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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第五十五話 兄と妹(前編)

                第五十五話 兄と妹(前編)
 ゼクスがネオ=ジオンから離脱したことはすぐにネオ=ジオン全体に知れ渡ることとなった。だがハマーンは何故かそれに対して何ら対策を打とうとしなかった。
「宜しいのですか、ハマーン様」
「何がだ」
 彼女は側に控えるランス=ギーレンとニー=ギーレンの言葉に顔を向けさせた。
「ゼクス=マーキスのことです」
「あのまま行かせて」
「よい。どのみちあの男はゼクス=マーキスになりきれなかったのだ」
「といいますと」
「あの男はミリアルド=ピースクラフトだったということだ。ネオ=ジオンにはゼクス=マーキスはいてもミリアルド=ピースクラフトはいない」
「はあ」
「そういうことだ。ミリアルド=ピースクラフトは本来の場所に帰った」
 そしてこう述べた。
「それだけのことだ。気にすることはない」
「左様ですか」
「私は別に力で人を縛るつもりはない」
 落ち着いた声でそう述べる。
「ただ。ジオンの大義を信じる者だけが集え。信じられない者は今のうちに去るがいい」
「それは我等もですか」
「そうだ」
 彼女は言い切った。
「何時でもいいぞ。そして戦場でまみえよう」
「まさか」
 二人は表情を変えずにそれに応えた。
「どうしてハマーン様の側を離れることができましょうか」
「我等二人あくまで最後までハマーン様に従います」
「頼もしいことだな。マシュマーといい」
 それを聞いて顔に笑みを浮かべた。
「だがジオンの大義をそれに優先させよ」
「ジオンの大義を」
「ひいてはミネバ様を御守りするのだ。あの方こそがジオンの正統なる継承者」
「はい」
「あの方がおられるからこそまたジオンも生きているのだ。それを忘れるな」
「わかりました」
「他の者にはジオンの大義はない。誰にもな」
 それはランスとニーにだけ言っているのではなかった。自分自身に対しても言っていた。
「ではそろそろ降下に取り掛かる」
「はい」
「目標は北アフリカだ。行くぞ」
「はっ」
 こうして彼等は地球圏に接近していった。そのすぐ後ろにはロンド=ベルが迫ってきていた。
「さて、と。いよいよハマーンとのリターンマッチだな」
「あのおばさんも元気かしらね」
 ジュドーとエルが楽しそうに言う。
「元気なんじゃねえの?死んだって話は聞かねえし」
「殺しても死ぬような人じゃないしね。また派手に暴れると思うよ」
「何か怖いね、それって」
 ビーチャとルーの言葉を聞いてイーノが少し萎縮する。
「けど何とかしなくちゃいけないのは事実だからね。行かないと」
「モンドもわかってるじゃないの」
「ひやかすなよ、エル」
「いやいや、冷やかしやないよ。これから本当に大変だろうからね」
「その前にお風呂に入りたいけれど」
「おい、こんな時でもお風呂か」
 プルツーはそんな能天気なプルの言葉を聞いて呆れた。
「けど。今日まだ入ってないし。ベタベタするよ」
「わかったわかった」
「じゃあプルツーも一緒に入ろ。二人の方が楽しいし」
「おい、私もか」
「何時でも一緒じゃない。だからさ」
「仕方ないな」
「リィナも来たら?三人だともっと楽しいし」
「あ、私はもうエマさんと一緒に入ったからいいよ」
「そうなの」
「声が似てる者同士ってことか」
「まあそれは言わないでおこうよ。プルとプルツーも困るでしょ」
「それもそうだな」
 プルツーはリィナにそう言われて苦笑した。
「では二人で行くか、プル」
「うん、プルツー」
 こうして二人は風呂に向かった。そんな二人をケーン達三人が見ていた。
「何ていうかなあ」
「本当に緊張感がねえな、おい」
「まあそれもそれで一興」
「あんた達からそんな言葉聞くとは思わなかったわね」
 ルーはそれを聞いてあえてキョトンとした顔を作った。
「風邪でもひいたの?」
「おいエル、そりゃどういう意味だ」
 それを聞いてケーンがつっかかる。
「言っとくがなあ、俺は風邪をひく程やわな身体じゃねえぞ」
「ケーン、それは違うぞ」
 そんな彼にライトが突っ込みを入れる。
「大体風邪ひかないって馬鹿ってことじゃねえのか」
「馬鹿で結構」
 タップの言葉にも居直った。
「風邪をひくよりましだぜ」
「何か話が噛み合っていないよ」
 イーノがケーンにそう忠告する。
「とにかく風邪はひいてないんだね」
「まあそれはな」
 ケーンは素直にそれは認めた。
「さっきリンダちゃんの入れてくれたロシアン=ティー飲んだからな。全開バリバリだぜ」
「御前のあれはちょっとジャムを入れ過ぎだがな」
「やっぱり紅茶はレモンだよな」
「へっ、無粋な奴等だぜ」
 ライトとタップをそう言って笑う。
「可愛い娘ちゃんの入れてくれたものを味あわなくてどうするんだよ。そんなのだから御前等今一つ目立てねえんだよ」
「いや、俺達かなり目立ってるぜ」
「この前の戦いだって活躍したじゃないか」
「そうじゃなくてな。何かこう渋さってやつが」
「あんた達に渋さ、ねえ」
 ジュドーはそれを聞いて首を傾げさせた。
「どうもピンとこないな」
「そうだね」
 モンドもそれに頷く。
「どっちかってっと三の線だよな」
「ビーチャさん、それ言い過ぎよ」
「そうだそうだ。ったくよお、エースチームを捕まえて」
「俺達地獄のドラグナーチームによくそんなのが言えるな」
