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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第二十二話 誇り高き戦士

                   第二十二話 誇り高き戦士

 マイヨは地球に降り立った。そこは見渡す限り砂漠が広がっていた。
「凄い場所ですね」
 彼の後ろにいるウェルナーがその何処までも広がる砂漠を見渡して言った。
「こんなところに本当に友軍がいるんですかね」
「いる」
 マイヨは静かな声でそう答えた。
「もうすぐしたら来る予定だ。それまで周囲への警戒を怠るな」
「わかりました。しかしまたこんなに早く地球へ侵攻するとは思いませんでした」
「マスドライバーが完成してからだと思っていたのですが」
 カールがそう述べた。
「マスドライバーか」
「はい。ギルトール閣下が開発を進めておられる」
「あれが完成した暁には我等の理想も完成致します」
「そうだな」
 マイヨはダンの言葉を受けて頷いた。
「閣下の理想の為にはマスドライバーは何としても必要だ」
「はい」
「だがそれだけではないのだ」
「といいますと」
 三人はそれを受けてマイヨに顔を向けた。
「閣下の理想には御前達の力も必要だ」
「我々の」
「うむ」
 マイヨはまた頷いた。
「閣下の理想には選ばれた者達の力が何よりも必要なのだ。御前達のような」
「大尉殿」
「だからこそ我々はここに来た。よいな」
「はい!」
「閣下の理想の為、力を借りるぞ」
「大尉殿、いえ閣下の為に」
「この命喜んで捧げましょう」
「うむ」
 マイヨはそれを聞いてまた頷いた。そして月を離れここに来る時のことを思い出していた。

「美しいな」
 ギガノス統合作戦本部の一室で威厳のある顔立ちをしたギガノスの軍服の男が地球を眺めながらそう呟いていた。
「地球はここから見るのが最も美しい。そうは思わないか」 
 そう言いながらマイヨに顔を向けてきた。
「ハッ」
 マイヨはそれに応えて頷いた。
「閣下の仰る通りです」
 マイヨの前にいるこの男こそがギガノスの指導者ギルトール元帥であった。かっては連邦軍において温厚かつ有能な将軍として知られたが今ではギガノスの指導者となっている。その理想主義故に地球に対して反逆の道をとった。彼もまた地球の未来を憂え、そして動いたのであった。問題はその理想ではなく行動にあったのだが彼はそれでもあえてこの道を選んだのであった。
「美しい星にはそれに相応しい者が住むべきなのだ。そうは思わないか」
「はい」
 マイヨはその言葉に同意した。
「閣下の御考えこそ地球を、そして人類を救う道だと思います」
「そうか。そう思うか」
「はい」
 マイヨは純粋な目をしていた。そしてその目でギルトールを見ていた。その後ろにある水槽で一匹の魚がはねた。
「これはランブルフィッシュといってな」
 ギルトールはマイヨに説明をはじめた。
「一つの水槽に一匹しか飼えぬ。二匹飼えば互いに死ぬまで戦う」
「激しい気性の魚ですね」
「だがわしはこの魚が好きだ」
 一言そう答えた。
「この闘争本能がな。狙った相手には最後まで立ち向かう。そのひたむきさが好きだ」
「はい」
「それでだ」
 ここで彼はマイヨに対して言った。
「実は気になることを聞いた」
「何でしょうか」
「君の父上が生きておられるとな。今中国にいるそうだ」
「まさか」
「そう思いたいか?だがそれが真実だとしたら」
「・・・・・・・・・」
 マイヨは答えられなかった。だがギスカールはそんな彼に対して言葉を続けた。
「どうする?返答を聞きたい」
「はい」
 こうして彼は地球に来たのである。今彼はそのことを思い出していた。
「ここにも連邦軍はいたな」
「はい」
 カールが答えた。
「重慶の辺りに。あと香港にも」
「そうか。中国にか」
「どうしますか?」
「まずはグン=ジェム隊と合流してからだ」
 マイヨはそう答えた。
「全てはそれからだ。いいな」
「ハッ」
 プラクティーズの面々は彼に敬礼して応えた。そしてその後ろにいるメタルアーマー達も彼に従うのであった。
 
 ロンド=ベルはその頃第二東京市を離れ香港に向かっていた。そして途中神戸に立ち寄っていた。
 ここもまた港町であった。彼等はそこで補給を受けていた。それは海底城にいるリヒテルの耳にも届いていた。
「そうか、奴等は今神戸とかいう都市にいるか」
「はい」
 報告をした兵士がそれに応えた。
「このまま日本を離れるようです。一体何のつもりでしょうか」
「ふむ、我等に怖れをなすような連中でもない。おそらく別の敵に向かっているのであろう」
 リヒテルはそう読んだ。そshちえそれは正しかった。
「だがそれはかえって好都合やも知れぬな。我が軍のダメージも無視できぬ」
「はい」
「暫くは軍を整えるべきかも知れぬ。だが神戸には攻撃を仕掛けたい」
「それでは」
「うむ。出撃の用意をせよ。よいな」
「ハッ」
「リヒテル様!」
 ここでバルバスが入って来た。何やら慌てふためいた様子であった。
「バルバス、どうした」
 リヒテルは落ち着いた様子で彼に顔を向けた。
「落ち着け。指揮官がそんなに慌ててどうする」
「大変でございます」
「大変!?何があったのだ」
「小バームよりメルビ補佐官が来られました」
「何、メルビ補佐官が」
「はい」
 バルバスはそこまで言ってようやく落ち着きを取り戻した。
「如何なされますか」
「ううむ」
 リヒテルは考えた後でバルバスに対して述べた。
「メルビ補佐官はオルバン大元帥の甥」
「はい」
 オルバンはバームの最高指導者である。リオン亡き後その後を継ぎ指導者となった形である。
「それが事前の連絡もなしにか」
「どうやらそのようです」
「一体どういうことだ」
「まさか地球攻略が進まぬことにオルバン大元帥がご立腹なのでは」
 バルバスは心配そうな顔でそう述べた。
「ならばメルビ補佐官は監視役として派遣されてきたのでしょうか」
 ライザも心配そうな顔であった。リヒテルは二人の顔を見ながら言った。
「まずは落ち着け」
「はい」 
 二人を鎮めた。
「とりあえずは会おう。よいな」
「はい」
「わかりました、リヒテル様」
 二人はそれに頷いた。リヒテルはそれを見届けた後でまた二人に対して言った。
「それではこちらに案内してくれ。よいな」
「ハッ」
「しかしだ」
 リヒテルは二人の姿を見送りながら考えていた。
「何故今あの男がここに」
 それが彼が考え込む理由であった。
「メルビ・・・・・・。酒に酔うだけの無能者が。どうして今ここに」
 考えても結論は出なかった。すぐに二人が戻ってきた。
「メルビ補佐官をお連れしました」
「うむ」
 彼は考えることを止めた。そしてメルビを部屋に入れるように言った。
 こうして程無くしてメルビが司令室に呼ばれた。見ればだらしない歩き方をする男であった。
「久し振りだな、リヒテル」
 まずは彼の方から挨拶があった。
「メルビ補佐官、よくぞ参られた」
 儀礼的な礼を返す。だがメルビはそれを手で払った。
「歓迎しても何もでんぞ、ふふふ」
「・・・・・・・・・」
 リヒテルは儀礼を無視したその態度に思うところがあったがこの場では言わなかった。儀礼に従い言葉を続ける。これがバームの儀礼であることは言うまでもない。
「それではそなたがここへ来た理由を聞かせてもらおう」
「俺がここへ来た理由か」
「そうだ」
 リヒテルは頷いた。
「一体何の用でこちらに来られたのか。お聞かせ願いたい」
「さて、忘れたな」
 メルビはとぼけた。
「何!?」
 これにはリヒテルも憤りを覚えた。元々短気な気性でありそれが余計に彼の怒りを刺激した。
「まあそう怒るな」
 だがそれでもメルビは至って落ち着いていた。いや、ふざけているような態度であった。
「それとも大元帥に聞かせたくはない話でもあるというのか?ん?」
「馬鹿な」
 ここでリヒテルはあることに気付いた。
「待たれよ」
「何だ」
「メルビ補佐官・・・・・・。そなた酔っておられるのか!?」
「如何にも」
