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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第二十五話 燃ゆる透水、凍る鬼火

                      第二十五話 燃ゆる透水、凍る鬼火
「バウ=ドラゴンが動いているようですね」
 暗い玄室でシュウの声が木霊していた。
「何でも今度は二人出撃させたとか」
「ええ」
 それにチカが答えていた。
「今度はそっくりの顔の女二人ですよ」
「あの二人ですね」
 シュウはそれが誰かわかっているようであった。
「また面白いことを。しかし幽羅帝は焦っているようですね」
「焦ってますかね」
「ええ」
 シュウはチカにそう答えた。
「あの二人はまだ置いておいていいのです。それよりも私ならば月を出すでしょう」
「月ですか」
「はい」
 シュウは頷いた。
「チカ、貴女もそうしませんか」
「私はそうは思いませんねえ」
 彼女はそう答えた。
「やるならドバーーーーッとやっちゃいたいじゃないですか」
「そうですか」
「そうですよ。それなら後腐れがありませんし」
「ふふふ、貴女らしいですね」
 彼はそれを聞いて笑った。
「けれど私は別の考えです」
「別の」
「やはりここはあの二人でしょうね」
「そうですか」
「あの二人の力は強大です」
 そう語るシュウの目の光の色が強いものになった。
「二人が合わさればその力は八卦集一でしょう。ですが」
「ですが?」
「果たしてそれができるかどうか、です。問題は」
「できるでしょう」
 チカは考えることなくすぐにそう答えた。
「何故ですか」
「だってあの二人は双子なんでしょう?」
「ええ」
「じゃあ大丈夫ですよ。何も問題ありませんよ」
「果たしてそうですかね」
 シュウはそれを聞いて思わせぶりに笑った。
「!?何かあるんですか!?」
 チカはそれを聞いて首を傾げた。
「だってあの二人は」
「チカ」
 シュウはここでチカの名を呼んだ。
「はい」
「貴女は私のファミリアですね」
「ええ」
 答えながら何を今更、と思った。シュウが何を言いたいのかよくわからない。だが主は時としてそうした質問をする。それももう知っていた。
「私の無意識下から生まれた」
「はい。何を言いたいんですか」
「つまり私と貴女は同じだということです。互いに鏡のようなもの」
「結局はそうですけれどね」
「鏡に映る自分を見て時として嫌になることはありませんか」
「いいえ」
 チカは首を横に振った。
「何でですか?私は自分のこの美しい姿を一度も嫌だと思ったことはありませんよ」
「ふ、貴女はそうでしょうね」
 シュウはそれを聞いて薄く笑った。
「ですが人によっては違うのです。鏡に映る自分が憎い人もいるのです」
「わかりませんね」
 チカはまた首を傾げた。
「何で自分自身が憎くなるのか。私は自分が可愛くて仕方ないですよ」
「ふふふ」
 シュウはまた笑った。
「人によっては、ですよ。あくまで」
「そんなもんですかね」
「ええ、そうです」
 そのことについては一応句切りがついた。チカは話を変えた。
「それでどう考えてるんですか」
「バウ=ドラゴンのことでしょうか」
「勿論ですよ」
 チカは言った。
「彼等については何もしなくていいんですか?このままですと」
「彼等については心配ありませんよ」
 シュウはそれに対してそう答えた。
「彼等については、ね」
「何かよくわかりませんね」
 チカはやはりまた首を傾げた。
「あんなの放っておいて大丈夫なんですかね」
「ええ、心配はいりませんよ」
 シュウは何の不安もないといった顔でそう答えた。
「何もね」
「だといいですけれどね」
 チカは言った。
「それじゃああの連中は無視でいいですね」
「はい」
「じゃあ後はラ=ギアスですかね」
「いえ」
 だがシュウはここで首を横に振った。
「そこはまだです」
「まだですか」
「はい。運命をね、変えなくてはなりませんから」
「運命!?」
「そうです。私が未来で一度死んでこの世界もかなり変わりましたね」
「ええ」
「そしてそれにより歪を生じています」
 シュウの顔が険しくなった。整っているその顔に険が浮かんだように見えた。
「それを正さなくてはならないのです」
「グランゾンを使って、ですね」
「はい」
 シュウはそれに答えた。
「チカ、貴女にも働いてもらいますよ」
「やれやれ」
 それを聞いて疲れたような声を出す。
「何かあたしの仕事って全然減りませんね。御主人様のファミリアになってから」
「貴女は生まれた時からそうでしょう」
 シュウはそれに対して言った。
「最初から私のファミリアだったのですから」
「だからですよ」
 チカは言った。
「あたしは生まれてから大忙しなんですよ。たまには休みたいですよ」
「残念ですがそれは無理でしょうね」
 シュウは元の涼しげな笑みを浮かべてそう答えた。
「貴女がこの世にいる限りはね」
「やれやれ」
 チカは溜息をついた。
「まあ仕方ないですね。そのかわりお金はしっかりと頂きますよ」
「いいですよ」
 シュウはそれを認めた。
「では今度はダイアでどうでしょうか」
「ダイアはいいですよ」
「では何を」
「ルビーがいいですね。とびきり大きな」
「ではそう善処します」
 シュウは言った。
「そのかわり働いて下さいね」
「わかってますって」
 こうして二人の会話は終わった。そしてすぐに青いマシンが何処かへと飛び去った。

「秋津マサト君」
 沖がマサトに語りかけていた。二人の他に美久もいる。彼等は今何かしらの研究室にいた。
 そこは無数の試験管が置かれていた。その中にそれぞれ黄色くて小さいものがあった。そしてそれは一つじつが異なる形をしていた。
「これが君だ」
「えっ・・・・・・!?」
 その中の一つを見せられてマサトは思わず声を出した。
「あの、沖さん今何て」
「聞こえなかったのか」
 沖の声は冷淡なものであった。
「これが君だと言ったんだ」
 それはよく見れば細胞であった。一つずつが成長していた。
「これが僕・・・・・・」
「そうだ」
 沖はまた言った。
「君はゼオライマーに乗る為に作られたものなのだ」
「嘘だ!」
 それを聞いてマサトは叫んだ。
「僕は秋津マサトだ!ちゃんと両親もいるしそれに・・・・・・」
「だがこれが現実だ」
 そんなマサトに対して沖はまた言った。
「君はクローンなのだ。木原マサキに作られたな」
「そんな・・・・・・」
 ようやく飲み込めた。だがそれは飲み込みたくはない忌まわしい現実であった。
「僕がクローンだったなんて」
「木原マサキのな」
 沖の言葉はやはり冷淡なものであった。
「そんな馬鹿な!」
