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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第一話 魔装機神

                     第一話 魔装機神
 ラ=ギアス。これはそこの言葉で『真の地球』を意味する。言うならば地球の中にあるもう一つの人類社会である。だが純粋に地球の中にあるのではなく多次元的に存在すると言った方がよい。つまりただ単純に地球の中にあるのではないのである。鑑の様なものであろうか。
 この世界では地球のそれとは全く違った技術が存在している。魔術や錬金術等がその一つである。そしてそれの集大成と言えるのがラングラン王国の兵器魔装機であった。この魔装機により世界を守ろうと考えていたのだ。これにはラ=ギアスを滅ぼすと言われる邪神ヴォルクルスの話があった。
 しかしこれが仇となった。あまりにも強力な魔装機はその存在だけで脅威とみなされたのだ。そしてそれが遂にはシュテドニアス共和国のテロ、及び侵攻に繋がった。
 この騒ぎの中で国王アルザール=グラン=ビルセイアは死亡し後継者であり王国の重鎮であったフェイルロード=グラン=ビルセイアは行方不明となった。シュテドニアスはそれを好機と見てラングランの大部分を瞬く間にその掌中に置いた。だがそれも束の間のことであった。ここでラングランに救世主が現れるのである。
 カークス=ザン=ヴェルハルビア。かっては家柄だけで将軍にまでなったと陰口を叩かれるような人物であったがその彼が兵を率いシュテドニアス軍を次々と破ったのだ。これを見て元々ラングランとの戦いに消極的であったシュテドニアスの議会及び世論は反戦に傾いた。そして侵攻軍に向けられる戦力はさらに減少した。
 だがそれでもシュテドニアス大統領ゾラウシャルドは諦めなかった。彼は元々軍人であり軍部や軍事産業をバックとしていた。その彼がおいそれと戦争を止める筈がなかったのである。そして彼は尚も戦いを主張し半ば強引に戦争を続けさせた。しかしシュテドニアス軍の劣勢は次第に明らかとなっていった。
 それに対してラングラン軍の攻勢は順調であった。行方不明であったフェイルロードが戻り、魔装機も揃った。中でもとりわけ四機の魔装機である魔装機神が全て揃っていたのは大きかった。一時行方知れずであった彼等が戻ったことによりラングラン軍の優勢は明らかとなり遂には王都ラングランまであと一歩のところまで来ていた。
「遂にここまで来たな」
 今ラングラン軍は王都のすぐ側に陣を敷いていた。そこには多くの魔装機がある。その中の赤い拳法着の男が目の前の王都を見ながら言った。
 彼の名を黄炎龍という。元々地上人であり中国で体育教師をしちえた。だがラ=ギアスに召還され今は四機の魔装機神の一つであり炎を司るグランヴェールのパイロットを務めている。魔装機神のパイロットの中でもリーダー格である。
「あれがラングランだね」
 その隣にいる金色の長い髪に青い瞳を持つ整った顔立ちの少女が前を指差した。白いタンクトップに右半分が露わになったジーンズを履いている。彼女の名はリューネ=ゾルダークという。ディバイン=クルセイダーズの総帥であり天才科学者でもあるビアン=ゾルダークの一人娘であり父が作ったロボットヴァルシオーネのパイロットである。彼女はそのマシンごとこのラ=ギアスに召還されたのだ。
「そうだ、あれがラ=ギアスだ」
 ヤンロンはそれに答えた。
「遂にここまで来たのだ」
「あたしは遂にとは思わないけれどなあ」
 だがリューネはここでヤンロンの感慨深げな言葉に異を唱えた。
「何故だ」
 ヤンロンはその言葉にムッとして顔をリューネに向けた。
「だって今まで特に手強い奴にも遭うことなく進んできたじゃない。それもあっさりと」
「確かにそうだが」
「それでついにと言われてもねえ。何か感慨が沸かないのよ」
「それは君がここに来て間もないからだ」
 ヤンロンはそれに対してこう反論した。
「一度あの王都を見てみればいい。何故僕が今こう言ったかよくわかる」
「そんなもんかね」
「はい、御主人様の仰る通りです」
 ここでヤンロンの足下に控えていた。一匹の黒豹に似た生き物が声をあげた。
「あ、ランシャオ」
「はい」
 リューネに名を呼ばれたその生き物は彼女に応えた。
「リューネ様はこちらに来られてからまだ日が浅いですから。無理もないことです」
「それはそうだけれどね」
 リューネはそれに対して素直に認めた。
「けれどそんなんだったら一度見てみたいな。戦争でボロボロになっていなけりゃいいけれど」
「そうだな」
 ヤンロンはその言葉に少し顔に陰をさした。
「あの状況から復興しているとはあまり思えないが」
 彼はシュテドニアスの王都襲撃のことを思い出していた。
「だが奪還しなければならないことに変わりはない」
「はい」
 ランシャオがそれに答えた。
「リューネ、まずは作戦会議に入ろう」
「またそれ!?あんたも好きねえ」
 リューネはそれを聞いて少し嫌な顔をした。
「すぐに攻め込めばいいじゃない。もう目と鼻の先なんだし」
「そういうわけにはいかない」
