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髑髏天使

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第八話 芳香その十二


「あったわ」
「あったの」
「ええ。たっぷりと」
 その暗くなって見えなくなってしまっている部屋の奥からろく子の声が返って来る。首だけでそこに入っており声は遠いものになっている。
「あるわ。じゃあ持って来るわね」
「うん、御願い」
「やっぱり柿だよね」
 妖怪達は柿があるのを聞いてさらに陽気になった。既に菓子をかなり食べているがそれでもというわけだった。
「この季節はね」
「っていうか柿が一番じゃない?」
 やたら柿が好きな妖怪もいた。
「果物の中じゃさ。柿がさ」
「一番甘いっていうか美味しいって?」
「そうそう」
 そう言い合っている。言い合いながら早速ろく子が持って来たその柿を手を伸ばしてそれぞれ取っていく。そうして本当に美味そうにかじっていくのだった。
「はい、牧村さんも」
「どうぞ」
 そして牧村にも柿を差し出してきた。それも何個もだ。
「幾らでもあるからね」
「どんどん食べてよ」
「悪いな」
 その彼等に礼を述べながらまず一個手に取る。そのうえでかじる。固くそれでいて渋みがなく絶妙の味具合になっている柿だった。その柿を食べてまず言う言葉は。
「美味いな」
「そうじゃろ。奈良の柿じゃよ」
 博士もまたその柿を手に取っている。そうしてその柿を食べながら牧村に言うのであった。
「あそこの柿は味が違うからのう」
「奈良の柿か」
「柿はやっぱり奈良じゃ」
 彼はまた言う。
「他のもいいがやっぱり奈良のが一番じゃよ」
「そういうものか」
「実際に食べてみて美味いじゃろ」
 言いながら彼もその柿を食う。見れば何なく食べている。どうやらその歯は歳の割にはかなりしっかりとしているようである。牧村もそれに気付いた。
「この柿はな」
「確かにな。いい味だ」
「さあ、幾らでもあるからな」
 笑みを浮かべながら妖怪達と同じ言葉を口にした。
「どんどんやってくれ。よいな」
「わかった。しかしこの柿は」
「何じゃ?」
「柿の香りもいいな」
 食べかけの三口程度かじった柿を見ながらの言葉である。
「香りまで。いい柿なのか」
「ほう、柿の香りまでわかるのか」
 博士は今の牧村の言葉を聞いてその目をさらに細めさせた。
「上々じゃよ。香りまでわかるとは」
「強くはないがいい香りだ」
 こう言う牧村だった。
「中々な。食欲がさらに沸く」
「香りはな。大事なものじゃ」
 博士はそれについて言葉を続ける。
「それもかなりな」
「かなりか」
「その通り、食べ物は味や歯ざわりだけではない」
 博士は言う。
「香りもな。大事じゃからな」
「だからこの柿はいいのか」
「ここまでの香りを持っている柿は奈良の柿だけじゃ」
 また奈良の柿を持ち上げてきた。
「わかってくれるな。香りの素晴らしさが」
「おおよそはわかった。そうか。香りか」
 牧村はまた柿をかじりつつ呟いた。
「それが大事なのか」 
 そのことを考えながら柿を食べていく。そうして柿を食べ終えてから研究室を後にする。研究室を出るとテニス部に行き汗を流した。ごく有り触れた彼の日常だった。
 しかし牧村来期は髑髏天使でもある。髑髏天使は日常の存在ではない。彼にとって日常とはすぐに戦闘という非日常に変わってしまうものなのだ。それはこの日も同じであった。 
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