「君がどう思おうと勝手だ。だがこれが真実だ」
 沖はまた言った。
「それを否定することはできない」
「・・・・・・・・・」
 マサトは沈黙してしまった。沖はそれでもまだ言葉を続ける。
「そしてこれが運命なのだ」
「運命?」
「そうだ。君はゼオライマーに乗る為にこの世に作り出された。そして戦う為にな」
「そんな、じゃあ僕は道具だというのか」
「そうよ」
 美久がここでマサトに対して言った。
「マサト君、貴方は道具なのよ。そして私も」
「馬鹿な」
 マサトはそれを否定した。
「じゃあ君もそうなのか」
「ええ」
「そんな・・・・・・」
 思いもよらぬその答えを聞いて思わず絶句した。
「じゃあ君も・・・・・・」
「ええ」
 美久は頷いた。
「私もマサト君も同じよ。ゼオライマーに乗って戦う為に」
「そんな筈がない!」
 マサトはそれを否定した。
「人はそんなことの為だけに生まれるわけじゃない!そんな・・・・・・」
「否定できるの?」
「うう・・・・・・」
 否定できなかった。今までの話を聞いて出来る筈もなかった。
「人間っていうのは元々運命付けられて生まれてくるではないかしら」
「どうしてそんなに冷静にいてられるんだ」
「それが私の運命だから」
 美久の言葉は変わらなかった。
「だからよ」
「けれど僕は違う」
 もう理屈ではなかった。とにかくそれを否定したかった。
「僕は・・・・・・僕はクローンなんかじゃない!僕は僕なんだ!」
「あ、待ってマサト君!」
 マサトは部屋を飛び出た。美久はそれを追おうとする。だがそれを沖が止めた。
「いい」
「けど」
「どのみち彼にはここに戻るしかないんだ」
 やはり冷たい声でそう述べた。
「いいんですか?」
「ああ。彼はきっと戻って来る。そして」
 言葉を続けた。
「ゼオライマーに乗る。彼の心がマサキのものである限りな」
 そう言って追おうとはしなかった。結局美久はマサトを追わなかった。
 マサトは外を走っていた。たださっき聞いたことを忘れたかったのだ。
「そんな、そんな筈があるものか!」
 自分はクローンなどではない、自分は自分だ。彼は自分自身にそう言い聞かせていた。
「僕は秋津マサトだ。それ以外の何者でもないんだ」
 言い続けた。そしてまだ走る。
「僕は、僕は・・・・・・」
 だがここで全身を鈍い痛みが襲った。
「うっ・・・・・・」
 彼は意識を失った。そして前に倒れる。
「この男か」
 薄れいく意識の中で女の声がした。
「そうみたいね」
「見たところまだ子供ね」
「そうね」
 二人いるようであった。だが何故かその声は似ているように感じられた。
「こんな子供に耐爬が」
(耐爬!?)
 マサトにはその名前だけが聴こえた。
(誰なんだろう、それは)
 だがそう考える前に意識がさらに薄れ考えられなくなってしまっていた。
(うう・・・・・・)
「連れていきましょう、タウ」
「ええ、お姉様」
 こうして彼は意識を失い暗闇の世界に落ちた。そして何処かへと連れ去られてしまったのであった。

 目が醒めた。すると彼は縛られ地下の冷たい部屋の中で吊られていた。
「目が醒めたか」
 女の声がした。それは少女の声であった。
「君は」
 その少女を見る。濃い化粧こそしているが優しげな顔立ちの少女であった。
「木原マサキ」
 その少女はその名を呼んだ。
「私を覚えているな」
「覚えているも何も」
 吊り下げられながらもマサキは言った。
「君と会うのははじめてなんだよ」
「嘘をつけ!」
「うっ!」
 少女の鞭が彼を撃った。その痛みで黙ってしまった。
「一体何を」
「忘れたとは言わせぬ!」
 少女は強い声でそう言った。
「木原マサキ」
「またその名前を」
「我が愛しき人を奪った罪、今ここで償わせてやる」
「愛しき人・・・・・・」
「そうだ」
 少女は言った。
「先の湘南での戦い、覚えているな」
「あの時の」
「忘れてはいないな」
「うん」
 嘘をつくつもりはなかった。正直にそう答えた。
「あの時の変わったマシンに乗っていたのは」
「そうだ、耐爬だ」
 少女は答えた。
「耐爬の無念、今ここで晴らしてやる。時間をかけてな」
「待ってくれ、僕は・・・・・・グフッ」
 左右に現われた者達に腹を殴られた。そして言葉を止めた。
「言葉を慎め」
 そこに黒く長い髪をした二人の女が現われた。見れば同じ顔をしている。
「鉄甲龍の前だ」
「鉄甲龍」
「そうだ。それもとぼけるか」
「とぼけるも何も」
「では言い方を変えようか」
 髪で顔の右半分を隠した女が言った。
「上海を拠点とする国際電脳」
「あの多国籍企業が」
 中国を代表するコンピューター関連の企業として知られている。そのオーナーはうら若き美少女であることも有名である。
「それは隠れ蓑に過ぎない」
 左半分を隠した女も言った。
「それが我等鉄甲龍だ」
「またの名をバウドラゴンという」
「バウドラゴン」
「私がその主」
 少女は静かに言った。
「幽羅帝だ」
「幽羅帝」
「そう。御前に私が乗る筈だったあのマシンを奪われた者だ。そして今度は愛しき者も奪われた」
「マシンを。まさか」
「そのまさかだ」
 幽羅帝は言った。
「あのゼオライマーは本来私のものだったのだ。それを御前が」
「僕が」
「十五年前我等を裏切り持ち去った。その欲望の為にな」
「欲望って」
「思い出せないのなら思い出させてやる」
 その澄んだ声に憎悪がこもった。
「時間をかけてな。そのうえで殺してやる」
 その左右にいる女達もジリ、と動いた。マサトはそれに命の危険を感じた。その時であった。
「!」
 部屋の扉が突如として破壊された。そしてそこから美久が姿を現わした。
「マサト君、そこにいたのね!」
「美久!」
 美久はマサトに駆け寄って来た。幽羅帝はそれを見てすぐに左右の女達に指示を出した。
「シ=アエン、シ=タウ!」
「はっ!」
 名を呼ばれた二人はすぐにそれに応えた。
「あの女を始末せよ!」 
 それに従い美久に襲い掛かる。まずはシ=アエンが蹴りを繰り出した。
「うっ!」
 それが腹を直撃する。だが美久はそれでも立っていた。
「なっ・・・・・・」
「この程度で」
 彼女は怯んではいなかった。そして逆に攻撃を繰り出す。
「グッ!」
 拳を受けてシ=アエンが退く。そこにすかさずシ=タウが来た。
「ならばこれで!」
 手刀を繰り出す。そしてそれで美久を撃とうとする。だが美久はそれをかわした。
「まだっ!」 
 そして蹴りでシ=タウも退けた。二人はそれで間合いを広げてしまった。
「私達の攻撃を受けて平然としちえるなんて」
「この小娘、一体」
 二人は信じられないといった顔をしていた。見たところ二人の動きは相当な手馴れのものであった。だが美久はそれ以上であったのだ。年端もいかない小娘がどうして、二人はそう思っていた。
