髑髏天使
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第二話 天使その十一
「とにかくじゃ。君がこれからやらなければならんことは」
「化け物共を倒すことか」
「あくまで悪い奴だけをじゃよ」
博士はそこは釘を刺すようにして言ってきた。
「そこはしっかりとしてくれるようにな」
「化け物にいいのも悪いのもあるのか」
「今目の前におるじゃろうが」
丁度周りの彼等を指し示してみせる。
「ほれ、この連中じゃよ」
「僕達は人を襲ったりしないから」
「それは安心してね」
からかさと一つ目小僧が牧村に言ってきた。彼等の姿は牧村もよく知っていた。それこそ子供の頃から漫画や本で見てきた連中だからだ。
「とりあえずこうした連中と戦うことはないのか」
「その通りじゃよ」
笑いながら牧村に答える博士であった。
「すぐにわかるじゃろ。というか人間よりもわかりやすいぞ」
「人間よりもか」
「雰囲気で一発でわかるからのう」
博士にしてみればそうであるらしい。
「人を襲わん連中は呑気なものじゃ」
「確かにな」
感覚ではっきりとわかるのだった。鋭さや殺気が全くない。あるのは呑気さと遊び心だけだ。子供よりもまだ無邪気なものであった。
「それはないな」
「それでじゃ。昨夜君が倒した」
「あの虎と人間の合の子みたいなものか」
「あれは虎人というのじゃ」
「虎人か」
「元々は中国の魔物じゃ」
日本以外の国が出て来た。
「普段は人に化けておるがの。時折ああした姿になり」
「人を喰うのか」
「その通り、かなり凶暴な奴じゃよ。それを最初に倒すとはのう」
「あいつは強かったのか」
「だって虎だよ」
「決まってるじゃないか」
妖怪達もこのことを牧村に告げる。
「強いの何のって」
「僕達だって襲いかねないし」
「そんな奴だったのか、あれは」
「そうだよ」
「それをデビュー戦で倒すなんて。かなり凄いよ」
「まあそうじゃな」
これについては博士も認めるところであった。
「幾ら髑髏天使でものう。相手が相手じゃった」
「喰われると思ったがな」
語る牧村の目はこれもまた正直に述べたものであった。
「あの時。その髑髏天使にならなければだ」
「死んでいたな、間違いなく」
「あの連中は自分達からも来るのか」
「というと?」
「だからだ」
博士に対して言う。
「化け物共は俺に対しても向かって来るのか」
「向こうも髑髏天使の存在は知っておる」
博士は静かに牧村の言葉に答えた。
「それはしっかりとな」
「そうか。それではだ」
「狙って来ることもある」
今度ははっきりと答えてみせたのだった。
「じゃから。どのみち」
「戦わないとならないんだな」
「嫌か?」
「俺は戦いは好きじゃない」
本音の言葉を続けていく。
「勝手気ままに生きていたいものだがな」
「そうじゃろうな。君はな」
「だが。振りかかる火の粉は払う」
これもまた彼の本音であった。戦いは好まないがそれでも自分に及ぶ危害に対しては立ち向かいそれを払うのが彼の主義である。
「向こうから来るのならな」
「そうか」
「何かあったらまた来る」
ここまで言うと博士達に背を向けた。
「そして何かあったらまた呼んでくれ」
「帰るの?」
「気持ちを落ち着かせてくる」
逃げるつもりはなかった。また逃げても魔物達の方から来ると聞いていてはそれもまた無駄だとわかったからだ。道は一つしかないというわけだった。
「少しな」
「帰って来るんじゃな」
「そのつもりはなくても聞きたいことがある」
これが今の牧村の返事であった。
「だからだ」
「そうか。ではな」
「牧村さんだったかのう」
砂かけ婆が部屋を出ようとする彼に声をかけてきた。
「確か」
「そういうあんたは砂かけ婆か?」
「もう覚えてくれたのか」
「その格好ですぐにわかる」
こう彼女に答えるのだった。
「それにすぐに覚えられた」
「人気者は辛いのう」
実に自分にとって都合よく解釈する砂かけ婆であった。しかしそれはどうやら彼女だけではないようである。他の彼等にしろそうであるらしい。その証拠に。
「わしの方が人気があるぞ」
「わしもじゃ」
「やけに明るい連中のようだな」
牧村は背を向けたままだが彼等の言葉を聞いて言うのだった。
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