髑髏天使
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第八話 芳香その十八
「人間の美だ」
「そういうことね。貴方の言葉はわかったわ」
アルラウネも彼の言葉を受けて構えに入った。
「言葉はね。意味は認めないけれど」
「認められるつもりはない」
牧村はまた言葉を返す。
「これから俺に倒される相手にはな」
「それじゃあ。やるのね」
「来い」
両手を拳にしそれを胸の前にやっていく。
「ここで貴様を・・・・・・倒す」
「楽しませてもらうわ」
女の髪が緑に変わっていく。肌はより白くなり闇に浮かび上がる。ドレスはそのまま禍々しい形状の花びらを重ね合わせたようになり所々に緑の棘のある蔦が出て来た。顔はそのままにして異形の姿になったのだった。
「今からね」
牧村はその両拳を胸の前で打ち合わせた。するとそこから白い光が起こり全身を覆った。白い髑髏に白銀の鎧を着た天使、髑髏天使となったのであった。
「行くぞ」
右手を前に出し一旦指を開き握り締める。これが闘いの合図となった。
髑髏天使はすぐに右手に剣を出す。それでアルラウネを切ろうと前に出た。
ところがそれに合わせるようにして彼女はその右手を前に出してきた。すると。
「むっ!?」
「貴方が剣なら私はこれよ」
前に出してきた右手の五本の指が薔薇の蔦になったのだ。それは一本一本が生き物の如く蠢きながら髑髏天使に対して迫ってきた。
まずは二本上から来た。髑髏天使はそれを剣で斬った。
「むんっ」
声が出る。気合の声だ。これでとりあえずの危機は脱したかと思われた。
しかし斬られたその蔦はさらに伸びそのまま髑髏天使を撃つ。鞭の様になったその蔦の衝撃と棘の痛みが鎧を通して彼を襲った。それは決して小さなダメージではなかった。
「まさか。斬った筈だ」
「斬っても無駄なのよ」
アルラウネは右手を突き出したままの姿勢で妖しい微笑を浮かべながら彼に言ってきた。
「それでは。私の蔦は防げないわよ」
「伸びるからか」
「そうよ」
それはもう今見せたものであった。
「その通りよ。そう簡単にはいかないということよ」
「ふん、伊達に悠然としているわけではないということか」
「貴方の剣のことは知っていたわ」
ここで右手を収めた。五本の蔦は指に戻り消えていく。斬られまるで魚の様に髑髏天使の下で跳ねていた蔦の切れ端もそのまま姿を消してしまっていた。
「もうね」
「だから今の蔦を使ったのか」
「そういうことよ。わかってもらえたようね」
「斬っても無駄ということか」
髑髏天使はここでこのことを悟った。
「つまりは」
「その通りよ。私に剣は効かないわ」
このことをはっきりと彼に言ってみせたのだった。
「決してね。つまり貴方では私に勝てない」
「それはどうかな」
「あら」
絶望の言葉が聞けると思っていたというのに髑髏天使がこう言ってきたので拍子抜けするアルラウネだった。やはり言葉にそれが出ている。
「ここで観念すると思っていたけれど」
「言った筈だ。俺は髑髏天使」
ここで背中に翼を出し左手にサーベルを持つ。大天使になりつつの言葉だった。
「決して敗れはしない。だからだ」
「つまり最後まで闘うということね」
「違うな。勝つということだ」
アルラウネを見据えながらの言葉であった。
「言葉は。訂正しておいた」
「感謝はしないわ。けれどそのつもりなら」
アルラウネは動きを止めた。そして。
不意に彼女の足元からあの蔦が出て来た。今度は五つどころではなく無数にあった。
「地面から!?」
「私はただ身体を蔦に変えられるのではないのよ」
身体のあちこちに絡み付いている蔦達も動きだした。それ等の蔦は生き物そのものの動きで蠢きだし彼女の周りを踊る。彼女を中心として異形の舞いを見せていた。
「こうして。出すこともできるのよ」
「それで俺を倒すつもりか」
「そのつもりよ。さて、これはどうするのかしら」
「むう・・・・・・」
「できないわよね」
また笑みを浮かべながらの言葉であった。
「私は。心臓さえ貫かなければ死なないのだし」
「心臓をか」
「言っておくけれど魔物とて不死身ではないのよ」
勝利を確信している余裕からか自分から話すアルラウネであった。
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