 彼女はその間にさらに前に出ていた。そしてマサトの側に来てその鎖を断ち切った。
「マサト君、大丈夫だった」
「美久、来てくれたんだね」
「ええ」
 彼女は微笑んでそれに応えた。
「すぐにここを出ましょ。ゼオライマーで」
「ゼオライマーで」
 マサトはそれを聞いた時一瞬だが暗い顔を作った。しかしそれをすぐに打ち消した。
「行くか。それしかないからね」
「ええ」
 そして美久に守られながら部屋を出た。後には幽羅帝とシ=アエン、シ=タウだけが残った。
「おのれ、逃げられたか」
「陛下」
 その整った唇を噛む帝の前に二人が進み出て来た。
「御心配なく、逃がしはしません」
「ここは我等にお任せを」
「頼むぞ」
 帝は二人を見てそう言った。
「木原マサキを討て、よいな」
「ハッ!」
 二人はそれを受けてすぐに姿を消した。それを遠くから見ている男がいた。
「あの二人も動いたか」
 塞臥であった。彼はそれをほくそ笑みながら一人物陰から覗き込んでいたのである。
「面白いことになってきたな、ふふふ」
 彼は今度は幽羅帝を見ていた。彼女は一人そこに残っていた。
「木原マサキ」
 そしてまたその名を呼んだ。
「許しはせぬ、決して」
 少女の顔から女の顔になっていた。だが彼女はそれに気付かずただ憎しみでその身体を燃やすのであった。

 その頃ロンド=ベルは重慶から中国を離れ中央アジアに出ていた。そこは見渡す限りの砂漠であった。
「何か懐かしいな」
「ああ」
 アムロとブライトが見渡す限りの砂の海を眺めながらそう言った。
「ここだったな。俺がホワイトベースを出て行こうとしたのは」
「あの時は正直驚いたぞ」
 ブライトは苦笑してそう述べた。
「急にいなくなるのだからな。全く御前という奴は」
「ははは、済まない」
「凄い大昔の話してない?」
 それを聞いたエルが他のガンダムチームの面々にそう囁いた。
「二人共あれでもいい年だからな」
「俺達ヤングとは違うってことだろ」
「そうそう」
「けれどまだ二十代じゃなかったっけ。二人共」
「それでも年季が違うんでしょ」
「つまり若年寄りってわけね」
「ブライト艦長とアムロ中佐って御爺ちゃんだったんだ」
「プル、それは違うぞ」
「まあおっさんではあるかな」
「だな」
「おい」
 二人がコソコソと話す彼等に目を向けてきた。
「好き勝手言ってくれるな」
「あ、御免なさい」 
 謝るが当然のように誠意は見られない。
「ちょっとまあ色々と」
「言っておくが私もアムロもまだ若いぞ」
「その通りだ」
「けれど一年戦争が初陣だよな」
「やっぱりおっさんよねえ」
「全く」
 ブライトがいい加減うんざりした顔をした。
「まだ二十代でそんなことを言われるとはな」
「歳はとりたくないものだ」
「そうはいってもとってはしまうものだな」
 ここでクワトロが出て来た。
「私もその中の一人だ」
「そういえばクワトロ大尉もだったな」
「意外とうちっておじさん多いわよね」
「おばさんはレミーさんだけだけれど」
「誰がおばさんですってえ!?」
 レミーの声が後ろから聞こえてきた。
「こんな魅力的なレディーに対して失礼でなくて」
「あ、レミーさんいたんだ」
「何でラー=カイラムに?」
「ちょっとね。事情があって」
「ケン太をこっちに移動させてもらったのさ」
 真吾とケリーもそこに出て来た。その後ろにはケン太がいた。
「私もです」
 OVAもいた。何やらありそうである。
「ここは子供が多いからな。それで移動させてもらったのさ」
「グランガランもゴラオンもね。ちょっとそういったのじゃ合わなくてな」
「それでここに移動することになったんですね」
「ご名答」
 レミーが答えた。
「いいアイディアでしょ」
「それはどうかなあ」
 だが皆それには首を傾げた。
「あまりいいとは思わないなあ」
「何で?」
「いや、ね」
 ジュドーが言った。
「俺達がいるから」
「あたし達なんてシャングリラで色々やってたんだよ」
「それこそ口には言えないことも。それでもいいのかい?」
「それも社会勉強のうちさ」
 真吾が言った。
「俺達だって何かとあったさ」
「俺は自伝すら売れなかった」
「あんたは文章が下手なのよ。ブンドルに笑われるわよ」
「まああいつにわかってもらいたくはないけどな」
「それもあってここに移動させたのさ。いいかい」
「まあそういうことなら」
「ファさんやエマさんもいるしね」
 ファはロンド=ベルの面々ではかなり母性的な性格をしている。そしてエマはしっかりしていることで有名だ。恋愛に関しては奥手だが。
「じゃあいいな」
「これで決まりね。いいかしら、ブライト艦長」
「私は構わないが」
 その程度でいちいち言うブライトでもなかった。すんなりとそれを認めた。
「よし」
 こうしてケン太はラー=カイラムに入ることとなった。だが真吾達はグランガランに戻ってしまった。
「あれ、真吾さん達は来ないのか」
「意外ね」
「声のせいかしら」
「あ、ブライト艦長と似てるもんね」
「そういえば」
「声は置いておいてだ」
 ブライトがガンダムチームの面々に対して言った。
「敵はいないのだろうな」
「今のところはいませんね」
 サエグサが答える。
「近くにいるかも知れませんかれど」
「気をつけろ」
 ブライトの声が引き締まった。
「ここはゲリラ戦に向いているからな。注意するに越したことはない」
「了解」
 こうして周囲を警戒しながら進んだ。やがて前方に奇妙な部隊が姿を現わした。
「出たな」
 真吾がそれを見て言った。
「ドクーガだ。何かお約束だな」
「出ると思ったら出るのよねえ」
 レミーもそれに続く。
「お決まりのパターンってやつだな。時代劇と一緒で」
「ふ、時代劇か」
 ブンドルが早速キリーの言葉に反応した。
「あの形式美は中々いい。特に東映のそれはな」
「お主時代劇まで見ておったのか」
 カットナルがそれに突っ込みを入れる。
「何にでも手を出すのう」
 ケルナグールもである。やはりこの三人は一緒であった。
「私は美しいものが好きだ」
「時代劇が美しいのか?」
「そうだ」
 彼は答えた。
「あの様式美。あの悪役の見事な死に様にお決まりの台詞。何をとっても」
 言葉を続ける。
「美しい」
 そして彼もまたお決まりの台詞を言うのであった。薔薇も忘れてはいない。
「やれやれ、どうやら単なる趣味のようじゃな」
「わしはかみさんとオペラを観に行く方がいいわい」
「ケルナグール、お主オペラを観るのか」
 カットナルはそれを聞いて思わず声をあげた。
「嘘ではないのか」
 ブンドルもである。彼もまた驚いていた。
「おう、メトロポリタンにな」
「なっ、メトロポリタン」
 アメリカで最も知られた歌劇場である。ミラノのスカラ座やウィーン国立歌劇場と並ぶオペラのメッカである。
