機械の夢
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第01部「始動」
第10話
前書き
やっと時間が取れました・・・
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「逃げられただと!」
「はい。ロックが解除されており見張りが気絶させられていました!」
あの扉は外からしか開かない。誰かが奴を…
まさか電子の妖精?
「艦長!本部から通信が」
オペレーターの甲高い声に嫌な予感がよぎる。
「繋げてくれ」
『進路がずれていると報告が入っているがどういう事だ紫藤少佐?』
「只今所属不明の艦隊と交戦中です。月方面へ進路を取りますので応援を求めます」
『それは駄目だ!今君に護送させているのは非情にデリケートな存在なのだよ。時間厳守と言った筈だ。敵艦を排除し、早々に護送を開始しろ』
やはり駄目か…どこから情報が洩れたかは分からないが、ネルガルがこのような手を使ってくるとは思いにくい。なら…
今通信してきているのが誰かは分からないが、この状況でこんな…
「…」
『復唱はどうした?天才と名高い少佐なら、少々の戦力差など気にも留めないのだろう?』
此方からの通信は繋がらず、相手からの通信は繋がる。加えてこの状況下でこのような…反吐が出る!
「敵艦からの攻撃でシステムに異常が発生したのか、護送中の容疑者が隔離室から脱走。もしもの時を考え射殺許可を頂けますか」
『なんだと!ボソンジャンプで逃げられ』
「いえ。奴の生体検査もしましたが、CCもジャンプフィールド発生装置も持っていませんでした」
言い終える前にさえぎる。少しでも情報が欲しかったから突いてみたが…
『……いいだろう。だが、殺した場合は即座に死体を私に見せろ』
証拠が欲しいというわけか…これは当たりの可能性が高いな。
「分かりました。これより敵艦を突破。後に予定通りに。通信終わります」
『うむ。では頑張れよ紫藤少佐』
プツッと通信が切れる。
この事態は想定されていた。いや、起きるべくして起きたとしか思えない。
テンカワアキトを手に…いや。第一射は確実に此方を落とすつもりのものだった。殺したいのか?ならばあの…
「艦長!まさか本当にあの艦隊を突破するおつもりですか!?」
悲鳴じみた副長の声。周りでは、同じような目をした部下がいる。
考えをまとめる為に思考しようとした所に、通信士が声を上げる。
「艦長!格納庫より通信!エステバリスが一機ハッチを破壊して出撃したとの事です!!」
「ちぃ……」
時間を与えてもくれないのか……どうする?ここは…
「…エステバリスのパイロットは間違いなくテンカワアキトだ。利用するぞ」
「どういうことでしょうか?あ、このままアイツが逃げてしまえばそれを追う為に」
「違う。逃げるなら格納庫に積んである高速艇を使うはずだ…奴は戦うつもりなのだろう…ここは奴の、アマテラス守備隊を相手取った腕を買う。代価は時間だな」
「まさか…たった一機のエステバリスでこの状況は…」
確かに…俺も馬鹿げた考えだと思うがな…だが、あのデータログで見せた奴の動きなら少しは時間が稼げる筈だ。
「エステバリスに通信を繋げ。映像は切られていても構わん」
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Sound only…
Open Yes or No?
