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髑髏天使

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第七話 九階その十七


 右手を開きそのうえでまた拳にして。それを合図としてまたナックラ=ビーに対して言った。
「覚悟はいいな」
「いよいよはじまりってわけかよ」
「そうだ。貴様が待ちに待っていたな」
「いいねえ。そうこなくっちゃな」
 余裕綽々といった声での言葉だった。
「折角やるんだったらな。やっぱりな」
「ごたくはいい」
 髑髏天使の言葉には怒気があった。そしてその怒気と共に右手に剣を出した。あの双刃の普段からその手に持っている剣である。
「貴様は倒す。それだけだ」
「そうかい。じゃあ行くぜ」
 ナックラ=ビーの方から仕掛けて来た。
 馬の下半身で突撃してきた。その蹄で髑髏天使を踏み潰そうとする。
「ほらほら、油断してたら踏み潰すぜ」
「くっ!」
 その馬の突進を慌てて右にかわす。しかしここでナックラ=ビーの左の拳が彼を襲う。
 かなり強い拳だった。鎧がひしゃげんばかりになり髑髏天使の身体にダメージを与える。血こそ吐きはしなかったが衝撃が鎧を通ってダイレクトに伝わる。
「ぐふっ・・・・・・」
「どうだ?俺の拳はよ」
 髑髏天使を見下ろすナックラ=ビーの単眼が笑っていた。
「最高に効くだろうが」
「何の・・・・・・」
「痩せ我慢しても無駄だぜ」
 ここでまた拳が来る。しかしそれは何とか後ろに跳んでかわすことができた。もう一撃受ければ本当に危ないところであった。
「まあまだそれだけ動けるみたいだがな」
「何という力だ」
「これが俺の力ってわけだ」
 間合いが離れたがそれでも彼の自信は変わりがなかった。
「このナックラ=ビーのな」
「貴様の闘い方でもあるのか」
「そうさ、大事なのは力さ」
 既に声は髑髏天使をせせら笑うものになっていた。
「何でもな。潰して引き裂く」
 拳を振り回しながらの言葉だった。
「それこそが全てなんだよ」
「それで俺も倒すというのだな」
「その通りさ。どうだよ」
 また髑髏天使に対して問うてきた。
「効くだろ?かなりな」
「確かにな」
 それはとても否定できなかった。実際に今の一撃を受けて鈍い痛みをその胸に感じている。これ以上受ければ命の危険があることは彼が最もよくわかっていた。
「もう一撃を受ければ」
「それを喰らいなよ」
 言いながらまた拳を振り回してきた。
「今ここでな」
「くっ・・・・・・」
 また来た拳を後ろに跳んでかわす。受ければ命がないことはわかっていたし防げるものではないことも承知していた。だからこその行動だった。
 だがナックラ=ビーの動きはこれで終わらなかった。またその四本の脚を使って突進してきた。その力と機動力を駆使して彼を追い詰めてきていた。
「ほらほら、そう簡単には逃げられねえぜ」
「また来るか」
「どうするんだ?さっさとやられるしかねえぜ」
 言いながらまた拳を振ってきた。今度は右に跳びまたかわすことができた。
「脚が二本しかねえのに四本に勝てるわけねえだろうが」
「いや、勝てる」
 しかし髑髏天使はここで言った。
「勝てる。それでもだ」
「ほお」
 今の言葉を受けてまたせせら笑ったナックラ=ビーだった。
「そうそう行くかね?上手く」
「俺にはこれがある」
 その言葉と共にだった。髑髏天使の身体が再び輝きその背に翼が生える。そのうえで左手にサーベルが姿を現わす。大天使の姿だった。
「大天使ってわけか」
「これならば。貴様の力にも」
「さて、それはどうかな」
 馬鹿にした笑みでその首をぐるぐると回しながらの言葉だった。
「そう上手くいくかね。ここは何処なんだ?」
「地下の駐車場だ」
「その通りさ。飛べる場所じゃねえぜ。わかってんだろ?」
「無論だ」 
 それをわかっていなくてここで闘っているわけではない。満足に飛ぶことができないのはわかっていた。しかしだったのだ。
「それでもだ。これで行く」
「あんた。何考えてんだ?」
「天使と大天使の力は違う」
 まずこう答えた。
「それはな」
「!?今更何言ってんだ?」
「それに今の剣は二本。一本ではない」
「だからってわけかい」
「そういうことだ。ではわかったな」
「まあわかってやるさ」
 大天使を前にしてもその自信は変わらなかった。最早自分が勝つと信じて疑っていないことがわかる。そんな声と酷薄な笑みだった。 
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