 彼は恥じることなくそう答えた。
「酒を飲めば酔う。これは当然のことであろう」
「馬鹿な」
 それを聞いてライザが顔を顰めさせた。
「さて、面妖な」
 だがそれでもメルビは笑っていた。
「大元帥の甥が酒を飲んではならないという法律でもあるというのか?」
 彼はそう嘯いた。リヒテルはそれを見て目を鋭くさせるだけであった。だがメルビはそんな彼に声をかけた。
「リヒテル提督」
「何か」
「そなたの妹君はどうしたのだ」
 彼はエリカについて問うてきた。
「・・・・・・・・・」
 リヒテルは答えようとしない。だがメルビはそれに構わず話を続ける。
「折角わざわざ地球に来たのだ。美しき姫君に挨拶させてもらうか」
「メルビ補佐官」
 リヒテルは怒りを押し隠した声で彼に対して言った。
「何だ」
「今我々は地球制圧作戦を実施中だ。下らぬことなら早々に立ち去られよ」
「わかったわかった」
 メルビはそれでも反省することなく手を振ってそれを制した。
「ならばここで我がバーム軍の戦いぶりを見物させてもらおう」
「なっ」
「見物と」
 それを聞いてバルバスもライザも思わず声をあげた。
「そうだ。見物だ」
 しかしそれでもメルビの態度は変わることがなかった。平然とそう言葉を返した。
「勝利の酒を用意しておく。楽しみにしているぞ、リヒテル。ハハハハハ」
 笑いながら司令室を立ち去った。リヒテルは彼がいなくなったのを見てから吐き捨てるように言葉を出した。
「役立たずめが・・・・・・!」
 その声には先程まで溜めていた怒りが満ち満ちていた。
「リヒテル様」
 そんな彼にライザが声をかけてきた。
「何だ」
「メルビ補佐官は一体何の用件でこちらに来られたのでしょうか」
「余の知ったことか」
 まだ怒りが収まらない。また吐き捨てるように言う。
「だが奴が小バームに戻ればオルバン大元帥が今の状況をお知りになるのは事実だ」
「はい」
 バルバスもそれに頷いた。
「そうなればバーム十億の民がどれだけ絶望し落胆するか。それを思うとな」
「それですが」
 ここでライザが申し出た。
「私に一つ策があります」
「策!?」
「はい。あの男を使うのです」
「あの男」
 リヒテルはそれを聞いてそれが誰のことであるのかすぐにわかった。
「フン」
 怒りを覚えながらもそれを認めることにした。
「あの様な裏切り者なぞ不要、好きにするがいい」
「ハッ」
 ライザは頷いた。それから答えた。
「必ずや地球人共を成敗してみせましょう」
「頼むぞ」
 そう言ってリヒテルは司令室を離れた。ライザはその後ろ姿を見ながら心の中で呟いた。
(リヒテル様、どうか私めをお許し下さい)
 こうしてバーム軍は行動を開始した。そこにはそれぞれの思惑があった。

 ロンド=ベルはその頃神戸で補給を受けていた。六隻の戦艦が港に停泊し、そこで修理も受けていた。そして戦士達は香港へ向かう準備に追われていた。
「何か神戸に来たことは滅多になかったな」
 ショウがビルバインの整備をしながらマーベル達にそう言った。
「そういえばそうね」
 マーベルは記憶を辿りながらそう述べた。
「ここに来るのははじめてだった筈よ」
「日本に来ることは何回かあったがな。それでもここに来たのははじめてだったか」
 ニーもそれに同意した。彼等も神戸ははじめてであった。
「そういえばあんた達って地上に出てから色々と飛び回っていたんだよね」
 ベッキーがそんな彼等に声をかけた。
「ああ、その通りだ」
 ガラリアがそれに応える。
「思えば因果なことだ」
「まあそれはそれで楽しいけれど」
 チャムがショウの右肩に降りながらそう言った。
「あたしはここに来れていいと思ってるよ。だって楽しいから」
「やれやれ、チャムは気楽でいいな」
 ショウはそれを聞いて苦笑した。
「もう、またそうやって馬鹿にする」
 だが彼女はそれを聞いて頬をふくらませた。
「そんなのだからショウは色々と敵を作っちゃうんだよ」
「それは関係ないだろ」
 ショウはそれを聞いて口を尖らせた。
「俺は別に誰かに嫌われているつもりはない」
「おいおい、よく言うぜ」
 トッドがそれを聞いて呆れた声を出した。
「じゃあ俺やガラリアは何だったんだよ」
「最初は俺達とも衝突していたしな」
「そうそう」
 ニーとキーンもそれに賛同した。
「ショウって結構とんがってるから。色々と揉めるのよね」
「ちぇっ」
「まあそこが可愛いのだけれど」
 マーベルはそう言って微笑んだ。
「子供扱いするなよ」
「あら、それはお互い様でしょ」
 やはりマーベルの方が一枚上であtった。彼女はさっきのチェムへの言葉をあてこすったのだ。
「やっぱりマーベルの方が上だね」
 ベッキーもそう判断した。
「ショウ、あんたはまだまだ女について修業が足りないよ」
「そんなの別に修業しなくても」
「いやいや、それはどうかね」
 だがベッキーはそれでも言った。
「あんたには女難の相が出ているからね」
「女難の相!?」
「ああ」
 ベッキーはそれに頷いた。
「かなりやばい女みたいだね。注意しなよ」
「やばい女」
「顔とかは見えないけれどね。下手をしたら今後大変なことになるよ」
「そうか、女か」
 ショウはそれを聞いて呟いた。
「一体誰なんだろうな」
「案外側にいたりして」
「キーンかリムルだったりしたら面白えんだがな」
「そういうトッドもちょっとは女の子と話でもしたらどうだい?何だったら相談に乗ってあげるよ」
「おいおい、御前さんとかよ」
 ベッキーの言葉に苦笑した。
「よしてくれよ、悪いけれど俺はまだそういったことはいいんだ」
「あら、奥手なんだね」
「というか俺はな。好みが五月蝿くてな」
「そういえばあんたはバイストンウェルでも何だかんだ言って女っ気のない生活だったね」
 ガラリアが突っ込みを入れた。
「そんなに顔は悪くないのに」
「顔の問題じゃねえよ」
 トッドはそれに対してそう答えた。
「まあ色々あるんだ。その話はそれくらいにしてくれ」
「わかったよ」
 どうやらあまり触れられたくはないらしい。彼は話を強引に打ち切ってしまった。そして話は別の方へ流れていった。
「シーラ様知らない?」
 そこにエルとベルがやって来た。
「あれ、艦橋におられないのか?」
「おられないわよ。だから探してるのよ」
「何処に行かれたんだろう」
「シーラ様ならラー=カイラムに行かれた」
 そこへ通り掛かったカワッセがそう答えた。
「ラー=カイラムに?」
「そうだ。何でもノヴァイス=ノアからお客人らしい」
「ノヴァイス=ノア?あああれね」
 エルはそれを聞いて頷いた。
「あの三角の船」
「そうだ」
 カワッセはベルにもそう答えた。
「そこで話をされておられる。だから心配は無用だ」
「そうだったの。じゃあ一安心ね」
「全くいつもシーラ様の側にいねえと気が済まねえのかよ」
「あらトッドに言われたくないわ」
 エルはトッドの言葉に頬を膨らませた。
「いつも女っ気がないくせに。偉そうに言わないでよ」
「ああ、もうその話はいい」
 思いもよらない反撃にさしものトッドも白旗をあげた。
「話がややこしくなっちまう。それでカワッセ艦長」
「何だ」
「そのお客人ってのは。誰なんだい?」
「何でもアノーア=マコーミックと仰るらしい。ノヴァイス=ノアの艦長を務めておられるそうだ」
「ああ、あの人か」
 ショウはそれを聞いて頷いた。
「あの人なら問題はないな」
「そうね」
 それにはマーベルも同じ考えであった。
「あの人だと安心できるわ」
「どうやらかなりの人物のようだな」
「ええ。俺も一度会っただけですが」
 ニーも答えた。
「かなりできた人ですよ。おそらく今度についての話し合いでしょう」
「ふむ」
 カワッセはそれを聞いて考えた。
「どちらにしろ我等はシーラ様の御命令に従うまで。シーラ様ならば間違った御考えをされることはないからな」
 彼のシーラに対する忠誠は絶対的なものであった。それはシーラのカリスマと政治力の賜物であった。
「まああの女王様はしっかりしてるしね。顔に似合わず」
「顔は関係ないんじゃないの?」
「あはは、まあそれはご愛敬ってことで」