 だがヤンロンはここでこう反論した。
「作戦を立てないと勝てるものも勝てはしない。まずは敵を知り、そして己を知ることだ」
「わかったわよ。あんたの言葉ははじまると長くなるからこれでね」
「・・・・・・うむ」
 ヤンロンはリューネにあしらわれて少し渋い顔をした。だがそれは一瞬であった。
「ランシャオ、すぐに他の皆も集めてくれ」
「畏まりました」
 ランシャオはそう答えて頭を下げた。
「では行って参ります」
「うん、頼むぞ」
 ランシャオはすぐにその場を発った。ヤンロンはそれを見届けてリューネに顔を向けた。
「じゃあ行こうか」
「あいよ」
 リューネは渋々といった様子であるが立ち上がった。そしてヤンロンと共にそこから姿を消した。

 作戦会議は陣にある大型のテントの中で開かれた。その中に円卓と椅子がそれぞれ置かれていた。
「マサキは?」
 ヤンロンはテーブルにいるメンバーを見回した後で問うた。
「ええと、お兄ちゃんは」
 その中に座る金色の髪に青い瞳を持つ小柄で可愛らしい少女が辺りを見回しながら口を開く。
「また迷ってるんじゃないかなあ」
「やれやれ、またなのね」
 隣にいるブロンドのショートヘアをした女が呆れた様に声をあげた。見れば少々きつい顔立ちながらスラリとした身体を持つ美女である。
「マサキの方向音痴にも困ったものね。プレセアも大変ね」
 そして彼女は少女に声をかけた。
「いえ、それ程でも」
 プレセアと呼ばれたその少女はそれを否定した。
「いつものことですから」
 だがシニカルな言葉は忘れなかった。
「確かシモーヌさんとここで再会された時もお兄ちゃん道に迷っていたんですよね」
「ああ」
 そのブロンドの女性、シモーヌは苦笑しながらそれに答えた。
「王都陥落の後暫くゲリラ戦をやっていたんだけれどね。ベッキーと一緒に」
「あいよ」
 ここで赤い髪の大柄の女性が気さくな声で応えた。
「二人でね。あの時は結構大変だったねえ」
「そう、そして一番大変だったのがあいつに会った時だった」
 シモーヌはそこで左の肘をテーブルに着いて顎に手を当ててそう言った。
「何でかわからないけれどあたし達が敵に襲撃を仕掛けようとしたら前にいきなり出て来てね。それで大暴れして」
「あたし達も見つかってね。まあそれでも戦いは勝ったんだけれど」
「死ぬかと思ったわ。あいつ他の敵の部隊のところにまで行ってそいつ等まで引き連れていたんだから」
「まあそれはあいつが一人でやっつけたけれどね」
「相変わらずなんだ、お兄ちゃん」
 プレセアは二人のそんな話を聞いて完全に呆れていた。
「まああいつらしいといえばあいつらしいな」
 ここで黒い髪をして左眼に特殊なスカウターを付けた男が言った。
「ファングさん」
「だがそれで戦いには勝ったけれどね。その後か、あんたに会ったのは」
「ああ、そうだったな」
 ファングはシモーヌに答えた。
「シュテドニアスの奴等を追っていたんだったな。ゲンナジーと一緒に」
「あれ、そういえば」
 ここでベッキーがあることに気がついた。
「ゲンナジーは何処!?確かここにいる筈だけれど」
「いるぞ」
 ここで低く重い声がした。見ればベッキーの横にいかつい顔で角刈りをした男が座っていた。彼がゲンナジー=コズイレフである。
「あ、あんたいたんだ」
「最初からな。悪かったな、存在感がなくて」
「あ、いや御免。しゃべってなかったから」
「無口かららね、あんた」
「うむ」
 彼はここで何故か頷いた。
「まあそれがゲンちゃんのいいところだけれど」
 ここでツインテールをした日本の女子高生の制服を着た少女が話に入って来た。
「ミオ、あんたは喋り過ぎ」
 シモーヌは彼女にはこう言った。
「もうちょっと落ち着きな、折角顔は可愛いんだから」
「えへへ」
 ミオはシモーヌにそう言われ思わず笑った。
「綺麗な薔薇には棘があるのよ、シモーヌさんと同じで」
「あんたはどちらかというとワライダケね」
「えっへん」
「そこは威張る場面ではないぞ」
 今度は頭にターバンを巻いた浅黒い肌の男が言った。見れば口髭を生やしている。
「どうも最近の日本人は落ち着きがない。困ったことだ」
 彼は嘆かわしいといった顔でそう呟いた。
「それはここにいる女全員そうだろうに」
「そうそう。アハマド、あんたは固いのよ」
 シモーヌとベッキーは彼に対して共同戦線を張ってきた。
「そんなのだから今でも独身なのよ」
「結構なことだ」
 だが彼はそれを気にはしていない。
「俺は俺に相応しい敬遠な女性しか好きになれないからな」
「・・・・・・アハマドさんに合う女の人ってどんな人なんだろう」
 プレセアはそれを聞いて首を傾げていた。
「アハマド、そんなことだからお主はいかんのだ」
 そんなアハマドをスキンヘッドの男が嗜めた。
「わしのように柔軟な考えを持つがよい。それこそが御仏の思し召しぞ」
「チェアン、あんたは柔らか過ぎ」
「というか破門されてるでしょうが」
「むむむ」
 これを受けてさしものチェアンも沈黙してしまった。
「まあ私は釣りさえできれば」
 大人しそうな外見の黒人の青年がぽつりと呟いた。
「デメクサはねえ」
「朴念仁過ぎるわ」
「そうでしょうか」
 だが彼はそれを意に介してはいなかった。
