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ドワォ青年リリカル竜馬

作者:納豆太郎
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プロローグ

 ――太陽系第三惑星、地球。果てしない闇が広がる宇宙において、青く美しい輝きを放つこの星にはあらゆる種類の生命が存在し、それぞれの生活を送っている。
 数多くの命の中でも、異常と言えるほど飛びぬけた進化を遂げ、さらに道具を用いて発展、地球の頂点に君臨した霊長類を祖とした種族がある。その種族は、その種族自身によって「人類」もしくは「人間」と呼称される。
 だが、人類という生き物が存在しているのはこの地球だけではない。地球とは異なる世界、いわゆる異世界と呼ばれる場所にも、多くの人類が独自の文化を形成しては文明を発展させている。そして、それらの世界の中には、地球のそれをはるかに凌ぐ文明を作り上げた世界も多く存在しているのである。

 さて、今回のお話は、その高度な文明を作り上げた異世界からの来訪者により、魔法という新たな世界に足を踏み入れた小さな少女と、鬼や悪魔も泣いて逃げ出しそうな風貌をした武道の達人である青年の、愛と勇気と熱血と、それに多少の進化が加わった友情の物語である。














 日本、某県の海沿いの街、海鳴市。

「ぎゃあああああっ!」

 時にして午後九時頃だろうか、人通りの比較的少ない通りに建つ、やや古臭い作りで四階建ての雑居ビルから、一人のスーツ姿の男が三階の窓ガラスを割りながら外に叩き出された。

「てっ、てめぇ!」

 ビルの中、暴力団の事務所では、先程の男と同様にスーツを着た暴力団員四人が事務所の入口に立つ、一人の背の高い男を注視している。
 男はボロボロの黒い道着らしき服装に身を包んでおり、袖口や裾など道着の隙間から見える、傷だらけの四肢や胸元の筋肉を見る限りでも、相当の凄腕の武道家だと判る。髪は手入れを怠っているのかボサボサで、そして何より、その眼光は鬼や悪魔でさえも逃げ出しそうなほど鋭く、殺気に満ち溢れていた。

「…てめぇらが売りさばいた薬の所為で、中学生が二人死んだ。そのうちの一人は、俺の道場に通っていた生徒だった…。てめぇらを許すわけにはいかねぇ」
「うっ、うわぁぁぁぁぁあ!」

 暴力団員の一人が長ドスを持ち出して鞘を抜き、鈍く光る刃を男に向けて突き立てる。
 長ドスの切っ先は男の胸に突き刺さり、暴力団員はしてやったりと笑みを浮かべる。だが、その笑みはすぐに驚愕と絶望の表情に変わった。
 突き刺さった刃は切っ先からほんの数センチ程度であり、暴力団員が力を込めてそれ以上突き刺そうとしても、逆に引き抜こうとしてもびくともしない。それどころか、長ドスの刀身に少しずつ亀裂が生じていき、遂にはその刀身があたかも飴細工で出来ていたかのように砕け散ってしまった。
 暴力団員たちの顔はたちまち引きつり、今起きた出来事が信じられないといった様子で折れた長ドスを見つめる。
 そして、男が鍛え上げられた自らの腕を振り上げるのを、恐怖のあまり身動き一つ取れずに見ているだけだった。

「ぎ…ぎゃああああああああああっ!」

 夜の海鳴の街に、一人の男に駆逐されていく暴力団員たちの悲鳴がこだましていった。
















「あう~…疲れたぁ~…」

 夜の海鳴の街を、一人の少女が疲れ切った表情でフラフラと歩いている。
 栗色のセミロングの髪は左右で小さくまとめられており、細い首からネックレスのように下げられた赤いビー玉状の宝石は美しい輝きを放っていた。そしてその小さな肩には、クリーム色の体毛をしたイタチ科の小動物、フェレットがちょこんと乗っている。

「今日もお疲れ様、なのは」
『お見事でした。本日はゆっくり休みましょう、マスター』
「う~ん…そうする~…」

 フェレットと赤い宝石が突然喋り出し、なのはと呼ばれた少女に向けて労いの言葉をかける。
 本来ならばあり得ない光景であり、周囲の人間は何事かと驚くだろうが、幸いにも周辺に人影は無かった。尤も、周囲に人がいないことを確認したうえで、フェレットも宝石も言葉を発したのだが。

「ああ、でも明日までの宿題があるんだった…帰ったらやらなきゃ――」

 なのはが疲労やベッドで寝たいという願望を押し切って宿題を思い出すと同時に、前方をちゃんと確認していなかったなのはは何かとぶつかった。

「ひゃっ!?」
「おっと、大丈夫か嬢ちゃん?」
「は、はい、すいま――ふぇっ!?」

 なのははぶつかった相手が大人だと判ると、相手の顔を見て謝ろうと顔を上げる。だがその瞬間、なのはのみならずユーノの表情もたちまち凍り付いた。
 なのはがぶつかった相手は、先程暴力団の事務所を滅茶苦茶にした男だった。どうやら悪党の成敗は終わったらしく、帰路についているところだったようだ。尤も、一方的に駆逐される暴力団と、暴力団を赤子の手をひねるが如く駆逐する男という構図を傍から見れば、どっちが悪党だか判らないだろうが。

『な、な、ななななななななななのは!?』
『ユ、ユ、ユユユユユユユユユユーノ君!?』

 なのはとユーノは、魔導士が使えるテレパシーのような無線会話である念話を使って互いに慌てふためきながら会話する。なお、念話はテレパシーのようなものなので、念話の回線を繋げている者以外には聞こえない。

「もう遅いからな、早く帰れよ」
「は、ははははははははははい! ごごごごごごごごごめんなさい!」
「おう、気を付けてな」

 男は尋常ではないほどに動揺するなのはを尻目に、ポンと頭に手を一瞬乗せて言うと、なのは横を通り過ぎて去っていった。

『こ…怖かった~!』
『う、うん…。でも、悪い人じゃなさそうだね』

 なのはは無事に状況を切り抜けられたことを心の底から安堵しながら、振り返って去りゆく男の背中を見つめる。
 着古してボロボロの道着の背には、とある人気ジャンプマンガに登場する流派の道着のように、大きく「竜」と書かれていた。 
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