 ベッキーはマーベルの突っ込みにそう言って笑って返した。
「まあどちらにしろこれから何かとあるだろうな」
「ああ」
 トッドがショウの言葉に頷いた。
「ドレイクが出たとなるとおそらく奴も出る」
「あの旦那は絶対に御前さんを狙ってくるぜ。注意しな」
「わかってるさ」
 過去何度も剣を交えてきた。だからこそわかることであった。
「それだけじゃないだろうな」
「?どういうことだ」
「え、いや」
 トッドの言葉に慌てて返す。
「さっきの女難のことか?」
「それもあるけれどな」
「そんなに気にすることないよお」
 チャムがそう言って慰めようとするがそれでもショウは少し考え込んでいた。
「そう思いたいけれどな。嫌な予感がする」
「まああの旦那以外にも御前さんを狙ってるのはいるしな。俺もそうだったし」
「警戒するにこしたことはないぞ」
「すまない」
 ガラリア達の言葉に頷いた。そしてショウはビルバインのコクピットの中に入りそこも整備するのであった。
 
 その頃シーラはエレと共にラー=カイラムに来ていた。そしてノヴァイス=ノアの艦長であるアノーア=マコーミックと話をしていた。
「オルファンについてですが」
 金色の髪を後ろで束ねた美しい女性であった。少し歳がいっている感じもしないではないがそれでもそうした女性が好みの者にとってはたまらないような美貌であった。しかもそこには知性すら漂っている。
「今のところはこれといった活動はありません。しかし」
「今後のことは全くわからないということですね」
「はい」
 同席していたブライトの言葉に頷いた。
「そしておそらくリクレイマーの活動も活発化するでしょう。彼等にとってオルファンは絶対のものですから」
「ところで気になることがあるのですが」
 シナプスが問うた。
「はい」
「あのリクレイマーの兵器アンチボディですがあれは本当に兵器なのですか」
「といいますと」
「いえ」
 ここでシナプスは言葉を一旦とぎった。それからまた言った。
「これは勇やヒメを見て思ったのですがどうも兵器には思えないのです。何か意思を持っているような」
「否定はしません」 
 アノーアはそれを肯定した。
「アンチボディには意思があります。彼等は一つの生物でもあるのです」
「成程」
「じゃあライディーンやエヴァみたいなものですかあ!?」
「それとはまた違います」
 ユリカの質問に答えた。
「人間の様に複雑な考えはまだ持っていません」
「まだ」
「何といいますか」
 アノーアは言葉を少し濁らせた。
「彼等はまだ子供なのです」
「子供」
「はい。ですから色々とまだ問題もあるのです。子供は一言で言うと未熟な存在。そして」
 言葉を続ける。
「成長する存在だからです」
「ふむ」
 ブライトはそれを聞いて考え込んだ。
「そう言われるとわかった気もします。私も人の親ですから」
 ミライとの間の子供達のことを言っているのである。
「そして多くの少年兵を見てきましたから。彼等のようなものでしょうか」
「おおまかに言うとそうなるかも知れません」
 アノーアはそう返した。
「彼等は生きているのですから」
「何か言葉の意味がよくわかんないんですけどお」
 ユリカがキョトンとしてそう言った。
「ユリカさん」 
 シーラがそんな彼女に声をかけてきた。
「はい」
「貴女も結婚されて人の親になられればわかりますよ」
「そうなんですかあ」
「ええ。私もそう思います」
 エレもシーラに同意した。
「そうしたことは中々わからにことです。子供を持たない限り」
「ううん」
 ユリカはそれを聞いて考え込んだ。
「じゃあ私も子供ができたらわかるのかなあ」
「そう思いますよ」
 シーラはそう答えた。
「ユリカさんにも。といっても私達もまだですが」
「じゃあ私アキトと結婚しちゃいますねえ」
「どうしてそうなるのよ」
 ミサトがそれを聞いて呆れた声を出した。
「最初はやっぱり女の子で、それで・・・・・・」
「とにかくだ」
 暴走しかかったユリカを止める為にもアムロが出て来た。
「そのアンチボディが意思を持っていることはわかりました」
「はい」
「オルファンはどうなんですか?」
 彼は単刀直入に尋ねてきた。
「はい。アンチボディのことを聞いているとオルファンにもその可能性がありますが」
「そうですね」
 アノーアは一呼吸置いてから答えた。
「おそらくそうだと思います」
「やはり」
「リクレイマー達がオルファンの上昇を助けているのは彼等の目的を達する為ですがもしかするとそれはオルファンの意思に従っているのかも知れません」
「つまり彼等はオルファンにコントロールされていると」
「それも違います。彼等は自らの意思で動いているのは間違いありません」
「話が複雑になってきたな」
 フォッカーがそれを聞いて眉を動かせた。
「こういう話にはツキモンだが」
「それで今彼等がとるであろうと予想される行動は」
 アノーアの言葉が続く。
「その目的を妨害しようとする者の排除」
「排除・・・・・・」
 その時であった。サイレンが鳴った。
「敵か!?」
 皆すぐにそれに反応して立ち上がった。
「艦長、敵です」
 トーレスが部屋に入って来てそう言った。
「敵はグランチャー、こちらに急行しております」
「グランチャーが!?」
「はい。どうしますか」
「決まっている、総員戦闘用意」
 ブライトはすぐに指示を出した。
「手の空いている者からすぐに出てくれ。そして皆それぞれの持ち場に戻ってくれ。いいな」
「わかりました」
「それでは私も」
「待って下さい」
 だがブライトはアノーアを呼び止めた。
「ノヴァイス=ノアはここから離れた場所にありましたね」
「ええ」
「車でだと危険です。ガルバーを用意しますのでそれで移動して下さい」
「わかりました」
 こうしてロンド=ベルは配置についた。戦闘配置を終えるのとグランチャーが神戸に姿を現わしたのは同時であった。
「あのグランチャーは」
 勇は目の前にいるグランチャーを見て言った。
「シラーか」
「勇」
 そんな勇にヒメが声をかけてきた。
「あの娘とは戦っちゃいけないよ!」
「シラーはそんな話の通じる奴じゃない」
 だが勇はヒメのその言葉を拒絶した。
「やるしかないんだ」
「どういうつもりなの、シラー」
 今度はカナンがシラーに語り掛けた。
「フン」
 だがシラーは彼女の言葉を鼻で笑った。
「裏切り者に言う言葉はないよ。勇、御前にもな」
「私は違う」
 だがカナンはそれでも言った。
「愛されたかっただけ。そして・・・・・・」
「そんなことはどうでもいいんだよ!」
 だがシラーはカナンの言葉を聞こうとはしなかった。叫んで彼女の言葉を打ち消した。
「あたしにとって伊佐未勇は邪魔なんだ!ジョナサンやあたしにはね!だから死んでもらうんだ!」
「カナン・・・・・・」
「あんたも邪魔だ!だから殺してやる!」
 そう叫ぶと突進してきた。
「死ねえっ!」
 カナンに襲い掛かろうとする。だがその前に勇のブレンパワードが出て来た。
「シラー!」
「勇、ならば!」
 カナンはそれを受けて目標を勇に変えた。剣を彼に向ける。
「御前から先に!」
「やらせるか!」
 彼等は戦いに入ろうとした。だがそこにもう一機アンチボディが来た。
「駄目だよっ!」
「御前はっ!」
 それはヒメブレンだった。ヒメが二人の間に入ってきたのだった。
「ヒメ」
「君、どういうつもりなの!?」
 ヒメはシラーに顔を向けて叫んだ。
「死ねだなんて。そんなことして誰が喜ぶっていうの!?君間違ってるよ!」
「戯れ言を言うな!」
 シラーはまた叫んだ。
「御前みたいな奴にわかってたまるか!」
「わからないよ!」
 ヒメも返した。
「君みたいな分からず屋の言うことはね!君お父さんやお母さんに大事にされたことないの!?」
「そんなこと・・・・・・」
 シラーは言葉を詰まらせた。それを聞く勇やカナンも複雑な顔をしていた。
「シラー、何をしている」
 そこにジョナサンがやって来た。
「ジョナサン=グレーン」
「今は私情を挟む時じゃない。早く任務を達成しろ」
「クッ、わかった」
 シラーは舌打ちしながらもそれに頷いた。