「そういえばテュッティもいないわね」
「そういえばそうだな」
 ここでポツリと呟いたリューネにヤンロンが答えた。
「御主人様でしたら」
 だがテントの端に控える二匹の狼のうち一匹が口を開いた。
「フェイルロード殿下を御呼びに行っておられます」
「ザシュフォード様は御父上を」
「あ、そういえばザッシュもいないわね」
「子供はもうお休みの時間かと思ったわよ」
「シモーヌさんとベッキーさんは少し大人過ぎると思う」
 ここでプレセアがポツリと呟いた。
「殿下と将軍はわかったが」
 ヤンロンはまだ顔が晴れなかった。
「マサキは何処へ行ったのだ」
「あたし探して来ようか?」
 ここでミオが名乗りを挙げた。
「いや、師匠が出る幕やおまへんで」
 するとここでミオの影から三匹の小さな生物が出て来た。
「そう、ここはわて等にお任せを」
「ご期待あれ」
 見ればカモノハシ達であった。しかし普通のカモノハシではない。
 何と服を着ている。妙に洒落たタキシードに蝶ネクタイである。そして髪の毛まである。
「いや、いい」
 だがヤンロンはそれを断った。
「どのみちこの基地の中からは出られない。近いうちに誰かに連れられて来るだろう」
「そういうものかしら」
「ああ。だから放っておこう。しかしミオ」
「何?」
 ここでヤンロンの目が変わった。
「そのファミリアは何とかならなかったのか」
「仕方ないじゃない。あたしの深層心理にあるんでしょ。そうしたらこれになったの」
「そうか」
 何故かヤンロンはあまり何も言おうとしない。
「あのヤンロンにしては珍しいね」
「やっぱり苦手なものあるんだ」
 シモーヌとベッキーはそんな彼を見てヒソヒソと話し込んでいる。
「まあここは殿下と将軍が来られるまで少し待とう」
「了解」
「わかった」
 そこにいた魔装機のパイロット達はそれに賛成した。
「しかしマサキは」
 シモーヌはここで苦笑しながら言う。
「何時まで経っても子供ね」
「おや、惚れたかい?」
 ベッキーがそこにすかさず突っ込みを入れる。
「ば、馬鹿言ってるんじゃないよ」
 その言葉に顔を赤くさせるシモーヌであった。

 その頃基地内をうろつく一人の少年がいた。白いジャケットに青いズボンという出で立ちのアジア系の少年であった。だが顔立ちは年齢より少し上に見える。
「マサキ、早く言った方がいいニャ」
 その足下にいる黒い猫が彼に言った。
「そうだよ。もしかしてまた道に迷ったの?」
 同じく足下にいる白い猫も言う。見れば二匹の猫がいる。
「うるせえ。いいから俺に任せてろ」
 黒い猫にマサキと呼ばれたその少年は少し怒った声でそれに答えた。彼の名はマサキ=アンドー。四機ある魔装機神の
一つサイバスターのパイロットである。日本人であり他の魔装機のパイロット達の多くと同じくこのラ=ギアスに召還されたのである。
「この道で正しい筈なんだ、絶対な」
「そう言っていつも迷ってるニャ」
「こんなところでどうして迷うんだよ。おいらそれが不思議でならないよ」
「いいから黙ってろ」
 マサキはそれに対して怒った。
「クロ、シロ」
 そして二匹の猫達の名を呼んだ。
「とにかく辿り着けばいいんだ。わかったな」
「あ~~あ、またそんなこと言って」
「何ならおいら達が案内しようか?」
 クロとシロは彼のその言葉に呆れてしまっていた。
「とにかくだ」
 それをあえて無視してマサキは言った。
「誰かに聞こう。そうすればすぐだ」
「それ最初にあたしが言ったよ」
「おいらも。本当に人の話聞かないんだから」
「・・・・・・いいから黙ってろ」
 マサキは二匹を黙らせてとりあえず道を聞くことにした。相手は誰でもよかった。
「おお、いたいた」
 彼はすぐにそこにいる一人の少年に声をかけた。この時彼はその少年について詳しくは見ていなかった。
「おい、そこのあんた」
「ん!?俺か!?」
 見れば黒い軍服を着ている。軍歴らしい。黒い髪と瞳を持ち、やや幼さの残る整った顔をしている。目が大きい。
「ああ、あんただ。ちょっと変わった軍服だな」
「そうか!?」
 だが彼はそれを気にはしていないようである。
「特殊部隊か。黒いラングランの軍服なんてはじめて見たぜ」
「ラングラン!?それは何だ」
 ここでその少年は首を傾げた。
「おい、何を言ってるんだよ」
 マサキはそれを聞いて怪訝そうな顔をした。
「あんたはそのラングラン軍だろうが。悪ふざけにも程があるぜ」
「・・・・・・俺は連邦軍だが」
「何っ!?」
 それを聞いたマサキは思わず声をあげた。
「おい、そりゃ本当か!?」
「嘘を言ってどうするんだ」
 彼はそれに対していささか憮然とした声で答えた。
「俺の名は栗林忠直。連邦海軍日本駐留艦隊に所属している。階級は少尉だ」
「そうだったのか。俺と同じか」
「あんたも日本人なのか!?」
 栗林と名乗ったその若者はマサキのその言葉に反応した。
「ああ、俺はマサキ、マサキ=アンドーだ」
「安藤正樹か」
「ああ、そうだ。マサキでいい。それで栗林さんっていったな」
「タダナオでいい」
「そうか、じゃあタダナオ」
 マサキはあらためて彼の名を呼んだ。
「説明が長くなりからとりあえず俺と一緒に来てくれるか」
「何処にだ!?」
「あんたは日本からこっちに来たんだろう?」
