| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

髑髏天使

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十二話 大鎌その十七


「じゃあ。これでね」
「終わりか」
「うん。さようなら」
 その小柄な身体をさらに青い炎が包み込む。
「見事だったよ」
 これが最後の言葉になった。妖犬はその形に青い炎を出しそのうえで消え去った。髑髏天使はこの闘いにも勝利したのであった。
「終わったか」
 炎が消え去ってから述べた。
「さて、ドライブの続きをするか」
 呟きながら変身を解こうとする。しかしだった。
「まだそう考えるのは早いな」
「また来たのか」
「その通りだ」
 声は彼の後ろからだった。
「魔物は一度に一人だけ来るというわけではない」
「方針が変わったのか」
 髑髏天使はその声に応えながら声がする後ろに身体を向けた。
「そちらも」
「そうとも言う。貴様を倒すにあたってな」
「そうか」
 その言葉を聞きながら構えに入る。今度出て来たのは壮年の男だった。黒いスーツが喪服を思わせ重厚な印象を与えてきている。
「そうするようになった」
「では次の相手は貴様か」
「如何にも」 
 黒スーツの男は彼の言葉に返してきた。
「俺の名はうわん」
「うわん。日本の魔物だったな」
 うわんという魔物が何なのかは博士の所蔵している本から知っていた。彼も時折博士の研究室でそういうものを調べているのである。日本語のみであるが。
「確かな」
「その通りだ。百目様にお声をかけて頂いた」
 あの老人である。
「そして今貴様を倒す為にここに来た」
「面白い。ならばだ」
 髑髏天使は引くつもりはなかった。
「ここでもう一人倒してやろう」
「行くぞ」
 応えたうわんの身体が変わってきた。黒い、まるで黒檀の様な肌になり服はそのまま僧侶の服に似たものになっていく。頭髪はなくなり何もかもが黒くなっていく。黒い大柄の僧侶の姿になったのであった。
「それがうわんの姿だな」
「如何にも」
 うわんはまた彼の問いに応えた。
「俺は元々は寺にいた」
「廃寺にだな」
「その通りだ。だからこの姿になっている」
 魔物の姿はその住んでいる場所の影響を受ける場合もある。このうわんがまさにそれであった。彼は廃寺にいるから僧侶の姿となったのである。
「そういうことだ」
「貴様のことはわかった。それではだ」
 構えはそのまま取り続けている。
「行くぞ」
「来い」
 髑髏天使の言葉をうわんも受けて立つ。
「貴様を倒す」
「倒せればな」
 髑髏天使はそのまま滑空するようにして前に進みそのまま剣を繰り出そうとする。うわんもそれを受けて立つ。しかしその瞬間だった。
「待ってもらおう」
 不意に第三者の声がしてきた。
「その勝負。私に預けてもらう」
「むっ!?」
「その声は」
 うわんも髑髏天使もその声がした方に顔を向けた。うわんは左を、髑髏天使は右をそれぞれ見る。するとそこには彼がいた。
「貴様か」
「そうだ」
 死神だった。彼は何時の間にかこの場にいたのだった。
「私もまた。やるべきことがあるのだ」
「この魔物の魂を刈るつもりか」
「その通りだ」
 これが死神の仕事であった。
「だからこそここに来た。その魔物の相手は私がさせてもらう」
「嫌だと言えば」
 髑髏天使は言葉にあえて疑問符はつけなかった。
「その場合はどうするつもりだ」
「前に二度か三度言った通りだ」
 死神の返答は厳然としたものだった。
「その通りだ」
「そういうことか」
「それに貴様は既に魔物を一人倒している」
 先の妖犬との闘いのことだ。彼はこのことを知っているようだ。少なくとも察してはいる。
「ならば。次は」
「俺は髑髏天使だ」
 彼は答えずまずはこう言った。
「魔物を倒す。髑髏天使だ」
「私は魂を刈る者」 
 死神もまた言う。
「それが私だ」
「引かないというのだな」
「貴様も」
 今度は二人が対峙しだした。
「ならば。容赦はしない」
「できることなら闘いは避けたかったがな」
 死神は今は大鎌を出してはいない。しかしその言葉に既に出していた。
「そうも行かないようだな」
「貴様との闘いは後だ」
 髑髏天使はうわんに顔を向けて告げた。
「今は」
「まずは貴様とだな」
 二人は対峙する。お互いに凄まじいまでの殺気を放ちながら今剣と鎌がその刃を刻み合おうとしていた。薄赤い光が灯す中で。


第十二話   完


                 2009・2・26 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