「勇、カナン、ここは退いてやるよ」
 そう言って彼等と間合いを離した。
「今は御前達だけを相手にしている場合じゃないからな。その命預けておいてやるよ」
「待て!」
 勇は追おうとする。だがそこにジョナサンはミサイルを放ってきた。
「クッ!」
 それをかわす。だがその間にジョナサンとシラーは彼等から距離を離していた。
「生憎だったな、勇!」
「ジョナサン!」
「御前には片腕の借りもあるが今は預けておいてやる。精々首を洗って待っていろ!」
「待て、何処へ行く気だ!」
 見れば彼等はノヴァイス=ノアに向かっていた。
「知れたことだ」
 ジョナサンはそのピラミッドを見据えながら呟いた。
「俺を捨てた女を・・・・・・。俺を愛さなかった女を・・・・・・」
 その声には次第に怨みが募っていた。
「殺してやる、俺をこんなふうにしてくれた女を!」
「ジョナサン!」
 だが勇の声ももう彼の耳には届いていなかった。彼はアンチボディを引き連れてノヴァイス=ノアに突進する。
「死ねえええええっ!」
 だがそこにロンド=ベルのマシンが移動する。そしてノヴァイス=ノアの周りで激しい戦いがはじまった。
 カナンはシラーの乗るアンチボディに向かった。そして剣を突き立てる。
「そんなものっ!」
 しかしシラーはそれをかわす。そして逆に攻撃を返してきた。
「まだっ!」
 だがカナンもそれは見切っていた。後ろに跳びそれをかわす。
「やられるわけには」
「やられなかったらどうするつもりだ、御前は」
 シラーはここで問うてきた。
「何っ!?」
「御前はわかっている筈だ。誰にも愛されてはいないということをな」
「・・・・・・・・・」
 答えなかった。いや、答えることができなかった。それはカナン自身が最もよくわかっていることだったからだ。
「御前も私も。オルファンから逃れることはできあなかったのだ」
「違う!」
 カナンは叫んだ。
「オルファンの問題じゃないのよ!私だって」
「私だって・・・・・・何だ!?」
「うう・・・・・・」
 やはり答えられない。今のカナンにはそれに答えることはできなかった。
「裏切り者よ、死ねえええっ!」
「クッ!」
 シラーのアンチボディの剣が振り下ろされる。カナンはそれを避けることができなかった。観念した。だがその時であった。
 金属がぶつかり合って弾かれる音がした。見ればカナンとシラーの間に一機のブレンがいた。
「ラッセ・・・・・・」
 そこにいたのはラッセのブレンであった。彼はカナンに対して優しい笑みを浮かべてこう言った。
「あまり無茶はするなよ」
「え、ええ」
 カナンはそれに戸惑いながらも頷いた。
「一人じゃ限度があるからな。大勢いた方がいい」
「そうね」
「一人よりも二人、二人よりも三人だ」
「戯れ言を」 
 だがシラーはラッセのその言葉を拒絶した。
「人間はいつも一人だ。大勢いても何になる!」
「助け合うことはできるな」
 そこにナンガが来てそう答えた。
「まだ言うか」
「これを戯れ言とか言うのならそう言ってくれていい」
 ナンガはそう言葉を返した。
「しかし大勢いた方が力になる。違うか」
「御前さんにもそれがわかる時が来るかもな」
「馬鹿も休み休み言え」
 シラーはナンガとラッセの言葉をやはり拒絶した。
「そんなもの嘘だ。嘘は消さなくてはならない」
 そう言うとまたカナンに向かってきた。しかし今度はヒギンズも来た。
「何だかわからないが力を貸すよ」
「ヒギンズ」
「あんたとは深い付き合いだからね。やらせてもらうよ」
「有り難う」
「幾ら揃ったところで!」
 それでもヒギンズは怯まない。剣を手に向かって来る。四人は彼女と正対した。そして戦いを再開した。
 ジョナサンは勇と戦っていた。戦いながらノヴァイス=ノアに向かおうとする。
「行かせない!」
「邪魔するな、勇!」
 ジョナサンは目の前に立ちはだかる勇に対して叫んだ。
「あいつは、あいつだけは俺が・・・・・・」
 ジョナサンはもう勇は見てはいなかった。ただノヴァイス=ノアを見ていた。
「やってやる、そうでないと俺の全てが」
「全てがどうしたんだ」
 勇はそんな彼に問うた。
「一体何をそんなに焦っている」
「御前にはわからないさ」
 ジョナサンは吐き捨てるようにしてそう言い返した。
「御前なんかにはな。俺のことは」
「ああ、わからないな」
 勇はそう返した。
「何!?」
「御前はどう思っているか知らないがまだ子供だ」
「俺が子供だと」
「そうだ。現に今も何かに執着している。子供みたいにな」
「まだ言うか」
 子供という言葉に異様に反応してきた。
「俺は子供じゃない、ジョナサン=グレーンだ」
「ジョナサン=グレーンという子供だ」
「貴様っ!」
 それを聞いて激昂した。
「まだ子供と言うかっ!」
「何度でも言ってやる!そして」
 勇は続けた。
「俺は子供には負けない、子供にはな!」
「おのれ、勇!」
 彼はノヴァイス=ノアから目を離した。そして勇に攻撃を絞ってきた。
「ならば貴様からっ!」
「やられるものかっ!」
 勇とジョナサンの戦いも激しさを増してきた。その中ガルバーと護衛のダイモスはノヴァイス=ノアから離れていた。

「これで一安心だな」
「そうね」
 ナナは京四郎の言葉に頷いた。
「とりあえずは。けれど大丈夫かなあ」
「リクレイマーのことか?」
「うん。かなり数も多いし」
「それを何とかするのが俺達の仕事だろ」
 京四郎は心配そうなナナにそう言った。
「ナナ、御前はいつも通り俺のサポートに徹してくれ。いいな」
「うん」
 そこへカミーユの小隊が来た。そこにはフォウもいた。
「ナナ」
 フォウはナナに語りかけてきた。
「フォウさん」
「焦らないでね。皆心配するから」
「うん」
「貴女の考えていることは私にもわかるわ」
 彼女はナナの一矢に対する気持ちに気付いていた。
「けれど余計にね。そして思い詰めたらいけないわよ」
「思い詰めたら」
「あの時エリカさんがどうして一矢さんの下を去ったかわかるかしら」
「それは・・・・・・」
「それは一矢さんを苦しめたくはなかったからなの」
「苦しめたくなかったから」
「ええ」
 フォウは頷いた。
「私が以前ティターンズにたことは知ってるわね」
「はい」
「その時私もカミーユに救われた。そしてカミーユを苦しめてしまったわ。だからエリカさんの気持ちもよくわかるの」
「そうだったんですか」
「だから今はエリカさんを責めないでね。あの二人は今は」
「わかりました」
 ナナはそれを聞いて頷いた。
「フォウさんの気持ち、よくわかりました。有り難うございます」
「そう。それならいいわ」
「はい」
「フォウさん」
 話が終わると京四郎がフォウに話し掛けてきた。
「何でしょうか」
「有り難うな」
 京四郎は一言そう言っただけであたt。だがそれで充分であった。
「いえ」
 フォウは微笑んでそれに応えた。かって強化人間としてサイコガンダムに乗り込んでいた時とは別人の様に優しい笑みであった。
 戦いは続いていた。だが撃墜されるのはアンチボディだけでありロンド=ベルのマシンはどれも健在であった。やはりロンド=ベルの強さは変わらなかった。
「おのれ、またしてもか」
 ジョナサンは自軍にとって劣勢になった戦局を見て歯噛みした。
「だがまだだ。勇、貴様を倒すまでは」
「まだやるつもりか」
 勇は彼を見据えてそう言った。
「当然だ。貴様だけは許さん」
 ジョナサンは勇を睨みつけてそう言った。
「俺を侮辱したのだからな」
「ジョナサン=グレーン」
 ここで高い女の声がした。
「ムッ!?」
 勇もジョナサンも声がした方を見た。そこには赤いアンチボディがいた。
「姉さん」
「私は御前の姉さんではない」
 勇の言葉にすぐに言葉が返ってきた。
「私はクィンシィ=イッサー。覚えておけ」
「くっ」
 勇はそれを聞いて舌打ちした。だがクィンシィはそれに構わず言葉を続けた。
「ジョナサン、ここは撤退しろ」
「何故だ」
「これ以上の戦闘は無意味だ。それにここにバーム軍が迫っている。今の我々ではロンド=ベルとバーム軍両方を相手にすることは無理だ」
「馬鹿な、バーム軍なぞ」