「ああ、急にな。当直を終えて帰ろうとしたらだ。光に包まれて気がついたらここにいた」
「そうか。俺達と同じだな」
 マサキは彼の話を聞いて妙に納得した。
「とりあえずは日本に戻りたいな」
「悪いが今すぐには無理だ」
 マサキは厳しい顔をして答えた。
「それはわかるだろう」
「・・・・・・ああ」
 残念ながらタダナオにもそれは理解できた。ここが見たことも聞いたこともない世界なのがわかったからだ。
「まずは詳しい話だ。いいな」
「わかった」
 タダナオはそれに頷いた。そして彼はマサキと二匹の猫、そして途中で会った一人の兵士に案内されて他の魔装機のパイロット達やフェイルが待つテントに向かった。

「新しい地上人か」
 テントの中のテーブルの中心に座る緑の波がかった髪と澄んだエメラルドの瞳を持つ青年がマサキとタダナオの説明を聞き顎に手を当てて呟いた。地味ながら整った白い軍服がその気品のある顔によく合っている。彼がこのラングランの第一王位継承者であるフェイルロードである。
 幼い頃より聡明な人物として期待されていた。勤勉であり生真面目な人物として知られている。そして人望も篤く将来を期待された人物であった。
 だがこの度の戦乱で一時その消息が途絶えた。しかし彼はすんでのところで部下達に救い出されており今はこうしてラングラン軍を率いシュテドニアス軍と戦っている。将としても優れている。
 そしてその魔力も突出したものである。ラングランにおいては王となるべき者はある程度以上の魔力を持っていることが要求される。儀式等に必要だからだ。そして彼はそれにおいても及第していた。ラングランにマサキ達地上人を召還したのは彼であった。
「フェイル殿下が呼んだんじゃねえのか?」
 ようやくテントに入ったマサキは彼に尋ねた。
「私が?」
「ああ。殿下位しかいないだろう。ここに地上人を召還できるのは」
「確かにそうだが」
 だが彼の顔は訝しげであった。
「私は今は地上人を召還してはいないが」
「あたしで終わりだって言ってたわよね」
 ここでミオが話に入って来た。
「何だって!?じゃあ」
「俺はどうしてここに来たんだ」
 タダナオはそれを受けて首を傾げさせた。
「どうやってここに連れて来られたんだ」
「残念だが今はそれについてはわからない」
 ヤンロンが彼に対してそう述べた。
「だがこの戦いが終われば地上に帰そう。今は流石に無理だが」
「戦いか」
 それを聞いたタダナオの表情が変わった。
「今からはじまるのかい?」
「そうだ」
 フェイルが彼に答えた。
「今から王都を奪還する。その為の戦いだ」
「さっき聞いたシュテドニアスとの戦いだな」
「ああ。遂にここまで来たんだ」
 マサキは感慨深そうにそう語った。
「シュテドニアスの奴等め、吠え面かかせてやるぜ」
「ふうん」
 タダナオは彼の横顔を見ながら考え込んでいた。
「だったら少しでも人手が必要だな」
「ああ」
 マサキはそれを認めた。
「何で王都奪還だからな。向こうもかなりの兵力を投入して来る」
「おそらくこの戦争のターニングポイントとなるだろう。少しでも戦力は欲しいところだ」
 ヤンロンもそう述べた。
「兵力においては互角、だからこそ難しい」
 フェイルの隣にいる赤髭の男がそう言った。鋭い眼光が印象的である。
「我等には魔装機がある。だがそれだけで勝てるとは容易には思ってはならないだろう」
「カークス将軍の言う通りだ」
 これにフェイルも同意した。
「今の我々にはあまり予備兵力もない。負けたら後がないのだ」
「そうなのか」
 タダナオはそれを聞きながら考え込んでいた。
「だったら俺も参加させてくれないか」
「何っ!?」

 これを聞いたそこにいた者全員が思わず驚きの声をあげた。
「少しでも人手がいるんだろう?じゃあ手伝わせてくれよ」
「簡単に言うけどなあ」
 そんな彼に対してマサキが言う。
「魔装機の操縦は簡単には出来ないんだぞ。プラーナもいるし」
「プラーナは地上人の方が多いんだろう?」
「ああ、そうだが」
「それに俺はマシンに乗っている。それも問題はない」
「マシン!?何にだ」
「ヘビーガンだ。戦闘獣と戦ったこともあるぜ。三機撃墜している」
「そうか。なら実戦経験も問題ないな」
「ああ。どうだ、俺も入れてくれるか?」
「そうだな。そこまで言うのなら」
 フェイルは少し考えた後でそう答えた。
「では協力して欲しい。いいか?」
「ああ、是非頼む。帰るのはその後でいい」
「わかった、では頼む」
「そうこなくちゃな」
 彼はそう言って笑った。そしてすぐに魔装機が並べられている場所に案内された。
「色々あるなあ」
 一人の女性に案内されながら彼はその魔装機達を見ていた。
「全体的に鋭角的なデザインだな」
「そうね」
 案内する女性がそれに応えた。見れば紫の髪を持つ美しい女性である。膝までのタイとスカートがよく似合っている。
「私が設計、デザインしたのだけど。確かにそういったものが多いのは事実ね」
「へえ、あんたが設計したのか」
「そうよ」
「ふうん、凄いんだ。綺麗なだけじゃなくて」
「何言ってるのよ」
 彼女はタダナオのその言葉に顔を少し赤くさせた。
(おや)
 タダナオはそれを見てにやりと笑った。