「何かこう、畏怖ってのが欲しいな」
「畏怖って・・・・・・。アムロ中佐やクワトロ大尉みたいにやれるんならともかく」
 ルーがまた言った。
「あんた達が言っても。説得力ないわよ」
「じゃあどうすればいいんだよ」
 ケーンはエルの言葉に口を尖らせた。
「俺はこれでお滅茶苦茶格好いいつもりなんだぜ」
「何処がなんだよ」
「ドラグナーチームつったらロンド=ベルきってのお笑い担当だって話よ」
「あたし達も人のこと言えないけれどね」
「シャングリラに戻っても言われたし」
「ガンダムチームってことでかなり頑張ってけどよお」
「何か今一つシリアスさがないんだよなあ」
「お互い困ってるんだな、それで」
 ライトがガンダムチームの面々の言葉を聞いて呟いた。
「やっぱり。俺達にはシリアスか」
「あのギガノスの旦那みてえに」
「やってやるか、俺達も」
「それ絶対無理だと思うぜ」
 ジュドーが三人に突っ込みを入れた。
「おい、折角やる気になってんのに水入れるのはなしだぜ」
「だってさあ、ケーンさん達も俺達も結局アムロさんやクワトロさんじゃないんだし」
「まあそうだけどよ」
「俺達は俺達でやろうぜ。また機会があればそのうちシリアスになれる時も来るだろうしさ」
「永遠になかったりしてな」
「タップ、おめえはまたそうやって」
「まあその時が来ることを祈ろう。その時に備えて台詞の勉強でもしてだな」
「ハマーン様ばんざーーーーい!とかか」
「・・・・・・そんなに声が似てるか?」
「というかそっくりだぜ」
「やれやれだな」
「まあ声のことは抜きにして。そろそろスタンバっておくか」
「ブライトさんが五月蝿いしね」
「そうそう」
「シリアスな台詞の勉強でもしながら。行きますか」
「よし」
 丁度そこでプルとプルツーも風呂から出て来た。そしてガンダムチームとドラグナーチームは格納庫に向かったのであった。
「何かいつもの連中がやけに早く格納庫に入っちゃったね」
 ローザはそんな一行を見ながら入った。
「あの問題児達もちょっとはパイロットとしての自覚が出て来たのかしら」
「それはどうでしょうか」
 リンダはそのローザの言葉に少し懐疑的だった。
「ケーンは。相変わらずみたいですけれど」
「じゃあ彼等は全員そうなんだ」
「そうだと思います」
 そしてこの言葉にも頷いた。
「けれどそうでないとケーンでないですし」
「確かにね」
 この言葉にはローザも笑った。
「よくも悪くも。兄とは違います」
「そのお兄さんのことだけれど」 
 ローザはそれを受けてマイヨのことに話の舵を切ってきた。
「はい」
「どうやら無事らしいわよ。未確認だけれど地球にいるらしいわ」
「地球に」
「そこでギガノスの若手将校の残党と合流したみたい。今は傷を癒しているそうよ」
「そうなのですか」
 それを聞いて僅かではあるがリンダの顔が晴れやかになった。
「兄は。生きているのですか」
「多分ね。確かなことはまだわからないけれど」
「けど。まだギガノスに」
「それは仕方ないわ。けれど生きていることは生きているみたいよ」
「はい」
「だから。気を落とさないようにね。生きていれば希望はあるから」
「ですね」
 その言葉に頷いた。
「私も。希望を持つことにします」
「ええ」
「これからも色々とあるでしょうけれど。頑張ります」
「そう、その意気」
 どうやらローザのリンダの心を励ます作戦は成功したようであった。それを感じ笑みを浮かべる。
「じゃあ格納庫に行きましょう。整備があるから」
「はい」
 リンダは笑顔で頷いた。
「あの悪ガキ共が痛めつけてくれたマシンの整備もあるしね。頑張るわよ」
「はい!」
 こうして二人は笑顔で格納庫に向かった。だがそうはいかない兄と妹もまたいた。
「・・・・・・・・・」
 スレイは一人アクシズの自室にいた。そして窓の向こうに映る星達を眺めていた。 
 そこに誰かが来た。薄茶色の髪に眼鏡をかけた美青年であった。軍服ではなく白い科学者の白衣と青い服を着ていた。
「そこにいたのか、スレイ」
「御兄様」
 スレイは彼女に気付き顔をそちらに向けた。彼女が兄と呼ぶこの男はフィリオ=プレスティという。アルテリオンとベガリオンの開発者でもある。かってはDCの科学者であったが今はネオ=ジオンにいるのだ。
「どうしたんだい、最近」
「いえ、何も」
 誤魔化そうとするが兄の目は誤魔化せなかった。
「アイビスのことかな」
「おわかりですか」
「当然だ。ロンド=ベルにいるんだね、今」
「ええ」
 やはり誤魔化せなかった。スレイはこくり、と頷いた。
「それで彼女と何かあったと」
「否定はしません」
 こうなっては認めるしかなかった。
「何か。彼女には勝てなくて」
「勝てない」
「DCのテストパイロットだった時は私は序列は一位でした。そして彼女は四位でした」
「うん」
「それなのに。今はどうしても勝てない。技術でも機体でも負けてはいない筈なのに」
「スレイ、アルテリオンとベガリオンの名前の由来は知っているかい」
「名前の由来?」
 スレイはその言葉に顔を上げた。
「そうだよ。アルテリオンとベガリオンはね、織姫と彦星なんだ」
 兄は妹の対してこう語った。
「だから。つがいなんだ」
「私とアイビスだ」
「御前も彼女もそうした意味では同じなんだ」
 彼はまた言った。
「アルテリオンとベガリオンは対立する関係にはないんだ。共にいてこその機体なんだ」
「しかし私とアイビスは」
「先程ミネバ様から御言葉があったよ」
「ミネバ様から」
「ああ。ネオ=ジオンに賛同できない者は去ってもいいと仰られている。もっとも実際に言っているのはハマーン=カーンだろうけれどね」