「できるのか!?今の御前に」
 クィンシィはジョナサンを見据えてそう問うてきた。
「勇に片腕を斬られた御前に。できるというのか?」
「・・・・・・わかった」
 ジョナサンはそれを聞いて頷いた。
「今はそれに従おう」
「最初からそう言えばいい」
 クィンシィは冷たくそう言った。
「それでは全機撤退する。いいな」
「わかった。勇」
 ジョナサンは最後に彼を見た。
「今度会う時にはノヴァイス=ノアも貴様を倒してやる。いいな」
 そう言って姿を消した。シラーも姿を消していた。
「ジョナサン」
 勇は彼が消えた後を見ていた。だが何時までも見ているわけにはいかなかった。
「勇、来たよ」
 ヒメが言う。するとそこにはバーム軍がいた。
「やはり来たか」
 トロワがそれを見て一言そう言った。
「ああ、そんな感触はあった」
 シーブックがそう言う。
「だがこれを退けたなら暫くは大丈夫だ」
「どういうことだ、ウーヒェイ」
 宙が彼に尋ねる。
「今までバーム軍は俺達にかなりの戦力を向けてきたな」
「ああ」
「それだけにダメージも大きいということだ。おそらく今バーム軍は戦力をかなり消耗させている」
「だから今回の作戦の後は暫く行動がとれないということか」
「そうだ。だがそれだけにバームも必死になるだろう」
 彼は展開するバーム軍を見ながらそう述べた。
「じゃあここが踏ん張り時だな」
 健一がそれを聞いて言った。
「行くぞ皆、奴等を退けて香港へ行くんだ」
 そして前に出ようとする。だがそれを止める者がいた。
「待て、健一」
「その声は」 
 健一はその声の主をよく知っていた。
「兄さん、今の声は」
「まさか」
 大次郎と日吉もそれをよく知っていた。彼等は声がした方を見た。
「久し振りだな、三人共」
 そこには角を生やした神がいた。ボアダンの守護神であるゴードルであった。そしてそれに乗る者が誰なのか誰もが知っていた。
「ハイネル兄さん」
 健一がその名を呼んだ。
「プリンス=ハイネル、生きていたのか」
 洸がそれを見て驚きの声をあげた。
「如何にも」
 ゴードルに乗る美しい顔立ちの若者が洸に答えた。彼こそ健一達の兄でありかってはバルマー軍にいたプリンス=ハイネルであった。
「地球の戦士達よ、余は戻って来た」
「何故!?」
 めぐみが問う。
「平和の為、と言おうか」
 ハイネルは返す。だがそれに懐疑的な者もいた。
「おいおい、今まであれだけ暴れておいてそれはないんじゃないの」
 真吾がそう言った。
「そうだな。降伏勧告とかならともかく」
 キリーもそれに同意した。
「虫がよすぎるってもんだ」
「待ってくれ」
 だが健一がここで間に入ってきた。
「兄さんはそんな人じゃない。兄さんは前の戦いで戦いというものの無意味さがわかっている。それに兄さんは人を騙したりは決してしない」
 ハイネルの誇り高い心を誰よりもわかているからこそ言える言葉であった。
「だからここは兄さんを信じてくれ」
「おい、何を言っているんだ」
 ピートがそれに反論した。
「相手は今まで散々地球を侵略してきた奴等の指揮官の一人だぞ。どうしてそんな奴を信用できるんだ」
「ピート」
「どうやらおめでたいのは一矢だけじゃないみたいだな」
「だが今ここで戦っては同じことの繰り返しになってしまう」
「健一」
 そんな彼に対してアムロが声をかけてきた。
「アムロさん」
「御前の気持ちはわかる」
 彼は先の戦いで健一達と共にバルマーと戦ってきた。だからこそわかるのであった。
「だがそれでも今はまず疑ってかかった方がいい」
「アムロさん・・・・・・」
「冷静になれ。今バームは気が立っている。指導者のリオン大元帥を殺されたと思っているからな」
「はい」
「そんな状況で彼等が講和のテーブルにつくとは思えない。冷静に考えるんだ」
「そうだ」
 一矢がアムロの言葉に同意した。
「あのリヒテルがそんなことをするもんか」
(それにだ)
 アムロは心の中で考えていた。
(偽者を用意して欺こうとするのはボアダンの常套手段だった)
 かっての戦いの経験からそれを思い出していた。
(今回のその可能性がある。油断してはならない)
 そう思いながらゴードルを見た。彼は己の勘を研ぎ澄まさせた。そして敵の不意打ちに備えた。
「ふふふ、確かにな」
 ハイネルは彼等のやりとりを見て笑った。
「確かに余を信じろという方がおかしな話だ。かっては敵同士だったのだからな」
「兄さん」
「しかしこれだけは言っておこう」
 ハイネルは毅然とした声でロンド=ベルに対して言った。
「今地球とバームが戦っている場合ではないのだ。これはわかるだろう」
「ああ」
 それにはアムロも同意した。
「今地球、ボアダン、いや銀河に危機が迫っているのを忘れるな」
「奴等か」
 先の戦いに参加した者達がそれに頷いた。
「そうだ。奴等だ」
 そう語るハイネルの影に不吉なものが差した。彼もまた迫り来る脅威に警戒していたのだ。
「奴等を倒すことこそが我等の本来の目的であることを忘れるな。そして健一、大次郎、日吉よ」
「はい」
 三人は兄の言葉に顔を向けた。
「我等四人、例えどこにいようと一緒だ。我等は同じ血を引いているのだからな」
「兄さん・・・・・・」
「だから安心せよ。余は御前達の側に何時でもいる。そして何があろうと死にはしない。そう」
 ハイネルは言葉を続けた。
「地球とボアダン、そして銀河を救うまでな。そして今は」
 そう言いながらバーム軍に目を向けた。
「奴等の卑劣な罠を破らなければならない」
「罠!?」
「そうだ」
 ハイネルは頷いた。
「すぐにわかる。見よ」
 バーム軍を指差す。それはバーム軍にもわかった。指揮を執っているのはライザであった。ガルンロールに乗っていた。
「あれはボアダンのプリンス=ハイネルか」
 彼女もハイネルのことは聞いていた。
「先の戦いで死んだのではなかったのか。それがどうして」
 だが今の彼女にそれに構っている精神的な余裕はなかった。それをまずは無視することにした。
「まあいい」
 そして周りの者に声をかけた。
「あれを出せ。よいな」
「ハッ」
 兵士の一人がそれに応える。そして一機のマシンが出撃した。それを見た一矢の顔が驚愕に覆われた。
「あれは・・・・・・!」
「まさか・・・・・・」
 他の者も同じであった。皆驚かずにはいられなかった。
「エリカ!」
 そのマシンの頭には人がいた。それはエリカだったのだ。
「一矢・・・・・・」
 エリカはダイモスを見た。一矢もエリカを見ていた。
「エリカ、どうして」
「竜崎」
 ここでマシンから男の声がした。一矢もよく知っている声であった。
「ハレック」
「今は攻撃しないでくれ。このエリカ様は本物のエリカ様だ」
「どうしてエリカを」
「これこそが罠なのだ」
 ハイネルは一矢に対してそう語った。
「そこにいるバームの者のな。竜崎一矢、御前を倒す為にだ」
「俺を!?」
「そうだ」
 ハイネルはまた答えた。
「だが御前はまだ倒されるわけにはいかない。何故なら」
「何故なら!?」
 皆それに問うた。
「御前はこれからの地球とバームにとって必要な人間だからだ。その為には」
 ここでハレックの乗るマシンが動いた。
「竜崎!」
 ハレックが叫んだ。
「このクラインは今は俺の手では動かん!コンピューターが制御している!」
「何!」
「済まない竜崎」
 ハレックは言った。
「俺は・・・・・・御前との決着をつけられそうにない」
「ハレック!」
 クラインは姿を消した。
「来たか」
 それと同時にハイネルは動いた。すぐにダイモスの側に来た。
「何をするつもりだ」
 ライザはそれを見ていぶかしんだ。
「折角竜崎一矢、そしてリヒテル様に害を及ぼすであろうエリカ様を除けるというのに。どういうことだ」
「そうはさせん」
 だがハイネルには彼女の考えがわかっていた。ダイモスの側で身構える。
 そこにクラインが姿を現わしてきた。そこでゴードルが動いた。
「御前達の邪な企み、このプリンス=ハイネルが退けてくれよう」
「おい、一矢」
 ここで京四郎が一矢に声をかけてきた。
「何だ、京四郎」
「このままでいいのか。御前がエリカを救わなくてどうする」
