FAIRYTAIL-ダークブリングの力を操りし者-
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第十二話 ルシアとカナの想いとギルダーツという男
このギルド最強筆頭候補ギルダーツ・グライヴという男は中々ギルドには帰ってこない。早くて数ヶ月、遅ければ数年近く帰ってこないことなどざらにあるらしい。俺がギルドに入ってからは一月で戻ってくることが多かったらしいのだが入れ違いとなり会う機会はなかった。俺がギルドに所属して半年以上経ってようやく会うことができ話すようにもなった。
このギルドでS級認定されている魔導士の一人であるため、受ける依頼難易度も半端じゃない。S級クエストやSS級クエスト更に上の10年クエストや100年クエストと呼ばれる高難易度のクエストはS級魔導士に認定されたものしか受けることができない。つまりギルダーツはこの高難易度のクエストを受けているため一つのクエストに時間が掛かるわけだ。
外見は40歳程で気の良いおっさんと言った所だ。ナツやグレイ達、ギルドの皆に懐かれている。そんな中カナだけは何故かギルダーツに近寄ろうとはしなかった。いや、話掛けようとはしているが踏ん切りがつかない、そんな感じだった。
ナツやグレイと戯れているギルダーツを遠目から羨ましそうに見ていたのが印象的だった。唯一ギルドから依頼に出る時にいつもカナはギルダーツに話しかけに行っていた。そんなカナの行動を見ていると昔の自分と重なって見えた。両親に構ってもらいたいと想っていた幼少期の頃の自分と。
恐らくだがギルダーツはカナの親族、いや父親にあたる人なのではないだろうか。昔の自分と被って見えたこと、そして初依頼のとき依頼人の父との思い出の品を異常なほどに焦って取り戻そうとしたこと。理由はこれだけだが、何となく俺の予想は合っているだろうと確信している。
だが、この問題に俺が介入してもいいのだろうか?もし昔の自分が第三者からの後押しを受けたとしても、それが決定打となって進んで話に行こうとしただろうか。いや、まず間違いなくそんな第三者を拒絶しただろう。お前に何がわかるんだ、と。カナとギルダーツとの間の事情もよく知らない俺に何ができるというのだろう。
だがあんな寂しそうにしているカナを放ってはおけない。俺ができることはエルザの時と同じく傍にいてやることだけだった。自身でも情けなく思うが、俺は自分の言葉で誰かを救ってやれる自信はない。もし俺の言葉で状況が悪化してしまったら、何て考えている奴の言葉など届くわけもないのだから。
ただ俺がカナとギルダーツの関係性に薄々気がついていることにカナも感づいていた。それを見越してカナは俺にある宣言をした。それはS級魔導士になればギルダーツにあることを告白する、と。それはカナの誓い、決意表明だったのかもしれない。
その時俺の頭の中に過ぎったのは前世の俺と両親の関係だった。両親は忙しくも俺に寂しい思いはさせまいと忙しい中疲れた身体で一緒に外出したものだ。その事に嬉しく思いつつも迷惑を掛けてしまっているのではと思っていた。カナも似ているのかもしれない。迷惑を掛けたくない、S級魔導士の父の負担になりたくないと。
もしそうならば、俺は何も言えない。自分はそれを解決せずに転生という道を選んだのだから。この選択が逃げになるのか、それとも新たな第一歩になるのかは自分が決めることだと思っている。ただ両親との思い出は色あせても、生涯忘れずにいようと決めている。……まぁカナの想いとギルダーツとの関係性は所詮推測の話だ。俺ができることはカナを連れてギルダーツに話に行くことくらいだった。
カナはその時いつも戸惑いながらもギルダーツに話しかけられると嬉しそうに答えていた。これを俺がギルドに所属してからずっとも続けている。あとはカナ次第だった。それとは別に俺はギルダーツに対して思うことがあった。それは勿論ギルダーツと戦うこと。見れば分かるほどの実力差。戦わずして分かるほどの実力差というのは、大抵は自身が思っている以上に差に開きがあるものだ。それを実感したかった。
しかしカナがいる手前中々言いづらかったこともある。カナと仲良くしている俺と、恐らく親族のギルダーツが戦うことはあまり良い気がしないのではないかと。だが、俺がカナに対して気がついたように俺の想いもカナは気がついていたようだ。