「何故そのようなことを」
「これからの為に結束を固めたいのだろう」
 フィリオはこう分析していた。
「ネオ=ジオンは火星の後継者達と同盟関係にある。そしてかってのジオンの戦力をそのまま受け継いでいる」
「はい」
「けれどそれだけじゃ足りないらしいんだ」
「それでは何故ここで戦力を減らすようなことを」
「ただ戦力の問題じゃないんだ」
 彼はまた言った。
「ネオ=ジオンは同床異夢ではやってはいけない。そういうシステムなんだ。その為には考えが異なる者達を入れておいてはならない。それだけで組織として立ち行かなくなる」
「何故」
「それは独裁体制だからだよ」
 フィリオは一言でネオ=ジオンのシステムを看破した。
「ミネバ=ザビを頂点とするね。ネオ=ジオンはザビ家が頂点でありザビ家の為に存在しているんだ」
「ではジオンの大義は」
「ある意味においては正しいけれどある意味においては間違いだ」
 ジオンの大義についても指摘した。
「だから。それに納得できない者は去れということなんだ。内部で何かあっては外に向かうことはできないから」
「そうでしたの」
「そして私は今ハマーン=カーンに会ってきた」
「まさか」
「そのまさかさ」
 そう言ってにこりと微笑んだ。
「ネオ=ジオンから脱退することを伝えてきたよ。もう私はネオ=ジオンの人間じゃない」
「・・・・・・・・・」
 スレイはそれを聞いて沈黙してしまった。何も言うことはできなかった。
「けれど御前は違う。自分のことは自分で決めてくれ」
「自分で」
「ネオ=ジオンに残るのも。出るのも。全て自分で」
「私自身で」
「そうだ。私はもうネオ=ジオンを出て安西博士やオオミヤ博士の方へ向かうけれどね」
「御一人でですか」
「私は軍人ではないし。別に構わないさ」
「けれど私は」
「ベガリオンは一人乗りの筈だけれど」
「しかし」
「だから自分で決めるんだ。いいね」
「・・・・・・わかりました」
 そう言われて止むを得ず頷いた。
「それでは」
「そうだ。けれどさっき言ったことは覚えておいてくれ」
「さっきの言葉を」
「アルテリオンとベガリオンは二つで一つなんだ。それを覚えておいてくれ」
「はい」
 スレイはこくり、と頷いた。
「そこに御前の道があると思う。いいね」
「わかりました」
「色々と断ち切らなければならないものもあると思う。けれどそれを断ち切らないと前へは進めない」
「はい」
「私が言えるのはそれだけだよ。後は全部御前で決めるんだ。いいね」
「それしかないのですか」
「ああ。それじゃあこれで私は去らせてもらう」
「もう」
「長くいる必要もないしね。それじゃあ」
 こうして兄は去った。部屋にはまたスレイだけが残った。
「私で決めること」
 突き放された気持ちになった。どうしていいかはわからない。
 だが何とかしなければならないのはわかっていた。彼女はそこに何かを見つけようとしていたのであった。
 
 ロンド=ベルはネオ=ジオンの守る防衛ラインに接近しようとしていた。それを受けて総員戦闘配置に着こうとしていた。
「今度の敵の指揮官は誰だ」
「ギニアス=サハリン少将です」
「ギニアス=サハリン」
 その名を聞いたブライトの眉が動いた。
「まさか」
「はい、どうやらアイナの兄のようです」
「やはりな」
 ブライトはトーレスの言葉を聞いて頷いた。
「ここで出て来たというのか」
「前の戦いで戦死したという情報もありましたが」
「確かアプサラスという巨大モビルアーマーと共に戦死したと思われていたのだったな」
「はい」
「シローとアイナの手で。それで今ここでか」
「あの二人にとっては心情的に穏やかではないでしょうね」
「だがここで避けるわけにはいかない」
 ブライトは戦局を鑑みて冷静にこう述べた。
「このまま進む。いいな」
「わかりました」
「あの二人にも出てもらう。辛いだろうがな」
「はい」
 そして戦闘宙域にさしかかった。ロンド=ベルの面々は次々に出撃して敵への攻撃に備えていた。その中には当然ながらシローとアイナもいた。
「ネオ=ジオンも必死だな」
「ええ」
 アイナはシローの言葉に頷いた。
「地球圏への降下がかかっているから。当然よね」
「地球から離れたのにまた地球に戻って来るのか」
 シローはそれを聞いてふと呟いた。
「何か。不思議だな」
「人間とは中々地球の重力から離れられないものなのだよ」
 クワトロがそんな二人に対して声をかけてきた。
「クワトロ大尉」
「それが人間の弱さなのかも知れないがね」
「弱さですか」
「地球から離れられれば何かを得られるかも知れない」
 実は彼はそれが何かもわかってはいた。
「しかしそれと一緒に何かを失うかも知れない。それが怖いのだ」
「失うんですか」
「そうだ。それが何かまではわからないが」
「何か今一つわからない話ですけれど」
「ははは、これは済まない」
「いえ。ですがそんな時代ももうすぐ終わるんじゃないですか」
「それはどうしてかね」
「いえ、何かそんな気がするだけです」
 ぼんやりとそう思ったに過ぎなかったがあえて口に出した。
「この戦いでかなり変わってきていますよね」
「確かにな」
 クワトロもそれは認めた。
「少なくともあの未来ではなくなっている。恐竜帝国も滅んだ」
 彼は恐竜帝国が今出て来たこととその崩壊に人類の未来が変わってきていることを感じていた。
「そしてバルマーも来ている。まだ何かあるのかもな」
「宇宙怪獣もいますしね」
「それもあったか」
「他にも大勢いますし。もう地球だそんなの言っている場合じゃないですよ」