「あ、ああ」
 一矢はそれに頷いた。
「お兄ちゃん」
 ナナも彼に語りかけてきた。
「エリカさんはお兄ちゃんの為に命をかけているのよ。だからお兄ちゃんも」
「わかってる」
 最初から迷いはなかった。彼は身構えた。そして出て来たクラインを見据える。
「エリカ」
「はい」 
 エリカに声をかける。彼女はそれに頷いた。
「俺は君を助ける。何があってもな」
「一矢・・・・・・」
「世界、いや宇宙の全てが敵になっても俺は君を守る」
 彼は言った。
「何故なら・・・・・・君は俺が愛した女だからだ。君は俺が愛する者だからだ」
「一矢・・・・・・」
 エリカの黒い瞳から銀の涙が溢れ出た。
「その言葉だけで私は・・・・・・。どんな苦難にも耐えられます」
(これでいいのよね)
 ナナはそれを見て思った。
「エリカさんを信じるわ。私が大好きな人が愛する人だもの」
「そうだな、ナナ」
 京四郎はそれを聞いて頷いた。
「暫くの間に大人になったな」
「京四郎さん・・・・・・」
「俺達は一矢を見守ろう。そしてエリカも」
「はい」
「やれやれ」
 それを見ながらデュオが声をあげた。
「あそこまで言われたらこっちまで信じてみようって気になるな」
「全くだ」
 ウーヒェイもそれに同意した。普段の彼からは予想もできない言葉であった。
「カトルだけじゃなかったんだな。あんなお人好しは」
「あれ、僕は最初から信じていましたよ」
 当の本人はデュオにそう言葉を返した。
「ふふふ、それはカトル君らしいね」
 万丈がそれを聞いて笑ってそう言った。
「しかしあのクラインは厄介だな。何とかしないと」
「そうですね」
「このまま黙っているのは願い下げだ」
 ヘイトがこう言った。
「若い二人の恋路を邪魔するのは」
 レミーも言う。
「拳で叩き潰すだけだ」
「ドモンさん、そうじゃないわよ」
 リューネがそれに突っ込みを入れる。
「馬に蹴られて死んじまえ、でしょ」
「む、そうだったか」
「・・・・・・確かにドモンさんの拳で殴られたら死んじゃうだろうけれど」
 シンジがポツリと呟く。
「とにかくここはあたし達が頑張ろうよ」
 プルが言った。
「ええ、頑張りましょ!」
 ヒメも同意した。
「そういうことだ、一矢。他の奴等は俺達に任せな!」
 甲児が一矢に対して言葉をかけた。
「皆・・・・・・」
「こうした時はお互い様だ。気にするな」
 デュークもそう声をかける。今ロンド=ベルは心が一つになった。
「済まない。必ずエリカを救い出す!」
「よし」
「後ろは任せな!」
 ダイモスは身構えた。そこへハレックの声がした。
「素晴らしい戦士達だな、竜崎」
「ハレック」
「どうやら俺の目に狂いはなかったようだ。御前も彼等も素晴らしい者達だ。どうやら地球人というのは素晴らしい者達のようだな」
「わかってくれたか」
「ああ。だが俺達は戦わなくてはならない。それはわかるな」
「無論」
「では言おう。このクラインには爆弾が仕掛けられている」
「何!?」
「ライザは俺やエリカ様ごとロンド=ベルを消し去るつもりなのだ」
「馬鹿な、何ということを」
「しかも時限爆弾だ。あと三分で爆発する」
「ク・・・・・・」
「一矢」
 だがここでバニングが一矢に語りかけてきた。
「それだけあれば充分だ。その間は我々が周りを引き受けるからな」
「何、三分なんて楽勝だぜ」
 ビーチャは本心を隠して強がりで言った。
「そうだよ。だから一矢さんはエリカさんを助けなよ」
「モンド・・・・・・」
 一矢には彼等の心が痛い程わかった。そしてそれに痛み入った。
「わかった。必ず救う。俺の全てをかけて」
「では来い、竜崎」
 ハレックが言った。
「御前ならこれの亜空間移動に対応できる筈だ」
「勿論だ。行くぞ、ハレック!」
「よし、来い!」
「・・・・・・フ」
 ハイネルはそんな彼等を見て微笑んだ。清々しい笑みであった。
「竜崎一矢、どうやら余が思っていた以上の男だ」
 そう呟いた。
「ここはこの者に任せるとしよう。健一」
「はい」
「余もここは御前達に協力させてもらおう。今は周りにいるバーム軍を退けるぞ」
「わかりました、兄さん」
 ハイネルも戦いに参加した。ゴドールの剣が唸る。
「このハイネル」
 彼は剣をかざしながら言う。
「義の為に戦う。その前に立ちはだかるのなら容赦はせん!」
 そしてバームのマシンを次々と両断していく。だがパイロットは決して狙わなかった。
「うわっ!」
「脱出するがいい」
 彼はバームの兵士に対してそう述べた。その兵士はそれに従うように脱出した。
 ズバンザーがドゴールの後ろで爆発する。ハイネルはその爆風を背で受けながら呟いた。
「バームの兵士達、そしてリヒテルよ、早く気付くのだ」
 そう呟きながら空を見る。
「自分達の真の敵が何なのかをな。いずれ気付く筈だ」
 言葉を続ける。
「余もかってはそなた達と同じだったのだから」
 ハイネルの参戦は大きかった。ロンド=ベルは彼の助けもあり順調に戦いを進めていた。その間にダイモスはクラインとの戦いを進めていた。
「竜崎」
 ハレックは一矢に語りかけていた。
「こいつの動きに惑わされるな。心を無心にすれば動きを見切れる筈だ」
「無心にか」
「そうだ」
 彼は一矢にそう答えた。
「できるな、御前なら」
「ああ」
 自信はあった。一矢はそれを受けてまず目を閉じた。
「さあ来い」
 そう言いながら構える。
「俺の空手を見せてやる」
「よくぞ言った、地球の誇り高い戦士よ」
 ハレックはそれを聞いて笑みを浮かべた。
「それでこそ俺が見込んだ男だ。頼むぞ」
 その間に戦局は進んでいた。損害が無視できない程になったのを見てライザは決心した。
「全軍撤退せよ、よいな!」
「待て!」
 ロンド=ベルはそれに対して追撃を仕掛ける。だがライザはそれより先に撤退してしまった。戦場にはロンド=ベルとハレックだけが残る形となった。
 クラインが姿を消した。それはダイモスに襲い掛かる合図でもあった。
「来たな」
 一矢は気配を感じていた。例えマシンであろうともその殺気は感じられた。彼は身構えた。
(頼むぞ)
 ハレックは姿を消したクラインの中でそう呟いた。
(願わくばクラインの制御系統を破壊してくれ)
 彼は密かにそう願っていた。
(俺がこれを操れるように)
 何かを決意していた。だがそれを表に出すことはなかった。それはあくまで決意であった。
 クラインが姿を現わした。そしてダイモスに攻撃を仕掛ける。だがダイモスはそれを見切っていた。
「そこかあっ!」
 一矢は動いた。そしてクラインに攻撃を仕掛ける。
「ダブルブリザァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッド!」
 胸から竜巻を放つ。そしてそれでクラインを捉えた。
「必殺烈風・・・・・・」
 蹴りを放つ。一直線に向かう。
「ダイモキィィィィィィィック!」
 それでクラインを撃った。蹴りがその急所を貫いた。これで決まりだった。
「よし!」
 攻撃を受けたハレックが会心の笑みを浮かべた。
「後はエリカとハレックを」
「竜崎一矢」
 ハレックはクラインの中から一矢に語りかけてきた。
「俺を信じてくれたことに礼を言おう」
「気にするな、ハレック。御前のおかげで」
「言うな。だがもう時間がない」
「何!?」
 一矢だけではなかった。それを聞いた全ての者が驚きの声をあげた。
「もう起爆装置を解除する時間は残されてはいないのだ」
「そんな・・・・・・」
 ナナはそれを聞いて絶句した。
「それじゃあハレックさんもエリカさんも」
「クッ」
 京四郎もそれを聞いて舌打ちした。
「何てこった」
「爆発すれば結果は同じだ。ロンド=ベルもエリカ様もな」
「じゃあどうすれば」
「解決する方法は一つだけある」
「それは」
「エリカ様」
 ハレックはエリカに声をかけた。
「これで竜崎に借りを返すことができます」
「ハレック、貴方は」
「御免!」
 ハレックは動いた。そしてエリカをクラインから解き放った。
「竜崎、エリカ様を!」
「わかった!」