「当然パリも行くぞ」
「何ということだ。嘘ではないのか」
「かみさんが好きでな。わしはほんの付き合いじゃ」
「だろうな」
「だが驚いたな。ケルナグールがオペラを知っているとは」
「御前等わしを何だと思っているのだ?さっきから黙って聞いていれば」
「気にするな」
「単なる先入観だ」
「フン、まあいい。今は時代劇やオペラよりいいものが目の前にあるぞ」
 他の二人もケルナグールの言葉に顔を前に向けた。
「わかっておる」
「戦いこそ最高の芸術」
 三人はそれぞれの部隊を出してきた。そしてブンドルが言う。
「それでは戦いの曲を奏でよう」
「今日は何がいいですか」
 部下の一人が彼に問う。
「そうだな。オペラの話が出たことだし」
「ワーグナーでしょうか」
「ワルキューレの騎行は駄目だぞ」
「はい」
 どうやら彼はあの曲は好きではないらしい。
「ローエングリンがいいな」
「ローエングリンですか」
「そうだ」
 ブンドルは答えた。ワーグナーの歌劇の一つでありロマン派の代表的な作品である。魔女オルトルートと彼の夫テルラムントの謀略により危機に陥ったエルザ姫を救う為に聖杯の城モンサルヴァートから現われた白銀の騎士。白鳥の曳く小舟に乗って姿を現わしたその騎士ローエングリンとエルザの悲しい愛の作品である。透明で澄んだ音楽の世界に合唱と英雄の歌が聴かれる。タイトルロールともなっているローエングリンはヘルデン=テノールと呼ばれるワーグナーの作品独特のテノールであり難役としても知られている。
「第一幕の前奏曲がいい。あるか」
「はい、こちらに」
 部下は一枚のCDを出してきた。
「指揮はフルトヴェングラーで宜しいですね」
「上出来だ」
 二十世紀前半のドイツに君臨した偉大な指揮者である。その影響はイタリアのトスカニーニと並ぶ程であり長い間クラシックの世界に影響を及ぼしてきた。
「それでは」
「うむ」
 音楽が奏でられはじめた。青い色の透明な世界が音を通じて拡げられはじめた。
「おやおや、ローエングリンですかい」
 キリーがそれを聞いて言った。
「あの旦那も本当に好きだねえ」
「ただ単にキザなだけだと思うけれど」
 レミーがそれに突っ込みを入れる。
「しかし只のキザじゃないな」
「万丈が言うと説得力あるな」
「同じ声で突っ込み有り難う。まあそれはさておき」
「さておきで済ませられるのはこの人だけだな」
「同感」
「とりあえず僕達はドクーガに専念しよう。いいね」
「あれ、まだ何か出るんですか?」
「今度は何なんだよ。またギガノスでも出るのか?」
「違うみたいだね。これは」
 アキトとリョーコにそう答える。
「これは湘南の時と同じみたいだね」
「湘南、それじゃあ」
「うん。彼だ」
 そこへ銀色のマシンが姿を現わした。
「ほら、出て来たよ」
「あれが」
「シンジ、用意はできてるでしょうね」 
 アスカがシンジに声をかけてきた。

「レイも」
「ええ」
「トウジもいい?」
「わいは何時でもええで」
「どうやら君達は彼等と色々とあるみたいだね」
「貴方もそうだと思うけど」
 ここでミサトが万丈にそう声をかけてきた。
「違うかしら、万丈君」
「葛城三佐」
「ネルフとも関わりが深かったし」
「昔のことを言われてもね。わからないな」
 万丈はここではとぼけてみせた。
「まあ彼等のことは君達に任せたいけれどいいかな」
「はい」
「任せといて。何かあたし達最近影が薄くてね。たまには見せ場が欲しいのよ」
「贅沢な方ですね」
「女の子はもうちょっと大人しい方がいいぜ」
「そんなんじゃもてないと思うぜ」
「うむ」
「・・・・・・あんた達が目立ち過ぎるからよ」
 アスカはシャッフル同盟の四人にそう言葉を返した。
「特にあんた」
「俺か」
 アスカはエヴァでドモンのシャイニングガンダムを指差した。ドモンはそれに応えた。
「そうよ。あんたは特に。素手でロボットを破壊するなんて反則よ」
「そんなことは誰でもできる」
「できないと思うけど」
 シンジがそれを聞いて呟く。
「俺は修業によりこの身体を手に入れた。だから誰にでもできる」
「・・・・・・じゃああんたのお師匠様が素手で使徒を破壊したのも?」
「当然だ」
 ドモンは毅然としてそう答えた。
「師匠にとってはあの程度」
「何でもないっていうのかしら」
 マヤがふと言う。
「そうなんじゃないかな」
 シゲルもだ。
「結局俺達の常識は通用しないってことだな。使徒以上に」
「使徒以上って」
 マヤはマコトの言葉に首を傾げた。
「人間じゃないってこと?」
「失礼なことを言うな」
 ドモンの突込みが入る。
「師匠は人間だ!」
「・・・・・・こんなに説得力のない言葉はじめて聞いたわね」
「こらこら」
 リツ子にミサトが突っ込みを入れる。
「ネオ=ドイツのシュヴァルツ=ブルーダーも相当なものらしいが」
 大文字が考えながら言葉を口にする。
「あの東方不敗も。正直私も驚いている」
「けれど博士、あれは可能なのですよ」
「サコン君」
「人間の能力は完全には発揮されていません」
 彼は言う。
「一〇〇パーセント発揮されたならば。それは可能なのです」
「ニュータイプと同じってこと?」
 ミサトがサコンに尋ねる。
「わかりやすく言うと。まあニュータイプとは発揮する方向が違いますけれど」
「そう言われると納得できるわね」
「そうですかあ?」
 マヤはリツ子の言葉にも懐疑的であった。
「私それでも使徒を素手で破壊するのは無茶苦茶だと思いますけれど」
「使徒と死闘」
 ここでイズミが駄洒落を呟いた。
「同じ声で言うと効果二乗ね・・・・・・」
「それはさておき」
 ミサトもリツ子もこれには沈黙した。だがサコンはそれでも怯んではいなかった。
「流派東方不敗はそうした流派。だから驚くには値しない」
「何か核戦争後の世界に出てきそうだな」
「サンシロー君が言うと説得力があるわね」
「よくそう言われるな」
「ただかなりの力があるのは事実だ。特にあのマスターアジア」
「ええ」
「下手をするとこの地球すら破壊できる。そこまでの力が彼にはある」
「それはあの銀のマシンもよ」
 ミサトはそう言ってゼオライマーに目を向けた。
「私達の目的はあれなのよ」
「そうだったのか」
「ええ。今まで秘密にして申し訳ありませんが」
 ミサトは大文字に謝罪した。
「あのマシンにはそこまでの力があるのです」
「外見からはとてもそうは見えねえな」
 勝平がふとそう言う。
「サイバスターのでっかいやつみてえだ」
「勝平、全然似てないわよ」
「マサキさんに失礼だろうが」
「いや、俺はいいけどよ」
「マサキ」
 ゼオライマーの方からそれに反応があった。
「何だ、あっちのマシンから声がしたぜ」
「そりゃパイロットもいるだろうね」
 勝平に万丈が答える。