カットしたデバイスに文字が浮かぶ。隠匿通信か?切るのを忘れていたな…
…Yes
『繋がったな。エステバリスのパイロット。私は艦長の紫藤少佐だ。音声のみだが黙って聞け』
「…」
何だ?俺が乗っているのはもう分かっている筈だ。こんな通信する意味が、奴には無いはずだが。
『今私たちは、上層部の意向で敵艦を突破して予定通りに護送を続けろと命令が下った』
…紫藤の声には密かな怒りを感じる。
しかし、だからこそ恐らくはこの状況から色々と想像したんだろう。そして俺に通信を求めた理由が少し分かった。
『だが我々の艦だけでは無理がある。もし出来たとしても被害が出るだろう』
ああ。なるほどな。紫藤お前は実に頭が回る。この状況下で使えるものは何でも使うなんて、アイツくらいしか俺には思いつかない。
アカツキなら他人に役を押し付けるだろうな。
『もし出来るというなら、敵艦をかく乱しろ。ただし、エネルギーの都合で艦から離れすぎるな。エネルギーフィールドの範囲が狭い』
敵の隙をつく間を作れ。だが、逃がすつもりはない…そう言いたいんだな。
いいだろう。元よりバッテリーが一番の問題だった。それが無くなるのなら…俺は俺でお前たちを利用させてもらうだけだ。
『現在のマップデータを送る。確認しろ。此方からは以上だ』
「…」
トン…ト…トン…ー
マイクを軽く叩く。
『なるほど。了解した。そちらはマイクが壊れているようだな。分かった…なら、今から貴様をテンカワと呼称する。全域に向けてそう符丁する…殉職扱いにはしないぞ』
了解した…か。
此方の返答もまた同じ内容だった。通信を切る。
『マスター…データが送られてきました。解析に入ります』
「なにか怒ってないか?」
『気のせいです。現状を考えると良いことでしたが、理解は出来ています』
だが納得はしていなさそうだな。YesかNoで考えていた頃が懐かしく感じるな。
…気の迷いか?懐かしい?俺がそんな感情…
『解析完了しました。データに細工はなし、リアルタイムでリード。データを表示します』
意識化に敵艦の配置。予想シュミレータが展開される。
ラピスと違ってパターン化されていない。いくつかの考えが頭をよぎる。
「助かる。ラムダ…いくぞ」
『畏まりましたマスター。ハッチ開きます』
バーニアを吹かせて宇宙へ出る。
狙いは敵小型艦。
『敵艦狙いを軍艦に向けました』
たかがエステバリス1機。捨て置くつもりか?だが、オマエラは1機を相手に戦っていたのを忘れたか?忘れたなら思い出させてやる。忘れさせたりはしない。絶対に…
バーニアの出力を上げる。リミッターを外した反動か、加速度的にGが重くなっていく。だが、こんなもの…サレナに比べればなんとも無い。
敵艦が放った黒い光が、紫藤の船に降り注ぐ。いくつかは当たったが、大型艦の攻撃は受けていない。あれならまだまだ持つだろう。それに…
ディストーションフィールドを展開しながら小型艦に取り付く。さっきの攻撃の為か、小型艦はフィールドを張っていなかった。
手元にライフルを手繰り寄せる。瞬時に小型艦のエンジンの場所が展開される。
引き金を引く。外れることなくエンジン部に降り注ぎ、一呼吸の後。
-ゴッ-
鈍い音とオレンジの閃光が舞う。
同時に敵艦の狙いが俺に切り替わる。恐らく紫藤が俺の事を奴らに伝えたんだろう。
そうだ。俺はここにいる。オマエタチが憎み。俺が憎む。
俺は必ずオマエラを殺し尽くす。必ず報いを受けさせてやる。そう俺は言ったんだ。
覚えているな…火星の後継者共。
--
マスター…
「まずは1隻」
敵艦からいまだエステバリスは発進しない。小回りの利くエステバリスを相手に、大型船では攻撃手段が限られる。
マスターがバーニアの出力を最大に設定する。次の目標の小型艦は既にマスターへと射線を取っている。
近づくマスターに雨のように細い光が降り注ぐ。けれどそれを縫うように、スラスターを射出して避ける。フィールドを展開せずにこれは自殺行為だ。
「こんなものか…」
敵艦が接近を許した直後にフィールドを展開する。
私は、マスターの機体にフィールドを展開してそれを中和する。
『私はマスターを信頼します。たとえ、確実に避けられると確信していたとしても。とは言いません。ですが…防御フィールドから中和フィールドへの書き換えなら瞬時に行えます…私は』
「信頼している。俺はお前に何度助けられたと思っている。この機体を触っているだけだ。気にするな」
トクンッ
え?
心地の良い感覚に痺れる。いけない。今は、今はダメ。
「マスター。軍艦が左舷の敵艦を撃破しました」
言うよりも早く、マスターが次の艦に狙いを定める。
同時に大型艦からエステバリスが発進した。
軍艦から送られてきたデータから近接タイプと射撃タイプと確認。
5機を1組にした4組が迫る。マスターは速度を緩めずに真ん中に突撃する。
急加速、急制動。速度を落とさずに後ろに回りこみ。相手が反転する前に下に回りこんで数機を撃破する。
横を通過する際にフィールドを減衰させている。この辺りはまだラピスよりも私の方が効果が発揮できます。
「温い」
マスターが食いしばった口で漏らした。
何を基準にしているかは簡単だった。1機の赤い機体に、それに付き従う6機。あの敵を考えるなら、味方が数体減ったぐらいで取り乱して隊列を崩す敵など歯牙にもかけないでしょう。
連なったオレンジの閃光が瞬く。
2秒として相手に照準を合わさせない。サレナ以外でもこのような結果が出せることに今一度、マスターのデータを修正する。
今のマスターには…
「…ラムダ。次だ」
言われるままにデータを解析して理想のルートを選び出す。
激しいGの掛かる中で、マスターはその軌道を成してみせる。
死と隣り合わせた空間を維持して突き進む。
まだ機体には余力が残っている。敵艦の数はまだ数がある。このままなら…!!