(どうやらそちらは奥手なようだな)
 何かしら掴んだようであった。
「ところで」
「ええ」
 彼女はタダナオに問われ顔を彼に向けてきた。
「あんた名前は?俺は栗林忠直っていうんだけれど」
「ウェンディ。ウェンディ=ラスム=イクナートっていうの」
「ふうん、いい名前だね」
「そうかしら」
「あんたには合ってると思うよ。ところで」
 彼は攻勢に取り掛かろうとした。だがそれはならなかった。
「空いている魔装機はここにあるわ」
 それより先に到着してしまった。見れば目の前にその鋭角的なマシンが立ち並んでいた。
「わりかしあるな」
「そうかしら。あと三機しか空いていないのだけれど」
「それだけあると目移りするな。何に乗ればいいのか」
「貴方は接近戦と遠距離戦どちらが得意?それにもよるわよ」
「どちらかか」
「ええ。どちらがいいかしら」
「どっちかと言われても」
 彼は少し返答に戸惑った。
「ヘビーガンは量産用ですからね。どちらでもある程度はいけるんですよ」
「あら、そうなの」
「ええ。けれどどちらかというと遠距離戦向きですかね。ライフルが強力ですから」
「だったらジェイファーがいいかしら」
「どんなやつですか?」
「これよ」
 ウェンディは両肩に巨大な砲を持つ魔装機を指し示した。
「何か凄いですね」
「ええ。機動力もあるし。かなりの自信作なの」
 ウェンディはそう言って微笑んだ。
「これならどうかしら」
「そうですね」
 彼はその魔装機を見ながら答えた。
「接近戦もできそうですし。じゃあこれにします」
「わかったわ。では乗ってみて」
「はい」
 彼はそれに従いジェイファーに乗り込んだ。まずはコクピットの中を見回した。
「へえ、中はヘビーガンと似ていますね」
「あら、そうなの」
「ええ。これだと操縦し易いや」
 そう言いながらハッチを閉めた。
「じゃあ行って来ます」
「えっ、もう行くの?」
「はい。もうそろそろ出撃の時間でしょう」
「それはそうだけれど」
 周りでは既に他のパイロット達が乗り込みはじめていた。中には起動しはじめているものもある。
「だから行きますよ。俺もパイロットですから」
「テスト飛行もなしで!?」
「テスト飛行ならしますよ」
 すぐに声を返した。
「戦場でね」
 その声はあまりにもはっきりとしたものでありウェンディもとやかく言うことはできなかった。
「大丈夫ね」
「ええ。操縦は」
「危なくなったら何時でも戻るのよ」
「脱出装置が着いているんでしょう?大丈夫ですよ」
 だが彼の返答は変わらなかった。
「それはそうだけれど」
「ですから心配無用。それでは」
 ジェイファーが起動をはじめた。ゆっくりと動き出す。
「行って来ます」
 既に他の魔装機は全て出撃していた。残るはジェイファーだけであった。
「気を付けてね、本当に」
「はい」
 流石にこの時の声はしっかりとしたものであった。軽いものではなかった。
「ではこれで」
 ジェイファーは飛び立った。そして他の魔装機の後をついて行った。
「本当に気をつけてね」
 ウェンディはそんな彼を見送っていた。何処か弟を見守る姉の様な顔であった。

 魔装機は四機の魔装機神とヴァルシオーネを先頭に王都ラングランに向かっていた。
 その次にシモーヌ達の乗る魔装機、そして一般のパイロット達が乗る量産型の魔装機が続く。全部で百機は越えていた。
「おお、かなり多いな」
 タダナオは空を飛ぶその魔装機達を見てそう呟いた。その声は何処か上機嫌なものであった。
「おお、来たか」
 通信に声が入った。マサキのものであった。
「ジェイファーに乗ったんだな」
「ああ」
 彼はそれに答えた。
「ウェンディから聞いていると思うがそれは遠距離戦が得意だ。俺達のフォローに回ってくれ」
「了解」
「もうそろそろ敵が来るからな。悪いが俺達のところにまで来てくれ」
「おう」
 彼はそれに従い速度を上げた。そして量産の魔装機を追い越して前面に出た。かなりの速さでありすぐに前に出た。
「あ、来たね新入り」
 そこに女の声が入った。
「ん、あんたは誰だい?」
「シモーヌ。シモーヌ=キュリアンさ」
 女はそう答えた。
「ザインのパイロットやってるんだ。宜しくね」
「ザイン!?」
 彼はそれを聞いて少し戸惑った。
「ああ悪い悪い、知らなかったね」
 シモーヌはそれを聞いて返答した。
「あんたの目の前の紫の魔装機だよ」
「紫の・・・・・・」
 見れば円盤に似た形の魔装機があった。
「その丸いのがか」
「ああ、そうだよ」
 シモーヌの気さくな声が返って来た。
「あたしのザインは接近戦が得意なんだよ。これだけ言えばわかるね」
「ああ」
「だったら話が早いね。後ろは頼むよ」
「了解」
 彼はそれを快諾した。
「後ろは任せといてくれ。これでも連邦じゃパイロットだったからな」
「へえ、そうだったんだい。道理で操縦が上手いと思ったら」
「だから安心してくれ。こっちもフォローは頼むがな」
「了解」
 シモーヌの声には微笑が含まれていた。
「じゃあそろそろ行くよ。敵さんのお出ましだ」
「敵」
 目の前に自軍のそれとは形が異なる魔装機が大勢姿を現わしてきた。数はこちらと同じ位であった。
「戦闘開始さ。いいね」
「おう!」