 一矢はすぐにダイモスでエリカを保護した。ハレックはそれを見て笑った。覚悟を決めた、清々しい笑みであった。
「よし、これでいい」
 彼はすぐにクラインのコクピットに戻った。そしてロンド=ベルから離れた。
「一矢、ハレックを追って!」
 エリカが叫ぶ。
「あの人は・・・・・・死ぬ気です!」
「わかってる!」
 それは一矢にもわかっていた。彼は追おうとする。だがそれを当のハレックが止めた。
「来るな、竜崎!」
「!」
 その声に思わず動きを止めてしまった。
「バームと地球の平和の為に御前の様な勇気ある男を死なせたくはない」
「ハレック・・・・・・!」
「バームと地球の平和・・・・・・。そしてエリカ様と御前を勇気ある戦士達に託そう」
「何処へ行くつもりだ」
「何処へか」
 ハレックはまた笑った。
「それは決まっている」
 空を見上げて言う。そこには何処までも続く果てしない青空があった。
「成層圏を突き抜けて星空の彼方・・・・・・。この果てしなく広がる宇宙が俺の故郷」
 彼は言う。
「ハレック!死ぬな!」
「さらば我が友竜崎一矢。出来ることならもう一度御前と拳を交えたかったが・・・・・・。さらば!」
 そして彼は消えた。大空に姿を消した。
「ハレックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーッ!」
「ああ・・・・・・」
 一矢の叫び声とエリカの嘆きが木霊する。その中でミドリがポツリと言った。
「・・・・・・成層圏での爆発の反応を確認」
「そうか」
 普段は冷静な大文字もそれを聞いて沈んだ声を出した。
「クラインの反応、消えました」
「あの男、最初から爆弾が解除不能なのを知っていて」
 サコンも沈んだ顔でそう呟く。
「何て奴だ」
「・・・・・・バームにも、いや異星人にもあんな男がいたのか」
 ピートも同じだった。皆ハレックのその行動に深い衝撃を受けていた。
「ハレック、御前って奴は」
 一矢はとりわけそうであった。空を見上げていた。
「行っちまったんだな」
 甲児がそこで呟いた。
「え!?」
「あいつの故郷にな。あいつが言っていた」
「甲児・・・・・・」
 カミーユの心にも甲児のその言葉がしみていた。
「・・・・・・・・・」
 一矢はそれを聞いて何も言えなかった。エリカも同じであった。あまりにも誇り高い戦士の最期であった。
 だがその時だった。不意にエリカの側に何者かが姿を現わした。
「ああっ!」
 そしてエリカを捉えた。それはバームの工作員達であった。
「エリカッ!」
「何だとっ!」
 一矢と京四郎がそれを見て驚きの声をあげる。
「メルビ様の御命令だ、エリカ様をお連れしろ!」
「馬鹿な、そんなことをさせるか!」
 だがそれは間に合わなかった。彼等はすぐに瞬間移動でロンド=ベルから離れた。
「一矢!」
「エリカ!」
 二人は叫ぶ。だがそれでも間は離れていく。
「やっと会えたのに・・・・・・どうしてなんだ!」
「私も・・・・・・どうしてこんな・・・・・・」
「エリカを・・・・・・エリカを渡すかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「一矢ああーーーーーーーーーっ!」
 だがエリカを捉えた工作員達は姿を消した。そしてエリカの姿は消えた。
「エリカァァァァァァッ!」
 神戸の海の一矢の叫びだけが響いた。こうして神戸の戦いは悲しい結末と共に幕を降ろした。ロンド=ベルは悲しみに浸る間もなく香港に向かわなければなからなかった。

 海底城ではライザがリヒテルの叱責を受けていた。彼はライザに詰め寄っていた。
「ライザ、どういうことだ」
 彼は怒りに満ちた顔と声で彼女に問う。
「何故エリカを作戦に利用したのだ、説明せよ!」
「この作戦、リヒテル様の了承を得ましたので」
「何!?」
 ライザの返答に目を丸くさせた。
「リヒテル様は獄中の者を作戦に使うと私が申し出た時了承して下さいましたが」
「むう・・・・・・」
 リヒテルはそれを聞いて言葉を詰まらせた。
「違うでしょうか」
「・・・・・・確かに」
 そう言ったのは事実である。彼はそれに頷くしかなかった。
「まあよい。それでは今回の件は問わぬ。よいな」
「はっ」
 これでこの話は終わった。だがリヒテルは言葉を続けた。
「してエリカは」
「それですが」
 ライザは言葉を濁した。
「戦闘中に行方不明となられ」
「何っ!?」
 リヒテルはそれを聞いて驚きの声をあげた。
「それはまことか!?」
「はい」
 ライザは頷いた。
「今は何処におられるのか」
「そんなことはどうでもよい。すぐに探して参れ」
「その必要はないぞ、リヒテル」
 だがここでメルビが出て来た。
「メルビ補佐官」
「エリカは俺が保護しておいた」
「それはまことか」
「ああ。エリカをここへ」
「はっ」
 メルビの後ろにいる兵士がそれに応えて姿を消した。そして暫くしてエリカが姿を現わした。
「エリカ、生きていたのか」
「・・・・・・はい」
 エリカは兄に対して沈んだ顔で頷いた。
「メルビ補佐官に助けて頂きました」
「そうか、それは何よりだった。メルビ補佐官、礼を言おう」
「礼なぞいらぬ」
 だが彼はそれに対して鷹揚に応えるだけであった。
「戻って来たのは何よりだ。もう二度とこのような事態は起こさせぬ」
 リヒテルはそう言いながら腰の剣を抜いた。
「エリカ、そこになおれ。この兄の手で始末をつけてくれる」
「はい・・・・・・」
 最早逃げようとしなかった。潔く自らの運命を受け入れるつもりだった。だがここでまたメルビが出て来た。
「まあ待て、リヒテル。エリカを渡すわけにはいかんぞ」
「留め立てするのか」
「違うな。渡せぬと言ったのだ」
「何っ」
「エリカは俺の花嫁になるのだからな」
「なっ」
 それを聞いたリヒテルが驚きの声をあげた。
「それはまことか」
「そうだ。俺がわざわざ地球に来たのはその為だ」
 メルビは笑いながらそう答えた。
「もう一人身でいるのにも飽きてな。それで来たのだ」
「それはならん」
 しかしリヒテルはそれを拒絶した。
「このことに関しては全て余に権限あある」
「フン」
 しかしメルビはその言葉を鼻で笑った。
「俺がオルバン大元帥の甥だとしてもか」
「クッ・・・・・・!」
 切り札を出した。これにはさしものリヒテルも沈黙するしかなかった。
「心配するな。ここで式を挙げるとは言わん」
 リヒテルを安心させる為かそう言った。
「御前がこの結婚を認めるのなら俺はすぐにでもここを去ろう。もうすることもないのでな」
「去るのか」
「そうだ。これは御前にとってもいいことだと思うが」
 メルビは笑いながらそう言った。
「余にも?」
「そうだ。エリカはていよく追放だ。どうだ、悪い話ではあるまい」
「ううむ」
「どうする?御前にとってもいい話だぞ」
「・・・・・・わかった」
 リヒテルはその言葉に頷いた。
「よし」
 メルビはそれを聞いて満足気に頷いた。
「ではこれで決まりだ。よいな」
「うむ」
「さあエリカよ」
 メルビはあらためてエリカに顔を向けた。
「小バームへ戻るぞ。よいな」
「・・・・・・・・・」
 エリカは答えなかった。メルビはそれに構わず続けた。
「マルガレーテも連れて行ってよいか」
「何故だ?」
「エリカ付きの侍女としてな。どうだ」
「よかろう」
 それを認めた。
「そなたの好きにするがいい。余にそれを止めるつもりはない」
「わかった。それでは」
 それを受けてマルガレーテにも顔を向けた。
「よいな」
「はい」
 マルガレーテは気丈な顔で頷いた。頷いてからエリカを見た。
「おひいさま・・・・・・」
「マルガレーテ・・・・・・」
 幼い頃から互いに知った者同士である。その結びつきは深かった。
「さあエリカ」
 メルビはそれを無視してエリカに言う。
「これで御前は俺のものだ。その笑顔は俺にだけ見せるのだ。よいな」
「はい・・・・・・」
 エリカは頷きながらもそれに従うことはできなかった。
(ああ、一矢)
 そして心の中で一矢の名を呼んだ。
(ようやく貴方に会えたというのに・・・・・・)