だからカナは俺に模擬戦なんだから気にしないよと笑いながら言ってくれた。……お互い様だったというわけだ。この言葉を言ってくれたのがギルダーツが次の依頼に行く前日のことだった。
ギルダーツが依頼に行くためギルドを出て少し離れた場所で俺は待ち構えていた。当時14歳だった俺は依頼に行く前に模擬戦を承諾なしにしてもらうことに若干の申し訳なさがあった。依頼を受ける前に俺との戦闘で多少消耗してしまうのではないかと。
だが、こうして対面したとき俺のあまりに馬鹿げた心配は吹き飛ぶことになった。ギルダーツが俺の目の前に現れ真正面で対面したとき脳裏に浮かんだ言葉は「敗北」の二文字だった。そしてこの男は予め俺が待ち伏せしていたことを分かっていたかのように、ニヤリと笑い左手に荷物を抱えながら空いている右手の人差し指で掛かって来いと言わんばかりに指を振っていた。
この時の戦闘は十五歳になった今でもあまり思い出したくは無い。あまりに圧倒的な敗北だったから。一歩、ただ一歩だけでもギルダーツを動かすことができただけでも満足し気絶してしまったことなど思い出したくも無い。この悔しさと惨めさだけは今でも昨日のように思い出せる。そのままボロボロになった体でギルドに戻ったときエルザやカナに慰められつつやけ酒した光景も今思えば随分と情けない場面だっただろう。
それから約一年後の現在もカナとギルダーツの関係性は変わらずにいるし、俺はこの男に再戦を申し出るほどあの時の差が埋まったとは思ってもない。だからより強くなるため依頼はほぼ討伐系の依頼しか受けていない。戦闘を経験するたびに自身が成長しているのを実感しギルダーツとの実力差を実感している。ギルドのバーで酒を飲みながら物思いに耽ってると俺の真横に誰かが座る気配がした。
「なーに黄昏ちゃってんのよ。ルシア」
突然ギルドのバーカウンターに堂々とお酒を置き、俺の隣にカナが座った。別に黄昏ていたわけではないが。というより堂々と未成年が酒を置くな。
「カナか……まだ十三なんだ、酒はほどほどにしとけよ?」
「ルシアに言われたくないわ。んで?考え事?」
……俺のせいだな。こればかりは反省している。十三歳のときにすでに飲酒していた俺が言っても何の説得力もないからな。酒の注意はこれ以上聞きたくないのか早々に俺への話題にシフトしていた。
「いや、考え事というより回想だな。ボコボコにされたときの」
「あぁ、ギルダーツにやられたときのことね。あの時のルシアは身体もボロボロだったけど、それ以上に精神的にボロボロだったもんね。あの弱ったときのルシアは可愛かったわ」
このむず痒さは女性にはわからないかもしれないが、男からすれば可愛いというのは褒め言葉でも何でもない。嫌というわけでもないのだが、あまり嬉しさは感じられない。年上の美人なら話を変わってくるが。
「十三歳のガキに言われてもな。そういうセリフはもっと成長してから言うもんだ」
「別に思ったことだからいいじゃん。どーせルシアはボン、キュ、ボンの女の人が好きなんでしょ? だったら数年後思い知ることになるわね!」
俺はカナの平坦ともいえる絶壁を残念そうな眼で見つめ、やれやれといった仕草だけで返答をした。何らかの突然変異でも起きないかぎりは絶望的だろう。
「何よっ! その哀れみの篭った目は!絶対後悔させてやるんだから。あと五年、いや三年もすれば凄いことになるわ。ルシアの視線を独占ね!」
「きっと、が抜けているぞ」
「抜けてていいのよっ!」
鬱憤を晴らすためか、酒の進みが早くなっている。調子に乗ってカナをイジリすぎたか。俺の悪いクセだ。これからは自重しよう……たぶん。
「それで、昔の事なんか思い出してどうしたの」
少しの静寂のあと、先ほどまでのおちゃらけた雰囲気は消えカナが心配そうに俺に改めて質問してきた。少しの間の静寂とカナの雰囲気でここまで空気を一変させることができるカナは凄いなと思いつつこの問いに素直に答えることにした。
「……より強くなるためにあの忌々しい戦闘を思い出して自分の糧にしてただけだ」
「そっか……でもルシアはすぐS級になれちゃうかもね。私も頑張ってS級になって、そして――」
そしてギルダーツに告白するのだろう。それが今年になるのか、それとも何年後かになるかはわからないが、目標に向かって努力を積み重ねればいずれはきっと…。そんな想いを込めて俺達は無言で杯を掲げお互いのグラスを軽く当てた。
それはお互いの目標の達成を祈願しての乾杯だった。
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