 彼は強い声で頷いた。そして他の機と共に散開する。
「行くぜ」
 マサキの声が通信に入る。
「こいつ等を蹴散らして王都を奪還するんだ!」
「よし!」
「了解」
 他のパイロット達がそれに応える。皆戦闘態勢に入る。
「全軍攻撃開始!目の前の敵を撃破せよ!」
 通信にフェイルの声が入った。それを受けてラングランの魔装機が一斉に攻撃に入った。
「よし!」
 まずは銀色の鳥にも似た外見の魔装機が前に出る。マサキの乗る風の魔装機神、サイバスターであった。
 サイバスターは信じられない速さで敵の中の躍り込む。攻撃は全てかわす。
「何て動きだ」
 タダナオはそれを見て思わず驚嘆の声を漏らした。
「マサキの奴あんなに操縦が上手かったのか」
「それだけじゃないよ」
 ここでまたシモーヌの声がした。
「見ときな。こっからが凄いんだからね」
「こっから」 
 サイバスターは敵の真っ只中に入っていた。少女に似た外見のロボットもそこにいた。
「あのロボットは」
「あれはヴァルシオーネっていうんだよ」
「ヴァルシオーネ」
「そうさ、あれはリューネの乗ってるロボットだよ。魔装機じゃないけれどね」
「リューネ?魔装機じゃない?」
「ああ悪い、それは聞いていなかったね」
 ここでシモーヌの詫びの言葉が入る。
「詳しい話は後でね。今は戦争だからね」
「ああ」
 彼はその言葉に頷いた。
「まあ見ておきな。こっからが凄いのは本当なんだから」
「わかった」
 タダナオはそれに従い戦場に目を戻した。サイバスターから緑の光、そしてヴァルシオーネから赤い光が発せられていた。
「あれは」
 タダナオがそれを見て何かを言おうとしたその時である。その二色の光が辺りを覆った。
「いっけええええぇぇぇぇ、サイフラアッシュ!」
「サイコブラスターーーー!」
 二人は同時に叫んだ。そして二色の光が彼等の周りを支配した。
 光はすぐに消えた。それが消えた時彼等の周りのシュテドニアス軍の魔装機は皆傷を受けていた。
「広範囲への攻撃兵器か」
「そうだよ」
 再びシモーヌから通信が入って来た。
「あれが魔装機神の力なんだよ」
「凄いな」
「ヴァルシオーネは違うけれどね。けれど凄い力だろう」
「ああ。あんなのがあったらそうそう負けはしないな」
「確かにね」
 シモーヌはそれを聞いて笑った。
「けれどあの二機だけじゃないよ」
「そうだったな」
 タダナオはそれを受けて答えた。
「あと三機あるんだろう」
「そうさ、それもよく見ておきな」
「わかった」
 そう話をする彼等の前に新たに二機の魔装機神が姿を現わした。
 右にいるのは青い魔装機、左にいるのは黄色い魔装機であった。
「あれは」
「右にいるのがガッテス、左にいるのがザムジードさ」
 またシモーヌが答えた。
「ガッテスとザムジード」
「そうさ、どちらも強力な魔装機神だよ」
「あれも魔装機神か」
「ああ。見てな、どちらも凄いから」
「ふうん」
 見れば互いに距離を開けている。そしてサイバスターとヴァルシオーネは既に敵の中から離脱していた。
「ケルヴィンブリザーード!」
「レゾナンスクエイク!」
 二人の女性の声がした。だがその声の質は全く違っていた。
 ガッテスから聞こえるのは澄んだ美しい大人の女性の声であった。それに対してザムジードからの声は可愛らしい少女の声だった。
「両方共乗っているのは女性みたいだな」
「そうさ。ガッテスに乗ってるのはテュッティ、ザムジードがミオさ」
「テュッティさんって美人なんだろうな」
 ここで彼はふとこう呟いた。
「ああ、その通りさ」
 シモーヌはそれにすぐに答えた。
「金髪に青い目のね。まああたしにはかなわないけれど」
「へえ、あんたも美人さんなんだ」
「そうさ」
 ここでコクピットのモニターの一つに顔が入って来た。ショートのブロンドの女性、シモーヌであった。
「これでわかったかい?」
「ああ」
 タダナオはそれに微笑んで答えた。
「じゃあ俺の顔もわかったな」
「まあね」
 シモーヌは左目をウィンクしてそれに応えた。
「どんな顔してるかと思ったらいい顔してるじゃない。この戦いが終わったらお別れなんて寂しいね」
「ははは、そうか?」
「まあそれは後でじっくりと話すことになるね。おや」
 ここでシモーヌの表情が変わった。
「今度はヤンロンかい。速いね」
「ヤンロン!?人の名前かい!?」
 彼はそれを聞いて首を傾げた。
「それとも魔装機か」
「人の方だよ」
 シモーヌはまた答えた。
「あの赤い魔装機神グランヴェールのパイロットさ」
「あれのか」
 前ではその赤い魔装機神が出て来ていた。やはりその動きは俊敏で敵の攻撃を見事にかわす。
「見え見えなんだよ!」
 ヤンロンはコクピットの中で敵の攻撃をかわhしながら叫んでいた。
「焼き尽くせ・・・・・・」
 そしてグランヴェールの前方に炎が宿った。
「メギドフレイム!」
 それは複雑な線を描いて敵に襲い掛かる。そして先の四機の攻撃でダメージを受けている敵機をさらに痛めつけた。
「今度は火か」
「ああ。グランヴェールは火を司るからね。攻撃もああしたものになるんだよ」
「そうなのか」
「サイバスターは風、ガッテスは水、ザムジードは土を司るのさ」
「精霊の力だな」
