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とある組織の空気砲弾(ショットガン)

作者:裏方
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第二話 灯影 月日(リーダー)

 
前書き
どうも、裏方です。

今回は後編みたいなものですw

では、どうぞ 

 

 チンピラ共を置き去りにして暗い路地裏を走る月日達。背負った男子学生と手を引く女子学生を連れ、ひたすらに走る。
 この一帯の道を知り尽くしているのだろう。月日は迷うことなく道を右へ左へと進む。

「ぁ……あの!」

 ようやく女子学生は口を開くことができた。だが月日は足を止めない。

「悪いけど説明は後だ。今は俺を信じて付いて来てくれ」

 サイレンが近い。あと数分かからず警備員(アンチスキル)が通報現場に到着するだろう。「付近巡回でもしてたか? いつもトロいくせに……」と月日は悪態をついた。「もう少しだ」

 そんな時、ある物が女子学生の目に留まった。
 腕章だ。この広い学園都市で腕章を付けているのは、

「あなたは、風紀委員(ジャッジメント)の方ですか?」
「違う違う。あんな連中と一緒にしないでくれ……」

 月日は即答で否定した。
 女子学生はもう一度腕章に目をやると、その違いに気付く。普段目にする風紀委員の腕章は緑色に白いライン、盾をモチーフにした紋章が描かれている。しかし、男が腕にしている腕章は鮮やか緋色だった。
 最初は新しいデザインに変わったのだと思ったが、風紀委員からも教師、警備員からもそんな話は聞いていない。
 ―――なら、

「あなたは……誰…?」

 何者と尋ねるべきだったかもしれない。
 他に尋ねるべきことがあったかもしれない。
 どう尋ねてもはぐらかされて終わるかもしれない。
 そもそも聞いて答えてくれるなら、最初の時点で答えていただろう。

「俺?“俺達”は―――」




 その答えは車のブレーキ音に遮られた。

 路地の先に光が差している。通りに面し、その出口ともいえる所に一台のワゴン車が止まった。止まると同時に、側面のスライドドアが勢いよく開いた。

「リーダー、こっちでさぁ!!」

 そこから身を乗り出し、大きく手招きする男。どうやら月日達に急げと促しているようだ。

「あれは…?」

 一度に色々なことが起こったために混乱する女子学生。そんな彼女に月日は言った。

「俺の頼れる、仲間達だ」

 月日は車に飛び込む。半ば女子学生を引っ張り込む形となってしまった。乗り込むのを確認し、男がドアを閉め、「出せ!」の合図で車は発進し、一般道に消えた。

「お疲れ様でした。リーダー」

「そっちもお勤めご苦労さん」

「いやいや、お安い御用ですって。リーダーの頼みなら喜んで引き受けますよ! Mに覚醒しろと言われれば、俺Mにでも何でもなります!!」

「OK.なら手始めに車外に放り出してやるから、アスファルトに自分の初めてでも捧げて来い。手伝ってy―――」

「サーセンシタッ!!! 自分調子に乗ってました!!!」

「…解ればいいんだよ」

 『目が本気(マジ)だった。あれは真剣(マジ)でやろうとしている時の目だった』と後に男は語ったというがそれはまた別の話…。

 車内で交わされる会話。普通なら友達同士の会話?にしか聞こえない。

「……………」

 一人を除いては。
 状況が急展開をくり返し、女子学生の脳ではその処理が追い付いていない。解っているのは何かとんでもない事に巻き込まれているということだけ。

「ところでリーダー。その二人どうします?」

「………ッ!!」

 女子学生の肩がビクッ、と跳ねた。妥当な反応だろう。見知らぬ男に手を引かれ、訳も解らないまま車に連れ込まれ、挙句どうします?

 女子学生の脳裏に過るのは、このあと待っているであろう最悪のシナリオ……。
 震えだす体。涙で視界が歪んでいった。そんな女子学生の肩に暖かい物が乗る。
 それは、月日の手。

「まず病院に行ってくれ!」

(え…!?)

 彼女は耳を疑った。この状況からは考えられない一言だったからだ。

「病院ですか?」

「彼は怪我をしている。これ以上の理由が必要か?」

「了解」

 運転手は指示に従い、目的地へと向かう。
 次に月日は男子学生の容態を窺う。顔面を打ち付けられたことで額からは血が滲んでいる。呼吸は乱れていないことから気を失っているだけだと思うが、素人目での判断は危険だ。

「とりあえず、これで額を押さえててくれ」

 月日は女子学生にハンカチを差し出す。彼女は戸惑いながらもそれを受け取り、男子学生の額にあてた。


 しばらくすると車内に取り付けられた無線機から無機質なコール音が鳴った。 月日は無線機を取り、応対する。

「こちらリーダー。“ゴースト”か?」

『そうですよぉ。ゴーストですぅ』

 ゴーストと呼ばれた無線の相手。それは、月日のケータイに電話してきた、あの少年だった。

「何だ? 対象は回収した。今は病院に向かっているところだ」

『“視て”ましたからぁ、いつもの病院には連絡を入れておきましたぁ。でぇ、応対した先生からの伝言で、『君、僕はボランティアで人を診ている訳じゃないんだよ?』とのことでしたぁ』