「そうだな」
 その言葉に忘れていたものを思い出させられた。
「では私も無理をする必要はないな。君達もいることだしな」
「無理を!?」
「いや、何でもない」
 その言葉は打ち消した。
「だが今無理をしようという者達が前にいる」
「はい」
 シローにもそれが誰なのかはわかっていた。
「そろそろ来るぞ。用意はいいな」
「はい」
「来るのなら」
「アイナ様御気をつけて」
 ノリスのドライセンも前に出て来た。
「いざという時にはこのノリスもおりますので」
「有り難う、いつも
 それを聞いて優しい顔になった。
「頼りにしているわ、ノリス」
「いえ、そのような」
 だがそう言われるとかえって照れるようであった。その厳めしい顔が赤くなった。
「シロー殿も用心されよ」
「あ、ああ」
 照れ隠しかシローにも声をかけてきた。
「何かあってからでは遅いですからな」
「了解」
「そら、来たぜ」
 忍が前を見て言った。ネオ=ジオンのモビルスーツ部隊が出て来ていた。
「ゾロゾロとよ。わざわざやられに来やがったか」
「相変わらず強気だな、おい」
 リョーコがそれを聞いて楽しそうに言う。
「旦那も断空砲をぶっ放したくて仕方ねえみてえだな」
「当たり前じゃねえか、派手にやらなくて何が戦いなんだよ」
 忍はそんなリョーコに対して言葉を返してきた。
「やってやるぜ、今日もな」
「派手にやるのもいいが周りには気をつけるようにな」
 そんな彼にアランが忠告をかけてきた。
「そうでないとフォローが大変だ」
「よく言うぜ、あんたもかなり派手にやる癖によ」
「俺はあくまで戦いに合わせているだけだ」
 アランはクールな声でこう述べた。
「御前とはまた違う。一緒にしないでもらおうか」
「ヘッ、まあいいや」
 忍はそれには絡もうとしなかった。
「どのみちやるぜ。亮、断空砲用意だ」
「よし」
「目標はあのデカブツだ。一撃で沈めるぜ」
「デカブツ!?」
 それを聞いたアイナの顔が動いた。
「モビルアーマーもいるの!?」
「!?そりゃ普通にいるんじゃねえかな」
 ジュドーがそれを聞いて応えた。
「モビルスーツがいるんだし。それにネオ=ジオンつったらモビルアーマーが多いし」
「サイコガンダムがいたりして」
「あれか。あまり思い出したくないな」
 プルツーはプルの言葉を聞いて露骨に嫌な顔をした。
「他には何があるかな」
「クインマンサにノイエ=ジールもあったか」
 それでもプルツーは言った。
「こうして見ると確かに結構あるな」
「そうだな」
「あとは・・・・・・」
「アプサラスね」
 そしてアイナが言った。
「アプサラス」
「貴女達は知らないかしら。ジオンが開発していた巨大モビルアーマーなのだけれど」
「ちょっと」
「聞いたことがないが」
「そう」
 それを聞いて少し悲しそうな顔になった。
「アプサラスはね、宙に浮くモビルアーマーだったのよ」
「宙に」
「キュベレイみたいにミノフスキークラフトをつけていたのか」
「ええ。けれど一年戦争で破壊されたわ」
「何故」
「俺が破壊したんだ」
 シローが名乗り出た。
「アイナが元々ジオンにいたことは知っているな」
「うん」
「あたし達もそうだったからな」
「その時に乗っていた機体だ。開発者はギニアス=サハリン」
「サハリン」
「まさか」
「そう、私の兄が開発したモビルアーマーだったわ」
 アイナ自身で告白した。
「兄は私にアプサラスの能力を世に知らしめたかったの」
「それでアイナさんを」
「何かいかれているところがあるな」
「プルツー」
「いえ、その通りよ」
 プルが咎めようとした言葉は他ならぬ妹の手によって否定された。
「私も兄の狂気に気付いたわ。けれど私にはどうすることもできなかった」
「アイナ様は心優しい方ですから」
 ノリスがそう言って庇う。
「しかしアイナは迷っていた。そして俺は」
「アイナさんを救い出したのか」
「格好いい」
「その後でギニアス少将と戦ったんだ。その時で死んだ筈だが」
「今生きているかも知れないな」
「ああ」
 シローもそれに頷いた。
「若しかするとここにも」
「そうだ」
 ここでブライトが言った。
「ブライト艦長」
「今前方に展開しているネオ=ジオンの指揮官はギニアス少将だ」
「御兄様が」
「アイナ中尉、いいか」
「・・・・・・・・・」
 ブライトの問いに一瞬沈黙してしまった。
「肉親との戦いだが。それでもいいのか」
「・・・・・・はい」
 だが彼女はそれに頷いた。
「やります」
 そして言った。
「やらせて下さい。それが戦争ですから」
「よし」
 それこそがブライトが望んでいた答えであった。それを聞いて満足して頷いた。
「では宜しく頼む。モビルスーツ部隊は敵主力にあたる」
「はい」
「他の部隊はモビルスーツ部隊の左右に展開して敵を扇状に撃破する。いいな」
「わかりました」
「了解」
 総員それに頷く。
「四隻の戦艦は後方で援護に回る。エステバリスはその護衛を務めてくれ」
「何だよ、また護衛かよ」
「護衛はごっめーーーーーん・・・・・・ウプッ」
「何かイズミさんの駄洒落も無理がなくなってきましたね」
「・・・・・・ヒカル、それマジで言ってるのか」
「マジだから。イェイイェイイェイ」
「だからそんな古い唄誰も知らねえって」
「あれっ、俺は好きだぜ」
 サブロウタも参戦してきた。
「その唄子供の頃から聴いてたしな。カラオケでいつも歌ってるしな」
「おっ、カラオケか」
 ダイゴウジも加わった。
「それならば一つしかない。ゲキガンガーを熱唱だ!」