「ああ、そうさ。そしてそれは全ての魔装機にも言える」
「ということは俺が今乗るジェイファーも」
「そう、あんたのは火の魔装機だ。だから攻撃力はかなりのものなんだ」
「そうだったのか」
「そしてあたしのこのザインはね」
 彼女はそう言いながらザインを前に出してきた。その瞬間であった。
「なっ!?」
 それを見たタダナオは思わず声をあげた。何とザインが姿を消したのである。
「驚いたかい?」
 シモーヌの声が入って来た。
「ザインは水の魔装機の一つ。隠れる能力が高いんだよ」
「そうなのか」
「じゃあ行くよ、あたし達も攻撃開始だ」
「ああ」
「隠れてるけれどね、中には見える奴もいる。そうした連中を頼むよ」
「わかった」
 見ればタダナオ葉次第にそのザインがおぼろげながら見えるようになってきていた。それが何故なのか彼はまだよくわからなかった。
 ザインは敵の中に切り込んで行く。他の多くの魔装機もだ。
「よし」
 タダナオはそれを見て両肩の砲を動かした。そして彼も攻撃に向かった。
「行くよ!」
 ザインをはじめとしてラングランの魔装機達が敵に突っ込む。既にダメージを受けているシュテドニアス軍には彼等を防ぐことは出来なかった。為す術もなく撃ち落されていく。
「また凄いな」
 タダナオは目の前のその光景を見て思わずそう呟いた。
 先程の四体の魔装機神とヴァルシオーネもいた。彼等の戦いは一際凄まじいものであった。
 周りの敵機を剣や奇妙な形をした飛び道具で次々と撃ち落していく。まるで寄せ付けない。それを見て彼も負けてはいられないと思った。
「俺も・・・・・・!」
 リニアレールガンを放った。目標は丁度目の前にいる一機の敵機であった。
 砲から白い光が放たれる。そしてその光が敵を撃った。
「やったか!?」
 彼はすぐにその敵を見た。見れば直撃を受け墜落して行く。コクピットが離れ別の場所に向かって行く。
「人が乗っているのか」
 見れば撃墜された敵機から次々と脱出していく。そして戦場は撃墜され、爆発する敵機と離脱するパイロット達が次々と出ていた。
 とりあえずそれを見て安心した。戦争とはいえやはり敵が死ぬのはあまり気分がよくないからだ。
「逃げろよ、落ちたら」
 タダナオはそんな彼等を見てそう呟いた。
「だが落とさせてはもらうぜ。それが戦争なんでな」
 だが感傷には浸らなかった。すぐにまた照準を定め次の敵に攻撃を仕掛けた。そしてまた撃墜した。
「へえ」
 マサキは戦いの中タダナオの乗るジェイファーの動きを見て声を漏らした。
「あいつも結構やるじゃねえか」
「元々パイロットだそうだな」
 グランヴェールからヤンロンの通信が入った。
「ああ、何でも連邦軍でヘビーガンに乗っていたらしい。戦闘獣を何体か落としたことがあるそうだ」
「そうか、それでか。はじめてにしては操縦も攻撃もかなり上手いと思っていたが」
「やっぱり実戦経験があると違うな。あいつはこれからかなりの戦力になるぜ」
「そうだな。帰らなければな」
「ああ」
 二人はそんな会話をしつつも戦闘を続けていた。戦局はさらにラングランに有利なものとなりシュテドニアスの魔装機はその数を大幅に減らしていた。
「そろそろ終わりかな」
 タダナオは戦場を見てそう呟いた。
「けれどまだ来る奴は来るな」
 そこに敵の魔装機が来た。一直線に彼のジェイファーに向かって来る。
「リニアレールガンは間に合いそうにもないな」
 その敵機の動きを見ながら呟く。
「じゃあこれを試してみるか」
 腰にある剣を抜いた。それで向かって来る敵を斬りつける。
「これでどうだっ!」
 敵機の首を斬る。斬られた首は飛び、そして爆発して消えた。
「う、うわあああっ!」
 モニターが急に見えなくなり混乱したのであろうか。それを見た敵機のパイロットが慌てて脱出する。そして主をなくした敵機は地面に落下していく。
「ひゅう」
 敵機を斬り倒してタダナオは思わず口笛を吹いた。
「こりゃ凄いや。ヘビーガンのビームサーベルとは比べ物にならねえ」
「当然だ」
 マサキの声が入って来た。
「それはビームとは違うからな」
「そういえば」
 見ればビームではない。魔装機に合わせて作られたような大型の剣であった。ビームに似ているがそれはビームではなかった。
「何か特別なエネルギーみたいだが?」
「ああ、プラズマだ」
「プラズマ」
 タダナオはそれを聞いて声を顰めさせた。
「随分と変わったエネルギーを使っているな」
「ラ=ギアスじゃ常識だぜ」
「そうか、常識か」
 彼はそれを受けてこう言った。
「やはりここは地上とはかなり違っているようだな」
「ああ」
 マサキはそれに答えた。
「成程な」
 タダナオはここでこのラ=ギアスに興味が湧いているのを感じていた。
「ところで戦いはどうなった?」
「ん?もう終わったぜ」
 見ればシュテドニアス軍は撤退している。ラングラン軍はフェイルの指示に従い彼等をあまり追わず王都の確保に回っていた。戦いは終焉していた。
「これで王都が俺達の手に戻ったんだ」
「そうか、それは何よりだ」
 タダナオはその言葉を聞いて微笑んだ。
「御前さんもこれで帰れるな」
「それなんだが」
 彼はここで言った。
「暫くここにいてもいいか?」
「ん!?何でだ」