「そっちにもマサキがいるのか」
「ん、俺のことか」
「ああ。君は一体誰なんだ」
「マサキ=アンドーっていうんだが。それがどうかしたかい?」
「そうか。じゃあ別人だね」
「何かそのマサキとかいうのに悩まされてるみてえだな。どうしたんだよ」
「いや、別に」
 だがマサトはそれには口篭もった。
「何もない。だから気にしないで」
「そういうわけにはいかないわよ」
 だがアスカがここで食い下がった。
「あたし達はあんたの為にここにいるんだからね」
「僕の為に」
「そうよ」
 アスカはさらに言った。
「あんたが世界を滅ぼそうとしてるからよ。わかってんの!?」
「僕が、そんな」
 だがマサトはわかってはいなかった。そう、彼は。
「何で僕がそんなことをしなくちゃいけないんだ」
「とぼけても無駄よ」
「とぼけてなんかいない、ただ」
「ただ、何!?」
「自分が何なのかもわからないんだ。君は僕の敵なのかい!?」
「あんたが世界を滅ぼそうとする限りはね」
「そうなのか」
 だがわからなかった。マサトにとってはそれがどういうことすらも。
「マサト君」
 ここで美久が語り掛けてきた。
「話をしている暇はないわ」
「えっ」
「気をつけて。さっきの二人が来たわ」
 ここで赤いマシンと青いマシンが姿を現わした。彼等はそれぞれ着地した。
「やっと追いついたわね」
「ええ、お姉様」
 中にいるのはあの二人であった。
「木原マサト」
 そして二人はマサキに声をかけてきた。
「覚悟はできているな」
「木原マサト」
 万丈はそれを聞いてすぐに反応した。
「まさか」
 だが他の者はそれには気付かない。ドクーガとの戦いに既に向かっている者が殆どであった。既に戦いははじまっていたのである。
「万丈さん」
 万丈もそうであった。同じ小隊を組むザンボットチームが声をかけてきた。
「行こうぜ、もうはじまってるぜ」
「そうだね。それじゃあ」
「早くしなよ。さもないと俺が全部やっつけちまうぜ」
「ふふふ、それもいいかもね」
 そう軽口で返す。言いながらダイターンを動かす。
「しかし僕も戦わなくちゃな。じゃあ久し振りにやるか」
「おっ、待ってました!」
「世の為人の為ドクーガの野望を打ち砕くダイターン3!この日輪の輝きを怖れぬのならばかかって来い!」
「よし!」
 一同に気合が入った。そして戦いに赴く。こうしてドクーガとの戦いがはじまった。そしてもう一つの戦いも。
「何か僕達は入れないね」
「入れないのじゃないのよ、入るのよ」
 アスカはシンジに対してそう言った。
「けれど何かあの人達独特の状況になってるよ」
「確かにそうだけど」
「ここは様子を見た方がいいわ」
 レイが二人に対して言う。
「様子見」
「ええ。今下手に動いたら私達の方がダメージを受けるわ。それを考えると」
「ここはレイの言う通りやな」
「トウジ」
「エヴァにはATフィールドがあるけどな。それでも連中はそれを突き破るかもしれへん」
「あんた何言ってんのよ」
 アスカがクレームをつける。
「ATフィールドよ。どーーーんと構えていなさいって」
「けれどマスターアジアさんは軽々と破っちゃったよ」
「そういやBF団の十傑集もな。アルベルトとかいうおっさんやったな」
「よく覚えてるね、トウジ」
「ああした人等もおるしな。ここは用心しとった方がええで」
「うぬぬ」
 アスカは答えられずかわりに呻いた。
「そうした特別な人達は置いておいて」
「あのゼオライマーも特別なもんやったらどないするんや」
「だとは限らないでしょ」
「アスカはそう言っていつも暴走するけど今は止めた方がいいよ」
「何でよ」
「わい等はこれからオデッサに行くんやで。その為にアホなことは控えた方がええ」
「あたしがアホですって!?」
「だからそうじゃなくてね。落ち着いて」
「後でドクーガでも相手にしたらいいわ」
 レイがそうアスカに対して言う。
「それで気が晴れるなら」
「うっ」
 何故かわからないがレイに言われると従う気になる。アスカにとってもそれは不思議なこことであった。そして今はそれに従うことにした。
「わかったわよ。まあいいわ」
 アスカは言った。
「ここは大人しくするわよ。それも戦いだからね」
「そうそう」
「ほなゆっくりと見とくか」
「ええ」
 エヴァは動かなかった。ここは双方の戦いを見守ることにしたのである。
「観客もいるか」
 シ=タウはそれを見て呟いた。
「舞台は揃った。木原マサキよ」
 そしてゼオライマーとマサトを見据えた。
「覚悟はいいな。我等を裏切った罪、今償わせてやる」
 前に出る。だがそれをシ=アエンが止めた。
「待って、タウ」
「お姉様、どうして」
「油断しては駄目よ。いつも通り二人でやりましょう」
「・・・・・・・・・」
 シ=タウはそれを聞いて一瞬だがその整った顔に曇りを浮かび上がらせた。
「いつも通りね」
「ええ。フォローを頼むわ」
「わかったわ。それじゃあ」
 二機のマシンは並行して動きはじめた。ゼオライマーはそれを見ていた。
「マサト君、来たわよ」
「う、うん」
 美久に対して頼りない声で答える。
「戦わなくちゃいけないんだね」
「ええ。さもないと死ぬわよ」
「死ぬ」
「あの人」
 シンジはそれを聞きながら呟いた。
「どうしてだろう。僕と同じ感じがする。前の僕に」
「私にも似ているわ」
「綾波」
「そして碇司令にも。似ているわ」
「一体どういうことなんだ」
「そして悩んでいるわ。自分が一体何なのかって」
「馬鹿言ってんじゃないわよ」
 アスカが突っ込みを入れた。
「あいつは悪い奴なのよ。世界を破滅させようとしているのよ」
「それはどうかしら」
 だがレイはそれに対してもそう返した。
「少なくともあの人はそうじゃないわ」
「断言できるの!?」
「ええ。けれど」
「けれど」
 シンジが繰り返した。
「もう一人の人は。いえ」
 少し言葉に躊躇いが見られた。
「その人も本当はそうは思っていないのかも知れないわ」
「わっかんないわね。何が言いたいのよ」
「それはそのうちわかると思うわ。けれど今は」
「わからへんっちゃううことやな」
「ええ」
「とりあえず僕達は見るだけしかできないね、今は」
「そうね。だから見ていましょう」
「うん」
 その間に二機のマシンはゼオライマーに接近していた。まずはシ=タウが攻撃を仕掛ける。
「メガサーチャー=ビーム発射!」
 青いビームを放つ。それでゼオライマーを撃つ。
「うわっ!」
 マサトはそれを何とかかわした。だがそこにシ=アエンがさらに攻撃してきた。
「マグラァァァァッシュ!」
 赤い光を放つ。それでさらにゼオライマーを撃つ。
「うわっ!」
「マサト君!」
 マサトは大きく揺れた。彼自身にもダメージは及んでいた。
「ううう・・・・・・」
「大丈夫!?」
「な、何とか」