「ちょっと待て、歌劇団の唄だろうが!」
「あの唄歌うときリョーコさんって声変わりますよね」
「あれ、そうか?」
「凄く可愛い声にあれ何でなんですか?」
「何でって言われてもよお」
 ルリの問いに言葉を少し詰まらせる。
「あたしも不思議なんだよ。どうしてかってな」
「その歌の声域によって声を変わるものだ」
「ノインさん」
「私とリョーコはよく声が似ていると言われるがな。確かに私もあの歌を歌うと声が変わる」
「そうなのですか」
「というかノインさんがあの歌を歌うのって凄い意外ですよね」
「・・・・・・私はああした歌が好きだ」
 メグミの言葉に頬を赤らめさせる。
「明るい曲がな」
「そうなのですか」
「驚かないのか」
「何をでしょうか」
 だがルリは相変わらず無機質な様子であった。
「私があの歌を好きでだ」
「人それぞれですから」
「そうか」
「はい」
 彼女は応えた。
「他の人が何を歌おうとどんな曲が好きでもそれでいいと思います。人それぞれですから」
「有り難う」
「何故御礼を」
「私はな。こんな声と外見だからどうにも大人に見られるのだ。まだ二十代になって間もないというのに」
「それだけノインさんがしっかりされているということです」
「そうかな。おばさんに見られないか」
「ブライト艦長もクワトロ大尉もまだ二十代ですが」
「あっ」
 それを聞いてハッとした。
「そういえばそうか」
「ですから。年齢のことはあまり気になさらずに」
「わかった。そうだな」
 その整った美貌に少し苦味を加えた笑いを浮かべながら頷いた。
「有り難う、ホシノ少佐」
「いえ」
「おかげで気が楽になった。年齢のことは気にしなくていいのだな」
「私はそう思います」
「では私なりに思う存分やらせてもらおう」
「戦いをですか?」
「他のこともだ」
 そう言ってまた笑った。今度は純粋な笑みであった。
「若いのだからな」
「!?」
「まあルリルリにはまだわからないわよね」
 ハルカがキョトンとするルリを見ながら言う。
「世の中一矢君みたいに一直線な子ばかりじゃないってことがね」
「一直線ですか」
「そうよ。まあそれもこれから勉強することになるわ」
「勉強?」
「人生のね。まあそれは置いといて」
「はい」
「敵は?そろそろ出て来る頃よね」
「前方に八百機程です」
「やっぱり多いわね、流石に」
「ここが敵の正念場ですからね」
 ハーリーも言った。
「それじゃあまずは前方にグラビティ=ブラストいっちゃいましょう」
 それを受けてユリカが言う。
「ドカーーーーーンと一発」
「ドカーーーーーンと」
「はい。それでまず流れを掴みます。そこにモビルスーツ隊に突入してもらいます」
「流れるみたいに」
「はい」
 ユリカはハーリーの言葉に応えた。
「ブライト大佐、それでいいですか」
「私としては異存はないが」
 ブライトはモニターに出てそう応えた。
「ではこちらもハイメガ粒子砲を撃つとしよう」
「はい」
「そしてそこに空いた穴に一気に突入する。アムロ、それでいいな」
「ああ」
 アムロもそれに頷いた。
「ではそれで。早速グラビティ=ブラストいっちゃって下さい」
「了解、艦首敵前方に」
 ハルカがそれに従い舵をとる。
「エネルギー充填完了」
「発射!」
 そして早速発砲する。黒い稲妻が銀河を切り裂いた。そしてネオ=ジオンの大軍を撃ち据える。それが通過するだけで無数の光が起こる。多くのネオ=ジオンのモビルスーツが消え去った。
「てーーーーーーーーーーーっ!」
 ブライトの乗るラー=カイラムの攻撃も続く。それを受けてネオ=ジオンの陣に巨大な二つの穴が空いた。
 そこにモビルスーツ部隊が突入し左右に他のマシンが展開する。こうして戦いはまずはロンド=ベルの流れではじまった。
「今のダメージは」
「五十機程です」
 後方に巨大な岩石の様なマシンがあった。そこから一人の男が部下から報告を受け取っていた。
「五十機か」
「はい」
 その機体のモニターにいる部下は頷いた。
「どうやら敵はハイメガ粒子砲、そしてグラビティ=ブラストを使ったな」
「おわかりですか」
「わからない筈がない」
 そのマシンの中にいる男はそう返した。
「まずは陣を整えよ」
「はい」
「それで穴を塞ぐ。それから迎撃態勢を整える」
「わかりました」
「そしてこのアプサラスも前線に出よう」
「アプサラスもですか」
「そうだ。何か不安か?」
「いえ」
 その部下はそれには答えなかった。
「では護衛が我々が」
「頼むぞ」
 男はそれに声をかけた。
「ここは通してはならぬ。それはわかっているな」
「はい」
「ならばいい。ではこのアプサラスの力ロンド=ベルに見せてくれよう」
 こうして巨大なマシンがロンド=ベルの前に姿を現わした。それは今敵軍の中に突入したばかりのロンド=ベルの前に現われた巨大な魔物であった。
「な・・・・・・」
「こいつは一体・・・・・・」
「ネオ=ジオンの秘密兵器か!?」
「これがアプサラスよ」
 驚く一同に対してアイナが言った。
「これが」
「ええ」
 そして彼女は頷いた。
「かって私が乗り込んでいたジオンの巨大モビルアーマー」
 そう呟きながらその単眼を見る。
「まさかまた出て来るなんて」
「乗っているのはおそらく」
「アイナはそこにいるな」
 そしてアプサラスの中から声がした。
「その声は」
「やはり生きていたか」
 シローもその声を聞いて声をあげた。
「そうだ、私だ」
「御兄様」
「アイナ、まさかこうして再び出会うとはな。思ってもいなかった」
 アプサラスの中には金色の髪を持つ青年がいた。
