずうわんが去ったのだった。
残ったのは髑髏天使と死神だけになった。しかしその死神もまた。
「私もこれでな」
「去るのか」
「話はないことになった」
だからだというのである。
「ならばここに留まっている理由もない」
「そうだな。それは確かにな」
「また近いうちに会うことになるだろう」
鎌を消し服をあの神父を思わせるものに戻したうえで彼に告げた。
「その時どうなるかはわからないが」
「今のように刃を交えることも有り得るな」
「その場合は今のようになるとは限らない」
二人はそれぞれ今を語ったがその中身は違っていた。
「決してな」
「そうだな。それではまた会おう」
髑髏天使も牧村の姿に戻った。
「こちらとしては無駄な闘いは避けるつもりだがな」
「それはこちらとて同じこと」
声は鋭いが言葉はその通りだった。
「死神は殺戮を行う存在ではない」
「ただ。命を刈るだけだというのだな」
「刈りもするし狩りもする」
二つの言葉は違っていた。
「しかし。血に餓えてはいないのだ」
「血には、か」
「それもよく覚えておくことだ」
牧村の目を見据えつつ述べてみせてきた。
「よくな。話はこれで終わりだ」
ここまで言うとハーレーに乗りそうしてバイクの機首を百八十度返したうえでそちらに姿を消した。牧村はその後姿を見送っていたがやがて彼もサイドカーに乗りそのままトンネルを後にした。この闘いのことはいつも通り博士に話した。博士もまたいつもと同じく妖怪達があちらこちらにたむろしているその風変わりどころではない研究室で彼の話を聞くのであった。
「ふむ。死神とか」
「手強い相手だった」
牧村は率直に死神について述べた。今は部屋の壁に背をもたれかけさせつつ左手をズボンのポケットに入れ右手にコーヒーカップを持ちその姿でコーヒーを飲んでいる。
「身体を分けることができれば宙に浮かぶこともできる」
「そして氷を操るか」
「それだけではないようだがな」
死神の言葉を思い出しながら述べた。
「どうやらな」
「ふむ。文献にある以上じゃな」
博士は牧村の話をそこまで聞いたうえで考える目を見せて言ってきた。
「どうやらな」
「それ以上か」
「左様。確かに身体を分けることはここにある」
今度もまたやたらと古い文献だった。見れば普通の紙ではない。
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