 気遣う美久に対して答える。そしてまた前を見た。
「このブライストとガロウィンは対になっている」
 シ=アエンがマサトに対して言う。
「そしてその二つが一つになった時最大の力を発揮するのだ」
「・・・・・・・・・」
 どういうわけかシ=タウはそれを横で聞きながら面白くなさそうであった。しかし今それに気付いている者はいない。
「行くわよ、タウ。あれをやるわ」
「・・・・・・ええ」
 シ=タウはいささか力ない声で応える。そしてまずはシ=アエンが言った。
「一撃で仕留めるわよ」
「わかったわ」
 それに応えてガロウィンが動く。ゼオライマーの後ろに回る。
「何をする気なの!?」
「すぐにわかる」
 シ=アエンが美久に対して言う。
「地獄でね。行くわよ、タウ」
「・・・・・・ええ」
 シ=タウが頷く。二機は同時に攻撃に入った。
「マグラァァァァッシュ!」
 だがそれは同時ではなかった。ガロウィンの動きが一瞬だが遅れていた。
「ビーム=サーチャー!」
「タウ・・・・・・!」
 シ=アエンにもそれはわかった。そしてマサトはそれに入ることができた。
「同時じゃない、なら」
「マサト君、避けて!」
「うん!」
 マサトは美久に従って。そして二人の攻撃を避けることができた。
「た、助かった」
「そんな」
「タウ」
 シ=アエンは妹に顔を向けて問うてきた。
「どういうことなの、遅れるなんて」
「御免なさい、お姉様」
「トゥインロードは同時に放たなくてならない。それなのに」
「・・・・・・・・・」
「いいわ。けれど次は・・・・・・ンッ!?」
 ここで通信が入った。幽羅帝からであった。
「二人共そこにいたか」
「帝」
「どうしてこちらへ」
「詳しい話をしている暇はない」
 幽羅帝の声にはいささか焦りが見られた。
「すぐにアルマアタに向かうのだ」
「アルマアタへ」
 彼等の秘密軍事基地の一つがある場所である。中央アジアにおいては大都市でもある。
「うむ。そこが襲撃を受けたのだ。青いマシンにな」
「青いマシン」
「まさか」
 彼女達もそのマシンのことは知っていた。脳裏にそのシルエットが浮かび上がる。
「わかったな。今は木原マサキは放っておけ」
「わかりました」
 帝の命令である。従わずにはいられなかった。
「それではすぐにアルマアタへ向かいます」
「頼むぞ」
「ハッ」
 幽羅帝はモニターから消えた。シ=アエンはそれを確認してからマサトに対して言った。
「木原マサキ、命拾いしたわね」
「うう・・・・・・」
「今日のところはその命預けておくわ。けれど次は」
「必ずや」
 シ=タウが言った。その目はマサトよりも姉に向けられていた。だが姉はやはりそれには気付かなかった。
「それではさらばだ」
 こうして二人は姿を消した。後にはゼオライマーだけが残った。
「行った」
「一体何があったんや」
「多分向こうで何かあったのね」
 レイがシンジとトウジに対して言う。
「去らなければならない事情があって」
「事情」
「ええ。誰かに襲撃を受けたとか」
「襲撃。ギガノスかなあ」
「いえ、それはないわ」
 レイはそれを否定した。
「ギガノスの人達はあの人達のことは知らない筈よ」
「じゃあ一体」
「恐竜帝国もミケーネもこにはいないし。誰名のかしら」
 恐竜帝国もミケーネもかなりのダメージを受けている。しかも今の活動は日本に限られていた。従って彼等の可能性はなかった。
「ガイゾックとちゃうか」
 トウジが首を傾げながら言う。
「ガイゾック」
「そや。最近連中は姿を見せとらんけどな」
「多分違うわ」
 だがレイはそれも否定した。
「何でよ」
「そういう気がするだけだけれど。多分あの人達に何かhしたのは」
 そして言う。
「あの青いマシンの人よ」
「あの」
 三人はそれを聞いてわかった。そして確信した。
「確かにあの人なら」
「有り得るわな」
「そうね。最近姿を見せないけれど」
「そのうち私達の前にも姿を現わすでしょうけど」
「敵として!?」
「いえ」
 アスカの言葉に首を横に振った。
「これも多分だけれど今のあの人は敵じゃないと思うわ」
「どうしてそんなことが言えるのよ。あの人は未来で皆と戦ったすじゃない」
「それもあのマシンの本当の姿で、だよね」
「そうしたこと考えるとやっぱりわい等に対して何かしてくるんとちゃうか」
「安心していいわ」
 しかしレイはやはりそれを否定する。
「それはないから。けれど何かを考えている」
「何よ、それ」
「そこまでは」
「わかんないことだらけじゃない、何なのよ、これ」
「まあそう怒るなや。怒ってもはじまらんで」
「うう」
「それよりも今はあの人をどうするかだよ」
 シンジはそう言ってゼオライマーを見た。
「ゼオライマー。今僕達の前にいるけれど」
「世界を滅ぼす冥府の王」
「どう出るか、やな」
 四機のエヴァがゼオライマーを取り囲んだ。だがゼオライマーはそれでも身動き一つしない。
「美久、どうしよう」
「心配しないで、マサト君」
 美久はマサトを安心させるように優しい声でそう語り掛けてきた。
「次元連結システムがあるから」
「次元連結システム」
「ええ。異次元から無限の力を引き出すものよ」
 彼女はそう説明した。
「これがあるからゼオライマーは他のどんなマシンにも負けないわ」
「よくわからないけれど」
 彼は首を傾げながら言った。
「それがあると僕達は助かるんだね」
「一言で言うとね。じゃあ行くわよ」
「うん」
 ゼオライマーは動き出した。それを見てエヴァ達も身構えた。
「来る!?」
「やるわよ」
 四機のエヴァは一斉に動きはじめた。零号機と参号機がまずポジトロンライフルを放つ。
 そして初号機と二号機が突っ込む。彼等は連携して攻撃を仕掛けたのだ。
「これでどう!?」
 アスカは薙刀を振りかざした。それでゼオライマーを両断するつもりだったのだ。
 だがそれは適わなかった。ゼオライマーはそれを弾いたのだ。
「なっ!?」
「ATシステム!?」
「少し違うわね」 
 リツ子が言った。
「よくわからないけれどバリアーの一種みたい」
「バリアー」
「ええ。とにかく今のゼオライマーには攻撃は通用しないわよ」
「そんな、それじゃあ」
「今は戦わない方がいいわね。ミサト」
「ええ」
 ミサトはそれに応えた。そしてシンジ達に対して言う。
「今は退いて。戦っても勝てないわ」
「そんなのやってみたくちゃ」
「アスカ」
 ミサトはきつい声を出した。
「引くのも戦いのうちよ。負けじゃないんだから」
「わかりました」
 ミサトに言われては従うしかなかった。アスカは渋々ながらもそれに従うことにした。
 エヴァ達はゼオライマーから離れた。美久はそれを見届けてからマサトに対して言った。
「じゃあ私達も帰りましょう」
「う、うん」