「こうして私の前に姿を現わすか。アプサラスの力を示す為に」
「いえ、違うわ」
 彼女はドーベンウルフの中から言った。
「私は。御兄様を止める為にここにいるのよ」
「私を」
「ええ」
 彼女は言い切った。
「何があってもここは通さないわ」
「フン、このアプサラスを以前のアプサラスと同じだと思うな」
「えっ!?」
「私がさらなる改良を加えたこのアプサラス。モビルスーツでは相手にはならん」
「そんなこと」
 兄の言葉に反発した。
「確かめてみなくてはわからないわ」
「何をする気だ?」
「これで!」
 叫びながら何かを出してきた。
 インコムを出した。有線で敵に襲い掛かるドーベンウルフの主力武器の一つである。言うならばジオングの腕に近い。
 それでアプサラスを撃つ。今までこれで多くのモビルスーツを倒してきた。それにアプサラスの弱点はわかっていた。確実に仕留めたと思った。
 だがそれは適わなかった。アプサラスは全くの無傷であった。インコムの攻撃にも何らダメージを受けることなく平然と宙に浮かんでいた。
「なっ!?」
「これでわかったか」
 ギニアスは勝ち誇った笑みを妹に見せた。
「所詮無駄だということが」
「そんな・・・・・・」
「最早このアプサラスを倒せる者は存在しない。これは私が作り上げた究極のモビルアーマーなのだ」
「くっ!」
 シローもその言葉を聞いて歯噛みした。
「そんなことが有り得るものか!この世に無敵の奴なんて」
「では貴様がアプサラスを落とせるというのか!」
「やってやる!」
 その言葉に応じてライフルを構えた。
「これで!」
 そして狂ったように射撃を続ける。それで撃墜するつもりであった。
 だがそれも無駄だった。シローのガンダムが放った攻撃はアプサラスに全て弾かれてしまったのだ。
「これは・・・・・・」
「アイフィールドだ」
 アムロがそれを見て言った。
「アイフィールド」
「ビーム兵器に対するバリアーだ。このニューガンダムにも装備されている。これは知っているな」
「ええ」
「どうやらあのアプサラスもそれを装備しているらしい。これはかなり厄介だな」
「じゃあどうすれば」
「ミサイルで攻撃する方法もあるが。あの装甲には通用するかどうか」
「手詰まりというわけですか」
「いや、そう考えるにはまだ早い」
 アムロは冷静なままであった。
「必ず弱点はある。弱点のないマシンなんか存在しない」
「けど」
「君達はとりあえず下がれ」
「えっ」
「ここは俺が食い止める。その間の他のモビルスーツの相手を頼む」
「しかしそれじゃあ」
「アムロ中佐に負担が」
「心配はいらないさ」
 にこりと笑って二人に言った。
「モビルアーマーの相手は一年戦争で慣れているしな」
「そうですか」
「アイナ様、ここはアムロ中佐にお任せしましょう」
「ノリス」
「このままではアイナ様にもシロー殿にも無駄な危害が及びます」
「俺達じゃアプサラスを倒せないっていうのかよ」
「お言葉ですが」
 彼は正直に言った。
「ですから。ここはお下がり下さい」
「クッ」
「シロー、ここはノリスさんの言う通りよ」
「セレーナさん」
 セレーナもシローに対して言う。
「貴方達でも今のアプサラスの相手は難しいわ。ここは下がりなさい」
「グッ」
「シロー」
 アイナも言った。
「仕方無いわ、やっぱり」
「わかった」
 苦渋に満ちた顔で頷く。
「アムロ中佐、ここはお任せします」
「ああ」
「俺達はその間に他のネオ=ジオンの部隊を叩きます。どうか宜しく」
「わかった。それじゃあな」
「はい」
 こうしてアムロ一人を残してシロー達は他の場所に向かった。こうして戦いは二つの戦いとなったのであった。
「アムロがアプサラスを引き付けてくれているか」
「好判断ですね、アムロ中佐の」
「ああ」
 ブライトはトーレスに対して頷いた。
「やはりいざという時はあいつか。色々と助けられる」
「しかしそれだけでは駄目ですよ」
「わかっている」
 それに応じるとゆっくりと右手をあげた。
「アプサラスは無視しろ!皆他のモビルスーツ部隊を狙え!」
「了解!」
「ダブルゼータ、F91はハイメガランチャー、ヴェスパーで後方の戦艦を狙え!一隻も撃ち漏らすな!」
「よしきた!」
「わかりました!」 
 ジュドーとシーブックがそれに応える。
「ジュドーとシーブックの小隊の者は二人の援護だ。敵艦の主砲に気をつけろ」
「了解!」
「それでは援護にあたります」
 ルーとセシリーがそれぞれを代表して答える。
「戦艦は前に出る!攻撃を強化しろ!」
「艦長!左に敵小隊!」
「弾幕を張れ!何やってんの!」
 いつもの叱責が飛ぶ。
「エステバリス援護を頼む!」
「はい!」
 アキトが頷く。
「ドラグナーチームとバルキリー隊はモビルスーツと共に敵への攻撃!ファイアーボンバーは後方で音楽を奏でるんだ!」
「バサラ、わかったわね!」
「ヘッ、もうやってるぜ!」
 どうやらバサラにはさしものブライトの命令も効果がないようであった。
「ダンクーガ、ザンボット、ライディーン、ダイモス、ゴッドマーズはモビルスーツ達の側面で攻撃を頼む!容赦はするな!」
「よし、派手にぶちかますぜ!」
「待ってました!宇宙太、恵子、やるぜ!」
 彼等もそれに頷く。
「一気に粉砕する!そして地球圏に向かうぞ!」
「はい!」
 ブライトの指示が終わると皆頷いた。彼等はここで止まるわけにはいかなかったのだ。
 ロンド=ベルは総攻撃に出た。そしてネオ=ジオンのモビルスーツ部隊を取り囲み一気に押し潰そうとする。数においては大きく劣っていたがその戦闘力では寄せ付けなかった。攻撃はさらに熾烈なものとなった。