「承知してる。単純に最高の医師だからお願いしてるんだ。嫌なら断れと伝えとけ! あと一五分でそっちに着くともな」

『『断る訳ないだろ? 僕は医者なんだから。受け入れの準備はできているよ』とも言ってましたぁ』

 どうやらお見通しのようだ。「あのナース好きのオッサンめ……」と悪態をつく月日。「解った」と言って無線を切った。

「聞いての通り。病院側は受け入れるらしい。一流の医者がいるから、大丈夫だろう」

「本当ですか…!?」

 女子学生の表情が明るくなった。月日は初めて彼女の安堵した顔を見た。

 さて、と月日は目を閉じ、一眠りすることにした。元々非番の身。仕事を終えたのだから、それくらいは許されるだろう。

「あの…!」

 許してもらえなかった。

「ん?」

「あなたは……いえ、あなた達は一体?」

 そう言えば、そんな質問を受けていたなと、月日は記憶を遡る。

「あなたは、自分を風紀委員ではないと言いました。“能力”を使っていたので、警備員でもないと思います」

「へぇ、よく見てたね」

 能力を使えるのは学生のみ。少ない発言から導き出された推測。「素晴らしい観察眼だ」と月日は褒め、質問に答えた。

「まず、俺達は『約束手形(ペナルティ・カード)』という組織の者だ」

「ペナルティ……カード?」

 まったく聞き覚えのない名前にぽかん、とする女子学生。
 構わず月日は説明を続ける。

「そう。細かい話は省くが、俺はそこのリーダーを勤めている」

 よく解らないが、この人はその組織のトップであることだけは解った。

「俺達、約束手形は、学園都市の治安維持のために立ち上げた、謂わば自警団組織だ」

「でも、そんな組織団体が設立されたなんて話聞いたことないんですが……」

 一般生徒には当然の疑問だろう。月日は『当たり前さ』と軽いノリで言った。

「なんたって非合法・無許可の組織なんだから」

「えぇ!?」

 なんだかこのやり取りばかりだな、と月日は微笑する。
 治安維持や取り締まりなどは風紀委員と警備員が行っている。月日達の様な存在は風紀委員や警備員からすれば、それを乱す無法者と大差ないのだ。

「いいんですか? そんなことをしてたら……」

「いいんだ。アイツらがいても傷付く奴は大勢いる。……それを無くしたくて、俺はこの組織を造ったんだ」

 月日は女子学生の目を見据えて静かに言った。その目に罪の意識は微塵たりとも感じさせない。あるのは熱意。 この人は自分のしていることに誇りを持っているんだ、と彼女は思った。

「リーダー。もうすぐ到着します」

「解った」

 終点が間近らしい。彼女達とは二度と会うことはないだろう。運が良ければ、また出会うこともあるだろう。

「さて、病院に到着する前に一つ言っておく」

「はい…」

「今晩あったことは、布団に入ったら忘れることだ。お互いにとってもそれが一番だ」

 彼女はただ黙って聞く。この人が言っていることは正しい。


 そう、もう一つの意味も含めて……。


 車が静かに止まる。目的地である病院玄関前に停車。月日は男子学生を背負って降車する。あの医者の言う通り、何名かのスタッフがストレッチャーと共に待機していた。
 お願いします、と言って男子学生をストレッチャーに乗せ、運ばれるのを見送った。

「リーダーさん!」

 車に戻ろうとした時だ。振り返ると、そこにはまだ女子学生がいた。
 そしてペコリと頭を下げ、

「ありがとう…ございました!」

 彼女はもう一度頭を下げ、彼氏を案じて、病院へと入っていった。


(ありがとう、か…)

 思わず苦笑してしまった。
 月日は車に乗り込むと、その言葉に見合った返礼を考え込んだ。お礼を言われたのだから『どういたしまして』やら『礼には及びません』だのあっただろう。

 だが月日は心の中でこう言った。

(お大事に………で、―――









―――“すまなかった”)

 病院を離れた月日達。今は一般道を法定速度を守って走行中である。
 月日といえば、車に戻るなり三人掛けの座席中央に陣取り、四肢を放り出している。一種の脱力状態である。

「月日さん。ちゃんと口止めしておいた方がよかったんじゃ……」

 運転手の男がそんな月日に尋ねた。もう部外者はいない。わざわざ“暗号名”を使う必要はなくなった。

「あの娘は賢い。言わなくても解ってるはずさ」

 大丈ブイ! などとやっている月日。まったくこの人は、と呆れ返る運転手ともう一人の男。
 見た目と中身があんなだが、それでも何故か惹き付けられてしまう。
 それが灯影月日(リーダー)という男なのだ。

「わりー、ちょっと寝る。“本部”に連絡よろしく〜」

「了解」

「他の“部隊”はどうしますか?」

「報告だけしたら各自解散って言っとけ。あとはアイツがやっといてくれる」


 「ヨロ〜(笑)」と言い残して月日は目を閉じた。




――――――――――――





 眠りにつく度に確認している。
 今日できることはやったと……。

 でも、足りない。まだ何もかもが足りない。

 あの日、誓った理想には程遠い。


 少し早いがようやく動ける。
 風紀委員や警備員と違う独立した組織。
 俺が理想とする組織。

 さて――――、



 派手に始めるか。

 理想を現実にするために。
 
 

 
後書き
次回は、日常パートです。

ネタが寒いくらいありますが、気にしないでください 
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