 想うのは一矢のことだけであった。彼女は自らの数奇な運命に翻弄されようとしていた。
 だがエリカはそれにあがらうことを決意していた。その心は最早何を以ってしても変えられないものとなろうとしていた。

「それではな」
 ハイネルは健一達に別れの言葉を送っていた。
「余はこれで去らせてもらおう」
「兄さん、行くのかい」
 健一はそんな彼に対して声をかけた。他のボルテスチームの面々も一緒であった。
「うむ。まだ余にはやるべきことがあるのでな」
 ハイネルはそう答えた。
「やるべきことって?」
「やがて御前達にもわかることだ」
「そうなのか」
 悪いことではないのはわかっていた。今健一達とハイネルは心で繋がっていたからだ。
「父上はお元気か」
「ああ」
「元気にしとるばい」
「そっちは心配しなくていいよ」
「そうか、それは何よりだ」
 それを聞いてあらためて微笑んだ。
「余のような不肖の子を持って心苦しいだろうが」
「何を言っているんだ」
 健一はそんなハイネルに対して言った。
「兄さんみたいな人をそんなふうに思う筈がないじゃないか」
「そうかな」
「ああ、その通りだ」
 一平がここで言った。
「プリンス=ハイネル、あんたは立派な男だ」
 彼はハイネルに対してそう言った。
「あんたみたいな男を息子に持てて博士も喜んでいることだろう」
「だといいがな」
「そうだよ。兄さんは俺達にとっても誇りなんだ」
「健一」
 ハイネルはあらためて弟達を見た。
「兄さんは立派な戦士だ」
「そしておいどん達にとっては誇り高い兄さんたい」
「そうだよ。おいら達ハイネル兄さんがいてくれて本当に有り難いと思っているんだよ」
「大次郎、日吉」
 ハイネルは弟達のそんな言葉を聞き目を潤ませた。
「どうやら余は自らに過ぎた弟達を持ったようだな。何という幸せか」
 そしてロンド=ベルの面々に顔を向けた。
「この者達を宜しく頼む」
「ああ、任せとけ」
 豹馬が彼に応えた。
「健一達は俺達が守るからよ。フォローしてやるぜ」
「ちょっと、それは違うわよ」
 ちずるが彼に対して言う。
「フォローされる、でしょ。豹馬はいつも健一さんにフォローされてるじゃない」
「おい、何言うんだよ」
「ホンマのことやろが」
 十三の突っ込みを入れる。
「豹馬、おまさんはちと焦り過ぎなんや。ちっとは健一さんを見習わんかい」
「十三には言われたくはねえな」
「確かに十三さんもそうですよね」
「そうですたい」
 小介と大作も話に入ってきた。
「確かに健一は豹馬君よりは落ち着いているけれど」
 めぐみが言った。
「けれどやっぱり皆の力が必要よな」
「ああ、それはわかってる」
 健一もそれに頷いた。
「頼りにしてるぜ、皆」
「おお、宜しくな」
「豹馬の場合は宜しくお願いします、だな」
「甲児君もね」
「ちぇっ、さやかさんもきついな」
「ふふふ」
 ハイネルはそんなやりとりをするロンド=ベルの面々を見て微笑んだ。
「いい仲間達だな。大事にするようにな」
 そして健一達に対してこう声をかけた。
「はい」
 健一達はそれに頷いた。
「そして兄さんも」
「わかっている」
 ハイネルはそれに頷いた。
「任せておけ。よいな」
「はい!」
「それではロンド=ベルの誇り高い戦士達よ」
 彼はまたロンド=ベルの面々に顔を向けた。
「さらだ、また会おう」
「シーユーアゲイン」
 最後にレミーの言葉が響く。そしてハイネルはゴドールと共に姿を消した。後にはロンド=ベルの面々だけが残った。
「立派になったな、あらためて」
 鉄也が去り行くゴドールを見ながらそう呟いた。
「ああ、そうだな」
 竜馬がそれに同意する。
「どうやら人間的にも成長したようだ。プリンス=ハイネル、大きくなったな」
「そうだな。しかし一つ気になるのだが」
「何だ」
「いや、ハイネルを見ているとな」
 鉄也は言う。
「あのリヒテルという男に似ているな、と思ってな」
「確かにな」
 隼人がそれに頷く。
「あの二人は似ている。気性も何もかもな」
「御前もそう思うか」
「ああ。だから何かがあれば変わると思う。だが」
 隼人は尚も言う。
「そうなるまでが大変だろうな。ああしたタイプは何かと頑固だ」
 彼は的確にリヒテルという男を見抜いていた。
「だが何時かは奴もわかるだろう」
「何時かは、か」
「そうだ。しかしその時に手遅れになっていないことを祈る」
「隼人・・・・・・」
 弁慶はそれを聞いて難しい顔をする。そしてロンド=ベルの面々はそれぞれの艦に戻った。

「エリカ」
 一矢は感慨深げに空を見ていた。
「君は生きていた。そして地球とバームのことを心から考えていてくれた。俺と同じように」
 彼にはそれが嬉しくてならなかった。
「ならば俺も二つの星の為に戦う。我が友ハレックの為にも」
「ふうむ」
 ビルギットはそんな彼をみながらモンシアに対して言った。
「一矢の奴そんなに落ち込んじゃいませんね」
「まあ男ってのはそういうもんさ」
 彼はそう答えた。
「それはどういう意味ですか?」
 ジュンが彼に問う。
「そのまんまだ。あいつはふられたんだよ」
「おい、適当なこと言うな」
 それにリョーコが食ってかかる。
「あいつ等は別れてなんかいねえぞ。勝手な作り話してんじゃねえ」
「あの二人は離れ離れになってるだけですよ」
 ヒカルが言う。
「つまりロミオとジュリエットってことか」
「まあそういうことだな」
 リョーコはビルギットの言葉に頷いた。
「だから何時かはまた会えるさ」
「あれ、ロミオとジュリエットは最後は」
「あたし達はシェークスピアじゃねえ」
 リョーコはヒカルの言葉を否定した。
「あたし達はロンド=ベルだ。不可能を可能にする、そうだろ」
「御前もたまにはいいこと言うな」
 ガイはそれを聞いて声をあげた。
「だがその通りだ。よくわかっているな」
「ヘン、あんたからそれを学んだんだよ」
「それは何よりだ、ふふふ」
「けれど悪影響も入っているな」
 ナガレがポツリと呟く。
「二人共すぐエキサイトするから」
「アキト、おめえもな」
 リョーコが突っ込みを入れる。
「人のことはあまり言えねえぞ」
「そうかなあ」
「人の振り見て我が振りなおせ」
 イズミがポツリ、と呟く。そこにルリが突っ込みを入れる。
「イズミさん、意味が違うと思います」
「気にしない、気にしない」
「まあ俺はリョーコの言葉に賛成させてもらうぜ」
 ビルギットがそう言った。
「お、有り難いねえ。どうしてだい?」
「いや、俺達はシェークスピアじゃないって言っただろ」
「ああ」
「それだ。俺達であの二人を結び付けてやれたらいいな」
「いいな、じゃねえよ」
 リョーコはニヤリと笑いながら言った。
「結び付けるんだ、いいな」
「そうだな、その通りだ」
「リョーコさんっていい人なんですね」
 クスハがそんな彼女に対して言った。
「おい、褒めたって何も出ねえぞ」
 照れ隠しにそう笑う。
「けれどこれで何か安心しました。希望があるってわかったし」
「そうだな」
 ブリットもそれに同意する。
「あの二人は必ず地球とバームの架け橋になる。だから」
 言葉を続けた。
「その為にも一緒になってもらいたい。こういうと変な意味になるが」
「いえ、そうは思いません」
 ルリがブリットに対してそう述べた。
「無益な戦いより平和の方がいいのは事実ですから」
「そうだな」
 ブリットはそれに頷いた。そしてまた言った。
「地球とバーム・・・・・・。もう一度話し合うことができればな。本当にそう思う」
「はい」
 ルリはそれに応えた。そしてその金色の目で遠くを見た。
「けれどそれにはまだ」
 ルリの見ているものは遥か彼方にあった。だがそれは決して届かない場所ではない。彼女にもロンド=ベルの者達にもそれがわかっていた。だからこそ彼等は諦めてはいなかった。そしてそこに辿り着く為に再び戦場に向かうのであった。


第二十二話    完



                                    2005・5・15

 
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