 その結果アプサラスの周りのモビルスーツ達もその数を大きく減らしていた。ギニアスがアムロに足止めを受けている間に戦いは決まってしまっていた。
「おのれ」
「アプサラスの力に溺れたな」
 アムロがギニアスを見据えてこう言った。
「戦いは一機でやるんじゃない。御前はそれを忘れていた」
「クッ」
 これは仕方のないことでもあった。彼は少将といっても技術畑の人間である。従って実戦経験に乏しかったのだ。
「さあどうする、降伏するかそれとも」
「このアプサラスに降伏の二文字はない」
 彼はそれを拒んだ。
「また敗北の二文字もない」
「そうか」
 アムロはそこまで聞いて頷いた。
「では覚悟するんだな」
「フン、如何にニューガンダムといえど」 
 自信に満ちた笑みと共に言う。
「このアプサラスを倒せはしない」
「それはどうかな」
「何っ!?」
「行けっ、フィンファンネル!」
 アムロが叫ぶと背中のファンネルが飛び立った。そしてアプサラスに向かう。
「ファンネルでこのアプサラスを!」
「ファンネルだからだ!」
 アムロはまた叫んだ。
「これなら!」
 ファンネルはアプサラスの周りで複雑な動きを示した。そしてその背後と側面、上方、下方、前面にそれぞれ位置する。それからビームを放った。
 ピンポイントに何処かを狙っているようであった。ビームがアプサラスを撃ち据えた。それでその動きは完全に止まってしまったのであった。
「な・・・・・・」
「言った筈だ、弱点のないマシンなんて存在しないと」
 アムロは再び言った。
「アプサラスの弱点は見切っていた。ギニアス、御前はそれに気付かなかった」
「馬鹿な、アプサラスの開発者の私が」
「御前は慢心していたんだ」
 アムロの言葉は続く。
「だから気付かなかった。そして負けたんだ」
「クッ・・・・・・!」
「これで終わりだ。アプサラスはな」
「いや、まだだ」
 それでも彼はそれを認めようとはしなかった。
「私はまだ敗れてはいない。私が敗れる時は」
 その目が真っ赤に充血していた。その目のまま言う。
「私がアプサラスと共に死ぬ時だ。今は・・・・・・」
 そう言いながらコクピットのあるボタンを押した。
「さらばだ。この復讐は必ず果たす!」
 脱出した。そのまま何処へと消え去る。こうして行動不能になったアプサラスを残して彼は脱出してしまったのであった。
「終わりましたね」
「ああ」
 アムロのところにシローが来て声をかけた。アイナも一緒であった。
「だが脱出には成功した。また来るだろうな」
「そうですか」
「御兄様」
「アイナ、辛いだろうがな」
「はい」
 気を落としそうになるアイナにシローとアムロが声をかける。
「覚悟はしていると思う。けれどそれが揺らいだら」
「いえ、大丈夫です」
 ここで毅然として顔を上げて言った。
「前の戦いで。もう決心していますから」
「そうか」
「ですから御気になさらないで下さい。シローも」
「いいんだな」
「ええ」
 そしてまた頷いた。
「どのみち御兄様はもう」
「俺には兄弟がいなかったからよくわからないがな」
 アムロはそう前置きしたうえで言った。
「あまり思い悩むと。周りが見えなくなるぞ」
「周りが」
「そういう時は誰かを頼るのがいい。君にはシロー君もいるしノリスさんもいる」
「はい」
「だから苦しい時は頼るんだ。いいな」
「わかりました」
「俺ではあまり力になれないかも知れないけれど」
 シローはそう言いながらアイナの側にやって来た。
「困ったことがあったら何でも言ってくれよ。できるだけ力になるからな」
「有り難う」
 そして二人は乗艦に戻っていった。アムロはそんな二人を見送りながら自身もラー=カイラムに戻って行った。
 艦に戻るとチェーンがやって来た。そして彼に声をかけてきた。
「どうでした、あの二人は」
「見ていたのか」
「はい。何かと心配でしたから」
「心配なのはあの二人のことかい?」
 彼は笑いながらチェーンに声を送った。
「俺がアプサラスと戦っている時に不安だったからじゃないのか」
「いえ、そんな」
 慌ててそれを否定する。
「アムロ中佐ですから。大丈夫と思ってました」
「そうなのか」
 実はわかっていた。戦っている時にチェーンの思念も感じていたからだ。だがそれは口には出さなかった。アムロ程のニュータイプでなければわからないことだからだ。
「だったらいいけれど。俺のことよりあの二人の方が大事だからな」
「そんなに傷ついていますか?」
「アイナはな」
 前を見据えながら言った。
「シローが頑張っているが。何かと気遣って欲しい」
「わかりました」
「俺はどうもそういうことは苦手だからな。ブライトも」
「うふふ」
「おいおい、おかしいのか」
「だって御二人共そういうところはそっくりですから」
「そっくりか」
「はい」
 チェーンはニコリと笑って言った。
「あまり器用でないところが」
「そうか」
「口下手ですよね、中佐も艦長も」
「否定はできないな」
 言われてみればその通りである。アムロも頷くしかなかった。
「だとするとあの二人は俺やブライトの出る幕じゃない」
「ですね」
「ここは他の者に任せるとするか。おじさんは引っ込むとしよう」
「おじさんって」
「最近な。どうも皆俺やブライトを年寄り扱いするからな」
 そう言いながら苦笑いを浮かべた。
「俺もブライトもまだ二十代なんだが。若さってやつは怖いな」
「クワトロ大尉もそんなこと仰ってましたね」
「あいつもか」 
 アムロはそれを聞くと目に感慨を宿らせた。