『敵主力艦からエステバリス大多数。標的は…此方です』
何故…先ほどまでは…
「当たりってことだ」
大型艦から映像通信が強制介入。何故?此方の通信チャンネルが相手に!?
ハッキング?それはあり得ない。機体への直接回線も軍艦経由の接続も全て私が抑えている。元々知っていた?なら敵は…
『………テンカワアキトだな!』
映像通信には一人の男が映っていた。赤と白を基調とした服を着た、細身の筋肉質な感じがする様子。
「…」
『私は元木蓮。現火星の後継者を束ねている南雲義正だ』
映像が流れている中で、マスターは冷静に接近していた3体のエステに攻撃をしてフィールドエネルギーを落とす。
『貴様のせいで中将は…貴様だけは許せん。ここで引導を渡してやる』
抑揚の無い視線で射抜くように、言葉を荒げる。
「…」
更に追撃ちをかけていきます。
フィールドエネルギーが減衰した機体が、他の機体の背に隠れようと動く所をマスターが狙い打っていく。
『貴様さえ居なければ…』
1体、2体、3体…
「…」
『貴様の…貴様の理念とは一体なんだ。大事を前に小事を優先する…それがどんな未来を呼び寄せる事になるか…』
!!駄目ですマスター!
「そんな事は関係ない」
『なんだと!?』
予測軌道を僅かに外れた。マスターの意識が敵を撃つことに傾いていっています!
『マスター!落ち着いてください。いけません』
「前にも言ったが、俺にそんなことは関係ない。生きている限り、お前たち火星の後継者を殲滅する。一人残らずだ」
軌道上に交わった敵のビーム兵器を避けるために、マスターはバーニアのバランスを絶対値を超えて変動させていく。
「俺にはお前たちが生きる未来が許せない。お前たちに未来を奪われた」
フィールドを掠めていくビームの反発を利用して迫った敵エステバリスの一撃を掻い潜り背後に回りこんで落とす。
「お前たちに希望を奪われた」
接近するエステバリスの数が更に倍に増える。横に動けば的になる。軌道修正。
「お前たちに命を奪われた」
敵エステバリスの一斉射撃。弾幕のように広がった放射線状の攻撃に対し、螺旋を描くように最小の被害ですむルートを選択。
「俺は貴様たちがのうのうと生きるこの世界が許せない」
フィールドエネルギーを少し消耗しながらも回避に成功。でもこのままでは…
『…ならばここで怨念となって朽ち果てろ。我々は人類の未来の為にゎ』
通信を打ち切る。このままマスターに敵を認識させちゃいけない。
『マスター。敵の数が多すぎます。撤退を提案します』
「まだだ」
『畏まりました。ではこのまま敵エステバリスの…左舷より熱源反応を感知』
言うよりも早く、指定座標にマスターが移動を開始する。
目の前で射撃体勢に入っていたエステバリスが黒い軌跡に包まれる。
「紫藤だな」
『何て無茶な。もう少し遅ければ…』
今すぐ軍艦の制御を乗っ取って自爆させたくなる。
「ラムダ。敵旗艦は識別できたか?」
『はい。通信を繋げて来た艦は探知済みです』
「行くぞ」
機体の加速が強まる。次第に敵旗艦と思われる大型艦の姿を捉える。
追加のエステバリス部隊は認められない。艦隊戦を想定した編成の可能性大。これなら。
突如、無理な制動を強いた機体にアラートが鳴る。
『脚部バランサーに異常』
「ちぃ」
機体の制動が崩れる。
さっきの無理な機動でスラスターに異常。機体制動、速度ともに異常を確認。
『マスター撤退してください。これ以上は無理です』
口惜しそうにしながらもマスターが機体の速度を落とす。
良かった。撤退してくれる気に…
後はボソン反応を阻害する装置を使って…
『敵旗艦に熱源確認。グラビティブラストです』
「…ラムダ。ジャンプの準備だ」
タイミング良く大破出来そうですね。このエステバリスには悪いですが、後の私とマスターの為に犠牲になってもらいます。
これが無事に終われば…
『マスター!ボソン反応確認……これは…ナデシコB』
何でこのタイミングで…
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