 美久が操作したのかゼオライマーは姿を消した。文字通りそのまま消え去ってしまったのであった。
「消えた」
「今度はテレポーテーションかしら」
 リツ子は冷静にそれを見て分析していた。
「強さはあのグランゾンに匹敵するかもね」
「グランゾンに」
 マヤがそれを聞いて青い顔になった。
「あんなのみたいなのが敵になるんですか」
「厄介なことだな」
 シゲルも顔を曇らせた。
「そうよ。使徒よりも厄介かもね」
 ミサトはそんな二人に対してそう答えた。
「あのマサトって子が何者かはまだわからないけれど」
「木原マサキだったら厄介だったわね」
「その木原マサキって誰なんですか」
 マコトはリツ子にそう尋ねた。
「チラチラと名前だけ聞いていますけれど」
「一言で言うと天才科学者ね」
「天才」
「そう、シュウ=シラカワと並ぶね。私なんかより遥かに上よ」
「先輩よりも」
 マヤはそれを聞いて言葉を呑んだ。リツ子がそう認めるということは余程のことであるからだ。
「ただし生きていれば、ね」
「死んだんですか」
「そういうことになってるわ。一応は」
「生きているってこともありますからね」
 シゲルがそう言った。
「案外わかりませんよ」
「クローン」
「まさか」
「いえ、そのまさかかも」
 リツ子はマコトの言葉を肯定した。
「有り得るわ、彼ならね」
「随分と凄い人だったみたいね」
「そのままだとね。あれで人間性さえよければ完璧だったんでしょうけれど」
「ところがそうはいかなかった」
「ええ。話によると何処か異常があったらしいわ。傲慢で冷酷、そして非情だったらしいわ」
「最悪ね」
「自分以外は皆人間とみなしてはいなかったらしいわね。そして何かよからぬことを考えていたらしいわ」
「もしそんなのがまだ生きているとしたら厄介ね」
「だから俺達がロンド=ベルに出向になったのか。やれやれ」
「シゲル君たら」
「まあ僕は皆とまた一緒にできるからいいですけれど」
「前向きね」
「今回は僕と声が似ている人もいますし。楽しいですよ」
「マコト君はアキト君でいいわね。私なんか」
「ストップ」
 そこでミサトが止めた。
「またこの場を氷点下にしたいの」
「・・・・・・そうですね」
「俺なんかライトニングカウントと一緒の声なんだけどな。あの人どうしてるかな」
「さあ。そのうち会えるんじゃない」
「敵じゃなければいいけど」
「まあそれは置いといて。これでとにかくゼオライマーはよし」
「やっと話が元に戻りましたね」
「あっ」
 シーラの声にはっとした。
「早く来て下さると有り難いのですが。こちらも今佳境でして」
「おっとと。じゃあ今すぐそちらへ向かわせます。シンジ君、いい?」
「ええ、まあ」
「戦っているしね。じゃあ行くわよ馬鹿シンジ」
「その言葉久し振りだなあ」
「最近あんたばかりに構っていられないのよ。変なのが思いっきり増えたから」
「その変なのは誰のことを言っておるのだ!」
「わし等のことだとただではおかんぞ!」
 カットナルとケルナグールがそれにすぐに反応した。
「まさかと思うけど自覚してるのかしら」
「どうやらそうみたいだな」
 マヤとマコトがヒソヒソと囁きあう。
「よせ、二人共」
「あの人が一番あれみてえだな」
 ブンドルに至ってはシゲルの突っ込みも耳には入らなかった。
「戦いは華。百花繚乱の場で騒ぐのも無粋だぞ」
「何かえらい変わった兄ちゃんがおんな」
「何なのかなあ、あの人。クラシック戦場にかけてるけど」
「まあた訳わかんないのが出てるじゃない。あたし達のとこだけでも大概だってのに」
「ふ、マドモアゼルアスカはご機嫌斜めのようですね」
「カルシウム足りないんじゃないの?」
「そういう時はミルクだぜ、ミルク」
「落ち着かないと肌が荒れるぞ」
「だからあんた達にだけは言う資格がないっていうのよ!」
 シャッフルのいつもの四人に噛み付いた。
「とにかく行きましょ。話がはじまらないわ」
「はじまらなくているのは誰かしら」
「アスカ、まあ落ち着きなって」
 アレンビーも話に入ってきた。
「こっちに来るの待ってるからさ」
「う、うん」
 アレンビーに言われて落ち着きを少し取り戻した。
「じゃあ今からそっちに向かうから」
「いいよ、おいで」
「それじゃ」
 こうして思ったより大人しく戦場に向かった。ドクーガとの戦いもまた熾烈なものとなっていた。
「メガ粒子砲、てーーーーーーーーっ!」
 ブライトの命令が下る。そして敵の小隊が薙ぎ倒される。戦いは一進一退であった。
 だがエヴァがそこに加わったことでややロンド=ベル有利になった。すぐにそこにブライトが指示を下す。
「中央に攻撃を集中させろ!」
「よしきた!」
 すぐに万丈が動いた。勝平達のザンボットも一緒だ。
「ぬ、ダイターンが来たぞ」
 ケルナグールがそれにすぐに反応した。
「いよいよわしの切り札を出す時だな」
「ケルナグール、今度の切り札は何だ」
「フン、いつもいつも巨大ロボットばかりでは芸がないからのう。今日はこれを用意してきたわ」
 出て来たのは一体のマシンであった。
「何だ、それは。また懐かしいものを出してきたのう」
 ビグザムであった。ジオンの大型モビルアーマーである。
「おう、これなら問題はないだろう。ちゃんと地上用に改造してあるぞ。この通り音声もな」
「やらせはせん、やらせはせんぞお!」
「どうじゃ」
「御前の声ではないか」
「無粋な」
「はっはっは、格好いいじゃろう。これで一気に戦局を打開してくれるわ」
「また何かやってるわね」
「いつものことだけど」
「だがビグザムを出すとはな。ジッターもネタ切れなのか」
「単に声が一緒だからビグザムなんじゃないの?」
「まあそれはいいこなし」
 ゴーショーグンの三人はそれを見てもいつもの軽いやりとりであった。
「どうせ再生怪人はすぐにやられるって相場が決まってるんだから」
「クールだな、レミー」
「あたしは大人の女だからね。クールなのよ。けれど心はホット」
「やれやれ」
「ふっ、マドモアゼル=レミー、いつも通りで何よりだ」
「あんたもね、ブンドル」
 レミーはブンドルにそう言葉を返した。
「まあたクラシックなの?本当に好きねえ」
「これもまた私の高尚な趣味の一つ」
「ところでブンドルって何人なんだ?」
 甲児が囁く。
「レオナルドだのメディチだの言っているからイタリア人だろう」
 宙がそれに答える。
「俺はレースでイタリアに行ったことがあるからわかるつもりだが」
「けれどマドモアゼルって言ってるぜ。ありゃ何だ」
「まあ気にしない方がいいんじゃない?」
 そんな二人にマリアがそう言った。
「ジャックだって変な日本語使ってるし」
「HAHAHA,マリアもきついデーーーーーース!」
「兄さんは普通にしゃべれると思うけれど」
「だよなあ」
「この前普通に話していたぞ」