「そろそろ俺達も引退する時なのかもな」
「引退ってまだまだ現役じゃないですか」
「そういった意味じゃなくてな。ニュータイプとして」
「ニュータイプとして」
「俺もあいつも歳をとってきた。もう若い連中に任せてもいいかな」
「けれどこの戦いはアムロ中佐もクワトロ大尉も必要ですよ。皆本当に頼りにしてるんですから」
「問題はその後だ」
「その後」
「そうだ」
 アムロはまた言った。
「この戦いが終わったら人類は新たな歩みをはじめなくちゃいけない。その役目は俺達じゃないんだ」
「それじゃあ」
「もっと若い者達がしなくちゃいけない。そうでないと人類はよくならない」
「できるでしょうか」
「できるか」
 アムロは答えた。
「一年戦争も終わらせたしバルマー戦役も乗り越えたし未来も変えることができた。人間は確かに進歩している」
「進歩」
「俺は人間を信じている。きっとできるさ」
「そうなのですか」
「チェーン、君にもな」
「私にも」
「頼りにしているよ、何かとね」
「は、はい」
 アムロにそう言われるとその顔を明るいものにさせた。頬も赤らめた。
「私、頑張ります」
「ああ、宜しく頼むよ」
「はい。それじゃあまずは」
「アイナを宜しくな」
「了解」
 そして敬礼をしてアムロの前を去った。アイナもまた心配し、気遣ってくれる者達がいた。彼女も一人ではなかったのだ。
 だが一人で悩む者もいた。人はそれぞれ悩みを抱えて生きている。だがその悩みは何時かは拭い、克服しなければならない。そうでなくては人は前に進めはしないのだから。

 戦いに敗れたネオ=ジオンは防衛ラインを後退させていた。ハマーンはグワダンのモニターに映る自軍とロンド=ベルの陣を見据えながら思案に耽っていた。
「やはりやってくれるな、彼等は」
 険のある声でそう言った。
「あの防衛ラインを易々と突破するとは。サハリン少将はどうしたか」
「脱出されました。そして今は後方で自軍の建て直しにあたられています」
「そうか、わかった」
 彼女はその報告を聞いて頷いた。
「撤退したモビルスーツ部隊はどうしているか」
「今はデラーズ中将の部隊と合流しておりますが」
「そうか」
「そのデラーズ中将から伝言です」
「何だ」
「貴殿等はそのまま地球降下作戦を実行されたし。防衛は我等が引き受ける、とのことです」
「つまり後ろは気にするなということか」
「おそらくは。如何されますか」
「デラーズ中将に伝えよ」
 ハマーンはそれを聞いて言った。
「その申し出喜んで受けさせてもらうとな」
「わかりました。それでは」
「うむ、頼むぞ」
 伝言を聞き終え返事を送るとハマーンはまたモニターに顔を戻した。
「降下作戦の戦力は予定通りだな」
「はい」
「マシュマー、グレミー、キャラ、イリアの各部隊はどうしているか」
「全て順調です」
 艦橋にいる参謀達が報告を続ける。
「何れも降下可能です」
「よし」
「このグワダンも当然降下するのですね」
「そうでなくてはここにはいない」
 ハマーンは不敵な笑みを浮かべてこう返した。
「ミネバ様もだ。わかっているな」
「ハッ」
「全軍北アフリカに降下する。予定通りな」
「そこには青の部隊がいましたな」
「そうだ。まずは彼等と合流する」
 ハマーンの言葉は続く。
「そのうえでダカールを目指す。そこを占拠しジオンの大義を人類に再び知らしめすのだ。いいな」
「わかりました」
 参謀達はそれに頷く。
「キュベレイも用意しておきます」
「うむ」
「強化人間部隊も」
「強化人間部隊か」
 それを聞いたハマーンの赤紫の眉がピクリ、と動いた。
「あの者達は確かグレミーの部隊だったな」
「はい」
「それが何か」
「いや」
 ハマーンはそこで考える顔になった。
「少しな。気になることがある」
「気になることが」
「近頃グレミーはラカンと色々と二人で話をしているそうだな」
「それはまあ」
「ラカンはグレミーの副官ですから」
「そういう問題ではない」
 だがハマーンは問題はそこではないとした。
「といいますと」
「グレミーには注意しておけ」
「注意」
「そうだ。少しでもおかしなことがあれば私に報告しろ」
 その声がさらに険しいものとなった。
「そしておかしなことがあれば」
「はい」
「消せ」
 峻烈な声であった。反論を許さない凄みがそこにあった。
「よいな。消せ」
「・・・・・・わかりました」
 参謀達は仮面の様に表情のない顔になった。そしてハマーンのその言葉に頷いた。
「我等はティターンズやギガノスと比べて兵力は少ない」
「はい」
「例え火星の継承者と協力していてもな。そもそも彼等も兵力には乏しい」
「そうでしたな」
「それで何かあればすぐに崩壊に繋がる。それを常に心に留めておけ」
「わかりました」
「全てはミネバ様の下にあらねばならぬ」
 ハマーンは締めるようにして言った。
「ミネバ様こそがジオンの大義を実現される方」
「はい」
「そのミネバ様を裏切ることは私が許さぬ。例えミネバ様がお許しになろうともな」
「わかりました。それでは」
「うむ、頼むぞ」
 ネオ=ジオンにもまた不穏な空気があった。ハマーンはそれを察しすぐに手を打とうとしていた。だがその彼女ですら防げないものがある。それが何かは彼女にもわからなかった。だがそれは確実に存在したのであった。


第五十五話   完


                                     2005・11・20

 
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