「いや、ちょっとな」
 そう言って苦笑いする。
「まあ気が変わったとだけ言っておこうか。いいだろ?」
「俺はいいけれどよ」
 だがマサキの声はいささか困った様子であった。
「御前さんの軍の方は大丈夫なのかい?」
「ああ、それか」
 彼はそれについて答えた。
「実は当直の後長期休暇に入る予定だったんだ」
「どれ位だ?」
「実質的には退職に近いな。実は上司と揉めちまってな。それも環太平洋区の長官とだ」
「岡長官か?あの人はそんな悪い人じゃねえだろ」
「知ってるのか」
「ああ、まあな。昔ロンド=ベルに協力していた関係でな」
「へえ、あんたロンド=ベルにいたんだ」
「バルマー帝国の時だけれどな。あの時はあの人にも色々と世話になったよ」
「確かに岡長官だったら問題はなかっただろうな」
 彼の声が曇った。
「人でも変わったのか!?」
「ああ。よりによって三輪長官だ。知ってるか!?」
「いや」
 マサキはそれには首を横に振った。
「一体どんな奴なんだ?」
「それは後で話す」
 タダナオは何か嫌なものを思い出したような声でそう答えた。
「とりあえず戦いも終わったしそっちの殿下や将軍に暫くここにいたいと申し上げたいんだが」
「それなら」
 マサキはそれに応えた。
「俺が殿下や将軍に言っておくぜ。一緒に行くか?」
「ああ、頼む」
 タダナオはそれに頷いた。
「じゃあ行こうぜ。どちらにしろ殿下のところには勝利報告で行かなくちゃならねえからな」
「わかった。じゃあ一緒に行くか」
「おう」
 こうして彼等はフェイルの下に戻って行った。そしてタダナオは暫くラ=ギアスい留まることとなったのであった。

 王都での戦いの結果はすぐにラングラン各地に伝わった。それはこの大陸の片隅にまで伝わっていた。
「御主人様」
 その片隅にある暗い神殿の奥でかん高い声が聞こえてきた。
「ラングラン軍がシュテドニアス軍に勝っちゃいましたよ」
 青紫の小さな小鳥が話していた。可愛らしい外見であるが何処か品がないように見える。
「それも大勝利ですよ。シュテドニアスの奴等もう見事な位ボロボロにやられたそうですよ」
「知っていますよ、チカ」
 部屋の壁に顔を向けている男がそれに答えた。チカと呼んだその小鳥に背を向けており、顔は見えないが白い丈の長い服に青い青いズボンを履いている。そして髪は紫であった。
「それは予想通りです」
「あれ、そうだったんですか?」
「マサキ達の力を以ってすれば容易いことでしょう。それにフェイル王子もカークス将軍もおりますし」
「フェイル王子はともかくあの将軍がですか」
「ええ」
「まあ確かにあたしも驚いていますよ。まさかあんなに活躍するなんて」
「人間の能力は時として急に開かれるものなのです」
 彼はそれに答えた。
「カークス将軍もそうです。彼は今までその能力を発揮する機会がなかっただけだったのです」
「そういうものですか」
「はい」
 男はやはり静かな声で答えた。
「ですから今回の戦いの勝利は特に話すようなものではありません」
「そうですか。けれどそれなら」
「何です?」
「何であの連邦軍のパイロットをここに召還したんですか?」
「彼ですか」
 男はそれを受けて声を微笑ませた。
「それはいずれわかりますよ」
「何か御考えがあるんですね」
「勿論です」
 男は答えた。
「その為に彼等を召還したのですから」
「それはいいですけれど」
 チカはここで話題を変えた。
「今はあまり無理はなさらない方がいいですよ。折角怪我が治ったばかりなんですから」
「わかっていますよ」
 男はやはり声だけで微笑んでいる。
「私だけの身体ではありませんから」
「そうです、そういうことです」
 チカは騒がしい声をたてた。
「御主人様がいなかったらあたしは消えてしまうんですからね。気をつけて下さいよ」
「わかっていますよ」
 男はそう答えた。
「ところでチカ」
「はい」
「ルオゾールはどうしていますか」
「ルオゾール様ですか」
「ええ。今ここにはいないようですが」
「あの人ならあちこちを飛び回っていますよ。やっぱりお忙しいようで」
「そうなのですか。それは何より」
 声がニヤリと笑った。
「復活に向けて働いてくれているのですね」
「ええ、まあ」
「それでは私も時が来たら動きますか」
「どうするんですか?」
「サフィーネを呼んで下さい。そしてモニカも」
「わかりました」
「全てはそれからです。いいですね」
「はい、わかりました」
 チカは主の指示に頷いた。
「では行って来ます」
「どうぞ」
 チカは羽ばたくとそのまま出口に向かって飛んだ。そしてそのまま廊下へ飛び去って行った。
「マサキ」
 彼はチカを横目で見ながら呟いた。
「貴方のおかげですかね。今こうしてヴォルクルスの呪縛から逃れることができたのは」
 そしてこう言った。
「それは感謝しましょう。ですが貴方に遅れをとることはありませんよ」
 そのまま彼は部屋に留まっていた。そして時を待っているのであった。


第一話 魔装機神   完


                               2005・1・12

 
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