 甲児と宙が突っ込みを入れる。だが彼はそれをスルーしてしまっていた。
 何はともあれビグザムがやって来た。その前にゴーショーグンが立ちはだかる。
「ドクーガが相手ならメインは俺達だからな」
「張り切ってるね、真吾」
「じゃあ実力を見せてもらおうか」
「よし」
 レミーとキリーに頷く。ゴーショーグンは攻撃に入った。緑の光が全身を包む。
「ゴーーーフラッシャーーーーーーーッ!」
 それでビグザムを撃った。一撃で消し飛んでしまった。
「何、あのビグザムを!」
「再生怪人は弱いって言ったでしょ」
「やっぱり新型でないとね。話が収まらないんだな、これが」
「いや、それだけじゃないな」
 真吾は少し冷静な声でそう述べた。
「ビムラーの力が強くなっているみたいだな。どういうことだ」
「ふむ」
 ブンドルもどうやらそれに気付いたようであった。頷いていた。
「ゴーショーグンが強くなっているな。パイロットの腕だけではない」
「どういうことだ、ブンドル」
「だからわしのビグザムがやられたというのか」
「どうやらそのようだ」
 ブンドルは二人に対してそう述べた。
「これはかなり手強いようだな。少なくとも今の我々の戦力では今のゴーショーグンの相手をしては危険だ」
「下がれというのか」
「そうだ」
 ケルナグールに対して言った。
「それも戦いのうちだ。いいな」
「フン、まあいいわ」
 ケルナグールは渋々ながらもそれに従うことにした。何処かアスカと似ている。
「ビグザムもなくなってしまったしな。ここは大人しく引き下がろう」
「珍しく聞き分けがよいな」
「フン、かみさんに言われたのだ」
 ケルナグールはそう返した。
「もっと人の話を聞くようにな。かみさんに言われたならば仕方あるまい」
「そうか。どうも貴様は自分のかみさんの話ばかりしておるのう」
「それもいいがな」
「ふっふっふ、わしのかみさんは別嬪じゃぞ。御前達に会わせるのが勿体ない位な」
「もうそれはいいわ」
「それでは撤退するぞ」
「おう」
 ブンドルの言葉を合図にドクーガも戦場から離脱を開始した。それにより戦いも終わった。
「何かいつものパターンだな」
「ドクーガが相手だとな。あの三人もいたし」
「まあいいんじゃない?お決まりのパターンってのも悪くはないわよ」
 グッドサンダーの面々は撤退するドクーガ軍を見ていつもの調子で話をしていた。
「やりやすいから」
「結局それか」
「しかしビムラーの力が強くなっているのは意外だったな」
 真吾はそれについて言及した。
「このエネルギーの力はまだまだよくわからないが」
「ミスターサバラスに聞きたいけどな。今何処にいるやら」
「今のところはこれからのお楽しみね」
「そうだな。じゃあ今は素直に喜ぶだけにしておこう」
「鬼となるか蛇となるか」
「ろくなもんがないわね」
「こんなあっけらかんでいいのかなあ」
 雅人はそんなやり取りを見て思わずそう呟いた。
「ちょっと考えただけでも物凄い話だと思うんだけれどな」
「それを言ったら俺達のダンクーガだってそうだぞ」
「あたし達の闘争本能がもとになってるからね」
 亮と沙羅が雅人に対してそう言う。
「そういえば」
「そういうことだ。ロンド=ベルにいたらそれ位は普通になる」
「俺はその普通ってのは嫌いだがな」
 忍がここで言った。
「常識なんざ糞くらえだぜ」
「あんたはもうちょっと大人しくしなさい」
「忍はかえって破天荒過ぎるんだよな」
「だがそれがいい方向に動くこともある。不思議なもんだ」
「・・・・・・っていうか横紙破りしかないんじゃないの?ダンクーガって」
「プレセア、それは言っちゃ駄目だよ」
 ベッキーが嗜める。
「それでも何とかなるのが世の中だからね」
「お兄ちゃんもそうですね、そういえば」
「おい、俺かよ」
「あんた結構忍に性格似てるからねえ」
「ベッキーまで言うのかよ」
「あたしはただ思っただけだけれどね。シモーヌはどう思うんだい?」
「あたしも一緒だね」
 シモーヌもそれに同意した。
「あんたのその無鉄砲なところはね。忍と似てるね」
「シモーヌさんもそう思いますか?」
「ああ。けれどそこがまた」
「そこがまた?」
「可愛いんだけどね」
「ちぇっ」
 マサキはふてくされた。そんなやり取りの中戦いを終えたロンド=ベルは集結した。そして再びオデッサに向かった。
「それにしてもあのゼオライマーだが」
 ブライトはラー=カイラムの艦橋で一言そう漏らした。
「どうした」
 それにアムロが顔を向けた。
「ああ。圧倒的な力を持っているようだな」
「それか」
「どう思う」
 アムロに問うてきた。
「あの力、危険なものだろうか」
「それは使う人間によるな」
 アムロの答えはそうであった。
「どんな素晴らしい力もそれを使う人間の心が悪かったらそれで終わりだ」
「そうだな」
「それはロンド=ベルの指揮官である御前が一番よくわかってることじゃないのか」
「そうかも知れない」
 ブライトはあらためて頷いた。
「あのドレイクにしろそうだな」
「ああ。逆にショウやシーラ姫を見てもな。それはわかるだろう」
「うむ」
「そういうことじゃないかな、結局は」
「そうだな」
「俺にしろ御前にしろティターンズみたいになっている可能性はあるんだ」
「ジャミトフやバスクみたいにか」
「そう言うとわかりにくいな」
 アムロは言葉を変えた。
「ギレン=ザビみたいにな。若しくはユーゼスか」
「ユーゼスか」
 かって死闘を繰り広げたバルマーの副司令官であった。彼は最後の最後で本物のラオデキアに滅ぼされてしまった。狡猾で残忍な男であった。
「ああしたふうにはなりたくはないな」
「ああ」
 それはブライトも同じだった。
「ああならない為にもな。心は重要だ」
「そうだな。ではゼオライマーは」
「その木原マサキという男が問題だ。話を聞く限りじゃまともな奴とは思えない」
「死んだともいうが」
「その怨念が残っていないことを祈るな。そう」
 アムロは一旦言葉をとぎった。それからまた言った。
「ジオンみたいにな」
 彼にとってそれは忘れられぬことであった。ジオンとの戦いにより彼の人生が変わったのだから。今彼はそれを噛み締めながら言ったのだ。
 ティターンズもまた実質的にはジオンの流れを汲む者達であった。今二人は彼等がいるオデッサを見据えていた。
「やるぞ」
「うむ」
 ロンド=ベルはオデッサに向かっていた。だがその前に一つの出会いと別れが彼等にあるのをこの時はまだ知らなかった。知ることもできなかった。


第二十五話   完


                                      2005・6・5

 
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